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冪級数の項別微分定理 (Abel)

ドキュメント内 複素関数 - nalab.mind.meiji.ac.jp (ページ 69-77)

3.3 冪級数の項別微分

3.3.1 冪級数の項別微分定理 (Abel)

定理 3.23 (冪級数の項別微分可能性, Abel) {an}n0 を複素数列、c∈Cとする。冪級数 f(z) =

X n=0

an(z−c)n の収束半径を ρ とするとき、fD(c;ρ) で正則で、

f(z) = X n=1

nan(z−c)n1 = X n=0

(n+ 1)an+1(z−c)n (z ∈D(c;ρ)).

右辺の冪級数の収束半径はρ である。

(冪級数に関して、もう1つ Abel による有名な定理がある(定理 3.43)。むしろ Abel の定理

と言えばそちらを思い出す人の方が多いかもしれない。) 証明 c= 0 として証明すれば良い。g(z) :=

X n=1

nanzn1 とおく。

冪級数g(z)の収束半径は(X

n

nanzn のそれと同じであるから)、Cauchy-Hadamard の公式 により

1 lim sup

n→∞

pn

|nan| = 1

nlim→∞

n

n lim sup

n→∞

pn

|an| = 1

1·(1) =ρ.

0< R < ρ を満たす任意のR に対して、fD(0;R) で正則で f(z) = g(z)を満たすこと を証明しよう。

ε を任意の正の数とする。g(z) は |z| ≤R で絶対収束するので42、 X

k=N+1

k|ak|Rk1 < ε 3

42一様絶対収束するが、ここの議論では絶対収束することしか使わない。

を満たす N N が取れる。

任意のz ∈D(0;R) と、z+h∈D(0;R) を満たす任意のh6= 0 に対して、

f(z+h)−f(z)

h −g(z)

=

X n=0

an(z+h)n−anzn

h

X n=1

nanzn1

XN k=1

ak

(z+h)k−zk

h −kzk1 +

X k=N+1

ak(z+h)k−zk h

+

X k=N+1

kakzk1 . 右辺第1項については、 zk

=kzk1 であるから、|h| が十分小さければ

XN k=1

ak

(z+h)k−zk

h −kzk1

< ε 3. また(|z|< R, |z+h|< R に注意すると)

(z+h)k−zk=(z+h−z)

(z+h)k1+ (z+h)k2z+· · ·+ (z+h)zk2+zk1

≤ |h|

|z+h|k1+|z+h|k2|z|+· · ·+|z+h| |z|k2+|z|k1

≤ |h|kRk1 であるから、右辺第2項については

X k=N+1

ak(z+h)k−zk h

X

k=N+1

|ak|kRk1 < ε 3. 右辺第3項については、

X k=N+1

kakzk1

X k=N+1

k|ak|Rk1 < ε 3.

ゆえに

f(z+h)−f(z)

h −g(z)

< ε.

これは f(z) = g(z)を示している。

余談 3.24 (導関数の冪級数の収束半径が元の冪級数のそれと同じことの別証) 上の証明では、

Cauchy-Hadamard の公式を用いて、fg の収束半径が一致することを導いたが、授業では、

Cauchy-Hadamard の公式を証明しなかったので(上極限の性質の説明もさぼった)、それを用

いずに収束半径の一致を導いてみよう43

43この辺はどうすべきか悩むところで、何でも事前に準備をしておくと、すっきり解決するようになるものの、

それで早くなった分の時間が準備にかけた時間とつりあうかどうか…ともあれ、証明しないものを使うのは気持 ちが悪いので、使わないで証明してみよう、ということである。そうして証明を作ってみた後で、杉浦[18]を見 たら、杉浦先生も同じようなことをしていて(本の中でCauchy-Hadamardの公式の証明はするのだが、説明の 順序の都合で、収束半径の一致はCauchy-Hadamardの公式を使わずに証明してある)「またか」と思ったので あった。

X n=0

an(z−c)n, X n=1

nan(z−c)n1 の収束半径をそれぞれ ρ1,ρ2 とおくとき、ρ1 =ρ2 を言え ば良い。

A= (

r∈R

r >0, X n=0

|an|rn<∞ )

, B = (

r∈R

r >0, X n=1

n|an|rn<∞ )

とおく。(状況をあらく説明すると、例えば前者について ρ1 = supA で、A = (0, ρ1) または A = (0, ρ1] ということであるが、A= という場合もあり (このとき supA=ρ1 は成り立た ない)、ていねいな議論が必要になる。)

一般に X n=1

|an|rn X n=1

n|an|rn であるから、B ⊂A. 収束半径の定義から 0< r < ρ1 ⇒r ∈A, r > ρ1 ⇒r 6∈A

が成り立つので、ρ1 = (

0 (A =)

supA (A 6=) . 同様にρ2 = (

0 (B =) supB (B 6=) .

ρ1 = 0 のときは A=. B ⊂A であるからB =. ゆえにρ2 = 0 であるから ρ1 =ρ2. 以下ρ1 >0とする。A6= である。(A=B が成り立つとは限らないが、少し弱くした)次 が成り立つ。

() (∀r∈A)(∀r : 0< r < r) r ∈B.

( の証明) r

r >1, lim

n→∞

n

n = 1 であるから、(∃N N) (∀n N: n ≥N) n n r

r. このと き n (r/r)n であるから、

n|an|rn ≤r r

n

· |an|rn =|an|rn.

ゆえに X

n=N

n|an|r′n X n=N

|an|rn<∞. ゆえに r ∈B (() の証明終).

ゆえにB 6=. B ⊂A であるから、ρ2 = supB supA=ρ1. もしも ρ2 < ρ1 が成り立つと 仮定すると、ρ2 < r < r < ρ1 となるr, r が取れて、r < ρ1 より r ∈A. 一方 ()より r ∈B.

ゆえに ρ2 = supB ≥r. これはρ2 < r に矛盾する。ゆえに ρ2 =ρ1.

3.3.2 冪級数展開とは Taylor 展開に他ならない

冪級数は(もちろん) Taylor 展開と関係が深い。まずは冪級数に展開出来るならば、それは

Taylor 展開に他ならないということを示す(後で、関数が正則であれば冪級数に展開できると

いうことを示す)。

3.25 (冪級数に展開出来るならば、それは Taylor 展開である) 冪級数 X n=0

an(z−c)n の定義する関数 f は、収束円 D(c;ρ) の内部で無限回微分可能であり、an = f(n)(c)

n! . ゆ えに

f(z) = X n=0

f(n)(c)

n! (z−c)n (z ∈D(c;ρ)).

証明 D(c;R) で何回でも微分できて、k∈N とするとき、

f(k)(z) = X n=k

n(n−1)· · ·(n−k+ 1)an(z−c)nk. ゆえに f(k)(c) = k!ak.

51. 収束冪級数について“係数比較”が可能なこと、つまりc∈C,r >0,複素数列{an}n0

{bn}n0 に対して、

X n=0

an(z−c)n = X n=0

bn(z−c)n (|z−c|< r) が成り立てば、an =bn(n = 0,1,2,· · ·) であることを示せ。

(系 3.25 を使ってもらうことを想定しているが、z =cの代入と、(z−c)での割算を続ける という方法もある。後者の方法を用いる場合、一様収束の議論は不要かどうか、良く点検する こと。)

以下、与えられた関数を冪級数で表す。つまり関数の冪級数展開の例をいくつかあげるが、

これまでの議論から、次のことが分かることに注意しよう。

• 冪級数展開はただ一通りしかない。

• Taylor 展開は冪級数展開であり、冪級数展開は Taylor 展開である。

• どういうやり方でも、冪級数展開してしまえば、それは Taylor 展開である。

3.3.3 有理関数の冪級数展開

以下、主に有理関数の冪級数展開の例をあげる。基本的なテクニックとして等比級数の和の 公式を用いる(そのテクニックに慣れることが後で役に立つことと、何かを求めるための方法 が複数あることを体得すること44、2つのねらいがある)。

3.26 1

1−z は、公比 z の等比級数 X n=0

zn の和の形をしている。この等比級数の収束条件 は |z|<1 である。ゆえに

1 1−z =

X n=0

zn (|z|<1).

この冪級数の収束半径は 1 で、収束円はD(0; 1).

3.27 1

z+ 4 = 1

4 +z = 1 4

1 + z

4 = 1

4 · 1

1

−z 4

= 1 4

X n=0

−z 4

n

= X n=0

(1)n 4n+1 zn.

収束するための必要十分条件は | −z/4| <1. すなわち |z| <4. ゆえに収束半径は 4, 収束円 は D(0; 4).

44これは私の偏見なのかもしれないが、何かを求めるための方法を1つしか知らない場合に、「○○とは、こ の計算をして求まるもの」という理解(?)をして、概念の定義がちゃんと頭に入っていない人がいるように感じ ている。

3.28 a6= 0 とする。

1

z−a = 1

a(1−z/a) =1 a · 1

1 z a

=1 a

X n=0

z a

n

= X n=0

zn an+1.

収束するための必要十分条件は | −z/a|<1. すなわち |z| <|a|. ゆえに収束半径は |a|, 収束 円は D(0;|a|).

項別微分して

1

(z−a)2 = X n=1

n

an+1zn1.= X n=0

n+ 1 an+2 zn. ゆえに

1 (z−a)2 =

X n=0

n+ 1 an+2 zn.

収束半径、収束円は微分で変わらないので、それぞれ |a|, D(0;|a|).

3.29

1

z2+ 1 = 1

1(−z2) = X k=0

−z2k

= X

k=0

(1)kz2k. 収束 ⇔ |−z2|<1 ⇔ |z|<1 であるから、収束半径は1, 収束円は D(0; 1).

(別解) 1 +z2 = (z−i)(z+i) と因数分解できるので、

1

1 +z2 = 1

(z−i) (z+i) = 1 2i

1

z−i 1 z+i

= 1 2i

1

−i(1 +iz) 1 i(1−iz)

= 1 2

1

1 +iz + 1 1−iz

= 1 2

X n=0

[(−iz)n+ (iz)n] = X n=0

(1)n+ 1 2 inzn. 有理関数は部分分数分解出来るので、これまで説明した方法で冪級数展開出来る ことが分かる (原理的には)。有理式の部分分数分解は、高校でも登場し、微積分で有理関数 の不定積分が初等関数で表されることの証明にも使われるが、詳しい説明が聴かされていない かもしれない。付録G(p. 294)を用意したので、適宜参考にしてもらいたい。

3.30 z33z2−z+ 5

z25z+ 6 を 0のまわりで冪級数展開(Taylor展開)してみよう。

f(z) := z33z2−z+ 5

z25z+ 6 とおく。f(z) の分子 z3 3z2−z+ 5 を分母 z25z+ 6 で割る と、商 z+ 2, 余り3z−7 であるから、

f(z) = (z+ 2)(z25z+ 6) + 3z−7

z25z+ 6 =z+ 2 + 3z−7 z25z+ 6. 右辺第3項の分母は z25z+ 6 = (z−2)(z−3)と因数分解できるので、

3z−7

z2 5z+ 6 = A

z−2+ B z−3 を満たす定数 A, B が存在する。これからA= 1, B = 2. ゆえに

f(z) = z+ 2 + 1

z−2+ 2 z−3.

z+ 2 の Taylor 展開はそれ自身である。

1

z−2 = 1

2 · 1 1 z

2

= X n=0

zn

2n+1 (収束 公比<1⇔ |z/2|<1 ⇔ |z|<2).

1

z−3 = 1

3 · 1 1 z

3

= X n=0

zn

3n+1 (収束 公比<1⇔ |z/3|<1 ⇔ |z|<3).

ゆえに

f(z) =z+ 2X

n=0

zn 2n+1 2

X n=0

zn 3n+1. 同類項をまとめておく。

f(z) = z+ 2 X n=0

zn 2n+1 2

X n=0

zn 3n+1

=z+ 2 1 2 +z

4 + X n=2

zn 2n+1

!

2 1 3 +z

9 + X n=2

zn 3n+1

!

= 21 2 2

3+z− z 4 2

9z− X n=2

1

2n+1 + 2 3n+1

zn

= 1234

6 + 3698

36 z−X

n=2

1

2n+1 + 2 3n+1

zn

= 5 6+ 19

36z− X n=2

1

2n+1 + 2 3n+1

zn.

この冪級数は |z| <2 ならば収束し、そうでないならば発散する。ゆえに収束半径は 2, 収束 円は D(0; 2) である。

3.31 (原点でない点のまわりの冪級数展開) 1

z+ 3 を 1 の周りで冪級数展開してみよう。

1

z+ 3 = 1

(z−1) + 4 = 1

4 · 1

1 + (z−1)/4 = 1

4 · 1

1

−z−1 4

= 1 4

X n=0

(1)n

4n (z−1)n

= X n=0

(1)n

4n+1 (z−1)n.

この冪級数が収束 公比<1 ⇔ |−(z−1)/4|<1 ⇔ |z−1| <4であるから、収束半径は 4 で、収束円はD(1; 4).

収束半径の計算がやや面倒になる例をあげておく。

3.32 (収束半径が等しい冪級数を加える場合は少し手間がかかる) f(z) = −z3 + 3z2+ 8z+ 14 z22z−8 を 1 のまわりで冪級数展開しよう。まず f(z) の部分分数分解は

f(z) = 1−z+ 3

z+ 2 + 5 z−4. 各項を冪級数展開すると

• 1−z =(z−1). この収束半径は +.

3 z+ 2 =

X n=0

(1)n1

3n (z−1)n. この収束半径は3.

• 5 z−4 =

X n=0

5

3n+1(z−1)n. この収束半径も 3.

以上を合わせて

f(z) =8 3 11

9(z−1) + X n=2

(1)n1 53

3n (z−1)n

という冪級数展開が得られるが、収束半径が等しい(共に3) 2つの冪級数を加えたため、収束 半径がすぐには分からない。

an := (1)n1 53

3n (n≥2) とおくとき、

pn

|an|= 1 3×

( 2 3

1/n

(n が奇数のとき)

8 3

1/n

(n が偶数のとき) 1

3 (n → ∞).

ゆえに Cauchy-Hadamard の定理から45

ρ= 1

nlim→∞

pn

|an| = 3.

後で、原始関数の存在が問題になることがあるので、一つ注意をしておく (冪級数に関して は簡単に「いつでも存在する」ことが言える)。

3.33 (収束冪級数の表す関数は原始関数を持つ) {an}n0 を複素数列、c C とする。

冪級数 X n=0

an(z −c)n の収束半径ρρ > 0 を満たすとき、冪級数の和 f(z) は収束円 D(c;ρ) で原始関数 F(z) =

X n=0

an

n+ 1(z−c)n+1 を持つ。

証明 F(z) :=

X n=0

an

n+ 1zn+1 とおくと、収束半径は ρと等しく、F(z) =f(z)を満たす。

3.34 (冪級数の原始関数) f(z) = 1

1 +z2, f(0) = 0 を満たす関数 f の冪級数展開を求 めよ。

f(z) = 1 1 +z2 =

X k=0

(1)kz2k (z∈D(0; 1)) であるから

f(z) = 定数+ X k=0

(1)k

2k+ 1z2k+1 (z ∈D(0; 1)).

45lim

n→∞

|an|

|an+1| は存在しないので、d’Alembert の定理を使って収束半径を求めることは出来ない。

f(0) = 0 から定数は0 である。ゆえに f(z) =

X k=0

(1)k

2k+ 1z2k+1 (z ∈D(0; 1)).

(後で、この f がいわゆる arctanであることが分かる。)

収束冪級数の表す関数はほとんど制限なく色々な計算が出来る。

3.35 (ann の多項式のときの X n=0

anzn の和) まず X n=1

n2zn の和を求めてみよう。

X n=0

zn= 1

1−z =(z−1)1 を微分して、

X n=1

nzn1 = (z−1)2.

z をかけて

X n=1

nzn = z (z−1)2.

つまり微分して、z をかけることで、一般項に n をかけることが出来る。ゆえに X

n=1

n2zn=

z (z−1)2

= z2 +z (z−1)3. これから任意の k Nに対して、冪級数

X n=1

nkzn の和が求まることが分かる。

3.3.4 微分方程式の冪級数解法

3.36 (微分方程式の冪級数解) 原点中心の収束冪級数f(z) = X n=0

anzn で、f′′(z) = −f(z), f(0) = 1,f(0) = 0 を満たすものを求めよ。

(解答)

f(z) = X n=1

nanzn1, f′′(z) =

X n=2

n(n−1)anzn2 = X n=0

(n+ 2)(n+ 1)an+2zn. これが −f(z) に等しいことから、係数を比較して

(∀n∈Z:n 0) (n+ 2)(n+ 1)an+2 =−an. ゆえに an+2 = an

(n+ 2)(n+ 1). 一方 f(0) = 1 より a0 = 1, f(0) = 0 より a1 = 0 が得られ るので、

a2k1 = 0 (k N), a2k = (1)k

(2k)! (k = 0,1,2,· · ·).

ゆえに

f(z) = X k=0

(1)k (2k)!z2k.

この収束半径は + である(省略 —実は既にやったことがあるはず)。もう気づいていると 思うが f(z) = cosz.

この例の微分方程式は、定数係数線形微分方程式なので(というか単振動の方程式なので常 識と言っても良い)、冪級数を使わないでも簡単に解くことが出来るが、この方法は変数係数 の微分方程式の場合にも使うことが出来る。実際、数多くの微分方程式がその方法で解かれ、

その解として新しい関数 (特殊関数)が豊富に導入された。例えば Gauss は超幾何微分方程式 x(1−x)y′′+ (γ−(α+β+ 1)x)y−αβy = 0

の解として超幾何関数2F1(α, β;γ;x) を導入し、Bessel は Besselの微分方程式 x2y′′+xy+ x2−α2

y = 0 の解として Bessel 関数Jα(x) を導入した。

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