6 Cauchy の積分定理
6.5 星型領域における Cauchy の積分定理
証明
(1) Ω が凸と仮定する。Ω6=∅ であるから a ∈Ωが存在する。任意の b ∈Ωに対して、Ωが 凸であることから、[a, b]⊂Ω. ゆえに Ω は星型である。
(2) Ω が星型と仮定する。ある a∈Ω が存在して、任意のb ∈Ωに対して [a, b]⊂Ωである。
Ω内の任意の曲線 C: z =φ(t) (t∈[α, β]) に対して、
F(t, s) :=sa+ (1−s)φ(t) (t∈[α, β],s ∈[0,1])
とおくと、F(t, s) ∈[a, φ(t)]⊂ Ω. ゆえに F: [α, β]×[0,1]→ Ωである。さらに F は連 続で、
F(t,0) =φ(t), F(t,1) =a (t∈[α, β]).
つまり曲線 C は連続的に定数曲線 a に変形できる。
問 66. 平面内の三角形の内部、開円盤は凸領域であることを証明せよ(解答は p. 226)。
(このことの証明は読者に任せる)が成り立ち、(曲線としての) [a, z0] + [z0, z0+h]−[a, z0+h]
は、三角形 ∆ の周を一周する閉曲線であるから(向きは正である場合もあるし、そうでない 場合もあるが、いずれにしても)補題 6.1 によって
Z
∂∆
f(z)dz = 0. いずれの場合も (41) が 成り立つことが分かる。
ゆえに
F(z0 +h)−F(z0) = Z
[z0,z0+h]
f(z)dz.
(ここから後は、命題 6.10の証明と同じである。一応書いておく。)これから F(z0+h)−F(z0)
h −f(z0) = 1 h
Z
[z0,z0+h]
f(z)dz− 1 h
Z
[z0,z0+h]
dz·f(z0)
= 1 h
Z
[z0,z0+h]
(f(z)−f(z0)) dz.
ゆえに
F(z0+h)−F(z0)
h −f(z0) ≤ 1
|h| max
z∈[z0,z0+h]|f(z)−f(z0)| Z
[z0,z0+h]
|dz|
= max
z∈[z0,z0+h]|f(z)−f(z0)|. f が z0 で連続であるから、h→0 のとき右辺は0 に収束する。ゆえに
hlim→0
F(z0+h)−F(z0)
h =f(z0).
すなわち F は z0 で微分できてF′(z0) =f(z0).
問 67. 上の証明の中に現れたa,z0,z0 +h を頂点とする三角形 ∆ (三角形がつぶれている場 合も考える)が Ω に含まれることを証明せよ。
問 68. (自分でそらで書けるようにしておくと良い。) f: Ω→C が連続ならば、z ∈Ω に対
して、h→0 のとき 1 h
Z
[z,z+h]
f(ζ)dζ →f(z)であることを示せ。
(大きさを 0に近付けるとき、平均が密度に収束する、という関数論に限らず良く出て来る 話である。)
系 6.19 (円盤領域に対する Cauchy の積分定理) D は C の円盤領域、f: D → C は正 則とするとき、D 内の任意の区分的 C1 級閉曲線 C に対して
Z
C
f(z)dz = 0 が成り立つ。
(f は D で連続で、D 内の1点を除き正則、と仮定を弱めても同じ結論が成り立つ。)
証明 円盤領域は星型領域であるから。
例 6.20 (1/z の原始関数) (もう Log は知っているわけだけど) 関数 f: C\ {0} →C, f(z) = 1
z は原始関数を持たない (復習: Z
|z|=1
dz
z = 2πi6= 0 だから)。領域 Ω :=C\ {z ∈C|z ≤0} は、点 1 について星型であるので、f を Ω に制限した関数f|Ω は原始関数
F(z) = Z
[1,z]
f(ζ)dζ = Z
[1,z]
dζ
ζ (z ∈Ω)
を持つ (これは実は対数関数の主値 Logz に等しい —導関数と、z = 1 での値がそれぞれ一 致するから)。また、C が Ω 内の任意の区分的 C1 級閉曲線ならば
Z
C
f(z)dz = 0.
次の例はとても重要である。慣れると結果は簡単に分かる69のだが、最初に証明するのは一 仕事である。
例 6.21 ( 1
z−a の円周に沿う積分) a, c∈C とするとき、
(42)
Z
|z−c|=r
dz z−a =
(
2πi (|c−a|< r) 0 (|c−a|> r).
が成り立つ。
まず、|a−c|> r の場合、R:= r+|a−c|
2 とおくと、r < R <|a−c| で、さらに
• 1
z−a は D(c;R)で正則
• |z−c|=r は円盤 D(c;R) 内の閉曲線
が成り立つ。円盤領域における Cauchy の積分定理により、
Z
|z−c|=r
dz
z−a = 0.
以下、|a−c|< r の場合を考える。現時点で使える道具は限られているので、証明はそれほ
ど易しくない。複数の方法を示す。授業では、(方法a), (方法b)を紹介する。
(方法a) 図10 のような曲線C11, C12, C21, C22, Γ1, Γ2 を導入する。C11+C12, C21+C22 は それぞれ |z−c|=r, |z−a|=δ であるから、
図 10: 切り込みを入れて二つの閉曲線の和として表す
(43)
Z
C11+C12
dz z−a =
Z
C21+C22
dz z−a
69例えば留数定理を使うようになれば、ほぼ自明である。また、関数 1
z−a が正則な範囲内で、曲線|z−c|=r を連続的に変形して曲線 |z−a|=δに出来るから、
Z
|z−c|=r
dz z−a =
Z
|z−a|=δ
dz
z−a. あるいはCauchyの積分 公式f(z) = 1
2πi Z
C
f(ζ)
ζ−zdζ をf ≡1に対して用いる。
を証明すれば良い。
C11−Γ2−C21−Γ1 は、 1
z−a が正則なある星型領域内の閉曲線であるから、
Z
C11−Γ2−C21−Γ1
dz
z−a = 0.
C12+ Γ1 −C22+ Γ2 は、 1
z−a が正則なある星型領域内の閉曲線であるから、
Z
C12+Γ1−C22+Γ2
dz
z−a = 0.
辺々加えるとΓ1, Γ2 上の積分がキャンセルされて Z
C11+C12−C21−C22
dz
z−a = 0.
これは(43) を示している。
(方法 b) (高橋[19] で知った。)|z−c|=r を満たす任意の z に対して、
1
z−a = 1
(z−c)−(a−c) = 1
z−c· 1 1− az−−cc =
X∞ n=0
(a−c)n (z−c)n+1. これは等比級数で 公比 =
a−c z−c
= |a−c|
r < 1 (z によらない!) であるから、
Weierstrass の M-test より |z−c| = r 上で一様収束する70。ゆえに項別積分が可 能で
Z
|z−c|=r
dz z−a =
X∞ n=0
Z
|z−c|=r
(a−c)n (z−c)n+1dz =
X∞ n=0
(a−c)n2πiδn0 = 2πi.
(無限個の項 (積分) の和になるが、n = 0 の項を除き 0 であり、n = 0 の項は (a−c)02πi= 2πi である。)
(方法c) 教科書(神保[1])は、Greenの公式から次の形のCauchyの積分定理を導いている71。
Dは C の領域で、その境界は有限個の互いに交わらない滑らかな単純閉曲線 からなり、∂D は進行方向の左手に領域を見るように向きがつけられている。f は D=D∪∂D を含む領域上で正則とするとき、
Z
∂D
f(z)dz = 0.
1
z−a は D :={z ∈C| |z−a|> δ, |z−c|< r} の閉包を含む領域で正則で、D の 境界は C1: |z−c| = r と C2: |z−a|= δ の像からなり、C1−C2 は、進行方向の 左手にD を見る向きになっているので
0 = Z
∂D
dz z−c =
Z
|z−c|=r
dz z−a −
Z
|z−a|=δ
dz z−a.
問 69. (43) を示せ。(上に一応書いてあるが、「ある星型領域」は何か、きちんと示すこと。)
70この段階で、講義ではWeierstrassのM-testや、「一様収束ならば項別積分可能である」ことを説明してい ないかもしれないが、次節の定理の証明に必要になるので、必ず説明する。
71細かいことを言うと、Greenの公式を用いるため、[1] では正則関数の定義に導関数の連続性を仮定してい るが、 1
z−a の導関数は連続であるから、問題は生じない。
6.5.1 余談: 定理6.18 により Z
C
f(z)dz = 0 を証明することを考える (しばらく工事中)
閉曲線 C に対して Z
C
f(z) dz = 0 を示したい場合、上で紹介した単連結領域に対する
Cauchyの積分定理(定理6.12)は便利であるが、講義で証明する時間は取れないので、星型領
域に対するCauchyの積分定理(定理6.18) で工夫することを考えてみよう。
領域Ω 上定義された正則関数 fと、Ω 内の閉曲線 C に対して、
Z
C
f(z)dz = 0 を証明し たいとき、C∗ ⊂Ω′ ⊂Ω を満たす星型領域 Ω′ が見つかれば、
Z
Ω
f(z)dz = 0 が結論できる。
簡単な場合には、Ω′ として三角形の内部や円盤領域などの凸領域(それは星型である)が見 つかることがある。これは割と考えやすい。
凸領域が見つからなくても、星型領域が存在する場合があるが、これを見つけるのは慣れな いと意外と難しい。
Ω′ が星型であるとは、ある a∈Ω′ が存在して
(∀z ∈Ω′) [a, z]⊂Ω′
が成り立つことであるが、先に a を選んでみて、a から “見えない” Ωの点をすべて除いたも のを Ω′ とする、もし C∗ ⊂Ω′ ならば
Z
C
f(z) dz = 0 が示せる、というのが1つのやり方で ある。
例えば、Ω =C\ {0}, a= 1 とするとき、a から見えない点 (負の実数) をΩ からすべて除 くと、Ω′ =C\(−∞,0] となる。これは(Log などの定義域として使われる) よく知られた星 型領域である。
同様に、平面から閉円盤を除いた領域Ω := C\D(c;R) は星型ではないが、任意の a ∈ Ω に対して、a から見えない部分を除くと、星型領域Ω′ ができる。実際、L から円|z−c|=R に接線(2本ある)を引いて、2つの接線ではさまれる、円の影になる部分を除けば良い。(図を 用意しよう。)
あるいは、Ω =C\ {1,−1}, a = 0 とするとき、aから見えない点を Ω からすべて除くと、
Ω′ =C\((−∞,−1]∪[1,+∞))となる。
関数論では、円弧と線分で出来た“バウムクーヘン扇”型の領域がしばしば登場する72。c∈C, 0 ≤ R1 < R2 ≤ +∞, ϕ1 ∈ R, ϕ2 < ϕ1 + 2π とするとき、B(c;R1, R2, ϕ1, ϕ2) を次式で定義 する。
(44) B(c;R1, R2, ϕ1, ϕ2) :=
c+reiθ R1 < r < R2 ∧ϕ1 < θ < ϕ2 . これがどのような場合に星型となるか、検討してみよう。
72「バウムクーヘン扇型の領域」は半分おふざけで言っています。
補題 6.22 (角領域から中心付近 |z−c| ≤Rを除いた領域の星型性) c∈C,R ≥0, ∆φ∈ (0, π/2) とするとき、
Ω =
c+reiθ r > R∧θ∈(φ−∆φ, φ+ ∆φ) は星型である。実際R= 0 のときは ρ= 1, R >0のときはρ= R
cos ∆φ としてL:=ρeiφ とおけば
(∀z ∈Ω) [L, z]⊂Ω.
すなわちΩ の任意の点はL から見える。
証明 (工事中) R >0 の場合を考える。L=ρeiφ から円 |z−c|=R に接線を引く。L と接 点を見込む角 Φは、ρcos Φ = R を満たす。接点が ∂Ω 上にあるとき Φ = ∆φ であり、この とき ρcos ∆φ=R.
補題6.22 から、次の定理が得られる。
定理 6.23 (バウムクーヘン扇型領域の星型性) c ∈ C, 0 ≤ R1 < R2 ≤ +∞, ∆φ ∈ (0, π/2) とする。cos ∆φ > RR1
2 ならば(つまり0<∆φ <cos−1 RR1
2 ならば)
B(c;R1, R2, φ−∆φ, φ+ ∆φ) =
c+reiθ R1 < r < R2∧θ ∈(φ−∆φ, φ+ ∆φ) は星型領域である。「丸い道(バウムクーヘン扇型領域)は長いと見通せないが、十分短け れば星型になる。」
証明 ρ := cos ∆φR1 , L:=ρeiφ とする。仮定より R1 < ρ < R2. ゆえに L∈Ω であり、L から reiθ R1 < r∧θ ∈(φ−∆φ, φ+ ∆φ) は見通せる。
系 6.24 (バウムクーヘン扇型領域の閉包の近傍で正則な関数についてのCauchy積分定理)
c∈C, 0 ≤R1 < R2 ≤+∞, ϕ1 ∈R, ϕ2 < ϕ1+ 2π に対してB :=B(c;R1, R2, ϕ1, ϕ2)とす る。B を含む開集合で正則な f に対して
Z
∂B
f(z)dz = 0 が成り立つ。
証明 同心円弧の中心を通る直線で切って、複数の短いバウムクーヘン扇領域Bi(i= 1,· · ·, n) に等分割するとき、次式が成り立つ。
Z
∂B
f(z)dz = Xn
i=1
Z
∂Bi
f(z)dz.
nが十分大きければ、Bi =B(c;R1, R2, ϕ1,i, ϕ2,i)を膨らませたB(c;R1−ε, R2+ε, ϕ1−ε, ϕ2+ε) (ε は小さな正数)が星型領域になるので、定理6.18より
Z
∂Bi
f(z)dz = 0. ゆえに Z
∂B
f(z)dz = 0.