8 参考 : Green の定理 , 積分路の変形 (2)
8.3 積分路の変形 (2)
積分路の変形(曲線に沿う正則関数の線積分は、関数が正則な範囲で曲線を連続的に変形し ても、線積分の値は変わらない) については、既に6節でも現れた(もっとも、詳しいことは 付録 (E) に回してある)。
ここでは、いくつか例を追加する。
8.3.1 ある年度の講義の宿題から
例 8.6 円盤における Cauchy の積分公式 f(a) = 1 2πi
Z
|z−c|=r
f(z)
z−a dz (仮定をここに書くの は省略) に当てはめることによって、以下の線積分の値を求めよ(部分分数分解などはしない でやること)。
(1) Z
|z|=1
dz
z(z+ 2)2 (2) Z
|z+3|=2
dz
z(z+ 4) (3) Z
Γ
dz
z(z+ 2)2 (Γは ±1±i を頂点とする正 方形の周)
(1) c= 0, r = 1, a = 0,f(z) = 1
(z+ 2)2 とすると、円盤領域に置ける Cauchy の積分公式の 条件(a ∈ D(c;r), かつf は D(c;r) を含むある開集合 (D(0; 1.5)とか C\ {0,−2}) で正 則である)が満たされる。ゆえに
Z
|z|=1
dz z(z+ 2)2 =
Z
|z−c|=r
f(z)
z−adz = 2πif(a) = 2πi· 1
(0 + 2)2 = 2πi· 1 4 = πi
2 . (2) c=−3, r = 2, a = −4, f(z) = 1
z とすると、円盤領域に置ける Cauchy の積分公式の条 件 (a∈D(c;r),かつf は D(c;r) を含むある開集合 (D(−3; 3) とかC\ {0,−3}) で正則) が満たされる。ゆえに
Z
|z+3|=2
dz z(z+ 4) =
Z
|z−c|=r
f(z)
z−adz = 2πi·f(a) = 2πi· 1
−4 =−πi 2 .
(3) 被積分関数 1
z(z+ 2)2 は、領域 C\ {0,−2} で正則である。その範囲で積分路 Γ は円周
|z|= 1 に変形できる。ゆえに(1) の結果を用いて Z
Γ
dz z(z+ 2)2 =
Z
|z|=1
dz
z(z+ 2)2 = πi 2 .
どのようにやるか、実は色々なやり方があります。代表的なものを3つ示します。
1. 授業できちんと証明したのは、星型領域内では、始点と終点が変わらないならば曲線を 置き替えて良い、という定理だけですね。これを使って、正方形の周を円周に替えるた めには、次の4つの段階を踏めば良い。
例えば第1象限の部分は、1 +i を中心として、半径が1.1 (1より大きく、1 +i と 0と の距離 √
2よりは小さい)の円盤領域 (これは星型) Ω1 を考えます。Ω1 で被積分関数は 正則です(0, −2は含まないから)。そして、正方形の周Γ の右上部分Γ1 と、円周C の 右上部分 C1 が Ω1 に含まれます。ですから、Γ1 を C1 に置き換えられます。
第2象限でも同様に −1 +i 中心の円を考えます。−1 +i と 0,−2 との距離は √ 2なの で、第1象限のときと同じ半径 1.1 で大丈夫。正方形の周 Γの左上部分 Γ2 は、円周 C の左上部分 C2 に置き換えられます。
第3象限 (Γ3 を C3), 第4象限(Γ4 を C4) でも同様。
2. 各 j に対して、Γj と Cj は縦線領域 (Dj とする) を囲むので、縦線領域版のGreen の 定理を用いて、
Z
Γj
f(z)dz− Z
Cj
f(z)dz = Z
∂Dj
f(z)dz = 0 ゆえに Z
Γj
f(z)dz = Z
Cj
f(z)dz とする手があります。Greenの定理ちゃんと分かっているという人には、これはアリか もしれない。
3. 普通の数学の本では「連続的変形」というのをすることが多い。C\ {0,−2}の中で、正 方形を連続的に円周に変形する写像 (ホモトピー写像と呼ぶ) を作る。その写像は割と 簡単に作れますが (原点に向かって縮める感じ— 図3)。ホモトピー写像があれば、積分 路を置き換えられる、という定理は授業ではお話に出しただけで、証明はしていません (講義ノートの付録にはある(E.4の今だとp. 285, 定理E.3))。これはちょっと背伸びが 必要かな。
8.3.2 熱方程式のGreen関数 (熱核) の導出に現れる積分路の変形
例 8.7 (Fourier解析で有名な例) 熱方程式ut(x, t) =uxx(x, t)の基本解U(x, t) = 1
√4πte−x
2 4t
を Fourier 変換を用いて求める計算に使われる、非常に有名な例である。
h∈Rとするとき、 Z ∞
−∞
e−(x+ih)2dx=√ π=
Z ∞
−∞
e−x2dx.
(実軸 R に沿う積分が、h だけ浮かせた直線 {x+ih |x ∈ R} に沿う積分と等しい。Fourier 解析で、ガウシアンの Fourier変換を計算するときに良く利用される式である。)
証明 f(z) =e−z2 (z ∈C) とおくと、f は C で正則である。
図 19: 正方形の周 Γ を円周 C に連続的に変形する 任意のR >0 に対して、
Γ1,R := [−R, R], Γ2,R := [R, R+ih], Γ3,R := [−R+ih, R+ih], Γ4,R:= [−R,−R+ih], ΓR := Γ1,R+ Γ2,R−Γ3,R−Γ4,R
とおく。ΓR は星型領域Cにおける閉曲線であり、f は C で正則であるから、Cauchyの積分 定理によって、
(57) 0 = Z
ΓR
f(z)dz = Z
Γ1,R
f(z)dz+ Z
Γ2,R
f(z)dz− Z
Γ3,R
f(z)dz− Z
Γ4,R
f(z)dz.
Γ1,R は z =x (x∈[−R, R]) とパラメーター付けできるので、dz =dx より Z
Γ1,R
f(z)dz = Z R
−R
f(x)dx= Z R
−R
e−x2 dx.
この積分については、R→ ∞ のとき、√
π に収束することが知られている:
(58) lim
R→∞
Z R
−R
e−x2dx=√ π.
同様にΓ3,R は z =x+ih(x∈[−R, R])とパラメーター付けできるので、dz =dx より Z
Γ3,R
f(z)dz = Z R
−R
f(x+ih)dx= Z R
−R
e−(x+ih)2 dx.
Γ2,R は z =R+ith (t∈[0,1]) とパラメーター付けできるので79、
|f(z)|=ez2=eRe(−z2) =eRe(−(R+ith)2) =e−R2+t2h2 ≤e−R2+h2.
ゆえに
Z
Γ2,R
f(z)dz
≤ max
z∈Γ∗2,R|f(z)| Z
Γ2,R
|dz| ≤e−R2+h2|h|. ゆえに
(59) lim
R→∞
Z
Γ2,R
f(z)dz = 0.
同様にΓ4,R は z =−R+ith (t∈[0,1]) とパラメーター付けできるので、
|f(z)|=ez2=eRe(−z2) =eRe(−(−R+ith)2) =e−R2+t2h2 ≤e−R2+h2,
Z
Γ4,R
f(z)dz
≤ max
z∈Γ∗4,R|f(z)| Z
Γ4,R
|dz| ≤e−R2+h2|h|. ゆえに
(60) lim
R→∞
Z
Γ4,R
f(z)dz = 0.
(57)から Z
Γ3,R
f(z)dz = Z
Γ1,R
f(z)dz+ Z
Γ2,R
f(z)dz− Z
Γ4,R
f(z)dz であるから、
Z R
−R
e−(x+ih)2dx−√ π
=
Z R
−R
e−x2dx−√ π+
Z
Γ2,R
f(z)dz− Z
Γ4,R
f(z)dz
≤ Z R
−R
e−x2dx−√ π
+ Z
Γ2,R
f(z)dz +
Z
Γ4,R
f(z)dz . (58), (59), (60)から、R → ∞のとき、右辺は 0に収束することが分かる。以上から
Z ∞
−∞
e−(x+ih)2dx=√ π.
8.3.3 教科書 ([1]) 例題3.24
次の例は教科書に載っているものである (例題3.24 に、2πi をかけたもの)。楕円に沿う線 積分は、定義に従って計算しようとすると難しいが、この例では、被積分関数が正則な範囲で 積分路を変形することで、2つの円周に沿う線積分の和に帰着している。これは、後で説明す る留数定理を用いて計算するのにピッタリの問題であるが、以下の計算はその内容を先取りし たものになっている。
79h >0であればz=R+iy (y∈[0, h])とすれば良いけれど、h <0 のときは不適当なので、z=R+ithと した。
例 8.8 (後でもっと簡単に解くけれど) C を楕円 z = 2 cosθ+isinθ (θ ∈[0,2π]) とするとき I =
Z
C
2z z2−1dz を求めよ。
被積分関数をf(z) とおき、部分分数分解しておく: f(z) = 2z
z2−1 = 2z
(z+ 1)(z−1) = 1
z+ 1 + 1 z−1.
正数 ε に対して、z = 1 +εeiθ (θ ∈[0,2π])を C1,ε,z =−1 +εeiθ (θ ∈[0,2π])を C−1,ε とおく と、ε が十分小さければ、C, C1,ε, C−1,ε は互いに交わらない。
このとき
D:=
z =x+iy x2
22 +y2
12 <1∧ |z+ 1|> ε∧ |z−1|> ε
とおくと、Dは領域で
∂D=C−C1,ε−C−1,ε.
D は 1,−1を含まないので、f は Dを含むある開集合で正則である。ゆえに Cauchyの積分 定理(定理 8.4) から、
0 = Z
∂D
f(z)dz = Z
C
f(z)dz− Z
1,ε
f(z)dz− Z
−1,ε
f(z)dz.
ゆえに Z
C1,ε
f(z)dz = Z
C1,ε
dz z+ 1 +
Z
C1,ε
dz
z−1 = 0 + 2πi= 2πi.
(第1項は、C1,ε が{z ∈C|Rez >0}に含まれ、 1
z+ 1 はそこで正則であることから、Cauchy の積分定理より 0 である。第2項は例の積分である。)
同様にして Z
C−1,ε
f(z)dz = Z
C−1,ε
dz z+ 1 +
Z
C−1,ε
dz
z−1 = 2πi+ 0 = 2πi.
ゆえに
I = Z
C
f(z)dz = Z
C1,ε
f(z)dz+ Z
C−1,ε
f(z)dz = 4πi.
今後の方針説明 ( 二つ目のイントロ )
これまでは、正則関数が冪級数展開可能であることを示すことが大きな目標である、と言っ てきて、それが果たされたし、Cauchy の積分定理も、まあまあ一般的な形で紹介できたし、
ほっと一段落、というところ。それで今後の話の流れをおおまかに説明する。
(i) (冪級数展開を利用した) 正則関数の性質の詳しい分析
(ii) 孤立特異点に注目し Cauchy の積分公式を利用して、孤立特異点の周りの Laurentロ ー ラ ン 展 開(the Laurent expansion) を導く。孤立特異点の
りゅうすう
留 数 (residue) を定義して、定積分の 計算への応用を説明する。