10 Laurent 展開 , 孤立特異点 , 留数
10.4 孤立特異点の lim による特徴付け
Laurent展開の係数の一意性から
(∀n∈Z) an= (−1)n+1an.
これから n が偶数ならば an =−an であるから an= 0. すなわちf のLaurent 展開は奇数次 の項だけからなる。
同様に、f が c について偶関数であれば
(∀n ∈Z) an = (−1)nan.
これから n が奇数ならば an =−an であるから an= 0. すなわちf のLaurent 展開は偶数次 の項だけからなる。特に f の c における留数は 0である:
Res(f;c) =a−1 = 0.
注意 10.1 cが f の除去可能特異点であるとき、特に断りなく、f を D(c;R)上の正則な関数 feに置き換えて議論することが多い。このfeは、
fe(z) :=
f(z) (0<|z−c|< R) limz̸=c
z→c
f(z) (z =c) と特徴づけることも出来る。
命題 10.20 (極の性質) Ω は C の開集合、f: Ω→C, c ∈C であり、c が f の極であれ ば、lim
z̸=c z→c
f(z) =∞.
証明 c が f の孤立特異点であるから、∃R >0, ∃{an} s.t.
f(z) = X∞ n=0
an(z−c)n+ X∞ n=1
a−n
(z−c)n (0<|z−c|< R).
極の位数を k とすると、a−k 6= 0 かつ(∀n ∈N: n > k) a−n= 0 であるから、
f(z) = X∞ n=0
an(z−c)n+ Xk n=1
a−n
(z−c)n (0<|z−c|< R).
前命題と同様に
limz̸=c z→c
X∞ n=0
an(z−c)n =a0. ζ = 1
z−c とおくと、z 6=c, z →cのとき ζ → ∞ で、
Xk n=1
a−n (z−c)n =
Xk n=1
a−nζn. 補題 9.19 により、
ζlim→∞
Xk n=1
a−nζn =∞. ゆえに
limz̸=c z→c
f(z) =a0+∞=∞.
補題 10.21 (Riemann の除去可能特異点定理) cは f の孤立特異点とする。ある正数 ε が存在して、{z ∈C|0<|z−c|< ε} で f が有界であれば、cは f の除去可能特異点で ある。特に lim
z̸=c z→c
f(z) が有限確定であれば、c は f の除去可能特異点である。
証明 (Liouville の定理 (定理9.18) の証明と見比べてみると面白い。) f が有界という仮定 から、∃M ∈R s.t. |f(z)| ≤M (0<|z−c|< ε).
f が A(c; 0, ε) で正則であることから、∃{an}n∈Z s.t.
f(z) = X∞ n=0
an(z−c)n+ X∞ n=1
a−n
(z−c)n (0<|z−c|< ε).
任意の n∈Z, 0 < r < εを満たす任意の r に対して an = 1
2πi Z
|ζ−c|=r
f(ζ) (ζ−c)n+1dζ.
ゆえに
|an| ≤ 1 2π
Z
|ζ−c|=r
f(ζ) (ζ−c)n+1
|dζ| ≤ M 2πrn+1
Z
|ζ−c|=r|dζ|= M
2πrn+1 ·2πr = M rn. 特に、任意の n∈N に対して、
|a−n| ≤ M
r−n =M rn (0< r < ε).
r ↓0 とすることでa−n= 0 (n∈N). ゆえに f のcにおけるローラン展開の主部は 0 である ので、cは f の除去可能特異点である。
別証 (不等式は嫌いだという人向け85) f が A(c; 0, R)で正則であるとする。
g(z) :=
(
(z−c)2f(z) (0<|z−c|< R)
0 (z=c)
とおく。g は明らかに 0<|z−c|< R で正則であるが、
g′(c) = lim
z→c
g(z)−g(c) z−c = lim
z→c
(z−c)2f(z)−0 z−c = lim
z→c(z−c)f(z) = 0
であるから (ここでf が有界であることを用いた)、g は cでも微分可能で、結局 |z−c|< R で正則である。ゆえにその範囲で収束する冪級数に展開できる:
∃{an}n≥0 s.t. g(z) = X∞ n=0
an(z−c)n (|z−c|< R).
g(c) = 0, g′(c) = 0 であるから、a0 =a1 = 0. ゆえに g(z) =
X∞ n=2
an(z−c)n = (z−c)2 X∞ n=2
an(z−c)n−2 = (z−c)2 X∞ n=0
an+2(z−c)n (|z−c|< R).
これから
f(z) = X∞ n=0
an+2(z−c)n (0<|z−c|< R).
ゆえに cは f の除去可能特異点である。
命題 10.22 (Casorati-Weierstrass, 真性特異点の性質) Ω は C の開集合、f: Ω → C, c∈C であり、cは f の孤立真性特異点とするとき、
(∀β ∈C)(∃{zn}n∈N)
(∀n∈N) zn6=c∧ lim
n→∞zn=c∧ lim
n→∞f(zn) = β
. (結局 β =∞ でも良いことになる。)
この定理の証明は省略してある本が多いが、以下に見るようにそれほど長い証明は必要ない。
85どうもそういう人がいるみたい。個人的には、Riemann の定理の不等式を用いた証明は、Liouvilleの定理
のCauchy評価を用いた証明と同じで、面白いと感じるのだけれど、そうでない人もいるらしい。この別証にも、
違った面白さは感じられるけれど…
証明 f は 0<|z−c|< R で正則とする。∀β ∈C に対して次が成り立つ86。
主張
(∀ε >0) (∀r∈(0, R)) (∃z ∈A(c; 0, r))|f(z)−β|< ε.
もしこれが証明できれば、n = 1,2,· · · に対して、ε=r= 1
n として用いて、∃{zn}n∈N s.t.
(∀n ∈N) 0<|zn−c|< 1
n ∧ |f(zn)−β|< 1 n. これから
nlim→∞zn=c, lim
n→∞f(zn) = β.
以下、上の主張を背理法87を用いて証明する。そのため成り立たないと仮定すると、
(∃ε >0)(∃r >0)(∀z ∈A(c; 0, r)) |f(z)−β| ≥ε.
このとき、
g(z) := 1
f(z)−β (z ∈A(c; 0, r))
とおくと (分母が0 にならないことに注意)、g は除外近傍 A(c; 0, r)で正則である。ゆえに c は g の孤立特異点であるが、
|g(z)| ≤ 1
ε (z ∈A(c; 0, r))
という評価が成り立つので、Riemann の定理(補題10.21) によって、cは除去可能な特異点で ある。すなわち g は B(c;r) で正則な関数に拡張できる。定義から g(z)6= 0 (z ∈ A(c; 0, r)) である。
f(z) = β+ 1
g(z) = βg(z) + 1 g(z)
であるから、c は f の除去可能特異点または極である(cが g の零点でなければ c は f の除 去可能特異点, c が g の k 位の零点であれば、c は f の k 位の極)。これは c が f の孤立真 性特異点であるという仮定に反する。
定理 10.23 (孤立特異点の lim による特徴づけ) cがf の孤立特異点であるとき、以下の (1), (2), (3)が成り立つ。
(1) cが f の除去可能特異点であるためには、lim
z̸=c z→c
f(z) が有限確定であることが必要十分 である。
(2) cが f の極であるためには、lim
z̸=c z→c
f(z) =∞ であることが必要十分である。
(3) cが f の孤立真性特異点であるためには、lim
z̸=c z→c
f(z)が有限確定でもなく、lim
z̸=c z→c
f(z) =∞ でもないことが必要十分である。
証明 必要性は上で示した3つの命題 (除去可能特異点の性質、極の性質、真性特異点の性 質)で分かる。分類になっていることから、十分性は明らか。
86この主張は、定理の結論と同値と言って良い。つまり、ε-δで書き換えたものである。
87背理法(proof by contradiction, reductio ad absurdum)
例 10.24 f(z) := exp
−1 z2
について、0は f の孤立真性特異点である。一般論からz →0 のときの f(z)の極限は存在しないが、実際
limx∈R x→0
f(x) = 0, limy∈R
y→0
f(iy) = ∞
のように近づけ方によって、0に収束したり、∞ に近付いたりする。
実は、Casorati-Weierstrass の定理よりももっと強く、次の定理が成り立つことが知られて いる。しかし定理 10.23 を得るためには、Casorati-Weierstrass の定理で十分なので、次の定 理の証明は省略する(例えば Ahlfors [24]にある)。
命題 10.25 (Picard の大定理) c は f の孤立真性特異点とするとき、∃e∈C, (∀U: c の 除外近傍)、∀v ∈C\ {e},∃z ∈U s.t. f(z) =v. — 高々一つの除外値を除き、cの任意の 除外近傍において、その値を取る。
このPicard の定理については、一松[39] に色々お話が書いてある。