6 Cauchy の積分定理
7.4 Cauchy の積分公式 ( 定理 7.1) を積分路の変形で証明する
が成り立つ。一方、Lと −L に沿う積分は打ち消し合うので、
Z
C
f(z) z−adz =
Z
Cc,R
f(z) z−adz−
Z
Ca,ε
f(z) z−adz =
Z
|z−c|=R
f(z) z−adz −
Z
|z−a|=ε
f(z) z−adz.
ゆえに Z
|z−c|=R
f(z) z−adz =
Z
|z−a|=ε
f(z) z−adz.
少し批判的モードになってみると、この曲線Cは単純閉曲線ではないので、なぜ Z
C
f(z) z−adz = 0 であるのか、すっきりしないきらいがある。この点を改良した証明を次に紹介する。
c
a
Cc,R
−Ca,ε
−L L
図 15: 証明1: 1本の橋 Lε を渡して a の周りを回って戻る
7.4.2 開いてから閉じる
(工事中…)
上のC は単純閉曲線でなかったが、正の角度 δ 開いた曲線 Cδ を作る: Cδ :=Cc,R,δ+Lδ−Ca,ε,δ−Lδ.
(個々の曲線 Cc,R,δ, Lδ, Ca,ε,δ の定義は書かないが、図16 を見れば何となく想像出来るであ ろう。)
この曲線Cδ は単純閉曲線であり、
Z
Cδ
f(z)
z−a dz = 0
となることは説明しやすい。それから δ →0とすることにより Z
C
f(z)
z−adz = 0 が示せるであろう。この後は、前項の証明をたどれば良い。
このように曲線の極限移行をする証明を学生に見せる価値はある、という気もするが、きち んとやるのは77、複素関数を受講している平均的な学生(学部の2年生が多い)にとっては難し そうだ。教師の自己満足になりそうで気が引ける。
c
a
Cc,R,δ
−Ca,ε,δ
図 16: 証明2: 角度 δ 開くことで単純閉曲線にしてから δ→0 とする(閉じる)
7.4.3 うまいやり方
C1, C2 を図17のように定めると、どちらも区分的C1級の単純閉曲線であり、
Z
C1
f(z)
z−adz = 0, Z
C2
f(z)
z−adz = 0
77適当なコンパクト集合Kをとって、被積分関数がK で一様連続であることから、積分の収束を示すのだろ うか?
が成り立つことは説明しやすい。
例えば次のような説明で納得してもらえるのではないだろうか。
• (直観に訴える説明) Cj 上にも、Cj の囲む領域の内部にも、f(z)
z−a が微分可能でない点 はない (j = 1,2)。
• (すでに学んだ定理を使う説明 — 細部を詰めて証明に出来そう) f(z)
z−a が正則な領域 Ω\ {a}において、適当に星型の部分領域を取り、その中で Cj を変形して定数曲線に出 来る。
そうすると Z
|z−c|=R
f(z) z−adz−
Z
|z−a|=ε
f(z) z−adz =
Z
C1+C2
f(z)
z−adz = 0 + 0 = 0.
ゆえに Z
|z−c|=R
f(z) z−adz =
Z
|z−a|=ε
f(z) z−adz.
c
a
C1 C2
図 17: 証明3: 2本の橋を渡して、2つの閉曲線を作る
7.4.4 Greenの定理を使う
Greenの定理(次の節で説明する)を使う、以下のような証明も考えられる。
0< ε < R− |c−a| を満たす任意のε に対して、
D:=D(c;R)\D(a;ε)
とおく。D の境界∂D は、二つの円周 |z−c| =R, |z−a|=ε からなる。∂D を正の向きに するには、|z−a|=ε の方は通常と逆向き (時計回り) に取る。
Greenの定理 (あまり難しいバージョンは必要はない。Dを分割して、個々の領域が縦線領
域であるように出来る。) によって 0 =
Z
∂D
f(z) z−adz.
一方 Z
∂D
f(z) z−adz =
Z
|z−c|=R
f(z) z−adz−
Z
|z−a|=ε
f(z) z−adz
であるから Z
|z−c|=R
f(z) z−adz =
Z
|z−a|=ε
f(z) z−adz.
このやり方は見通しが良いが、Cauchy の積分公式を証明する前に f′ の連続性が示せてい ないので、最初から f′ が連続という仮定をする必要がありそうである。
関数論のテキストの中には、関数の正則性の仮定に、微分可能性だけでなく、導関数の連続 性を要求して、この証明法を採用するものがある。
7.4.5 本文のやり方の長所の説明
積分路の変形は、完全に具体的な曲線についてやる場合は、それほど難しくはないが、ある 程度の任意性がある場合に、すっきりかつきちんとした説明をするのは、意外に難しいもので ある。
この講義では、Cauchy の積分公式を円盤領域に限定することによって、積分路の変形を使 わない議論で証明した(定理7.1)。この論法は、有名なAhlfors [24] (や、高橋 [19],杉浦 [28]) を大筋で踏襲したものである。f′ の連続性を仮定せず、また幾何学的直観に頼らないで、明 快な証明が出来ている。また、そうして証明した円盤領域における積分公式だけを使って、多 くの重要な結果が導けることも強調しておきたい。
途中で、星型や単連結などの用語が出て来て、消化するのに手間がかかった。それを面倒に 感じて省略できないかと考えるかもしれないが、Cauchyの積分定理・積分公式では、幾何学的 な条件を考えることは本質的であり、どこかで何らかの形でその種のことに直面するのを避け ることは出来ない。要するに、上の作業は枝葉ではなく本質的なことである、と考えられる。
個人的には、星型領域におけるコーシーの積分定理は、定理の仮定の確認がしやすく確信を 持ちやすいという意味でとても使いやすく (切れ味の鋭いナイフのようだ、と) 感じている。
その証明が明快に出来たのは素晴らしいことだと思う。
それを用いて、正則関数の解析性が示せた後は、Greenの定理を用いた Cauchy の積分定 理・積分公式も気兼ねなく使うことが出来る。
独白: 関数論のテキストの多くは、このあたりを直観的な説明で乗り切るものが多い。しかし、
いざ証明しようとすると、霧がかかったようになったりするのは困りものである。関数論の
講義を担当するようになってから、直観的にもわかりやすく、疑問の余地なく証明することも 出来るような説明をしたいと思って、色々なやり方を試して来た。ようやく、ある程度自信を 持って講義が出来るようになった。結局は定評ある本に書かれていることであり、自分が工夫 したというよりも、このやり方は1つの真っ当なやり方であると (やっと) 納得できた、とい うだけのことかもしれない。