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第6章 結論

6.1 まとめ

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第 2 章では,近年の水害を踏まえて,水災害に対する危機管理対策の現状と課題を整理す るとともに,危機管理対策の実効性を高めるための取組の必要性を示した.

地域住民の視点からの危機管理対策の課題として,以下の11項目を示した.

1) 過去の経験にとらわれない意識変革および想定最大規模の水害への備えが必要であるこ と

2)「水防災意識社会 再構築ビジョン」の住民目線による継続的な取組が必要であること 3) 災害期警戒期における情報と避難に関する問題と応急対策期における人的・物的被害に関

する問題への迅速かつ適切な対応が必要であること

4) 地域住民が関与する情報伝達と地域連携に関する課題への取組が必要であること 5) 地域連携による広域避難に対する戦略的な取組が必要であること

6) 自助・共助による連携体制の構築と自主的な判断による防災行動・避難行動の実行が必要 であること

7) 地域行政による支援体制の確保・強化が必要であること

8)「強靱な地域づくり」実現のためにDCP策定が有効であること

9) DCPにおいて住民同士ならびに住民と行政の地域連携を図ること重要であること

10) DCPの実効性を高めるためのボトムアップ型のDCP策定手法が必要であること

11) 地区・行政界を越えた広域的な地域住民と地域行政の協働による合意形成プロセスの手 法(WS手法)が必要であること

上記の課題を踏まえ,危機管理対策の実効性を高めるために,重視して取り組むべき内容 として,1)広域的な地域連携体制の構築,2)地域連携(流域連携)によるDCP策定の必要性 について示した.

第3章では,土器川流域における危機管理対策検討の取組について,災害レジリエンス(縮 災)の考え方を導入し,DCP検討を実践した検討プロセスと検討結果を示した.具体的には,

検討手順として,検討フレームの構築および検討プロセスの実践について示した.また,検 討成果として,DCPの方針検討およびアクションプラン検討の成果内容について示すととも に,WS検討の特徴を示した.

検討フレームの構築では,「香川型DCP検討方式」と名付けたDCP検討の枠組みを構築 することにより,広域的なDCP検討の展開が可能となったことを示した.また,DCP検討 の場として,行政と住民の連携によるWSを軸とした地域連携プロセス(場の生成,場の合 意形成,主体関与)を導入することにより,DCPの実効性を担保するDCP検討プロセスを 提案した.

検討プロセスの実践では,検討の全体構成について,WS検討の場が「とりまとめ書(案)」

や「行動計画書(案)」のDCP検討成果を得るための場であったとともに,地域防災ステー

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クホルダーによる WS進行,ファシリテーション技術の習得(人材育成),信頼関係の構築 を図ることで地域連携体制を強化するための場としても機能したことを示した.また,WS を軸とした検討手順について,U理論に基づく合意形成プロセス(U プロセス)を適用し,

複数の災害リスクコミュニケーション・ツールを採用した上で,広域住民WS・地区行政WS・ 地区住民WSの検討プロセス(合意形成・主体関与プロセス)を実施したことにより,DCP 検討の目標(コンセプト)に対して,WS参加者の意見集約が可能となったことを示した.

検討成果のまとめでは,危機管理対策検討の成果として,以下の3項目を示した.

1) DCPの目標・戦略・方向性をとりまとめた方針検討の成果およびDCPのアクションプラ

ンを作成したアクションプラン検討の成果が得られたこと 2)「香川型DCP検討方式」の枠組みが構築できたこと 3)「情報共有ツール」が今後活用できること

また,WS検討の特徴として,以下の4項目を示した.

1) 広域的な視点かつ様々な立場からの地域の重要機能を抽出すること 2) 実効性のある行動内容を抽出すること

3) 地域防災リーダーの育成と参加者間の信頼関係の構築に寄与することの役割が期待でき ること

4) Uプロセスの実践により,地域住民と地域行政の協働によるDCP策定を可能にすること

第 4 章では,土器川モデル地区における住民タイムライン検討の取組について,住民タイ ムラインの検討手順と検討成果を示した.具体的には,検討手順として,住民目線による複 合災害の想定および災害警戒期~応急対策期の住民タイムラインの検討ステップについて示 した.また,検討成果として,災害警戒期~応急対策期の住民タイムラインの内容を示した.

検討手順としては,住民目線による複合災害を想定し,災害リスクコミュニケーション・

ツールとして時間軸に応じた防災・減災・縮災行動シミュレーションを採用した上で,地区 住民 WSの検討プロセス(合意形成・主体関与プロセス)を実施したことにより,住民タイ ムライン作成に対して,WS参加者の意見集約が可能となったことを示した.

検討成果としては,モデル地区での「ひな形」として「災害警戒期~応急対策期の住民タ イムライン」が作成できたことを示した.また,検討成果まとめとして,以下の 4 項目が重 要であることを示した.

1) 複合災害を対象として,住民目線でのタイムラインを検討すること 2) 地域防災ステークホルダーが幅広く集まる場を作ること

3) 防災・減災・縮災行動を総合的に考えること

4) 住民タイムラインの検討・作成・活用による一連の取組は,地域防災力・継続力の向上に つながる可能性があること

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第5章では,土器川流域における危機管理対策検討の成果をもとに,DCP検討プロセスの 一般化を行い,住民目線によるボトムアップ型の「香川型DCP検討方式」を提案し,流域連 携によるDCP策定手法の開発について示した.具体的には,「香川型DCP検討方式」によ る DCP 策定手法の構築として,4 ステージの構成で 16 ステップの検討項目に分けた DCP 検討の内容を示した.また,「香川型 DCP検討方式」からの DCP 策定手法の評価として,

アンケート調査による合意形成プロセスの評価結果,住民タイムラインの効果検証結果を示 し,本研究によるDCP策定手法が有効であることを提案するとともに,今後の課題を示した.

DCP 策定手法の構築における第 1 ステージ(事前準備)では,「枠組み」として,DCP 検討のプラットフォームとなる「地域全体でのDCP検討組織」の設置が必要であり,地方国 立大学が中心となって地域を支援し,「対象地域での検討の場」と連携する組織形態を提案 した.また,「検討の場」として,参加者の意識変革を起こすためのWSデザインを構成し,

住民と行政の新たな協働・連携体制を構築することを提案した.第 2 ステージ(方針検討)

では,対象地域における広域災害の「全体像」を把握し,地域にとっての重要機能を明確に することを目的とした方針検討が,最初に実施する重要な検討ステップであること示した.

また,地域住民と地域行政の「意識変革」を誘発するステップでもあり,U プロセスを導入 することにより,内省力・行動力ならびに災害レジリエンス能力である予見能力・注意能力・

対処能力が向上し,地域防災力・継続力ならびに災害レジリエンス指標である頑健性・冗長 性・資源・即応性が向上することの特徴を示した.第 3 ステージ(アクションプラン検討)

では,防災・減災・縮災行動の実効性を高めるために有効な災害リスクコミュニケーション・

ツールとして,「災害警戒期~応急対策期の行政・住民タイムライン」を作成することを示 した.第4ステージ(アクションプラン実践)では,DCPにおける重要機能として位置付け られる「重点対策」を実践することが重要であること,CCPを検討し地区防災計画を作成す ることにより地域住民と地域行政の連携が強化されることを示した.

「香川型 DCP検討方式」の実践からのDCP 策定手法の評価結果を踏まえ,DCP策定手 法の一般化についての考察として,以下の5項目を示した.

1)「場の生成プロセス」の重要性:「香川型DCP検討方式」の枠組みが流域連携を図るため の有効な枠組みであること

2)「主体関与プロセス」の重要性:「防災の専門家」が地域住民と地域行政をつなぐ役割を 担うことにより,「共助」を中心とした流域連携体制の構築や「共助」の中核となるべき 地域防災リーダーの人材育成を推進し,地域防災力・継続力の向上につなげること

3)「場の合意形成プロセス」の重要性:U プロセスを何度も繰り返すことにより実効性のあ るDCPを策定すること