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Langacker(1985)の subjectivity scale の整理

第 5 章 日本語とタイ語における自称詞の種類

5.4 Langacker(1985)の subjectivity scale の整理

まず、一人称代名詞と親族名称の間の差異について論じる。Langacker(1985: 127)は

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英語の代名詞の文(2a)を発するのと全く同じ状況で親族名称を使用する(2b)を取り上 げ、以下のように説明している。

(2) a. Don’t lie to me!

b. Don’t lie to your mother!

(Langacker1985: 127)

(2a)の “Don’t lie to me!” は(2b)の “Don’t lie to your mother!” と全く同じ概念内容 を表しており、両者ともdisplacementがある(Langacker 1985: 142)。しかし、母親が子ど もの視点を取って自称する、すなわち、話者の実際の自分から離れ、聞き手の視点を取っ て自分を他者のように表現する(2b)は displacement(視座の移動)の程度が極端であり、

objectivity の度合は非常に高いとされている(Langacker 1985: 144)。つまり、極端な

displacement(視座の移動)を伴う親族名称は objectivity の度合が高く、一人称代名詞よ

り subjectivity の度合が低いということである。ちなみに、Langacker(1985: 128)は自称

詞としての親族名称は objectivityの度合が高いとしながら、愛着や連帯感を表していると 述べている。話者の感情や気持を表すことは話者の主観を表すという意見があるかもしれ ないが、ここで重要な のは 、理論的枠組みに も述べたように、Langacker(1985)の

subjectivityは一般的な「主観」の意味と異なり、事態を観る主体性の度合のことを意味す

るという点である。

名詞句表現に関しても、他称詞(三人称)にもなる時点で極端な displacement(視座の 移動)があることは言うまでもない。従って、上記の例(1)で示した通り、名詞句表現 のa. The person uttering this sentenceでは一人称代名詞より subjectivityの度合が低いと位 置づけることができる。

固有名詞については Langacker(1985)では特に言及がないが、池上(2004: 20)は英 語による電話でのやりとりで、かかってきた電話に答えて “This is Mr. Jones speaking.” と 言ったり、“May I speak to Mr. Jones?” という要請に対して “This is he.” と答えたりする 例を挙げている。この英語の例で分かるように、話者を三人称と同様の形式で表現してい るという意味で、名詞句表現である例(1a)の The person uttering this sentenceと同様に考 え ら れ 、 極 端 な displacement( 視 座 の 移 動 ) の あ る も の と し て 一 人 称 代 名 詞 よ り

subjectivityの度合が低い(objectivityの度合が高い)とみなすことができる。

指示詞に関して、英語は日本語とタイ語のように(場所)指示詞を自称詞として使用で

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きないが、Langacker(1985)は “this” や “here51” などの指示詞と一人称代名詞 “I” につい て、以下の図を提示し次のように説明している。指示詞の場合では話者は objective scene の外におり、profile の中にされていないのに対して、一人称代名詞の場合では話者は

objective scene に乗っており、profile されている。すなわち、指示詞は代名詞と同じよう

に直示であるが、代名詞よりもsubjectivityが高いとしている(Langacker 1985: 126)。

指示詞(this, here) 一人称代名詞(I)

objective scene profile G

ground ( speaker)

5-2 Langacker(1985: 125)による直示の概念図

図5-2の指示詞は、一人称代名詞と概念内容が異なっている。すなわち、話者を表すもので はないが、この Langacker(1985)の論理を自称詞としての指示詞(「こちら」など)に当て はめることができる。

5-3 自称詞としての指示詞(こちらなど)

51 Langacker(2008: 262)によれば、I, you, we, herenowは同じ概念図で説明できる。

G

G G

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図5-3で示すように自称詞としての指示詞は一人称代名詞と同じような直示の言葉でありな がら、一人称代名詞とは異なり、話者への指示は自分そのものを直接指しているわけではな く、自分が属している場所・領域を指す(profile する)ことにより、間接的に話者を指すこ とになる。これはメトニミー的用法とも言える。よって、自称詞としての指示詞の

objectivityの度合は一 人称代名詞より低いと位置づけることができる。

上記のLangacker(1985)のsubjectivity 理論に基づき、指示詞を加え、自称詞の種類ごとに

subjectivityの度合を図で表すと、次の図5-4のようになる。

5-4 Langacker(1985)に基づいた自称詞の種類による細分化されたsubjectivity scale

図5-4が示したように、話者の参与している同じ事態を表すことを前提として話者が明 示される場合、話者を直示的に示せば示すほど、subjectivityの度合が高くなる。それに反 して、話者を第三者のように直接に示せば示すほど、subjectivityの度合が低くなることが 分かる。