12 留数定理 (residue theorem)
13.2 有理関数の R 上の積分 Z ∞
−∞
x dx について、値が0という変なことをやっ てしまう。似た話に
Z 2
−1
1
x dxがある。 lim
ε1,ε2→+0
Z −ε1
−1
1 x dx+
Z 2
ε2
1 x dx
が定義で、「積分が存 在しない」が正しいが、lim
ε→+0
Z −ε
−1
1 x dx+
Z 2 ε
1 x dx
と計算すると、log 2という値が出る。) 一方で、ある条件が成り立つ場合は、(77)で計算しても構わない。そのための条件として、
次の2つを是非とも覚えなくてはいけない。
(a) f が実数値で、符号が変わらない(つねに 0以上であるか、またはつねに 0以下)。
(積分が発散するのは、+∞ や−∞ になるということで、それはlim として捉えることが
出来る。)
(b) 広義積分が収束することがあらかじめ何らかの方法で分かった場合。代表的なのは、広義 積分が絶対収束する、すなわち
Z ∞
−∞|f(x)|dx <∞ が成り立つ場合である。
次項 13.2 で取り上げる有理関数の積分については、実は広義積分が絶対収束することが簡 単に分かるため(77)を用いているが、次々項13.3 で取り上げる有理関数×eiax の積分につい ては、一般には広義積分は絶対収束しないため、(76) を用いている。
この講義は、広義積分の理論を説明する講義ではないので、そこを細かく追求する問題は考 えないが、留意してもらいたいことである。
13.2 有理関数の R 上の積分 Z
∞−∞
f (x) dx
以下 C[z] は、変数z の複素係数多項式の全体を表す。P(z)∈C[z]に対して、P(z)の次数 を degP(z)で表す。
定理 13.2 (有理関数の実軸全体での積分) P(z), Q(z) ∈ C[z], f(z) = Q(z)
P(z), degP(z) ≥ degQ(z) + 2, (∀x∈R) P(x)6= 0 とするとき、
Z ∞
−∞
f(x)dx= 2πi X
Imc>0
Res(f;c).
ここで X
Imc>0
は、f の極 cのうち、Imc >0 を満たすものすべてについての和を取ること
を意味する。
以下の証明を見れば、同様にして Z ∞
−∞
f(x)dx=−2πi X
Imc<0
Res(f;c) が証明できることが分かる。実は X
すべての極c
Res(f;c) = 0 が成り立つ(留数定理から直接証明 できる)。
証明 仮定より
(⋆) (∃M ∈R)(∃R∗ ∈R)(∀z ∈C:|z| ≥R∗) P(z)6= 0 かつ |f(z)| ≤ M
|z|2
が成り立つ。実際 P(z) = a0zn+a1zn−1+· · ·+an, a0 6= 0, Q(z) =b0zm+b1zm−1+· · ·+bm, b0 6= 0 とするとき、(補題 9.19 から分かるように)
(∃R∗∗ ∈R)(∀z ∈C:|z| ≥R∗∗) |P(z)| ≥ |a0|
2 |z|n, |Q(z)| ≤ 3|b0| 2 |z|m が成り立つので、P(z)6= 0. またR∗ := max{1, R∗∗},M := 3||ab0|
0| とおくと、|z| ≥R∗ に対して、
|f(z)| ≤
3|b0| 2 |z|m
|a0|
2 |z|n = 3|b0|
|a0| |z|m−n ≤ 3|b0|
|a0| 1
|z|2 = M
|z|2 ((⋆)の証明終).
(⋆) より、積分は絶対収束して Z ∞
−∞
f(x)dx= lim
R→+∞
Z R
−R
f(x)dx.
(注: 一般に連続関数f に対して、
Z ∞
−∞
f(x)dx= lim
R1,R2→+∞
Z R2
−R1
f(x)dx であるが、収束する ことが分かれば、 lim
R→∞
Z R
−R
f(x)dx として計算できる。) R > R∗ を満たす任意の R に対して
ΓR: z =x (x∈[−R, R]), CR: z =Reiθ (θ∈[0, π]), γR:= ΓR+CR
とおくと Z R
−R
f(x)dx= Z
ΓR
f(z)dz, Z
CR
f(z)dz ≤
Z
CR
|f(z)| |dz| ≤ M R2
Z
CR
|dz|= M
R2 ·πR= πM
R →0 (R→+∞).
留数定理により Z
γR
f(z)dz = 2πi X
Imc>0
Res (f;c). ゆえに
Z R
−R
f(x)dx= Z
ΓR
f(z)dz = Z
γR
f(z)dz− Z
CR
f(z)dz
= 2πi X
Imc>0
Res (f;c)− Z
CR
f(z)dz
→2πi X
Imc>0
Res (f;c) (R →+∞).
例 13.3
I = Z ∞
−∞
dx
x2+ 1 =π.
微積分で、tan−1x は 1
x2+ 1 の原始関数と学んだので、それを用いると I =
tan−1x∞
−∞= π 2 −
−π 2
=π.
定理13.2 を使うと次のように求められる。
P(z) :=z2+ 1,Q(z) := 1とおくと、P(z), Q(z)∈C[z], degP(z) = 2 = degQ(z) + 2. x∈R のとき P(x) =x2+ 1≥ 0 + 1 = 1 よりP(x)6= 0. c が被積分関数の極 ⇔ P(c) =c2 + 1 = 0
⇔ c=±i. このうち Imc >0 を満たすものはc=i. 定理13.2 によって I = 2πiRes
Q P;i
. iは f := Q
P の1位の極であるから Res(f;i) = lim
z→i(z−i)f(z) = lim
z→i
1
z+i = 1 2i. あるいは
Res(f;i) = Q(i) P′(i) = 1
2z
z=i
= 1 2i. ゆえに
I = 2πi· 1 2i =π.
余談 13.4 MathematicaならばIntegrate[1/(x^2+1),{x,-Infinity,Infinity}]として計 算できる。Maple ならばint(1/(x^2+1),x=-infinity..infinity)
例 13.5
I = Z ∞
−∞
dx
x4+ 1 = π
√2.
微積分で「有理関数の原始関数は初等関数の範囲で求まる」ことを学んだ。実際、 1 x4+ 1 の 原始関数を求めることが出来、それを用いて I を計算することも可能であるが、計算はかな り面倒である。
P(z) :=z4+ 1, Q(z) := 1 とおくと、定理13.2 の条件が成り立つ(確認の過程は省略する)。 cが Q
P の極⇔ P(c) = 0 ⇔ c=ei(π4+k2π4) (k= 0,1,2,3)⇔ c= 1+i√ 2,1√−i
2,−√1+i 2 ,−√1−i
2 . Imc >0 となるのは、c1 := 1+i√
2, c2 := −√1+i
2 . これらは c4 =−1を満たし、P の1位の零点で あるから
Res Q
P;cj
= Q(cj) P′(cj) = 1
4c3j = cj
4c4j =−cj 4. 定理13.2 から、
I = 2πi
Res Q
P;c1
+ Res Q
P;c2
= 2πi·
−1 4
(c1+c2) =−πi 2 · 2i
√2 = π
√2.
注意 13.1 f が偶関数の場合、
Z ∞
0
f(x)dx= 1 2
Z ∞
−∞
f(x)dx だから、半無限区間 (0,∞)にお ける積分もここで示す方法で計算できる。