10 Laurent 展開 , 孤立特異点 , 留数
10.3 Laurent 展開、孤立特異点、留数の例
注意 10.8 (Laurent展開はTaylor展開の一般化である) f が c の近傍 D(c;R) で正則であ るとき、ある {an}n≥0 が存在して、
f(z) = X∞ n=0
an(z−c)n (z ∈D(c;R))
と Taylor 展開(冪級数展開) 出来る。このとき、a−n= 0 (n∈N) とおくと、
f(z) = X∞ n=0
an(z−c)n+ X∞ n=1
a−n
(z−c)n (z ∈A(c; 0, R))
が成り立つ (A(c; 0, R) ⊂ D(c;R) に注意する)。つまり、Taylor 展開は Laurent 展開でもあ る。この場合は、Laurent 展開の主部は 0で、f の c における留数も 0である。
(逆の言い方をすると) Laurent展開は Taylor 展開の一般化であるとも言える。
例 10.9 (Taylor展開がLaurent展開となる, 正則点) ez =
X∞ n=0
zn
n! (z ∈C) であるから、f(z) = ez の 0 のまわりの Laurent 級数展開は
ez = X∞ n=0
zn
n! (z ∈A(0; 0,+∞)) である。
例 10.10 (除去可能特異点)
f(z) = (
z2+ 1 (z 6= 0)
2 (z = 0)
とするとき、0 は f の孤立特異点であり(実際 f は 0<|z−0| <+∞ で正則であり、z = 0 では微分可能でない)、除去可能特異点である。
0での値2を 1 に変更した関数 fe(z) =
(
z2+ 1 (z 6= 0)
1 (z = 0)
は 0 を正則点とする (すべての z ∈C に対して f(z) =e z2+ 1 であることに注意せよ)。 このように、除去可能特異点での値を変更して、その点が正則点であるように出来る。この ことを断りなく行う場合が多い。
例 10.11 (有理関数の極)
(∗) f(z) = 3
(z−1)2 (z ∈C\ {1})
で定義される f は正則関数であるが、C\ {1} は円環領域 A(1; 0,+∞)である。(∗) 自身がf の 1 のまわりの Laurent 展開である。実際、
a−2 := 3, an := 0 (n ∈Z\ {−2}) とすると
3 (z−1)2 =
X∞ n=0
an(z−1)n+ X∞ n=1
a−n
(z−1)n (z ∈A(1; 0,+∞)).
また Laurent 展開の主部は 3
(z−1)2. Res(f; 1) = 0. 1 は f の2位の極である。
例 10.12 有理関数 f(z) = z3 −7z2+ 26z−30
z3−5z2+ 3z+ 9 は、次のように部分分数分解できる。
f(z) = z3−7z2+ 26z−30
z3−5z2+ 3z+ 9 = 1 + 2
z−3 + 3
(z−3)2 − 4 z+ 1.
f は C\ {3,−1} で正則である(分母・分子は多項式なので C 全体で正則で、z 6= 3,−1 のと き分母は 0 でない)。
3は f の孤立特異点である。3の周りの Laurent 展開は f(z) = −3 +
X∞ n=1
(−1)n−1
4n (z−3)n+ 2
z−3 + 3
(z−3)2 (0<|z−3|<4).
ゆえに 3 は f の2位の極である。そして Res(f; 2) = 2.
−1 も f の孤立特異点である。−1の周りの Laurent 展開は求めなくても、1位の極である と分かる。実際、
f(z) =f1(z) +f2(z), f1(z) := 1 + 2
z−3 + 3
(z−3)2, f2(z) := − 4 z+ 1
と分解すると、f1 は D(−1; 4) で正則であるから、−1 の周りに冪級数展開できる: (∃{an}) f1(z) =
X∞ n=0
an(z+ 1)n (z ∈D(−1; 4)). ゆえに
f(z) = X∞ n=0
an(z+ 1)n+ −4
z+ 1 (z ∈A(−1; 0,4)) が成り立つが、これは f の−1 の周りのLaurent展開である。主部は −4
z+ 1 であるから、−1 は f の極で、その位数は 1. Res(f;−1) = −4. ({an} を具体的に求める必要がないことに注 意。)
例 10.13 (有理関数) 有理関数の Laurent 展開、孤立特異点を調べよう。
P(z), Q(z) ∈ C[z], P(z) と Q(z) は互いに素、P(z) 6= 0 とする。P(z) の相異なる根を α1, . . . , αr ,それぞれの重複度を m1, . . . , mr,P(z) の最高次係数をa0 とすると、
P(z) = a0 Yr k=1
(z−αk)mk. このとき、
Q(z)
P(z) =多項式+ Xr k=1
mk
X
m=1
Ak,m
(z−αk)m, Ak,m∈C という形に部分分数分解出来る。
これから、Q
P は Ω :=C\ {α1,· · · , αr} で正則であり、αk は高々 mk 位の極であることが 分かる。その他の点は Q
P の正則点である。以上は、P(z)と Q(z)が互いに素と仮定したから で、もしも P(z)と Q(z) が次数1以上の共通因数を持つならば、(正則点でない) 除去可能特 異点が現れる(例: f(z) = z3−1
z−1 は 1 が正則点でない除去可能特異点である)。
以上から、有理関数のcのまわりのLaurent展開を求めるには、f(z) = 1
(z−a)m の点cの
まわりの Laurent 展開が求まれば良い。
(1) m= 1 の場合は以前示したように (i) c=a のとき、f(z) = 1
z−a = 1
z−c (0<|z−c|<+∞). これ自身が cのまわりの Laurent 展開である。
(ii) c6=a のとき。f(z) = 1
z−a は D(c;|a−c|)で正則であるから、cは正則点であり、
除去可能得点である。
f(z) = 1
z−a =· · ·(中略)· · ·=− X∞ n=0
(z−c)n
(a−c)n+1 (0<|z−c|<|a−c|) が cのまわりの Laurent 展開である。
(2) m >1 の場合は、m = 1 の場合の Laurent 展開を微分すれば求まる。
例えば、f(z) = 1
(z−1)2 とする。
(i) c= 1のとき、c は f の2位の極であり、f(z) = 1
(z−1)2 (0<|z−1|<+∞) 自身 が f のc のまわりの Laurent 展開である。
(ii) c= 2 のとき、f は D(2; 1) で正則であるから、c は f の正則点であり、除去可能特 異点である。
1
z−1 =· · ·= X∞ n=0
(−1)n(z−2)n (|z−2|<1).
ゆえに
f(z) = 1
(z−1)2 =− 1
z−1 ′
=−X∞
n=1
n(−1)n(z−2)n−1
= X∞ n=0
(n+ 1)(−1)n(z−2)n (|z−2|<1).
これがf の cのまわりの Laurent 展開である(|z−2|<1で成り立つならば、当然 0<|z−2|<1で成り立つ。)。
これで、任意の有理関数をLaurent 展開する方法が分かった。
脱線になるが、f(z) = 1
(z−1)2 の、A(2; 1,+∞)における Laurent 展開も求めてみよう。
1
z−1 = 1
(z−2) + 1 = 1
z−2 · 1 1 + 1
z−2
= 1
z−2 X∞ n=0
−1 z−2
n
= X∞ n=1
(−1)n−1
(z−2)n (1<|z−2|<+∞) であるから
f(z) =− X∞ n=1
(−n)(−1)n−1 (z−2)n+1 =
X∞ n=2
(n−1)(−1)n
(z−2)n (1<|z−2|<+∞).
有理関数以外の関数の例をあげよう。
例 10.14 f(z) = sinz
z2 は C\ {0} = A(0; 0,+∞) で正則である。sin の 0 のまわりの冪級数 展開
sinz = X∞ k=0
(−1)k
(2k+ 1)!z2k+1 (z ∈C)
から
(⋆) f(z) = sinz z2 =
X∞ k=0
(−1)k
(2k+ 1)!z2k−1 = X∞ k=1
(−1)k
(2k+ 1)!z2k−1+1
z (z ∈A(0; 0,+∞)).
(P でなく · · · で書き換えると良いかも。) これが f の 0 のまわりの Laurent 展開である。
実際
c= 0, an=
(−1)k
(2k+ 1)! (n ≥0,n は奇数のとき。k = n+12 とおくと k は整数で n = 2k−1)
1 (n =−1)
0 (それ以外)
とおくと、(⋆) の右辺は X∞ n=0
an(z−c)n+ X∞ n=1
a−n
(z−c)n の形をしている。
また、この Laurent 展開の主部は 1
z であり、0は f の1位の極、Res(f; 0) = 1.
例 10.15 f(z) = sinz
z は C\ {0}=A(0; 0,+∞) で正則である。0 の周りの Laurent 展開は f(z) =
X∞ k=0
(−1)k
(2k+ 1)!z2k (z ∈A(0; 0,+∞)).
上とほとんど同じなので、議論を少しスキップして、主部は 0であるから、0 は f の除去可 能特異点である。
例 10.16 (孤立真性特異点) f(z) = exp1
z は C\ {0}=A(0; 0,+∞) で正則である。
expζ = X∞ n=0
1
n!ζn (ζ ∈C) であるから
f(z) = exp1 z =
X∞ n=0
1 n!
1
zn = 1 + X∞ n=1
1 n!
1
zn (0<|z|<+∞).
これは f の 0 のまわりの Laurent 展開である(実際、an = 0 (n ∈ N), a0 = 1, a−n = 1 n!
(n ∈N) とすると…)。
このLaurent 展開の主部は X∞ n=1
1 n!
1
zn であり、(0でない項が無限個あるので) 0 はf の真性 特異点である。また Res(f; 1) = 1!1 = 1.
Laurent展開を求めるのは結構大変というか手間がかかる。なるべく求めずに色々なことを
分かりたい(特異点の種類や留数が分かれば十分がことが多い)。
例 10.17 (孤立特異点でない「特異点」)
f(z) = 1 sinz1 .
f は z = 0 で定義されないことは明らかであるが、それ以外に sin1z = 0 となるz に対しても 定義されない。この f は、{0} ∪ 1
nπ n ∈Z に属する点では定義されない。0は孤立特異点 ではない。これも真性特異点と呼ばれる。
例 10.18 a∈C として、f(z) = 1
z−a (z ∈C\ {a}) とする。
(i) c=a とすると、f は A(c; 0,+∞) で正則で、f の cのまわりの Laurent 展開は f(z) = 1
z−a (z ∈A(c; 0,+∞)).
(ii) c6=a とする。f は D(c;|a−c|)で正則であるので、c のまわりで Taylor 展開でき、そ れが f の c のまわりの Laurent 展開である。この計算は以前もやってあるので結果だ け書くと、
f(z) =− X∞ n=0
(z−c)n
(a−c)n+1 (z ∈A(c; 0,|a−c|)).
(実際、
f(z) = 1
z−a = 1
(z−c)−(a−c) =− 1
a−c· 1 1− z−c
a−c
=− 1 a−c
X∞ n=0
z−c a−c
n
であるから。)
一方、f はA(c;|a−c|,+∞)でも正則である。z ∈A(c;|a−c|,+∞)のとき、|z−c|>|a−c| であるから、|a−c|
|z−c| <1 が成り立つので、等比級数の和の公式を用いて
f(z) = 1
(z−c)−(a−c) = 1
z−c· 1 1− a−c
z−c
= 1
z−c X∞ n=0
a−c z−c
n
= X∞ n=0
(a−c)n (z−c)n+1. すなわち
f(z) = X∞ n=1
(a−c)n−1
(z−c)n (z ∈A(c;|a−c|,+∞)).
これがf の A(c;|a−c|,+∞) における Laurent 展開である。
10.3.1 Laurent展開と関数の偶奇性
(これも時間の埋め草?常識的なことだけれど、案外書いてある本を目にしないように思う。
係数の一意性を強調するための話のタネに適当な話題と考える。) 以下に述べることは手短に
「奇関数のLaurent展開は奇数次の項だけからなる。偶関数のLaurent展開は偶数 次の項だけからなり特に留数は0である。」
とまとめて、大きな誤解は生じないであろう。これと同様のことは、冪級数展開 (Taylor 展 開)についても成立する。
原点について対称な集合 Ωを定義域を持つ関数 f: Ω→Cがあるとする。f が奇関数であ るとは、
f(−z) = −f(z) (z ∈Ω) が成り立つことをいう。またf が偶関数であるとは、
f(−z) = f(z) (z ∈Ω)
が成り立つことをいう。
Ωが C の円環領域 A(0;R1, R2)であり、f が正則である場合、ある{an} が存在して f(z) =
X∞ n=−∞
anzn (z ∈A(0;R1, R2)).
f が奇関数であれば X∞ n=−∞
anzn =f(z) =−f(−z) = X∞ n=−∞
an(−z)n
= X∞ n=−∞
(−1)n+1anzn (z ∈A(0;R1, R2)).
Laurent展開の係数の一意性から
(∀n∈Z) an= (−1)n+1an.
これから n が偶数ならばan =−an であるから an = 0, すなわち f のLaurent 展開は奇数次 の項だけからなる。
反対にf が偶関数であれば X∞
n=−∞
anzn =f(z) =f(−z) = X∞ n=−∞
an(−z)n = X∞ n=−∞
(−1)nanzn (z ∈A(0;R1, R2)).
Laurent展開の係数の一意性から
(∀n ∈Z) an = (−1)nan.
これから n が奇数ならば an =−an であるから an= 0. すなわちf のLaurent 展開は偶数次 の項だけからなる。特に f の 0 における留数は 0である:
Res(f; 0) =a−1 = 0.
以上の結果を一般化しよう。c∈C, 0≤ R1 < R2 ≤ +∞ として、f は Ω =A(c;R1, R2)で 正則な関数とする。このとき、
• f が cに関して奇関数def.⇔ (∀z ∈C: R1 <|z|< R2)f(c+z) =−f(c−z).
• f が cに関して偶関数def.⇔ (∀z ∈C: R1 <|z|< R2)f(c+z) =f(c−z).
と定める。
ある{an} ∈CZ が存在して f(z) =
X∞ n=−∞
an(z−c)n (z ∈A(c;R1, R2)) が成り立つ。
f が cについて奇関数であれば X∞
n=−∞
anzn= X∞ n=−∞
an(c+z−c)n=f(c+z) =−f(c−z) = X∞ n=−∞
an((c−z)−c)n
= X∞ n=−∞
(−1)n+1anzn (z ∈A(0;R1, R2)).
Laurent展開の係数の一意性から
(∀n∈Z) an= (−1)n+1an.
これから n が偶数ならば an =−an であるから an= 0. すなわちf のLaurent 展開は奇数次 の項だけからなる。
同様に、f が c について偶関数であれば
(∀n ∈Z) an = (−1)nan.
これから n が奇数ならば an =−an であるから an= 0. すなわちf のLaurent 展開は偶数次 の項だけからなる。特に f の c における留数は 0である:
Res(f;c) =a−1 = 0.