(次の命題は、授業では c= 0 の場合に証明を書くのが良いかもしれない34。中心を cとす
ると、案外式が複雑に見えてしまう。)
補題 3.1 {an}n≥0 を複素数列、c, z0 ∈C とする。
X∞ n=0
an(z−c)n が z = z0 で収束するな らば、|z−c|<|z0 −c| を満たす任意のz ∈C に対して絶対収束する。
証明 lim
n→∞an(z0−c)n= 0 である。(一般に「収束する級数 X∞ n=1
an の一般項は 0に収束する:
nlim→∞an= 0.」が成り立つから35。)
「収束列は有界である」から
(∃M ∈R)(∀n ∈N∪ {0}) |an(z0−c)n| ≤M.
このとき bn:=M z−c
z0−c
n とおくと
(∀n∈N∪ {0}) |an(z−c)n|=|an(z0−c)n| z−c
z0−c
n≤M z−c
z0−c
n =bn.
34ζ:=z−c,ζ0:=z0−cとおくと、「X
n
anζn がζ=ζ0で収束するならば、|ζ|<|ζ0|を満たす任意のζに対 して絶対収束する。」という命題に帰着されるので、c= 0の場合に証明すれば十分である」くらい言っておく。
35実際s:=
X∞ n=1
an,sn:=
Xn
k=1
ak とおくと、sn →sであるが、sn−1→sも成り立つ。ゆえにn→ ∞のとき
an= Xn
k=1
ak−
nX−1
k=1
ak =sn−sn−1→s−s= 0.
数列 {bn}は公比 |(z−c)/(z0−c)|<1の等比級数であるので収束する:
X∞ n=0
bn= M
1− |z−c|/|z0 −c|.
ゆえに優級数の定理(定理A.5, p. 232,よほど忙しくない限り、授業で「優級数の定理」の証 明を紹介するつもりである。)から
X∞ n=0
an(z−c)n は絶対収束する。
系 3.2 {an}n≥0 を複素数列、c, z0 ∈C とする。
X∞ n=0
an(z−c)n が z =z0 で発散するなら ば、|z−c|>|z0−c| を満たす任意のz に対して発散する。
証明 補題から「|z1−c|<|z2−c| のとき、z2 で収束すればz1 で収束する」が分かるが、そ の対偶である。
定理 3.3 (冪級数の収束円の存在) {an}n≥0 を複素数列、c∈Cとする。冪級数 X∞ n=0
an(z− c)n に対して、次のいずれか一つが成立する。
(i) z =c以外の任意のz で冪級数は収束しない。
(ii) 任意の複素数z で冪級数は収束する。
(iii) ある正の数 ρ が存在して、|z−c|< ρならば冪級数は収束し、|z−c|> ρ ならば冪 級数は発散する。
証明 (授業では、図を描いて流すものかもしれない。「きちんとやるには、区間縮小法に持 ち込みますが、それは講義ノートを見て下さい。」と言って簡単に済ませる。)
A:=
(
z ∈C
X∞ n=0
an(z−c)n は収束する )
とおく。c∈A であることに注意する(z =cを代入すると n≥1 に対して an(z−c)n= 0 で あるから収束する)。次の3つに場合分けできる。
(i) A={c}. すなわち、c以外のすべての複素数で発散する。
(ii) A=C. すなわち、すべての複素数で収束する。
(iii) (i), (ii)のいずれでもない。
(iii) の場合を考える。
(i) でないので、∃zc ∈A\ {c}. r0 :=|zc−c| とおくとき、|z−c|< r0 では収束する。
(ii) でないので、∃zd ∈C\A. R0 :=|zd−c| とおくとき、|z−c|> R0 では発散する。
0< r0 < R0 である。以下、二分法を行なう。
ρ0 := r0+R0
2 とおく。
• c+ρ0 ∈Aであれば|z−c|< ρで級数は収束する。このとき r1 :=ρ0,R1 :=R0 とおく。
• c+ρ0 6∈Aであれば|z−c|> ρで級数は発散する。このときr1 :=r0,R1 :=ρ0 とおく。
どちらの場合も、級数は |z−c|< r1 で収束し、|z−c|> R1 で発散する。また r0 ≤r1 < R1 ≤R0, R1−r1 = R0−r0
2 が成り立つ。
以下同様にして、数列{rn}, {Rn} が作ると、
• {rn}は単調増加数列であり、{Rn} は単調減少数列である。
• 任意の n に対して rn< Rn, Rn−rn = R0 −r0 2n .
• 任意の n に対して、級数は |z−c|< rn で収束し、|z−c|> Rn で発散する。
区間縮小法により、{rn} と {Rn}は共通の極限 ρ に収束する。
ρ≥r0 >0 であるから ρ >0.
また級数は |z−c|< ρ で収束し、|z−c|> ρ で発散する。
(i) の場合に ρ = 0, (ii) の場合に ρ = +∞ とすると、形式的に次のように一つにまとめら れる。
あるρ (0≤ρ≤+∞) が一意的に存在し、|z−c|< ρ で収束、|z−c|> ρ で発散する。
通常、円 D(c;ρ) ={z ∈C| |z−c|< ρ} の半径ρ は正の数であるが、ρ= 0, ρ= +∞の場 合も用いることにする。
D(c; 0) =∅, D(c;∞) =C と約束する。
定義 3.4 (収束半径, 収束円, 収束冪級数) 上の定理の ρ を冪級数の収束半径(radius of convergence)、{z ∈C| |z−c|< ρ}を冪級数の収束円 (the circle of convergence)と呼ぶ。
冪級数の収束半径が0でない (正の数または ∞)とき、その冪級数は収束冪級数であると いう。
注意 3.5 (「収束半径の定義を述べよ」と言われたら) 収束半径の定義は何か?と尋ねられて
答えられない人が多い。上に書いた定義は「上の定理の」とあるので、そういう問題の答とし て使いにくいかもしれない。過保護かもしれないが、一つの答を示す。
0≤ρ <+∞または ρ= +∞ とする。ρ が冪級数 X∞ n=0
an(z−c)n の収束半径であるとは
|z−c|< ρならば X∞ n=0
an(z−c)n は収束し、|z−c|> ρならば X∞ n=0
an(z−c)n は発散する が成り立つことをいう。
青い字で書いた条件を覚えて欲しい。
例 3.6 (もっとも簡単な冪級数、等比級数) (c= 0, an = 1 とした) X∞ n=0
zn を考えよう。これ は公比z の等比級数であるから、収束・発散が具体的な計算で判る。結論だけ述べると、|z|<1 であれば収束、|z| ≥1 であれば発散する。ゆえに収束半径は 1である。
(念のため「ゆえに」の説明: |z| ≥1であれば発散することから、|z|>1であれば発散するこ とが導かれる(当たり前)。ゆえにc= 0,ρ= 1 として、「|z−c|< ρならば収束し、|z−c|> ρ ならば発散する」という条件が成立する。ゆえに 1が収束半径である。)
ゆえに収束円はD(0; 1) ={z ∈C| |z|<1}.
問 46. 上の例で述べたこと(複素等比級数の収束条件)を確認せよ。
{an} が分かっているとき、それからρ を計算する公式を2つ紹介する。次の定理は、適用 範囲はあまり広くないが(それでも微積の講義で現れる冪級数の多くを処理可能である)、使う のが簡単なので、身につけるべきものである。
命題 3.7 (係数比判定法, ratio test, d’Alembertの判定法) {an}n≥0 を複素数列、c∈C とする。冪級数
X∞ n=0
an(z−c)n について、ある番号から先のすべての n に対して an 6= 0 であり
nlim→∞
|an|
|an+1| が確定するならば、それは冪級数の収束半径に等しい。
(“d’Alembert” は「ダ・ランベール」と読む36。
ここで「確定する」とは、極限が存在する(収束する)か、lim = +∞ となる、という意味 である。
証明のあらすじは、(i )|z−c|< ρ のときは等比級数と比較して、優級数の定理を用いて収 束することを示し、(ii)|z−c|> ρのときは、一般項が 0には収束しないことを示して、級数 は発散する、と議論する。)
証明 c= 0 の場合に証明すれば良い。lim
n→∞
|an|
|an+1| =ρとおく。|z|< ρならば収束し、|z|> ρ ならば発散することを示す。
|z|< ρとする。|z|< R < ρとなるR を取る。(ρ <∞ならばR := |z|+ρ
2 とおく。ρ=∞ ならば R:=|z|+ 1 とおく。) lim
n→∞
|an|
|an+1| =ρ であるから、(∃N ∈N) (∀n ∈N: n≥N) an
an+1
> R (これは an+1
an
< 1
R と書き直せる).
この条件を満たす N を1つ取る。m ≥0 とすると aN+mzN+m=
aNaN+1
aN · aN+2
aN+1 · · · · aN+m
aN+m−1zNzm
≤aNzN
|z| R
m
. 言い換えると ∀n≥N に対して
|anzn| ≤aNzN
|z| R
n−N
. そこで
bn :=
|anzn| (0≤n≤N −1) aNzN
|z| R
n−N
(n ≥N)
36Jean Le Rond d’Alembert (1717年フランスのParisに生まれ、1783年フランスのParisにて没する。哲学 者、物理学者、数学者。)
とおくと、任意の n ∈Nに対して |anzn| ≤bn, X∞
n=0
bn =
N−1
X
n=0
|anzn|+ aNzN
1− |z|/R (収束).
優級数の定理により X∞ n=0
anzn は収束する。
|z| > ρ とする。|z| > R > ρ となる R を取る。(ρ = +∞ のときは考えなくて良いので、
R := |z|+ρ
2 とおけば良い。) lim
n→∞
|an|
|an+1| =ρ であるから、(∃N ∈N) (∀n ∈N: n≥N) an
an+1
< R (これは an+1
an
> 1
R と書き直せる).
上と同様にして (しかし不等号の向きは逆になって)∀n ≥N に対して
|anzn| ≥aNzN
|z| R
n−N
.
ゆえに anzn は0に収束しないので、
X∞ n=0
anzn は発散する。
例 3.8 (ratio test の例) X∞ n=1
zn
n の収束半径は 1である。実際 an= 1
n とおくと
nlim→∞
|an|
|an+1| = lim
n→∞
n+ 1
n = lim
n→∞
1 + 1
n
= 1.
収束円は D(0; 1) ={z ∈C| |z|<1}. 同様に
X∞ n=1
zn
n2 の収束半径は1 であり、収束円は D(0; 1).
X∞ n=0
zn
n! (expz の Taylor 展開) の収束半径は +∞ である。実際an= 1
n! とおくと
nlim→∞
|an|
|an+1| = lim
n→∞
(n+ 1)!
n! = lim
n→∞(n+ 1) = +∞. ゆえに収束円は C.
同様に X∞ n=0
n!zn の収束半径は0 であり、収束円は ∅. X∞
k=0
(−1)n
(2k)! z2k (cosz のTaylor 展開) の収束半径は+∞ である。実際ζ =z2 とおくと X∞
k=0
(−1)k (2k)!z2k =
X∞ n=0
(−1)n (2n)! ζn.
右辺は ζ の冪級数である。まずこの収束半径を調べる。an = (−1)n
(2n)! とおくと
nlim→∞
|an|
|an+1| = lim
n→∞
(2(n+ 1))!
(2n)! = lim
n→∞(2n+ 2)(2n+ 1) =∞.
この (ζ の) 冪級数 X∞ n=0
(−1)n
(2n)!ζn の収束半径が +∞ であるから、この冪級数は任意の ζ に対
して収束する。するともとの級数 X∞ k=0
(−1)n
(2k)!z2k は任意のz に対して収束することが判る。ゆ えに収束半径は +∞. 収束円は C.
時々 |an|
|an+1| なのか |an+1|
|an| なのか、混乱しそうになるが、|an|の増大が早まるほど、収束半 径は小さくなるはず、と考えれば前者が正しいと判るであろう。あるいは
X∞ n=0
z ρ
n
に適用 して(これは等比級数であり、収束条件が|z|< ρであることは明白)、収束半径がρ という結 果が出るかどうか。
与えられた冪級数の係数から収束半径を求める問題には、ある意味で決定版と言える解答が ある。それが次の定理である。
命題 3.9 (Cauchy-Hadamard の公式, Cauchy-Hadamard の判定法) {an}n≥0 を複 素数列、c∈Cとする。冪級数
X∞ n=0
an(z−c)n の収束半径を ρとする。 1
+∞ = 0, 1
0 = +∞ の約束のもとで、次式が成り立つ。
(24) ρ= 1
lim sup
n→∞
pn
|an|.
(証明のあらすじは、d’Alembert と同じである。すなわち、|z−c|< ρのときは等比級数と比 較して、優級数の定理を用いて収束を示す。|z−c|> ρ のときは、一般項が 0 には収束しな いことを示して、級数は発散する、と議論する。)
任意の複素数列 {an} に対して、lim suppn
|an| は確定するので、(24) は任意の冪級数の収 束半径を表す公式になっている(その意味では、究極の公式である)。
これを使いこなすためには、数列の上極限 lim sup (付録 A.3.1(p. 235) 参照)を習得する必 要があるが、それにはある程度の時間が必要になるので、講義では説明を省略するかもしれな い(年度によって、説明したり、説明しなかったりする)。証明は付録A.3 で与えておく。
例 3.10 例えば X∞ n=1
zn2 =z+z4+z9+· · · のような級数は冪級数であり(n が平方数である ときに an = 1, そうでなければ an = 0)、収束半径が1 であることは少し考えれば分かるが、
係数比判定法の適用範囲外である。
lim sup
n→∞
pn
|an|= 1
であることはすぐ分かるので37、Cauchy-Hadamard の公式を使えば、収束半径は 1
1 = 1 と得 られる。
37pn
|an| は 0, または1 であり、1 となるn (平方数)は無限にたくさん存在するので、supk≥n pk
|ak| = 1.
lim sup
n→∞ an = lim
n→∞sup
k≥n
anという公式(流儀によっては定義式)より、lim sup
n→∞
pn
|an|= lim
n→∞sup
k≥n
pk
|ak|= lim
n→∞1 = 1.
系 3.11 (簡略版 Cauchy-Hadamard の公式) {an}n≥0 を複素数列、c ∈ C とする。冪 級数
X∞ n=0
an(z−c)n の収束半径をρ とする。
nlim→∞
pn
|an| が確定するならば、 1
+∞ = 0, 1
0 = +∞ の約束のもとで、次式が成り立つ。
ρ= 1
nlim→∞
pn
|an|.
証明 一般に、lim が確定するとき、それは lim supに等しいので、定理からすぐに結論が得 られる。
例 3.12 冪級数 X∞ n=0
2nzn, X∞ n=0
3nzn の収束半径はそれぞれ 1 2, 1
3 である。その和として得られ る冪級数
X∞ n=0
(2n+ 3n)zn の収束半径は 1
3 である。実際
nlim→∞
2n+ 3n 2n+1+ 3n+1
= 1 3 であることから、d’Alembert の公式により収束半径は 1
3.
筆者は、2つの収束冪級数の和として得られる冪級数の収束半径は、最初の冪級数の収束半 径の最小値とある時期勘違いしていたが、それは正しくない。
問 47. 冪級数 X∞ n=0
anzn, X∞ n=0
bnzn の収束半径がそれぞれ R1, R2 で、0 < R1 < R2 <∞ を満 たすならば、
X∞ n=0
(an+bn)zn の収束半径はR1 であることを示せ。
問 48. 冪級数 X∞ n=0
anzn, X∞ n=0
bnzn の収束半径が両方共 R とする。
(1) X∞ n=0
(an+bn)zn の収束半径はR 以上であることを示せ。
(2) X∞ n=0
(an+bn)zn の収束半径がR より大きい例をあげよ。