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三角形の周に沿う線積分の場合

ドキュメント内 複素関数 - nalab.mind.meiji.ac.jp (ページ 110-114)

6 Cauchy の積分定理

6.2 三角形の周に沿う線積分の場合

三角形のような単純な図形の場合は、内部とは何か明らかで議論が簡単になる。次の補題 は、その証明とともに非常に有名である。

補題 6.1 (Goursat, Pringsheim) ΩはC の開集合、f: ΩC 正則、∆はΩ 内の三角

形とするとき、 Z

f(z)dz = 0.

ここで∆ は、三角形 ∆の周を正の向きに一周する閉曲線である。

(有名な定理であるが、その歴史については Gray [26] を見よ。Goursat (グルサー)の定理と 呼ぶ人が多いが、高木 [27]では Pringsheim という名前をあげている理由が良く分かる。簡潔 な証明であるが、ここに行き着くまでに紆余曲折があったことが分かる。)

証明に使われるのは、(a) 三角形の周に沿う積分は、分割して出来た小三角形の周に沿う積 分の和である、(b) 微分できるということは、局所的には1次関数でいくらでも精度良く近似 できるということである、(c) 1次関数の閉曲線に沿う積分は 0 (1次関数 az+b は原始関数

a

2z2+bz を持つから),という3つの事実と区間縮小法であるが、それらの組み合わ方が絶妙で ある。

証明 (注意: 対面授業で証明すると40分強の時間が必要になる。) M :=

Z

f(z)dz

とおく。M = 0 を示したい。

0 := ∆ とする。∆0 の各辺の中点を結ぶと、4つの三角形に分割される。

0 = ∆01020304.

0j は、0 に含まれる線分と、そうでない線分 (両端を除いて ∆0 の内部に含まれる線分) からなるが、後者は、j = 1,2,3,4すべてを考えると、2回現れ、それらは互いに逆向きになっ ているので (図が欲しい)、線積分を計算するとキャンセルして消えてしまうから、

Z

0

f(z)dz = Z

01

f(z)dz+ Z

02

f(z)dz+ Z

03

f(z)dz+ Z

04

f(z)dz.

ゆえに

M = Z

0

f(z)dz

X4 j=1

Z

0j

f(z)dz . 右辺の4つの項

Z

0j

f(z)dz

のうち最大値を与える三角形が ∆0j であったとして、それを

1 とおくと、

M 4 Z

1

f(z)dz .

ゆえに

Z

1

f(z)dz M

4 . 以下、同様にして三角形の分割を続ける:

∆ = ∆0 1 2 ⊃ · · · このとき任意の n∈N に対して

Z

n

f(z)dz M

4n.

区間縮小法の原理により

(∃c∈C) \

nN

n ={c}. c∈0 = ∆ Ωであることに注意する。

1次関数は必ず原始関数を持つので、1次関数の閉曲線に沿う線積分は0である。ゆえに Z

n

f(z)dz = Z

n

[f(z)(f(c) +f(c)(z−c))]dz.

右辺の被積分関数を g(z) とおくと、

Z

n

f(z)dz =

Z

n

g(z)dz

max

zn|g(z)| Z

n

|dz|. Z

n

|dz|n の弧長である。それを Ln とおくと、∆n は ∆と相似であり、n が 1 増え るごとに、長さが 1/2倍になるから、Ln = L

2n が成り立つ。

微分の定義 lim

zc

f(z)−f(c)

z−c =f(c)によって、

limzc

g(z)

z−c = lim

zc

f(z)(f(c) +f(c)(z−c))

z−c = 0

であるから、任意の正の数 ε に対して、ある δ >0 が存在して、

|z−c|< δ ⇒ |g(z)| ≤ε|z−c|.

c∈n であるので、十分大きな任意の n に対して、∆n⊂D(c;δ) が成り立つ。そのようなn に対して

zmaxn|g(z)| ≤ε max

zn|z−c|. 三角形の直径は周長以下であるから

zmaxn|g(z)| ≤εLn. ゆえに

M 4n

Z

n

f(z)dz

≤εLn·Ln= εL2 4n であるから

M ≤εL2. ε は任意の正の数であったので、M = 0.

注意 6.2 (上の証明の工夫の鑑賞) 積分を評価するのに、良く使うのは

Z

n

f(z)dz

max

zn|f(z)| Z

n

|dz| という不等式であるが、これでは

Z

n

f(z)dz

定数×Ln=定数× L 2n

という評価しか出ない。f(z) から1次近似式f(c) +f(c)(z−c) を除いた g(z)を用いて Z

n

f(z)dz =

Z

n

g(z)dz

max

zn|g(z)| Z

n

|dz|

とするのは気づきにくい工夫である(max|f| は小さくないが、max|g|は小さくなる)。 一方、もしもf が2回微分可能で、f′′ が連続であれば、Taylor の定理によって

max

zn|g(z)| ≤ 1 2 max

|zc|≤δ|f′′(z)|L2n が得られて、

Z

n

f(z)dz 1

2 max

|zc|≤δ|f′′(z)|L3n, さらに

M 定数× L3 2n

という評価が得られる。こうなれば簡単に M = 0 が得られてバンザイだけれど、今の時点で は66f が2 回微分可能ということは証明出来ていないので、このやり方で証明するのは無理 である。1回微分可能という仮定から

(∀ε >0) M ≤εL2 という評価を導く上の議論は、実に繊細である。

後のCauchy の積分公式の証明に用いるため、仮定を少し弱くした命題も証明しておく。

6.3 (積分公式のための準備) 上の補題6.1の条件で、f が Ω で正則というところを、

f は Ωで連続、1点 a∈Ω を除いて正則 とゆるめても、

Z

f(z)dz = 0 が成り立つ。

実際には、Ωで連続で、1 点を除いて正則という場合、実はその点でも微分可能で、Ω全体で 正則となってしまう(後述の除去可能な特異点というものにあたる)。つまり、これは純粋に証 明するための都合、ということになる。

証明 a6∈∆ ならば、上の証明のままで良い。a∈∆の場合は、

(i) a が ∆のある頂点に一致

(ii) a が ∆の頂点ではない辺上にある (iii) a が ∆の内部にある

のいずれかに分類される。

66たびたび言及しているように、正則関数は実は無限回微分可能であることが後で証明される— Cauchyの積 分定理を根拠として (これでは循環論法に落ちてしまう)

図 7: a が三角形 ∆のどこにあるかで場合分け (頂点, 辺上,内部)

(i) の場合、∆ の辺の長さより小さい任意の正数 ε に対して、図のように ∆ を3つの三角 形に分割する。a を含まない三角形∆ε, ∆′′ε では、周に沿う線積分の値は 0 であるから、

Z

f(z)dz = Z

ε

f(z)dz+ Z

ε

f(z)dz+ Z

′′ε

f(z)dz = Z

ε

f(z)dz.

ゆえに (ε の周の長さが4ε 以下であることに注意して) Z

f(z)dz

Z

ε

|f(z)| |dz| ≤max

z |f(z)| Z

ε

|dz| ≤4εmax

z |f(z)|. ε→+0 とすることで

Z

f(z)dz = 0.

(ii), (iii)の場合も、図のように三角形を分割すると、各三角形で (i) が適用できて、線積分

の値が 0 であることが導かれる。

余談 6.4 Cauchy の積分公式を導くために、正則性の条件を緩めた積分定理をおくテキスト

が良くあるが、上の形のものはどうやら高橋 [19]が最初らしい(杉浦 [28] で [19]があげられ ている)。

補題6.1 とその証明を理解すると、例えば、関数 f が多角形 ☆ を含む開集合で正則なら ば、☆ の周に沿った積分

Z

f(z)dz = 0 であることが容易に理解できる(なぜならば、多角 形は三角形 ∆j の和に分割でき、各三角形 ∆j に対して

Z

j

f(z) dz = 0 が成り立つことか ら、

Z

f(z)dz = 0 が導かれる)。

そして実は、閉曲線C の像が多角形の周になっていなくても、C が囲む範囲とC上でf が 定義されて正則ならば、

Z

C

f(z)dz = 0 となることが証明できる。これがいわゆる Cauchyの 積分定理なのであるが、きちんと定式化して証明するのは意外と難しい。一歩一歩進んで行く ことにする。

余談 6.5 これは私の昔話。大学2年生の秋学期、数学科に進学を決めたのだけれど、自分が 果たしてこのまま数学の勉強を続けられるかどうか、おっかなびっくり過ごしていた。1つ上 の学年は (定員が45名というクラスで)、何と6人が転学科した (数学が難しいことに気がつ いて、1年棒に振ることを受け入れ、数学科から逃げた) という話を聞いていて、自分もそう なる羽目になるのでは、とおそれていたのだ。そうならないように、必死に予習をして授業 にのぞんだのだけど、最初の1コマで3ヶ月分の貯金がなくなる講義があったり、心の中はパ ニック状態。秋が深まり、疲れが出て来た時のこと。

複素関数論の講義を受講していたのだが、教官が授業で上の定理の証明をしていた。内容は 有名な「解析概論」[27] で予習済みであったので、自分にとっては復習だったが、「ああ、こ の定理の証明はやはり美しい、もっと数学を続けたい」と感じた。

そのとき、証明を終えた教官が「この証明を見て何も感じない奴は、数学を続けることを考 え直した方が良い」という意味の発言をした。今だったらハラスメントとか非難されたりしそ うだが(時代を感じてしまいます)、そのときの自分は何か救われたような気がした (まあ、教 官の主張が真だとしても、何かを感じた奴が数学を続けることを考え直さなくて良い、という ことには、論理的にはならないけれど)。

その後、数学者の中で、この定理の証明が素敵だと思う人と、別にそれほどのことは感じな い人、両方いるらしいことは分かったので、あの教官の発言は正しいと言う気はないけれど、

まあ、同じように感じる人もいる、ということですね。

余談 6.6 (Greenの定理を用いる別証明) 実は有名な別証明がある。それにはベクトル解析

で有名な次の Greenの定理を用いる。

Greenの定理

D は R2 の縦線領域であり、Ωは D を含む開集合、f = P Q

!

: ΩR2C1 級とする とき Z

∂D

f ·dr

= Z

∂D

P dx+Q dy

= ZZ

D

∂Q

∂x ∂P

∂y

dx dy.

ただし∂D は、D の境界を正の向きにたどる閉曲線である。

三角形の内部は縦線領域であるので、この定理が適用出来て Z

f(z)dz = Z

(u+iv)(dx+i dy) = Z

(u dx−v dy) +i Z

(v dx+u dy)

= ZZ

(−vx−uy)dx dy+i ZZ

(ux−vy)dx dy.

f は正則であるから、Cauchy-Riemann の方程式 ux =vy,uy =−vx が成り立つ。ゆえに Z

f(z)dz = ZZ

0dx dy+i ZZ

0dx dy= 0.

この論法が成立するには、f の連続性を仮定する必要がある。強い仮定が必要という意味で は、定理としては弱くなるが、Green の定理に十分慣れていれば、三角形以外の多くの領域

に対して Cauchy の積分定理がすぐに拡張できる。これは魅力的に感じられるかもしれない。

実は教科書 (神保[1]) はこの証明を採用しているが、残念ながら Green の定理の説明はあま り詳しくない。この方針のもとに書かれている本のうちで、私のお勧めは、堀川 [29] である

(Greenの定理のていねいな説明が載っている)。

Greenの定理については、例えば杉浦 [28] の VIII§3 が詳しい。そこには縦線領域でない、

より一般の領域に対する Green の定理も載っている。

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