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第 2 章 水災害に対する危機管理対策の現状と課題

2.1 水災害に対する危機管理対策の現状

2.1.3 DCP 検討プロセスに関する既往研究

DCP は,危機管理対策の実効性を高めるための有効な一手段である.ここでは,DCP 検 討プロセスに関連する既往研究として,DCPの定義・概念・枠組み・計画策定ステップに関 して整理を行う.DCPの概念として,小出34)35) や西川ら36) の「隣組型DCP」,白木・岩原

37)38)39)40) の「香川型DCP」,指田ら41) の「市町村地域継続計画(MCP:Municipal Continuity

Plan)」,磯打ら42) の「流域 DCP」などが堤案されている.また,DCP の枠組みとして,

「香川DCP」や「京都DCP」などの策定の取組23) があり,畠山ら43) の「香川DCP」策定

評価

視点 フェーズ 時間 "到達点(どのよ

うな状態)" 何をすべきか

個人

フェーズ 0 自 助 〈 生 き 残 る〉

その日 のうち

家族 の安否確 認 が完了

所在確認(確認方 法・手段),食料・

避難(生活)場所 確保

フェーズ 1 協 助 〈 生 き 残 る〉

3 日間

地域(自宅),会社 等の 被害状況 の 把握,自宅の被害 程度の把握

被 害状況 の把握 (情報収集)

フェーズ 2 公 助 と の 連 携

<地域の再建>

10 日間

避難 生活の定 着

(安定),会社復

地域 の復興工 程 の検討

仮住まいの確保 食料・物資の安定 供給

フェーズ 3 公 助 と の 連 携

<地域の再建>

1 か月 今後 の生活プ ラ ンの確定

生 活場所 の再建

(計画)

地域

フェーズ 0 自 助 〈 生 き 残 る〉

その日 のうち

班内 の住民の 安 否確認が完了,避 難場 所への移 動 完了

所在確認(個別確 認),食料・避難 (生活)場所確保

フェーズ 1 協 助 〈 生 き 残 る〉

3 日間

地域 の被害状 況 の把握,避難場所 での役割分担,リ ーダーの選出

被 害状況 の把握 (情報収取),情報 発信(避難者の現 状等),話し合い・

相談

フェーズ 2 公 助 と の 連 携

<地域の再建>

10 日間

行政 との協議 の 上,避難生活の定 着(安定),避難 者の健康維持,将 来へ の希望を 与 える.

住 民の要 望の集 約 と行政 との調 整,情報発信(食 料・物資の安定供 給,仮住まいの確 保)

フェーズ 3 公 助 と の 連 携

<地域の再建>

1 か月

行政 との協議 の 上,地域の復興計 画の確定

地 域住民 の要望 の 集約と 行政と の調整,情報発信

( 地域の 生活場 所の再建等)

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を通して一般化したDCP策定の枠組みなどが提案されている.さらに,計画策定ステップと して,磯打ら44) の流域DCP策定ステップなどが提案されている.

DCP の概念は,我が国発祥のもので,1995 年に小出が大丸有地区等の業務地区において 被災者や帰宅困難者を支援するための計画をDCPとして提案している34)35) .これは,DCP の考え方を提案したものであり,具体的に DCP の策定は行われていない.その後,西川ら

36) は,業務商業地域において地域防災組織(防災隣組)の活動を定めた計画を「隣組型DCP」 として提案しており,BCPにおいて確立しているガバナンスの指揮命令系統などが不明確で あるところが課題としている.

一方,白木・岩原ら37)38)39)40) は,香川地域を対象としてDCPの実践を進める取り組みを 始めており,「香川型 DCP」を提案している.「香川型 DCP」は,“一定の圏域である県 や市町村が広がりを持つ地域継続を目的とした計画”と定義しており,実務担当者のみなら ず香川県内17市町の首長が参画していることから,ガバナンスが明確でスコープも広く,「隣 組型DCP」とは明確に区別している.

指田ら41) は,「隣組型DCP」と「香川型DCP」の事例を踏まえ,「市町村地域継続計画

(MCP)」の概念を整理している.「MCP」は,“市町村の地域防災計画の重要部分を発展 させた地域産業復旧・復興計画”と定義され,地域の中核となる産業の早期復旧や,BCP発 動後の代替戦略として非被災地へ一時拠点の移動を認めている.

磯打ら 42) は,水災害を対象とした「流域DCP」の概念を示し,行政組織の壁を越えた地 域連携の必要性を提起している.一般に,治水計画を考える場合には,降雨の集水域となる 流域を計画検討の一単位として捉える.この流域は,図2. 11に示すように,行政界とは必ず しも一致しない場合が多く,水災害を対象にDCPを捉える際には,災害発生のメカニズムを 考慮すると,検討対象範囲として行政界のみならず,流域と氾濫影響対象となる氾濫域(被 災範囲)を対象とする必要がある.このように,流域と氾濫域を一体として捉えた取組が連 携の概念としての「流域DCP」の対象範囲としている.

図2.11 流域DCPの検討対象範囲 42)

流下方向

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DCPの枠組みとしては,「香川型DCP」の概念に基づく「香川DCP」,京都全体にBCP の考え方を適用した「京都 BCP」など 23) の取組があり,行政が中心となって防災関係機関 と企業が連携したトップダウン型のDCP検討を展開している.

「香川 DCP」は,建設業 BCP懇談会香川県部会において,参加企業から地域インフラの 早期復旧を目的とした新たなマネジメント組織が必要と問題提起されたことから,香川大学 が事務局となり,2012(平成24)年5月から検討を開始している.この「香川DCP」は,

南海トラフ巨大地震および大規模風水害を対象に,四国の防災対策,復旧・復興推進拠点と しての香川地域の機能継続を目的とした戦略的な地域インフラの早期復旧を目指した計画で ある.「香川地域継続検討協議会」が検討活動のプラットフォームとなっており,メンバー は,国・県・県内全市町の行政,電力・ガス・通信等のライフライン事業者,香川県建設業 協会等の経済団体,香川大学で構成している.また,「香川地域継続検討協議会」での検討 結果は,図2. 12に示すように,行政機関のトップが一堂に会する「香川地域継続首長会議」

に上程し,各行政機関の施策を展開する仕組みを併せて構築している.

図 2.12 香川地域継続検討協議会と首長会議の関係45)

「京都BCP」は,2012(平成 24)年3 月,京都経済同友会から京都府知事宛に「防災計 画の見直しに企業活動継続に関する内容の充実を求める」旨の提言がなされたことから,同 年 8月に検討を開始している.この「京都BCP」は,京都全体にBCPの考え方を適用し,

大規模広域災害等の危機事象時において京都の活力を維持・向上させるため,地域全体で連 携する新たな防災の取組として実施しており,復旧・復興のベースとなる雇用と経済活動を 対象とした京都BCP行動指針を策定している.その指針では,時間軸に従い,平常時,緊急 対応時,復旧・復興期のフェーズごとに,リスクの認識やBCPの充実に関する共通認識の下,

ひと・もの・かね・情報ごとの経営資源や地域連携の要点について整理している.

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図2.13 京都BCP行動指針(案)の概要 23)

畠山ら43) は,「香川 DCP」における「香川地域継続検討協議会」をプラットフォームと した組織体系から発展させて枠組みの一般化を検討し,図2. 14に示すように,DCP策定の 枠組みを提案している.その枠組みでは,地域コミュニティ,教育・研究機関,医療・福祉 機関,企業・業界および行政機関が各々策定したBCPを相互連携の立場からブラッシュアッ プし,それらが連動可能なDCPに拡張していく仕組みを示している.

図 2.14 DCP策定の枠組み43)

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DCPの計画策定ステップの代表的な既往研究として,磯打44) は,本研究と同じフィール ドの土器川流域における取組をもとに,図2. 15に示すように,流域DCP策定ステップを「1) リスクの洗い出し,2) 地域インパクト分析,3) 流域重要機能の選定,4) 目標復旧時間の設 定,5) 地域継続対策・DCM の実施」と仮定して,計画策定プロセスの概要を示し,多様な 地区防災計画制度の展開の可能性を示している.

図 2.15 流域DCP策定ステップ44)