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冪級数展開の収束半径

ドキュメント内 複素関数 - nalab.mind.meiji.ac.jp (ページ 130-136)

6 Cauchy の積分定理

7.3 冪級数展開の収束半径

定理 7.9 (冪級数展開の収束半径) Ωは C の開集合、f: ΩCは正則、c∈Ω,R >0 で D(c;R)Ω、円周|z−c|=R 上に f の特異点 z0 (ここでは lim

zz0

f(z)が存在しない、と 言う意味)が存在するならば、fcにおける冪級数展開の収束半径は R である。

もう一つ定理を紹介しておく。

定理 7.10 (冪級数展開の収束半径その2) Ωは C の開集合で、f: ΩC は正則、c∈Ω とする。

A = (

R∈(0,+)

D(c;R)で正則な関数 Fε∈(0, R] が存在して、

D(c;ε) で f =F

)

とおくとき、fcの周りの冪級数展開の収束半径ρはsupA に等しい。

例えばg(z) = Li2(z) (二重対数関数)は、通常 [1,+) を分岐截線として、C\[1,+)で 正則と定義される。0での冪級数展開は

g(z) = X n=1

zn

n2 (z ∈D(0; 1)).

この冪級数の収束半径は 1 であるから、ある R >1 が存在して、gD(0;R) で正則という ことはあり得ない(そのこと自身は二重対数関数を知らなくても分かる)。

一方、この冪級数はD(0; 1) で一様収束するので、gD(0; 1)に制限すると、(1も含めて) 連続であることも分かる。f(z) = 1

z2+ 1 の収束半径が 1 であることを、定理7.9 に基づいて 示したが、同じ論法でこの冪級数の収束半径が 1であることは示せない。

Li2 について、Mathematicaで可視化してみると

Plot3D[Re[PolyLog[2, x + y I]], {x, -2, 2}, {y, -2, 2}]

Plot3D[Im[PolyLog[2, x + y I]], {x, -2, 2}, {y, -2, 2}]

図 13: 実部 図 14: 虚部

7.11 (有理関数の冪級数展開の収束半径) f(z) = Q(z)

P(z) (P(z), Q(z) C[z], P(z) とQ(z) は互いに素)とするとき、P(z)のすべての根α1,α2,. . .,αnを除いたΩ :=C\{α1, α2, . . . , αn}f は定義されて正則である。

一方、各j ∈ {1,2,· · · , n} に対して、lim

zαj

|f(z)|= であるので、z =αj を含めて正則に 拡張することは出来ない(αj は後で定義する言葉を使うと、f の極である)。

ゆえに、∀c∈ Ω に対して、fc の回りの 冪級数展開の収束半径は min

1jnj −c| である (最寄りの赤点までの距離に等しい)。

7.12 (教科書 p. 81) 実関数

f(x) := 1 1 +x2

は R 全体で実解析的である。すなわち、∀x0 R に対して、fx0 で冪級数展開できる: (∃r >0)(∃{an}n0)(∀x∈(x0−r, x0+r)) f(x) =

X n=0

an(x−x0)n. しかし x= 0 での冪級数展開

f(x) = 1−x2 +x4−x6+· · ·= X n=0

(1)nx2n

1 < x < 1 でしか収束しない (理由は各自チェックせよ)。それは f(z) = 1

z2 + 1 = 1

(z+i)(z−i) のc= 0のまわりの冪級数展開の収束半径が、上の例からmin{|i−0|,|−i−0|}= 1 となるから、D(0; 1)では収束し、{z C| |z|>1} では発散することから分かる。

71. f(z) = 1

z2+ 1 を c= 2のまわりで冪級数展開したときの収束半径を (実際に冪級数展 開せずに) 求めよ。

7.13 (Bernoulli 数の母関数の収束半径) f(z) = z

ez 1 とおく。

(孤立特異点の分類を知っていれば、0 は f の除去可能特異点、2nπi (n Z\ {0}) は f の 1位の極であることがすぐ分かり、fD(0; 2π) で正則であるから、0 の周りの冪級数展開 を…と見通しよく議論できる。)

まず分母と分子は整関数(C全体で正則) である。

分母 ez1 = 0 (∃n∈Z)z = 2nπi であるから、fD0 :=C\ [

nZ

{2nπi} で正則な関数を定める。

任意のz C に対して

ez1 = X n=0

zn

n! 1 = X n=1

zn n!

であるから、z 6= 0 に対して

ez1

z =

X n=1

zn1 n! =

X n=0

zn (n+ 1)!. 右辺の冪級数の収束半径は であるので、

g(z) :=

X n=0

zn

(n+ 1)! (z C) とおくと、整関数 g が定まる。g(0) = 16= 0 に注意すると、

g(z) = 0 z 6= 0∧ez1 = 0 (∃n∈Z\ {0}) z = 2nπi.

そこで

D :=C\ {2nπi|n∈Z, n6= 0}=D0∪ {0}, fe(z) := 1

g(z) (z ∈D)

とおくと、fe: D→C は正則になり、f の拡張になる(0 でも定義できた)。 特に|z|<2π で正則であるから、∃{Bn} s.t.

(51) fe(z) =

X n=0

Bn

n!zn (|z|<2π).

なお、 lim

z→±2πi

ef(z)= であるから、z =±2πi での値を (z = 0 のときと同様に) 適当に定 義することによって、より大きい半径の円盤で正則になるようには出来ない。ゆえに (51)の 収束半径は2π である。

以上が、定理7.9 の適用例の話で、この後は余談である。

BnBernoulliベ ル ヌ ー イ 数と呼ばれ、多くの重要な応用がある (冪乗和 Xn

k=1

kr の公式73, tanと cot の冪級数展開、

X n=1

1

n2k の和, Euler-Maclaurin の公式, etc.)。 最初の数項を書いておく。

B0 = 1, B1 =1

2, B2 = 1

6, B3 = 0, B4 = 1

30, B5 = 0, B6 = 1

42, · · · Bn の一般項を表す簡単な式は知られていない(そのため、この冪級数の収束半径を、Cauchy-

Hadamard の定理を使って求めることは難しい)。Bernoulli 数の定義の仕方はいくつかある

が、上の議論はそのうちの一つである。

手短な定義 (まとめ)

f(z) := z

ez1 とおくとき、Bn:= f(n)(0) をBernoulli 数という(0 は f の除去可能特異 点である)。

Mathmematica で試す

f(z) を 0 のまわりに 10次の項まで Taylor 展開してみる。

Series[z/(Exp[z]-1),{z,0,10}]

これから Bn が分かる。

もっとも、そもそも Mathematica には、Bernoulli 数, Bernoulli 多項式を計算する関 数 BernoulliB[n],BernoulliB[n, x]が用意されているので、実際に値が必要な場合に

Taylor 展開する必要はない。

Table[BernoulliB[n],{n,0,10}]

f(z) +z

2 は偶関数なので、B1 を除き、奇数次の項の係数B2n1 (n≥2)は 0 であることが

分かる(正則な偶関数は z2 の冪級数に展開できることに注意)。

73

Xn k=1

k= n(n+ 1)

2 ,

Xn k=1

k2 = n(n+ 1)(2n+ 1)

6 ,

Xn k=1

k3 =

n(n+ 1) 2

2

などの公式を高校で学ぶが、それを 一般化した公式がBernoulli数を用いて得られる。

実はBernoulli 数の定義には色々な流儀がある。一応、上で定義したものがメジャーだと考 えているが74、それ以外で比較的多いのは、f(z)の代わりに f(z) +z を用いた場合に得られ るもので、そうすると、B1 だけが上の定義と異なり、B1 = 1

2 となる。オリジナルの Jacob Bernoulli (1655–1705) や関

たかかず

孝和 (1642–1708) はこちらを用いたそうである(Bernoulli も関も 冪乗和を考える過程で導いたのであるが、その場合は B1 = 1/2 の方が都合が良い)。

その他にも、偶数番目しか考えないとか(それでB2nBn と書いてみたり)、符号を変え たり、細かな流儀の違いがある。たとえば教科書 (神保[1]) は、偶数番目の項 B2n のみ

(52) z

ez 1+ z

2 = 1 + X n=1

(1)n1 B2n (2n)!z2n

によって定義している。(1)n1 という因数をつけたため、B2n>0が成り立つ。

72. 0の近傍で正則な偶関数は z2 の冪級数に展開されることを示せ。

余談 7.14 (Bernoulli数の応用) Bernoulli 数は色々な基本的な問題の解を表すために使われ る。いくつか紹介しよう。

cot, tan, coth などの冪級数展開: cotz =

X k=0

(1)k22kB2k (2k)! z2k1, zcothz=

X n=0

B2n

(2n)!22nz2n, tanz =

X n=1

(1)n−122n(22n1)B2n (2n)! z2n1. (教科書の流儀で Bernoulli 数を定義すると、tanz =

X n=1

22n(22n1)B2n

(2n)! z2n1 となる。) 冪乗和の公式(関・Bernoulli の公式): この公式では B1 = 1/2 とする。

Xn i=1

ik = Xk

j=0

k j

Bj nk+1j

k+ 1−j (n, k N).

ゼータ関数 ζ の正の偶数における関数値75: ζ(2k) =

X n=1

1

n2k = (1)k+122k1π2k

(2k)! B2k (k∈N).

Euler-Maclaurin の公式: f が [0, n]で Ck 級とするとき Xn

i=1

f(i) = Z n

0

f(x)dx+1

2(f(n)−f(0)) + Xk

j=2

Bj

j! f(j1)(n)−f(j1)(0) +(1)k1

k!

Z n 0

Bek(x)f(k)(x)dx.

74だから上でそのように紹介した。Mathematicaを使う場合にも便利であろう。

75桂田「応用複素関数講義ノート」[33]8節「無限和と無限積」に解説を書いた。

ただし Bek(x) は、Bernoulli 多項式 (おっと、紹介し忘れた) Bk(x) を周期1で拡張したもの である。和を積分で評価したり、定積分を台形公式で近似するときの誤差評価をしたり(周期 関数の1周期積分を台形公式で近似すると高精度である、と云う話がどこかであったけれど、

それはなぜだろう…)色々な使い道のある公式である。

Bernoulli数については、荒川・伊吹山・金子 [34]が詳しい。

命題 7.15 (cot, tan の 0 のまわりの Taylor 展開) (51) で Bernoulli数 {Bn} を定める とき、

cotz = 1 z +

X k=1

(1)k22k B2k

(2k)!z2k1 (0<|z|<2π), (53)

tanz = X k=1

(1)k122k(22k1)B2k

(2k)! z2k1 (|z|<2π).

(54)

証明

g(z) := z

2 +f(z) = z

2 + z ez1

とおくと、gは偶関数である。(実際、通分して、分母・分子をez/2 で割るとg(z) = z

2·ez/2+ez/2 ez/2−ez/2 が得られる。) ゆえにg の冪級数展開の奇数次の項の係数は0であり、特に

B1 =1

2, B2k+1 = 0 (k = 1,2,· · ·).

これから

g(z) = 1 + X k=1

B2k (2k)!z2k. zcotz =z·ieiz+eiz

eiz−eiz =ize2iz + 1 e2iz 1 =iz

1 + 2 e2iz1

=iz+ 2iz e2iz 1

=g(2iz) = 1 + X

k=1

B2k

(2k)!(2iz)2k = 1 + X k=1

(1)k22k B2k (2k)!z2k. tanz = cotz−2 cot 2z であるから、

tanz= 1 z +

X k=1

(1)k22k B2k

(2k)!z2k12 1 2z +

X k=1

(1)k22k B2k

(2k)!(2z)2k1

!

= X k=1

(1)k22k B2k

(2k)!(122k)z2k1 = X k=1

(1)k122k(22k1)B2k (2k)! z2k1.73. zcothzz = 0 のまわりの Taylor 展開を求めよ。

7.16 2つの関数

f(z) := 1

z−1, g(z) := 1 (z−1)(z−2)

はそれぞれC\ {1},C\ {1,2}で正則である。fg|z|<1で正則であるから、h:=f+g|z|<1 で正則であるが、実は h|z|<2 まで正則に拡張可能である。これは g(z) の部 分分数分解

g(z) = 1

z−1+ 1 z−2 を見れば (h(z) = 1

z−2 が分かるので) 明らかである。

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