ここでは
この辺の事情は、前節の複素対数関数の話に通じる。やや判りづらいと思われるが、説明 する。
F(z) := logz は多価関数で、関数とは認められないが、ある意味でF′(z) =f(z)を満たす。
関数 f の定義域を少し小さいものに置き換えると、原始関数は存在することがある。例 えば、複素平面から実軸の正の部分を除いた領域Ω′ :=C\ {z∈C|z ≥0} では
F(z) = logz = logr+iθ (z =reiθ, 偏角θを (0,2π)の間に取る)
が f の原始関数になる。そこで0< ε <1 に対して、Cε: z =φ(θ) =eiθ (θ ∈[ε,2π−ε]) とすると、Cε の像は Ω′ に含まれるので
Z
Cε
f(z)dz =F(φ(2π−ε))−F(φ(ε)) = (log 1 +i(2π−ε))−(log 1 +iε) = (2π−2ε)i.
ここで ε→+0 とすると 2πiに収束する。これが Z
C
f(z)dz に等しいのはうなずけるだ
ろうか(そうしてもらえることを期待している)。
例 5.11 (zn の積分) n ∈Z,f(z) = zn とする。n=−1の場合が上の例であるが、n 6=−1で あれば、F(z) := zn+1
n+ 1 とおくと、F′(z) =f(z) であるから、
Z
C
f(z)dz =F(b)−F(a) = bn+1−an+1 n+ 1 . 関数が原始関数を持つかどうか、簡単に分かることを述べておく。
• 多項式関数は (n ≥0しか出て来ないので)必ず原始関数を持つ。
• 冪級数は収束円の内部では必ず原始関数を持つ。
• 有理関数で(実関数ならば) logが出て来るケース ( 1
z−a とか、 z
z2+ 1 —もっともこち らは 1
2 1
z+i + 1 z−i
に等しいので、 1
z−a に帰着されると言って良いかもしれない) や、√ などは注意を要する。
• 実は「原始関数を持つならば正則である」ことが後で分かる。従って正則関数でない x= Rez, y= Imz, |z|, Argz などは原始関数を持たない。
余談 5.12 (授業楽屋裏) 線積分の練習問題を出す立場の楽屋裏を説明すると、原始関数が分
かる場合は、定理5.7 によって、線積分は簡単に計算できてしまい、線積分の定義に基づいて 計算することの練習にならないので、原始関数が存在しない問題を出すことが多い。その中に (x, |z|のような)正則関数でない関数を含めることがあるが、関数論で実際にそういう関数の 積分が出て来ることはあまり多くないので、「問題のための問題」になりがちである (少し複 雑な気持ちになる)。
定義 5.13 Ω は C の開集合で、C: z = φ(t) (t ∈ [α, β]) は Ω 内の曲線とする。(これは φ: [α, β]→Ωが連続ということを意味する。)
• 写像 φ の値域{φ(t)|t ∈[α, β]}のことを曲線C の像 (the image ofC)、あるいは跡 (the spur of C) という。しばしば記号 C∗ で表す。
• 曲線 C が C1 級曲線であるとは、φ がC1 級であること、すなわち 1回微分可能で、
導関数 φ′ が連続であることをいう。
• 曲線 C が C1 級正則曲線であるとは、φ が C1 級であり、(∀t ∈[α, β]) φ′(t)6= 0 を 満たすことをいう。
• 曲線C が区分的にC1 級の曲線であるとは、[α, β]のある分割{tj}nj=0で、各[tj−1, tj] に φ を制限した φ|[tj−1,tj] がC1 級曲線であるものが存在することをいう。
(tj では片側微分係数しか存在しないかもしれない、ということである。)
• 曲線 C が区分的に C1 級の正則曲線であるとは、ある{tj}nj=0 で各[tj−1, tj]に φ を 制限した φ|[tj−1,tj] がC1 級正則曲線であるものが存在することをいう。
• 曲線 C が閉曲線(closed curve) であるとは、始点と終点が等しいこと、すなわち
φ(α) =φ(β)であることをいう。
• 曲線C が単純曲線(a simple curve)あるいはJordan弧 (a Jordan arc)であるとは、
– (曲線が閉曲線でない場合)φ が単射であること、すなわち
(∀t1 ∈[α, β])(∀t2 ∈[α, β]) t1 6=t2 ⇒φ(t1)6=φ(t2) を満たすことをいう。
– (曲線が閉曲線である場合)φ が [α, β)で単射であること、すなわち (∀t1 ∈[α, β))(∀t2 ∈[α, β)) t1 6=t2 ⇒φ(t1)6=φ(t2) を満たすことをいう。
(直観的には「自分自身と交わらないこと」である。)
• 単純閉曲線 C が正の向きの曲線であるとは、進行方向の左手に C が囲む有界領域 が見えることをいう。
(曖昧な言い方であるが、簡単な場合のときのみ扱うので、混乱は生じないであろう。)
平面内の単純閉曲線をJordan 曲線と呼ぶ。任意のJordan曲線C は平面を2つの領域に分 け、そのうちの一方は有界、他方は非有界となり、どちらの領域の境界も C∗ である (Jordan
曲線定理(定理E.9, p. 288) — 証明が難しいことで有名)。有界な領域の方をその曲線が囲む
Jordan 領域と呼ぶ。
曲線の例を2,3あげる。
例 5.14 (円周) c∈C, r >0とする。C: z =φ(t) =c+reiθ (θ ∈[0,2π])とすると、C は C1 級正則曲線である。さらに単純閉曲線で、正の向きである。C の像は c を中心とする半径 r の円周 {z ∈C| |z−c|=r}である。
この曲線C を単に記号 |z−c|=rで表すことがある。例えば Z
|z−c|=r
f(z)dz は Z
C
f(z)dz という意味である。
問 64. このことを確かめよ。
例 5.15 (正方形の周) 曲線C: z =φ(t) (t ∈[0,4]) を
z =φ(t) :=
t (t∈[0,1])
1 +i(t−1) (t∈[1,2]) 1 +i−(t−2) (t∈[2,3]) i−i(t−3) (t∈[3,4])
で定めると、C の像は 0, 1, 1 +i, i を頂点とする正方形の周である。C は区分的に C1 級正 則曲線である。さらに単純閉曲線で、正の向きである。
O 1
1 +i i
図 5: 正方形の周を正の向きに一周する
C1 級の正則曲線では、曲線上の各点で0 でない接線ベクトルが存在し、その接線ベクトル が連続的に変化するので、図形として滑らかであり、決してとがることがない。
区分的にC1 級の曲線を考える理由は、このような多角形や折れ線を扱うためである。
定義 5.16 (C を逆向きにした −C) 曲線 C: z = φ(t) (t ∈ [α, β]) に対して、z = φ(−t) (t ∈[−β,−α]) で定まる曲線を、C を逆向きにした曲線と呼び、−C で表す。
定義 5.17 (曲線 C1, C2 をつないだ C1+C2) 曲線 C1: z = φ1(t) (t ∈ [α1, β1]), C2: z = φ2(t) (t∈[α2, β2])で、C1 の終点と C2 の始点が等しい (φ1(β1) =φ2(α2))であるとする。
このとき
φ(t) :=
(
φ1(t) (t∈[α1, β1])
φ2(t−β1+α2) (t∈[β1, β1+β2 −α2]) で定まる曲線を、C1 に C2 をつないだ曲線と呼び、C1+C2 で表す。
(教科書では、C2C1 と表している。もっともな理由のある書き方なのだが、標準的な記号
とは言えないので、この講義ではC1+C2 と書くことにする。)
(実は後になって、C1 の終点が C2 の始点でないような場合にも、C1+C2 を考えるように
なる。いわゆる「曲線鎖」というものであるが、その厳密な定義はこの講義では説明しない。
この辺はずぼらなところ…)
図 6: C1 の終点= C2 の始点ならば C1+C2 が作れる