• 検索結果がありません。

第 6 章 日本語とタイ語における人称名詞系自称詞の使い分け

6.2 分析方法

本章では、作成した日タイ語対訳コーパスを用いて、日本語とタイ語の人称名詞系自 称詞の使い分けの特徴を明らかにする。ここでは、日本語の人称名詞系自称詞の使い分け

139

の主要因であると考えられる「役割語」の分析方法について紹介する。

役割語の対照研究を行う際は様々な視点から観察することが可能であると鄭(2007)

が述べており、以下の図を挙げている。

6-1 鄭(2007: 71)による役割語の対照研究へのアプローチの方法

上記の鄭(2007)のアプローチを参考にして、本研究では、翻訳と役割語の視点から 日本語とタイ語における対象資料の分析方法で、それぞれの言語における役割語の特徴を 考察する。また、両言語における役割語の特徴を考察する際、性別、年齢・世代、性格、

職業・階層、地域、時代といった特徴に分類する。それから、全体的に日本語とタイ語ど ちらの言語の方が「役割語度」が高いものが多いかを調べる。

ちなみに、「役割語度」とは「ある話体(文体)が、特徴的な性質の話し手を想定させ る度合というような尺度である」のことである(金水2003: 67)。金水(金水2003: 68)

は役割語度について下記の通りに説明している。

A:「今日は大変いいお天気だね」

B:「ええ、本当。でも天気予報は、明日は雨だろうと言っていたわ」

(金水2003: 68)

140

この会話では、Aは男性、Bは女性ということが語法から分かるが、あまり小さな子ど もではないにしても、それ以上、話者について示唆するような特徴はない。役割語度に関 して、金水(2003:68)はこの程度の話体を、大体1に設定し、以下の図の通り、書き言

葉を0、公的な話し言葉を0.5、私的な話し言葉(男性後・女性語)の間とその周辺に分

布する言葉(話体・文体)を1に位置すると述べている。

6-2 金水(2003: 69)による役割語度

さらに、金水(2003: 69)は「まったくじゃ。しかし天気予報は、明日は雨かもしれん と言っておったぞ」など強烈な個性を主張するような文について、数字で示すのがあまり 意味を持たないので、役割語度が相当高いとだけいうことにするという。

金水(2003)の例は一つの台詞に対する役割語度についてであるが、本研究では日本 語とタイ語の役割語における人称名詞系自称詞のみに着目する。そのため、そのまま金水

(2003)の基準を使用することは不可能である。よって、本研究では金水(2003)を踏 まえ、人称名詞系自称詞の役割語度の基準は話者の人物像(性別、性格・年齢・世代、職 業・階層、地域66、時代など)を明確に想起させればさせるほどその人称名詞系自称詞の 役割語度が高いとする。例えば、「拙者」は昔の侍が用いる人称名詞系自称詞であり、話 者の昔の時代、侍という職業、男性という性別といった三つの役割語の特徴を示唆するこ

66 地域差については、本研究では実際に使用されている方言ではなく、ステレオタイプ化され、役割 語として認識されているものとする。

141

とができるため、役割語度が高いと言える。それに対して、「わたし」など特に話し手の イメージを想起させないような人称名詞系自称詞は役割語の特徴が見られないため、役割 語度が低いことになる。

本章では、まず日本語とタイ語それぞれの言語のデータに現れた人称名詞系自称詞とそ の出現数を提示する。それらの人称名詞系自称詞を役割語の度合でグループ分けして、役 割語の度合が高い順から考察する。考察する際、日本語の場合は金水(2014)の『〈役割 語〉小辞典』を、タイ語の場合は Ratchabandittayasatan(2011)のタイ語辞書とタイ語の人 称名詞系自称詞を包括的に扱っているCooke(1965)を踏まえて考察する。ちなみに、言 うまでもなく、ここで取り上げる人称名詞系自称詞は日本語とタイ語それぞれの言語にあ る人称名詞系自称詞の全てではない。方言や職業によって様々な人称名詞系自称詞が存在 する。ここでは、人称名詞系自称詞の種類について論じるのではなく、対訳作品67 にお いてどのようなものが使用されているかに注目し、それぞれの言語の人称名詞系自称詞の 使い分けの傾向を示したい。従って、役割語度の分析も本研究のデータから言えるものと する。

次に、日本語とタイ語の人称名詞系自称詞の対応関係をまとめ、主な傾向を示す。さ らに、補助データとして、漫画による考察結果も紹介する。最後に、それぞれの言語の人 称名詞系自称詞の特徴の背景には何があるか認知言語学の観点から考察する。