• 検索結果がありません。

線積分の定義と例

ドキュメント内 複素関数 - nalab.mind.meiji.ac.jp (ページ 97-103)

5.1.1 おはなし

いよいよ線積分を学ぶ。この後の授業では、毎回線積分が現れる。例えば、

• この講義科目において最も重要な定理は、Cauchyの積分定理であると考えられるが、こ れは線積分に関する定理である。

• 既に述べたように、この講義では、「正則関数は冪級数展開可能である」という定理を示 すことが重要な目標の一つである。この定理のどこにも「積分」という語は出てこない が、その証明は普通「線積分」を使ってなされる60

• 複素対数関数の多価性も、線積分 logz= Z z

1

ζ を通して理解できる。

59講義では、「今日はいよいよこの講義の核心部分に触れるので、真剣に聴きましょう。」とか、そういう意味 のことを話す。

60「線積分」を使わない証明もあるらしいが、ずっと後になって発見されたもので、一般にはあまり知られて いないそうである(私は不勉強で読むのをさぼってます())Ahlfors [24]に書いてあった話?

(余談: 高木貞治の「函数論縁起」([6]に収録)にある61、1頁ちょっとのガウスからベッセル への手紙の引用を読んでみよう。この講義の WWWサイト(https://m-katsurada.sakura.

ne.jp/complex/) に載せてある。高木先生はお亡くなりになってから、50年以上経っている ので、著作権フリーです。)

(これは蛇足?)C はR2 に近いので、重積分というものもあるが、複素関数論でそれが必要 になることは稀で、必要なのは線積分の方である (線積分がある意味で微分の逆演算となる)。

これからしばらくの話は

1. まず線積分を定義、例を見せる 2. 反省モード

3. 線積分の基本的な性質を粛々と調べる

と進める。Cauchyの積分定理の準備をすることになる。

5.1.2 線積分の定義

それでは、線積分を定義しよう。2種類あるが、良く使うのは次のものである。

(次は図を描くこと。ちょろっと、始点、終点という言葉を書き込み、ちょろっと「始点と 終点が同じでも道はたくさんある」と言う。)

定義 5.1 (曲線に沿う線積分) ΩはCの開集合、f: ΩCは連続、C :z =φ(t) (t∈[α, β]) は Ω 内の区分的にC1 級の曲線とする。このとき、曲線 C に沿った f の線積分 (line integral)を次式で定める。

(39)

Z

C

f(z)dz :=

Z β α

f(φ(t))φ(t)dt.

C のことを

せ き ぶ ん ろ

積分路と呼ぶ。

次の形の線積分も必要になる。

定義 5.2 Ω は Cの開集合、f: ΩC は連続、C :z =φ(t) (t∈[α, β]) は Ω内の区分的 にC1 級の曲線とする。このとき、

(40)

Z

C

f(z) |dz|= Z

C

f ds:=

Z β α

f(φ(t))(t)| dt.

(特にf 1 のとき、つまり Z

C

dsC の弧長となる。)

曲線、区分的にC1 級などの言葉については、知っている人も多いと想像するが、すぐ後で 説明する。

F(t) := f(φ(t))φ(t) は複素数値関数である。微積分では実数値関数の積分しか出て来な かったかもしれない。U(t) := ReF(t),V(t) := ImF(t) とおいて、

Z β α

F(t)dt = Z β

α

(U(t) +iV(t))dt:=

Z β α

U(t)dt+i Z β

α

V(t)dt

61「縁起」というのは、物事の起源・由来、またはその言い伝え、という意味です。

で積分を定義すると考えれば良い。(これは実際には既に他の授業で普通に使ってあるはず。

例えば「信号処理とフーリエ変換」の Fourier 係数の計算など。) 問 63. F: [α, β]C は連続とするとき、

Z β α

F(t)dt

Z β α

|F(t)|dt を示せ。

注意 5.3 (細かい注意 授業では寝た子を起こさないかも) 任意の t に対してφ(t) が定義 されるわけではない(「区分的…」なので)。(39) は大丈夫なのだろうか?φ: [α, β]Ωが区 分的に C1 級の曲線とは、φ: [α, β]Ω は連続で、∃{tj}nj=0 s.t. α=t0 < t1 <· · ·< tn =β, φIj := [tj1, tj] に制限した φj := φ|IjIjC1 級、と定義される。ゆえに

Z tj

tj1

f(φj(t))φj(t)dt

は問題なく定義される (被積分関数は [tj1, tj] で連続なので、積分可能であり、値が確定す る62)。(39) は

Z

C

f(z)dz :=

Xn j=1

Z tj

tj1

f(φj(t))φj(t)dt.

と定義するのが厳密であると言えるかもしれない。しかし積分は関数が定義されていなかった り、不連続であるような例外点の存在を許して考えるのが普通 (慣習)なので、上のように書 いておいた。積分可能であることを確かめるには、ここに書いたような議論が必要になる。

参考 5.1 (積分の定義の反省) 実関数の積分は Riemann 和の極限として定義されるのが普通

である: Z b

a

f(x)dx= lim

||→0

Xn j=1

f(ξj)∆xj,

xj :=xj −xj1, ξj [xj1, xj], ||:= max

1≤j≤n(xj −xj1). 複素関数の曲線に沿う線積分も同様に定義可能である。

Z

C

f(z)dz = lim

||→0

Xn j=1

f(ζj)∆zj.

zj :=zj−zj1, ζj

zj1zj, ||:= max

1jn|zj−zj1|. (ここで

zj1zj は、2点 zj1, zj を端点とする弧を表す。実はこの辺は突っ込みどころなのだ けど、頬かむりする。)

zj, ζj をどう取るか。パラメーターの区間の分割

α=t0 < t1 <· · ·< tn=β と各小区間から任意の選んだ点

ξj [tj1, tj] (j = 1, . . . , n) を用いて

zj =φ(tj), ζj :=φ(ξj)

62一方、φt=tj で微分可能でないことがありうる(φj(tj)6=φj+1(tj)であるとき、φ tj で微分可能で はない)。その場合、f(φ(t))φ(t)t=tj で定義されていない。

とするのが自然であろう。すると

f(ζj) = f(φ(ξj)),

zj =φ(tj)−φ(tj1)(ξj)∆tj,

tj :=tj −tj1 であるから、

Xn j=1

f(ζj)∆zj ' Xn j=1

f(φ(ξj))φ(ξj)∆tj.

この右辺は、実変数の関数t 7→f(φ(t))φ(t)のRiemann和になっているので、||:= max

1jn(tj tj1) を 0に近付けた時の右辺の極限は

Z β

α

f(φ(t))φ(t)dt になることが証明できる。複素関 数の曲線に沿う線積分の妥当性が分かる。

もう一つの方の線積分は Z

C

f(z)|dz|= Z

C

f ds= lim

||→0

Xn j=1

f(ζj)|zj|. (f 1の場合は、Riemann 和は折れ線の長さになっていることに注意。)

5.1.3 線積分の実例

5.4 f(z) = z2 (z C), Cφ(θ) =e (θ [0, π])とするとき Z

C

f(z)dz = Z π

0

f(φ(θ))φ(θ)= Z π

0

e2

·ie =i Z π

0

e3

=i e3

3i π

0

= e3πi−e0

3 = 11 3 =2

3.

(実はこの積分は、原始関数を利用して計算することができる。後述する。) 例 5.5 f(z) = 1

z (z C\ {0}), Cφ(θ) =e (θ [0,2π])とするとき Z

C

f(z)dz = Z 2π

0

f(φ(θ))φ(θ) = Z 2π

0

1

e ·ie =i Z 2π

0

= 2πi.

曲線を“z =パラメーターの式”の形で与えることも多い。

5.6 f(z) = |z|(z C), Cz = (1 + 2i)t (t∈[0,1]) とする。

Z

C

f(z)dz = Z 1

0

f(z(t))dz dt dt =

Z 1 0

|(1 + 2i)t| ·(1 + 2i)dt

= (1 + 2i) 5

Z 1 0

|t| dt = (1 + 2i) 5

Z 1 0

t dt= (1 + 2i) 5

2 .

実関数の積分でよくやるように、dz = (1 + 2i)dt と書いて、それを代入するように覚えるの も良いだろう。

5.1.4 原始関数の存在する場合

定理 5.7 (微積分の基本定理 (のようなもの)) Ω が C の開集合、F: Ω C は正則、C は Ω内の区分的に C1 級の曲線で、始点が a,終点が b とするとき、

Z

C

F(z)dz = [F(z)]z=bz=a=F(b)−F(a).

証明 Cz =φ(t) (t∈[α, β]) とする。φC1 級の場合は、

Z

C

F(z)dz = Z β

α

F(φ(t))φ(t)dt = Z β

α

d

dtF(φ(t))dt= [F(φ(t))]t=βt=α

=F(φ(β))−F(φ(α)) =F(b)−F(a).

φ が連続かつ区分的に C1 級の場合は、C1 級であるような小区間に分割して、各区間で上と 同じことをして

Z

C

F(z)dz = Xn

j=1

Z tj

tj1

F(φ(t))φ(t)dt= Xn

j=1

(F (φ(tj))−F (φ(tj1)))

=F (φ(tn))−F (φ(t0)) =F(b)−F(a).

この定理を見て、次のように考えるかもしれない。

何だ、実関数のときと同じじゃないか?

確かに原始関数が分かっていればこれまでと同じだ。しかし、すぐ後の例5.10で見るように

複素関数では、原始関数が存在するとは限らない。

ゆえに原始関数が存在することは、仮定として与える必要がある。

この原始関数の存在問題については、時間をかけて説明することになる。

Cf. [a, b]を R の区間とするとき、f: [a, b]Rが連続ならば、f は必ず原始関数を持つ。す なわち ∃F s.t. F =f. 実際、

微積分の基本定理

f: [a, b]R が連続ならば d dx

Z x a

f(t)dt =f(x) (x∈[a, b]).

が成り立つから、F(x) :=

Z x a

f(t)dt とおけば、Ff の原始関数である。

なお、

Z b

a

f(x)dx= [F(x)]ba =F(b)−F(a)

すなわち Z b

a

F(x)dx =F(b)−F(a)

も微積分の基本定理と呼ばれる。これらは要するに、

( 実関数では、つねに ) 微分と積分は互いに逆演算である

ということを言っている。

複素関数で曲線に沿う線積分が重要である理由は、(「つねに」ではないけれど)微分の逆演 算となりうるからである。

注意 5.8 (ベクトル解析との比較) このあたりの事情は、ベクトル解析でも同じである。任意

のベクトル場 f に対して、f のポテンシャル(∇F =f を満たす F のこと) が存在するとは 限らない。もし存在すれば、

Z

C

f ·dr =F(b)−F(a).

5.9 (原始関数を利用した線積分の計算) 例5.4 を原始関数を用いて計算してみよう。すな

わち f(z) = z2, Cz = e (θ [0, π]) とする。F(z) := z33f の原始関数である (実際 F(z) = f(z) を満たす)。また C の始点、終点はそれぞれ 1, 1 (θ = 0 のとき z = 1, θ =π のとき z =1) であるから

Z

C

f(z)dz = [F(z)]z=z=11 = z3

3 z=1

z=1

= (1)313

3 = 2

3 .5.10 (原始関数が存在しない例) f(z) = 1

z (z Ω := C\ {0}) とする。この f の原始関 数は存在しない。実際、もしも原始関数 F が存在するならば、C: z =e (θ [0,2π]) は Ω 内のC1 級閉曲線 (始点も終点もz = 1) であるから

Z

C

f(z)dz = [F(z)]z=1z=1 =F(1)−F(1) = 0.

ところがすでに見たように Z

C

f(z)dz = 2πi であるから、矛盾が生じる。ゆえにf の原始関

数は存在しない。

この線積分については、定理5.7 を適用できないことになるが、以下のように “間接的に” 適用することができる。

:=C\[0,+) における対数関数の分枝logzを、z =re (r >0, θ∈(0,2π)) に対して logz := logr+

と定める。このときF(z) := logz (z ) はΩ で正則であり、F(z) = 1

z (z ). つまり Ff の Ω への制限 f| の原始関数である。0< ε < π を満たす任意の ε に対して、

Cε: z =e (θ [ε,2π−ε]) とおく。この Cε は Ω 内のC1 曲線で

Z

Cε

f(z)dz = [F(z)]z=ez=ei(2π ε) = logei(2π−ε)loge

= (2π−ε)i−iε= 2(π−ε)i.

この値の、ε→ +0 のときの極限 2πiが、

Z

C

f(z)dz = 2πi に一致するのはもっともらしい。

ここでは

この辺の事情は、前節の複素対数関数の話に通じる。やや判りづらいと思われるが、説明 する。

F(z) := logz は多価関数で、関数とは認められないが、ある意味でF(z) =f(z)を満たす。

関数 f の定義域を少し小さいものに置き換えると、原始関数は存在することがある。例 えば、複素平面から実軸の正の部分を除いた領域Ω :=C\ {z∈C|z 0} では

F(z) = logz = logr+ (z =re, 偏角θを (0,2π)の間に取る)

f の原始関数になる。そこで0< ε <1 に対して、Cε: z =φ(θ) =e (θ [ε,2π−ε]) とすると、Cε の像は Ω に含まれるので

Z

Cε

f(z)dz =F(φ(2π−ε))−F(φ(ε)) = (log 1 +i(2π−ε))(log 1 +) = (2π−2ε)i.

ここで ε→+0 とすると 2πiに収束する。これが Z

C

f(z)dz に等しいのはうなずけるだ

ろうか(そうしてもらえることを期待している)。

5.11 (zn の積分) n Z,f(z) = zn とする。n=1の場合が上の例であるが、n 6=1で あれば、F(z) := zn+1

n+ 1 とおくと、F(z) =f(z) であるから、

Z

C

f(z)dz =F(b)−F(a) = bn+1−an+1 n+ 1 . 関数が原始関数を持つかどうか、簡単に分かることを述べておく。

• 多項式関数は (n 0しか出て来ないので)必ず原始関数を持つ。

• 冪級数は収束円の内部では必ず原始関数を持つ。

• 有理関数で(実関数ならば) logが出て来るケース ( 1

z−a とか、 z

z2+ 1 —もっともこち らは 1

2 1

z+i + 1 z−i

に等しいので、 1

z−a に帰着されると言って良いかもしれない) や、 などは注意を要する。

• 実は「原始関数を持つならば正則である」ことが後で分かる。従って正則関数でない x= Rez, y= Imz, |z|, Argz などは原始関数を持たない。

余談 5.12 (授業楽屋裏) 線積分の練習問題を出す立場の楽屋裏を説明すると、原始関数が分

かる場合は、定理5.7 によって、線積分は簡単に計算できてしまい、線積分の定義に基づいて 計算することの練習にならないので、原始関数が存在しない問題を出すことが多い。その中に (x, |z|のような)正則関数でない関数を含めることがあるが、関数論で実際にそういう関数の 積分が出て来ることはあまり多くないので、「問題のための問題」になりがちである (少し複 雑な気持ちになる)。

ドキュメント内 複素関数 - nalab.mind.meiji.ac.jp (ページ 97-103)