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第 4 章 土器川モデル地区における住民タイムライン検討の取組

4.2 住民タイムラインの検討手順

4.2.2 住民タイムラインの検討プロセス

地区住民WSの開催概要は,第3章の表3.1(3)に示すとおりである.平成27年度は事前説明 会1回・WS 3回(49名参加)・検討会2回,平成28年度は事前説明会1回・WS 2回(28名参 加)・検討会2回を開催し,自助・共助の立場から,災害警戒期~応急対策期の住民タイムラ インを作成した.なお,平成28年度WSでは,応急対策期の防災行動を対象とするため,共助 を主に議論するものとし,平成27年度WS参加者の中から組織に係わる人に限定して参加を依 頼したため,参加人数が少なくなった.

大規模水害を想定したタイムテーブルを図4. 4に示す.住民タイムラインの検討にあたって は,災害への備え~発災直後~その後(通常の生活に戻るまで)の時間軸に応じた活動項目 をイメージし,公助の活動(行政タイムライン)を踏まえた上で,自助・共助の活動(住民 タイムライン)を検討し,防災・減災・縮災を総合的に考える行動計画を提案した.

図 4.4 大規模水害を想定したタイムテーブル

WS検討にあたっては,第3章(3.2.2項(5)2)WS参加者とグループ化)で述べたように,

参加者の属性を考慮したグループ編成を行い,平成27年度のWSでは5テーブル,平成28年度 のWSでは3テーブルに分かれてWSを実施した.

WS進行体制は,専門的スキルをもつファシリテーター(香川大学教員)による全体進行の もとで,地域に根付いた防災士(テーブル進行:地域防災リーダー)と自治体職員(テーブ ル記録:地域行政担当者)の地域防災ステークホルダーがテーブル進行・記録を担う体制と した.

WS検討の場における検討ステップと検討内容は,第3章の表3.3に示すとおりである.WS の実施に際して,過去に経験したことのない事象に対して,参加者が討論を重ね,十分に対 話を行うことにより,気づき(根源的な課題)や共通の意志(目標,行動)を見出し,新た

活動項目

(行動・対応)

平常時 災害警戒期 23日間

応急対策期 約10日間

復旧・復興期 約10日以降

防災行動 減災行動 縮災行動

災害への備え 発災直後 その後(通常の 生活に戻るまで)

時間軸

災害警戒期の タイムライン

応急対策期の タイムライン 平成27年度 平成28年度

時間の経過 堤防決壊

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な思考と行動を創造する「意識変革~合意創発~未来創造」のU理論に基づく合意形成プロ セスを導入した14).このプロセスに従い,WS検討の場では,「情報の共有」「課題の認識と 掘り下げ」「目的の共有」および「新たなアイデアの思考と掘り下げ」という組み立てを行 い,地域連携の「場の合意形成プロセス」と「主体関与プロセス」を実践した.

(1)災害警戒期の住民タイムラインの検討ステップ

「情報の共有」の場では,洪水氾濫アニメーション動画(図3.22参照)を用いて,内水氾 濫が起こり低平地から浸水が拡大する中で,土器川の堤防が決壊し,氾濫流が地区全体に拡 散した後,浸水が低減するイメージをWS参加者に伝えた.

「課題の認識・掘り下げ」の場では,まず,避難所・避難ルート・避難時間を確認するた め,図4. 5に示すように,透明シートと旗立てグッズを用いて,自宅から避難所までの避難ル ートをテーブル図面に記入し,避難に係る時間や浸水時の危険性などについて把握・共有す ることにより,土器川の堤防が決壊した場合の大規模水害発生時に,「いつ・どこに逃げる か」をイメージした.次に,住民タイムラインを作成する上での,防災・縮災行動シミュレ ーションとして,図4. 6に示す時間軸に応じた2段階のステージを設定し,リアリティーを持 って防災行動のイメージや課題をとらえる工夫を行った.ステージ1は台風が四国に接近し,

避難準備情報が発令されたタイミング,ステージ2は台風が四国に上陸する直前で内水被害が 発生し,避難勧告が発令されたタイミングとした.各ステージでは,図4. 7および図4. 8に示 すように,危険情報・災害情報・避難情報がテレビ,防災行政無線などから発信されるイメ ージを共有し,自身が行うべき行動(自助)と地域で行うべき行動(共助)の意見を抽出し た.また,タイムラインの良いことと,タイムラインを実行する際の住民目線での課題を抽 出した.その主な住民意見を表4. 3および表4. 4に示す.住民タイムラインの良いこととして,

早めの自主的な避難,安全な避難先の選択,災害時要配慮者への対応,家族や地域との連携,

事業所BCPによる対応などが期待できる.一方,情報や連携に関する自助・共助の課題や公 助への要望が多く抽出され,自助・共助・公助の連携によるタイムラインを機能させるため の具体的な取組が明確になった.特に,自助では「避難の目安」,共助では「連携体制の確 保」,公助への要望では「情報伝達手段,避難勧告等の周知」の意見が多くあり,避難行動 における重要なテーマと考える.

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図 4.5 避難所・避難ルート・避難時間の DIG(透明シート,旗立てグッズ)

図4. 6 災害警戒期の防災・減災行動シミュレーション(ステージ設定)

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①“具体的な防災行動”をイメージしてください

・あなた自身が行うべき行動(自助)

【立場】個人、家族、通勤者、通学者

・地域コミュニティが行うべき行動(共助)

【立場】自治会、自主防災組織、水防団、消防団、

学校関係者、災害時要配慮者、医療福祉関係者、

事業者など

“行政への要望”をイメージしてください

・行政に助けてほしいこと(公助)

各自で

意見カードに記入 各テーブルで

意見を共有 模造紙に貼り出し 意見を分類

あなたは、この時どう行動しますか?

【ステージ1】金曜日 夕方(午後4時頃)

【1】 【2】

【3】 【4】

【5】 【6】

図4. 7 災害警戒期の防災・減災行動シミュレーション・シナリオ(ステージ1)

【現在の状況】

超大型で非常に強い台風15号が九州に接近しており、明日の未 明には、四国に上陸するおそれがある。

丸亀観測所の雨量は、1時間あたり約10mmを記録し、雨の降り 始めから70mmに達している。

香川県の広い範囲で、大雨洪水注意報が発表された。

丸亀市土器町の約1万人に“避難準備情報”が発令された。

【情報伝達手段】

危険情報:テレビ、ラジオ、インターネット、メールなど

災害情報:周辺での災害なし

避難情報:テレビ、ラジオ、防災行政無線、広報車など

【ステージ1】金曜日 夕方(午後4時頃)

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【1】 【2】

【3】 【4】

【5】 【6】

【7】 【8】

図4.8 災害警戒期の防災・減災行動シミュレーション・シナリオ(ステージ2)

各自で 意見カードに記入

各テーブルで 意見を共有

模造紙に貼り出し 意見を分類

【ステージ2】金曜日 夜遅く(午後10時頃)

あなたは、この時どう行動しますか?

①“具体的な防災行動”をイメージしてください

・あなた自身が行うべき行動(自助)

【立場】個人、家族、通勤者、通学者

・地域コミュニティが行うべき行動(共助)

【立場】自治会、自主防災組織、水防団、消防団、

学校関係者、災害時要配慮者、医療福祉関係者、

事業者など

“行政への要望”をイメージしてください

・行政に助けてほしいこと(公助)

【現在の状況】

超大型で非常に強い台風15号が四国に接近しており、まもなく 四国に上陸する。

丸亀観測所の雨量は、1時間あたり約20mmを記録し、雨の降り 始めから120mmに達している。

香川県の広い範囲で、大雨洪水警報、土砂災害警戒情報が発 表された。

土器川の水位が避難判断水位を超え、氾濫警戒情報が発表さ れた。

丸亀市土器町の約1万人に“避難勧告”が発令された。

【情報伝達手段】

危険情報:テレビ、ラジオ、インターネット、メールなど

災害情報:内水被害発生(現地で確認)

避難情報:テレビ、ラジオ、防災行政無線、広報車など

【ステージ2】金曜日 夜遅く(午後10時頃)

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表 4.3 タイムラインの良いこと<第 2回WS(H27.11)の主な住民意見>

項目(できること) 住民意見(タイムラインの良いこと)

避難行動の判断

(避難の目安)

【自助】災害を想定して事前に行動がとれる/河川水位の上昇が思っていたより早 い事がわかる/行動の判断基準が明確になる

早めの避難 【自助】早めの避難をすれば安心/早く避難できる/自分が思う避難のタイミング では遅すぎることがわかる/初動で迷わない

安全な避難先の選択 【自助】自宅が割と安全な場所である/周辺に高い建物が多くあり避難が早くでき

時間軸を考えた準備・行

【自助】防災行動にもいくつかあり時間関係を考える/いつ,何をしなければいけ ないかが明確になる

【共助】避難の計画性/行動の確認ができる/時間軸で準備・行動する 災害時要配慮者への対応 【自助】要介護者を事前に助ける

【共助】高齢者が安心できる 家族や地域との連携 【自助】家族と共有できる

【共助】共通認識として役立つ/自分が気付かない所が理解できる/常に近所が仲 よくし声をかけ合う

事業所BCPによる対応 【共助】BCPで対応する

表 4.4 災害警戒期の防災・減災行動における課題

<第2回 WS(H27.11)・第 3回 WS(H27.12)の主な住民意見>

テーマ 対策項目 住民意見(防災・減災行動の課題)

情報 1) 複数の情報収集 手段の活用

【自助】防災情報メールが頻発して見なくなる/正確な情報収集が必要/リス クの高い災害に対応

【共助】個々の行政情報収集チャンネル確保

【公助への要望】多様な情報伝達手段の確立/防災ラジオの全戸配布/水位の 予測がほしい/連絡網の強化(一度に多人数が情報を把握する方法)

2) 避難の目安(避難 のきっかけ・タイミ ング)

【自助】避難指示が出るのを待つ/避難のタイミングが難しい

【共助】内水被害発生の確認方法/雨量から危険を判断できるように勉強/

「火の見やぐら」で災害情報発信

【公助への要望】土器川の水位やCCTVを見て判断したい/土器川の危険箇所 がわからない/明確なトリガーがほしい

3) 避難先や避難方 法の判断

【自助】川沿いの避難所に移動したくない

【共助】水害と土砂災害で避難所が違う(移動ができないかもしれない)/避 難所の確認(自治会毎)

【公助への要望】どこへ逃げるかアナウンスしてほしい/避難場所は適切に選 定する(場所によっては不適な所がないか)

4) 避難勧告等の周 知(広報活動,防災 訓練,避難訓練等)

【自助】今年の避難勧告で逃げなかった

【公助への要望】サイレンが聞こえない/避難指示の行政力を発揮してほしい

/急を要する短い言葉(アブナイ,キケンなど)を使った方が良い/空振り は良いこと(住民は怒ってはダメ)/子供に情報や災害の学習(WSなど)

連携 5) 連絡体制の確保

(自主防災組織の活 性化,地域と事業所 との連携)

【自助】近所付き合いが大切

【共助】平常時から付き合いのない人への連絡は困難/自治会や自主防災組織 の役割分担/丸亀市と地域コミュニティの連携があいまい/企業間の連携 の有無が影響/学校と行政との連携

6) 災害時要配慮者 への対応(災害時要 配慮者の避難支援)

【共助】災害時要配慮者の把握/共助する方への連絡方法があまりない

【公助への要望】要配慮者へ早めに連絡して避難準備をしてもらう

7) 避難・防災行動の 支援(防災計画や避 難計画,事業所BCP の作成)

【共助】防災計画や避難計画が必要/BCPは水害も検討/地域内企業への周知 方法

【公助への要望】広域避難とはどこまでか/避難所の収容人数も問題/避難所 での人との関わり方

その他 (実効)

⑧避難の事前準備 【自助】普段の準備(情報など)

【公助への要望】土のうの準備/避難所のカギをいつ開けるのか

⑨被害軽減のための ハード・ソフト整備

【自助】被害の最小化

【公助への要望】堤防の巡視強化

⑩応急対策 【共助】起こることは仕方ないので事後が大事