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第 3 章 土器川流域における危機管理対策検討の取組

3.2 検討プロセスの実践(場の合意形成プロセス,主体関与プロセス)

3.2.2 ワークショップを軸とした検討手順

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本研究では,WS検討を行うにあたり,U理論のプロセス(図2.22参照,以下「Uプロセ ス」と略記)を適用し,図 3. 9および以下に示すA~Iのステップによる検討プロセスを考 案した.

図 3.9 U理論を適用した検討プロセス(A~Iのステップ)

注)参考文献13)14) をもとに作成

この検討プロセスは,過去に経験したことのない事象に対して,参加者が現状認識を保留 し(A~B),討論を重ね(C),十分に対話を行うことによって「気づき(根源的な課題)」

を認識し(D),「共通の意志(目標,行動)」を見出し(E),新たな思考と行動を創造し

(F~H),新たな枠組みを実践(I)するUプロセスのステップで展開するものである.

本研究におけるWS検討の場では,上記A~Iのステップを踏まえ,表3. 3に示すように,

各年度の WS検討ステップの全てにおいて,「情報の共有」,「課題の認識と掘り下げ」,

「目的の共有」および「新たなアイデアの思考と掘り下げ」の検討ステップを組み立てた.

この検討ステップは,水害に対する危機意識が低い土器川流域において,参加者が十分に対 話を行うことにより,共通の意志(目標,方向性)を見出し,新たな思考と行動を創造する 意識変革~合意創発~未来創造のプロセスを実践したものである.

以下 1)~3)に,U プロセスを導入した WS 手法を用いて WS 検討を実施することによる DCP検討プロセスの特徴を示す.

1)「情報の共有(A~B)」~「課題の認識と掘り下げ(C~D)」では,「気づき」が生ま れ,地域にとって何が重要な課題かを明確化できる.

ダウンローディング

(過去のパターン)

解決策

過去の枠組みを「再現」

観る

(現状認識を 保留する)

感じ取る

(認識を広げる)

開かれた思考 Open Mind

開かれた心 Open Heart

新たな 枠組みを 実体化する

新たな 行動とプロセスを

具現化する

掘り下げる

(根源的な課題 を浮上させる)

プレゼンシング

(源につながる)

新たな 思考と原則を

創造する

目的 開かれた意志

Open Will

共有された認識

(共通の意志を見出す)

集団的行動

(目的を実行する)

課題

実践

【討論】

【対話】

【納得(腹に落ちる感覚)】

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2)「目的の共有(E)」では,参加者間での対話による意識変革を経て,「共通の意志」とし て合意創発がなされ,地域での自発的な行動につながるものとなる.

3)「新たなアイデアの思考と掘り下げ(F~H)」では,自らの手で地域の未来像を創造する イメージが見え,地域が連携すれば「水害に強い地域」になり得ることを確信できる.

この検討プロセスを経てDCPのアクションプランが作成でき,実践(I)へとつながる.

表 3.3 WS・部会の検討ステップと検討内容

平成25年度 広域住民WS

1)情報の共有 ・大規模水害による被害想定(広域的な地域特性・氾濫特性)

・防災関係機関の緊急活動

2)課題の認識 ・大規模水害で困ること(地域機能支障)

3)課題の掘り下げ ・困ることの掘り下げ(特に困ること)

4)目的の共有 ・目標と戦略(犠牲者ゼロ、被害の最小化)

5)新たなアイデアの思考 ・地域の生き残りのアイデア(地域機能継続のために実施すべき対策)

6)アイデアの掘り下げ ・意見集約(私たちの大規模水害対策) [自助・共助・公助]×[事前対策・応急 対策・復旧復興対策]

検討成果:「土器川における大規模水災害に適応した対策検討とりまとめ書(案)」

平成26年度 地区行政WS

1)情報の共有 ・モデル地区での被害想定(複合災害:内水氾濫+河川氾濫+土砂災害)

・モデル地区でのタイムライン情報 2)課題の認識 ・モデル地区での課題(情報、連携、実効)

3)課題の掘り下げ ・危険な場所や範囲、課題のある施設や場所の特定 4)目的の共有 ・“水害に強いまちづくり”の実践

5)新たなアイデアの思考 ・“水害に強いまちづくり”のためのアイデア(情報、連携、実効)

6)アイデアの掘り下げ ・重点対策の抽出・具体化

・複合災害を踏まえたタイムライン(防災行動計画)

・“水害に強いまちづくり”のためのアクションプラン(行動計画書)の作成 検討成果:「土器川モデル地区における“水害に強いまちづくり”のためのアクションプラン【行動計画書(案)】」

平成27年度 地区住民WS

1)情報の共有 ・モデル地区での被害想定(複合災害:内水氾濫+河川氾濫+土砂災害)

・行政による情報伝達(危険情報、災害情報、避難情報)

2)課題の認識 ・災害警戒期の時間軸に応じた防災行動イメージ(自助、共助、公助)

3)課題の掘り下げ ・災害警戒期の時間軸に応じた防災行動の課題(自助、共助、公助)

4)目的の共有 ・“命を守る”ための避難行動(早めの安全な避難)

5)新たなアイデアの思考 ・災害警戒期の具体的な防災行動の内容(私たちのタイムライン)

6)アイデアの掘り下げ ・災害警戒期の住民タイムラインの作成

・重点対策の抽出・具体化

検討成果:「土器川モデル地区における“水害に強いまちづくり”のためのアクションプラン【行動計画書(案)】」 平成27年度修正版 平成28年度 地区住民WS

1)情報の共有 ・想定最大規模降雨により想定される浸水想定区域

・防災関係機関による緊急活動内容

2)課題の認識 ・応急対策期の時間軸に応じた防災行動イメージ(自助、共助、公助)

3)課題の掘り下げ ・応急対策期の時間軸に応じた防災行動の課題(自助、共助、公助)

4)目的の共有 ・“命を守る”ための緊急避難行動

・早期の生活再建・応急復旧

5)新たなアイデアの思考 ・応急対策期の具体的な防災行動の内容(私たちのタイムライン)

6)アイデアの掘り下げ ・応急対策期の住民タイムラインの作成

・重点対策の具体化(追加)

検討成果:「土器川モデル地区における“水害に強いまちづくり”のためのアクションプラン【行動計画書(案)】」 平成28年度修正版

検討ステップ

検討内容

検討の場(部会)

検討ステップ 検討内容

1回 2回

検討ステップ 検討の場(WS)

検討内容 検討の場(WS)

3回 2回 1回

1回 2回 3回

1回 2回 検討内容

検討ステップ 検討の場(WS)

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(2)複数の災害リスクコミュニケーション・ツールの活用

WS 検討の場では,「情報の共有」~「課題の認識と掘り下げ」の段階で,参加者が如何 に正しく災害リスクを理解し,自分自身あるいは身の回りで起こり得る災害がどんなもので,

どんな困ることが起こり,どのように対処すれば良いかを考えことができるように,視覚的 かつ感覚的にわかりやすい情報が必要になる.そのためには,防災意識を高めるためのツー ル,災害が迫ってくる状況や被災した後の状況をリアルにイメージできるツール,地域の特 性を確認できるツール,自身の行動をイメージできるツール,意見交換の際に他者の意見が 整理できるツール,合意を得ることができるツールなどが必要である.

それらを目的とした様々な水害リスクコミュニケーション・ツールを表3. 4に示す.目的 に応じてツールを選択することになるが,本研究では,過去に大規模水害を経験したことの ない参加者を対象とするため,大規模水害が発生する危険性があることを理解してもらった 上で,広い視野で深く議論(対話)してもらうため,以下に示す 5手法を採用し,複数のツ ールを使って繰り返しコミュニケーションを図ることを提案し,実践した.

①クロスロード(アイスブレ イクで使用):災害時のジ レンマを体験(判断・行動 は一つではないことを認識)

②災害図上訓練DIG(地図併 用透明シート,旗立てグッ ズを使用):図面に透明シ ートをかぶせて異なる情報 を階層化,図面に旗を立て 視覚的に問題箇所を具体化

③KJ法(大型意見カードを使 用):参加者の意見を書い た大型意見カードを模造紙 に貼り,意見を見える化

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④災害アニメーション:内水 氾濫の後から河川氾濫が起 こり拡散する様子(時系列 変化)を動画で見える化

⑤タイムラインによる防災行 動シミュレーション:台風 接近をイメージしたステー ジを設定し,時々刻々変化 する状況を見える化,住民 タイムラインの作成

表3. 4 災害リスクコミュニケーション・ツール

注)赤字の手法:本研究で採用した手法(大規模水害が発生する危険性があることを理解してもら った上で,広い視野で深く議論(対話)してもらうため,複数のツールを使って繰り返しコミュ ニケーションを図る)

手法 内容

効果

防災 備考

意識 災害 リスク

地域 特性

他者の 意見

合意 形成 クロスロード ・防災ゲーム(ジレンマ体験)

・矢守克也らが防災教育素材

として開発 災害図上訓練DIG ・地図を使って防災対策を検討する訓

・旗立てグッズの活用

防災まち歩き ・ハザードマップを使って危険箇所や

避難方法を確認する体験 ・防災マップの作成

避難訓練 ・健常者や災害時要配慮者を対象とし

た避難訓練

・個別訓練タイムトライアル、

逃げトレなど(矢守克也らが 開発)

避難所運営ゲームHUG ・避難所で起こり得る状況の理解と適

切な対応の学習 ・避難所運営マニュアルの活

KJ法 ・意見カードの記述・分類により意見を

統合し、新たな発想を生み出す手法 ・川喜田二郎が考案した手法

ワールド・カフェ ・テーブルを移動しながら自由に意見

交換し、相互理解を深める手法 ・アニータ・ブラウンらが開発・

提唱 災害アニメーション ・想定される災害ハザード・リスクをイ

メージした動画の作成 ・災害シミュレーションが必要

タイムラインによる防災 行動シミュレーション

・時間軸に応じた災害シナリオを想定

し、防災行動のタイムラインの作成 ・環境防災総合政策研究機 構が三重県紀宝町で実施 防災ラジオドラマ ・地域で起こり得る災害を想定し、地域

が主体となって対応する内容のラジオ ドラマの作成

・防災科学技術研究所が「地 域発・防災ラジオドラマ」を制 作・放送

災害警戒期の 防災行動シミュレーション