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第6章 結論

6.2 今後の展望

本論文では,土器川流域を研究フィールドとして,「水防災意識社会 再構築ビジョン」

の考え方を取り入れた住民目線による取組を先進的に実施しており,「減災」「縮災」に向 けた危機管理対策の必要性・緊急性が明確となった今,本研究における先進的な取組の意義 は大きい.しかし,本論文におけるDCP策定手法の開発は,まだ緒についたばかりであり,

国土強靱化基本法による「国土強靱化地域計画(アンブレラ計画)」や,災害対策基本法に よる「地域防災計画」の実効性を高め,「強靱な地域づくり」を実現するためには,DCP策 定・実践のPDCAサイクルによる取組を継続的に実施することが必要不可欠である.また,

自助・共助・公助の連携・役割分担による防災・減災・縮災行動の実現化を目指して,「共 助」による地域防災力・継続力の向上を図る取組が望まれる.この取組においては,「住民 タイムライン」の活用が有効と考える.

(1)「強靱な地域づくり」に向けた DCPの継続的な実践と展開

DCP は,計画策定だけでなく,検討の組織・枠組みや検討プロセスにカギがある.今後,

広域的な地域展開を図る場合に,包括的な組織の存在が大きい.また,その枠組みが確立さ れていれば,地域住民や地域行政が計画を実践する中で,新たな課題が発生した場合に,迅 速に PDCA サイクルを実施し,計画の見直しを行うことができる.DCP 検討プロセスは,

事業計画プロセスおよび地域連携プロセスに基づき,一度「検討の場」を設けて合意形成が 得られれば良いというものではなく,災害レジリエンス(縮災)の考え方が地域に浸透し,

「地域コミュニティの活性化や地域連携体制の強化」が進むには時間がかかるため,各地域・

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地区で,何度でも繰り返し「WS 検討や交流活動の場」を設けて,地域連携プロセスの実践 を継続する必要があると考える.

土器川モデル地区である「土器コミュニティ」では,第5章(5.4節 今後の課題)で述べ たように,香川県防災士会の協力のもと,「地区防災計画」の作成に向けて WS検討を開始 している.また,検討会のメンバーである「まんのう町」は,平成29年度に「まんのう町防 災士連絡協議会」を設立し,防災士と町が連携して地域を支援する仕組みを作り,活動を開 始している.これらの取組から,土器川流域におけるDCP検討は,本研究で意図とした地域 の自主的な活動に結びついており,まさに「強靱な地域づくり」に向けて地域が動き出した.

図6. 1は,平成30年1月に,WSの進行役を担った防災士を対象にアンケート調査(回答 7 名)を行った結果である.「防災士会が地域と関わり地域住民と連携する上で,今後,何 が必要ですか」の設問に対して,「地域コミュニティや自主防災組織との信頼関係の構築」

が必要との回答が最も多く,次いで「定期的かつ継続的な活動」が多かった.また,「予算」

「公共機関からの依頼」「地域コミュニティや自主防災組織との立場関係の明確化」「複数 の地域コミュニティや自主防災組織との交流活動の場」などの必要な要素も多く挙がってい る.その他では,防災士個人の地元活動を香川県防災士会が支援するというアイデアも出さ れている.

防災士は,地域防災リーダーとして地区防災に貢献できるだけでなく,防災士会メンバー による広域的な組織として機能するため,地域コミュニティ間や地域コミュニティと地域行 政の間をつなぐ役割が期待でき,「強靱な地域づくり」に向けたDCPおよびDCMを推進す るためのキーパーソンと考える.

図 6.1 平成28年度WS後の防災士アンケート調査結果(地域連携)

2 2 2

7 2

5 1

1 2 0

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

予算(報酬、経費)

公的機関からの依頼 地域コミュニティや自主防災組織と の

立場関係の明確化 地域コミュニティや自主防災組織と の

信頼関係の構築 複数の地域コミュニティや自主防災 組織と の

交流活動の場(広域的な連携)

定期的かつ継続的な活動(定期講座の開催 、 地域イベントへの参加、訓練への参加など)

かがわ自主ぼう連絡協議会との調整 新たな協力組織(地域行政や自主防災 組織 との合同による防災広域連合会など)

その他

無回答

(票数)

地域住民と連携する 上で必要なもの (複数回答)

<その他の意見>

・これまで会として8回の地区防災計画の勉強会を実施ししてきた。今後は自治体の連携を強め自治会、コミュニティ、自主防災会と地区防災計画 の策定・支援を行いたい。

・防災士自身が地元のコミュニティや自主防の活動に積極的に参加し、それを防災士会が支援する。

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そこで,アンケート結果も踏まえ,今後も継続的に,香川県防災士会・地域コミュニティ・

地域行政・河川行政・香川大学の間で「交流活動の場」や「意見交換の場」を設けるなど,

信頼関係の構築や地域連携体制の強化を図るための取組を継続していきたいと考えている.

また,今後もモデル地区におけるアクションプランの実践を継続的に進め,「香川型DCP検 討方式」の実効性を確認するとともに,他地区や他地域にも展開し,DCPおよびDCMの実 践に関する研究開発を継続していきたいと考えている.

(2)「地域防災力・継続力の向上」のための住民タイムラインの活用

「住民タイムライン」は,「早めの安全な避難行動」の促進や「共助」による地域防災力・

継続力の向上のためのツールとしての活用が期待でき,防災学習の場での活用や,家族単位・

地域コミュニティ単位・事業所単位での活用が可能である.

防災学習の場では,大規模水害に対する備えや避難行動を学ぶ際に「住民タイムライン」

を活用することにより,危険情報・災害情報・避難情報の理解,災害発生過程の理解,自主 的な防災行動の意識強化,共助の連携強化などの学習効果が期待できる.

家族単位では,「住民タイムライン・リーフレット(自助版)」を作成して一般家庭に配 布することも可能であり,家族で自主的な避難行動(避難の目安や場所,安否確認など)を 考え,「我が家のタイムライン」や「避難カード」の作成を行い,大規模水害に備えること ができる.

地域コミュニティ単位では,防災訓練や避難訓練の際に「住民タイムライン」を活用する ことにより,時間軸に応じた防災・減災・縮災行動が具体化・可視化でき,地域防災力・継 続力の向上につなげることができる.

事業所単位では,BCPを検討する際に「住民タイムライン」を活用することにより,DCP の考え方に基づいて,地域連携や地域貢献に役立てることができる.

また,地域行政と防災関係機関が連携して「多数の機関が連携した本格的なタイムライン」

を検討する際には,住民目線での自助・共助に対する支援体制の確保・強化を図ることが望 まれ,行政目線でのタイムラインと住民目線でのタイムラインを融合させたタイムライン検 討が必要である.

今後は,土器川流域における地域防災力・継続力の向上を目指して,土器川モデル地区で 作成した「住民タイムライン」を活用・応用した取組を地域展開するとともに,各市町が作 成している「行政タイムライン」と融合することの研究も進めていきたいと考えている.

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謝辞

本論文をとりまとめるにあたり,多大なるご指導ご鞭撻を賜りました香川大学創造工学部 井面仁志教授ならびに香川大学副学長 白木渡特任教授に心から感謝の意を表します.また,

香川大学創造工学部長 長谷川修一教授ならびに香川大学創造工学部 髙橋亨輔講師には,

有益なご助言を賜りました.深く感謝申し上げます.

本研究を進めるにあたり,徳島大学地域創生センター 澤田俊明客員教授,香川大学創造 工学部 岩原廣彦客員教授ならびに香川大学地域強靭化研究センター 磯打千雅子特命准教 授には,先行研究を活用させていただくとともに,貴重なご意見を賜りました.深く感謝申 し上げます.また,澤田俊明客員教授ならびに磯打千雅子特命准教授には,WS 企画・運営 に際して,ファシリテーション技術のご指導を賜るとともに,全面的にご協力を賜りました.

重ねて感謝申し上げます.

本研究のケーススタディとした土器川流域における危機管理対策検討は,国土交通省四国 地方整備局香川河川国道事務所の予算(委託業務)で実施されたもので,私は,受注者(建 設コンサルタント)の立場から,危機管理対策検討の企画・実施・成果とりまとめの全ての 段階で,発注者との議論を重ねるとともに,事務局メンバーとして「検討の場」に参加・関 与しました.本研究に対して,ご理解をいただきました当時の香川県国道事務所計画課長 白 川豪人氏ならびに猪熊敬三氏を始め,香川河川国道事務所の職員の皆様に心よりお礼申し上 げます.

土器川流域における危機管理対策検討にあたり,業務プロジェクトチームとして共に WS 運営および検討成果とりまとめを行いました,いであ株式会社 澤田晃二氏,山本智和氏,

田村智貴氏には,新しい取組のため非常にご苦労をおかけしました.心よりお礼申し上げま す.また,WS 実施にあたっては,香川県防災士会の皆様ならびに関係市町職員の皆様に,

WS進行・記録の役割を担っていただくとともに,関係市町住民の皆様には,WSへの参加と アンケート調査にご協力をいただきました.心よりお礼申し上げます.

本論文の編集にあたり,図表の整理や編集作業にご協力をいただきましたプライド・ワン 有限会社 青山舞子氏ならびに山室慶子氏に心からお礼申し上げます.

さらに,業務が多忙の中,博士課程修学の機会を与えていただきました,いであ株式会社 代表取締役会長 田畑日出男氏,同代表取締役社長 細田昌広氏,同大阪支社長 工藤徳人 氏に深く感謝申し上げます.

最後に,これまで私を温かく見守り励ましてくれた家族に心から感謝するとともに,末永 く健康に過ごせることを祈ります.