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第 4 章 土器川モデル地区における住民タイムライン検討の取組

4.1 住民目線のタイムラインに関する既往研究

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第 4 章 土器川モデル地区における住民タイムライン

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では,州政府は「タイムライン」に従ってハリケーン上陸の36時間前に州知事が「避難命令」

を発令し,適切に避難行動を実施した結果,被害を最小限に抑えることができた4)

国土交通省は,全国各地における災害対応の問題点や,ハリケーン・サンディの教訓を踏 まえ,大規模水災害が発生することを前提とした防災・減災対策を進めるため,2014(平成 26)年1月27日に「国土交通省 水災害に関する防災・減災対策本部」を設置した5).併せ て,発災前に取るべき行動を時系列で示すタイムラインの考え方による防災行動を検討する

「防災行動計画ワーキンググループ」を設置し,日本におけるタイムラインの検討を開始し ている.このタイムラインの検討成果を踏まえ,国管理河川を対象に,「避難勧告等の発令 に着目したタイムライン」を2020(平成32)年度までに,河川の氾濫により浸水するおそ れのある730市区町村で策定予定である6).さらに,「多数の機関が連携した本格的なタイ ムライン」を全国展開していくため,首都圏や中部圏で試行的な取り組みを実施している.

しかし,これらの日本におけるタイムラインは,防災関係機関を主体とした各機関の責務 を果たす行政目線のタイムラインであり,行政から住民に対して避難勧告等の情報を提供し,

避難を促すことまでにとどまっている.そのため,住民自らが避難行動に移れるような地域 特性に応じた細やかな情報伝達や支援体制が明確に示されておらず,住民目線のタイムライ ンになっていない.

(3)住民目線のタイムラインに関する既往の研究

既往研究においては,松尾1) の高知県大豊町や三重県紀宝町での「地区タイムライン」,

茨城県常総市での「マイ・タイムライン」,石狩川滝川地区での「タイムライン(試行 用完成版)」などの取組がある.

松尾1) は,高知県大豊町での土砂災害を想定した取組において,表4. 1および図4. 1に示 すように,「地区タイムライン」(地域の具体的な行動を示した住民向けのタイムライン)

を提案し,自治体タイムラインと双方に連動させて地域一体となったタイムラインを作成し ている.この「地区タイムライン」は,区長・自主防災組織・民生委員・消防団・住民が集 まり,2014(平成26)年度までに作成された大豊町役場のタイムライン(自治体タイムライ ン)を踏まえ,勉強会やWSなどの検討を重ね,2015(平成27)年に作成している.同様に,

三重県紀宝町大里地区・浅里地区においても,「地区タイムライン」作成に向けたWS検討 を実施している.

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表4.1 自治体タイムラインと地区タイムラインの双方連動 1)

図4.1 自治体タイムラインと地区タイムラインの双方連動 1)

「鬼怒川・小貝川下流域大規模氾濫に関する減災対策協議会」は,「みんなでタイムライ ンプロジェクト」を進めており,2016(平成28)年11月に「マイ・タイムライン検討会」

を立ち上げ,「マイ・タイムライン」の作成に取り組んでいる7).この「マイ・タイムライン」

は,“住民一人ひとりのタイムラインであり,台風の接近によって河川の水位が上昇する時 に,自分自身がとる標準的な防災行動を時系列的に整理し,とりまとめるもの”であり,茨 城県常総市のモデル地区(若宮戸地区,根新田地区)において,マイ・タイムラインノート を用いた検討を行い,図4. 2に示すように,「マイ・タイムライン検討の手引き」を2017

(平成29)年5月に作成している8)

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図 4.2 マイ・タイムラインの作成8)

石狩川滝川地区では,2015(平成27)年10月に「石狩川滝川地区水害タイムライン検討 会」を発足し,滝川市が運用主体となり関係機関・住民組織との連携を示した「タイムライ ン(試行用完成版)」を2016(平成28)年8月に作成している.この「タイムライン(試 行用完成版)」では,表4. 2に示すように,危険度や防災対応行動に準じて,タイムライン の対応レベルを5段階に設定している.また,防災行動は,主な対応,行動項目,行動細目 の3階層の内容に分けている9)

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表 4.2 滝川地区タイムライン(試行用完成版)の構成9)

(4)本研究における「住民タイムライン」の特徴

本研究における「住民タイムライン」は,上述の「地区タイムライン」や「マイ・タイム ライン」と同様に,住民自らが作成する住民目線のタイムラインであるが,以下の視点から 住民避難や地域連携の実効性のあるタイムラインを新しく提案するものである.

1) 一つのハザードを対象とするのではなく,住民目線に立ち,対象地区において同時多発的 に発生する可能性がある複数の種類のハザードを対象とし,河川氾濫,内水氾濫,土砂災 害などの複合災害を想定する.

2) 行政からの情報や支援を基準とした受動的な防災行動ではなく,自助(個人,家族)と共 助(地域コミュニティ,事業所)の住民同士の連携と自主的な判断・行動に重点を置く.

3) 災害警戒期の防災・減災行動だけでなく,応急対策期の縮災行動にも重点を置く.

4) WS検討の場において,一般住民だけでなく,地域の事業者や行政も加わり,地域連携に

よる実効性のある住民タイムラインを作成するとともに,様々な立場から地域における課 題を抽出し,地域防災力・継続力の向上につなげる.

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