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第 2 章 水災害に対する危機管理対策の現状と課題

2.1 水災害に対する危機管理対策の現状

2.1.2 地域継続計画( DCP )の概念

(1)災害レジリエンス(縮災)の概念

危機管理対策においては,「防災」「減災」対応に加えて,「縮災」対応が求められる.

一般に,「防災」は,計画規模による「ハザード(外力)」に対して被害をゼロにすること を目標として対策を進めるものである.さらに,「減災」は,計画規模を越える「ハザード

(外力)」に対して被害をできるだけ少なくすることを目標として対策を進めるものであり,

事前対応を主としたハード的およびソフト的な対策を講じることを意味する.

河田21) は,災害レジリエンス(Disaster Resilience)を「縮災」と訳している.「縮災」

は,図2. 2に示すように,被害(D)を小さくする「減災」に加えて,回復時間(T)を短くする ことにより,被害の全体規模(R)を小さくするものと考え,“被害が起こることを前提として,

早期復旧を目指す取組”と定義している.

「縮災」の要素には,「減災」の要素である「ハザード(外力)」「脆弱性」「対策」に 加えて,「政府から家庭までの共同体(コミュニティ)での人間活動」と「回復時間」が含 まれると言われている21)

図2.2 縮災(DISASTER RESILIENCE)の概念21)

また,林22) は,災害レジリエンスを“議論の対象となるモノが社会から期待される機能に 関する事業継続能力の向上”としてとらえ,図2. 3に示すように,災害レジリエンスの向上 には,二つの方法(予防力の向上,回復力の向上)があると示している.この二つの方法は,

河田が図2. 2で示す「縮災」の概念と同様である.予防力の向上は,被害が出ないように個々 の要素を強靱化(頑丈に:Robustness)し,システムを多重化(多重に:Redundancy)す

時間 平常の

レベル

回復時間T

100%

0%

減災(Disaster Reduction)

縮災(Disaster Resilience

R =Fn(D ,A,T)=予防力(D )+回復力(A,T)

R :レジリエン ス(被害の全体規模)

A:政府から 家庭までの共同体(コ ミュ ニティ)での人間活動 T:時間(回復時間)

D =Fn(H ,V,C)

D :ダメージ(被害) H :ハザード(外力) V:脆弱性 C:対策

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ることで機能損失を防ぐ方法によるものである.回復力の向上は,速やかな機能回復のため に復旧資源をできるだけたくさん集め(資源豊かに:Resourcefulness),個々の仕事に要す る時間を短縮(素早く:Rapidity)する方法によるものである22)

図 2.3 災害レジリエンスの模式図22)

(2)DCPの定義

DCPは,日本における造語であり,様々な捉え方があるが,上述した災害レジリエンス(縮 災)の考え方に基づく地域機能継続のための対応・計画である.また,DCPは,事業継続計 画(BCP:Business Continuity Plan)の考え方に基づく個別企業BCP,業界BCP,行政 BCPなどの相互連携を図り,地域全体でBCPを展開するものとも言える.

国土交通省は,DCPを“被災時に優先して復旧するべき箇所や予めハード対策を講じてお くべき箇所を事前に地域で合意形成のうえ決定し,発災直後から各組織が戦略的に行動でき る指針となるよう定めておく計画”と定義している23)

内閣府は,国土強靭化の視点から「地方強靭化BCP(仮称)」の作成促進の取組を進めて いる.この「地方強靭化BCP(仮称)」は,DCPに類似する概念であり,図2. 4に示すよ うに,“サプライチェーンを寸断させないために,地方ブロックごとに,国,地方公共団体,

民間企業などの関係者が協力し,①物流インフラの確保と②個別企業・企業グループ・業界 BCPとの相互連携を図ったBCP”と定義されている24)

本研究におけるDCPは,“災害レジリエンス(縮災)の考え方に基づく地域機能継続のた めの対応・計画として,組織間および自助・共助・公助の連携による実効性のある防災・減 災・縮災の行動計画を戦略的に定めておく計画”と定義する.

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図2. 4 地域強靱化BCP(仮称)の概要24)

(3)法律や防災計画における DCPの位置づけ

従来,防災計画(災害対応)では,「災害対策基本法」に基づき,国レベルの総合的かつ 長期的な計画である「防災基本計画」と,地方レベルでの都道府県および市町村の「地域防 災計画」を定め,それぞれのレベルで防災活動を実施してきた.しかし,東日本大震災にお いて,自助・共助・公助がうまくかみ合わないと大規模広域災害後の災害対策がうまく動か ないことが強く認識された.その教訓を踏まえて,2013(平成25)年の災害対策基本法の一 部改正では,自助および共助に関する規定が追加され,地域コミュニティにおける共助によ る防災活動の推進の観点から,市町村の一定の地区の居住者および事業者が行う自発的な防 災活動に関する「地区防災計画制度」が新たに創設され,2014(平成26)年4月1日に施行 された25)

また,東日本大震災の教訓を踏まえ,「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・

減災等に資する国土強靱化基本法」が2013(平成25)年12月11日に制定された.その中 で,基本理念として,「国土強靱化に関する施策の推進は,大規模自然災害等に備えるため,

事前防災・減災と迅速な復旧・復興に資する施策の総合的,計画的な実施が重要であり,国 際競争力向上に資する」とされている.また,地方公共団体の責務として,「地方公共団体 は,国土強靱化に関し,地域の状況に応じた施策を総合的かつ計画的に策定し,実施する責 務を有する」とされ,「都道府県および市町村は,国土強靱化に関する施策の総合的かつ計 画的な推進を図るため,国土強靱化に関する施策の推進に関する基本的な計画とする「国土 強靱化地域計画」を,国土強靱化地域計画以外の国土強靱化に係る当該都道府県および市町 村の計画等の指針となるべきものとして定めることができる」とされている.この法定計画 である「国土強靱化地域計画」とは,どのような大規模自然災害などが起こっても機能不全

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に陥らず,いつまでも元気であり続ける「強靱な地域」をつくりあげるためのプランであり,

強靱化に関する事項については,地域防災計画をはじめ,行政全般に関わる既存の総合的な 計画に対しても基本的な指針(アンブレラ計画)となるものである26).国土強靱化に関する 計画の体系を図2. 5に示す.また,アンブレラ計画のイメージを図2. 6に示す.

図 2.5 国土強靱化に関する計画の体系26)

図 2.6 アンブレラ計画のイメージ25)

一方,水災害分野では,1997(平成 9)年に「河川法」が大幅に改正され,これまでの工 事実施基本計画の制度を見直し,新たな計画制度を創設している.具体的には,工事実施基 本計画で定めている内容を,河川整備の基本となるべき方針に関する事項「河川整備基本方 針」と具体的な河川整備に関する事項「河川整備計画」に区分し,後者については,具体的 な川づくりが明らかになるように工事実施基本計画よりもさらに具体化するとともに,地域

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の意向を反映する手続きを導入している.「河川整備基本方針」は,長期的な視点に立った 河川整備の基本的な方針(基本高水,計画高水流量配分など)を定めるものである.「河川 整備計画」は,20~30年後の河川整備の目標を明確にし,個別事業を含む具体的な河川の整 備の内容を定めるものである27).これらの計画では,目標とする計画規模に対して「洪水を 河道内で安全に流すためにハード対策」を基本として計画を策定しており,「防災」の考え 方が中心になっている.

また,水災害分野では,河川整備をはじめとする治水施設の整備との両輪で水防活動が行 われている.水防活動は,「水防法」に基づき,河川管理者(国,都道府県)および水防管 理団体(市町村など)が「水防計画」を作成して,水防事務の調整およびその円滑な実施の ために必要な事項を規定し,洪水,内水(雨水出水),津波または高潮に際して,水災を警 戒・防御し,被害を軽減し,公共の安全を保持することを目的として実施している28).近年,

洪水のほか,内水・高潮により,現在の想定を超える浸水被害が多発していることから,「水 防法等の一部を改正する法律」が2015(平成27)年5月20日に公布,11月19日に完全施 行された.この水防法一部改正は,原稿の計画規模の洪水に係る浸水想定区域について,想 定し得る最大規模の洪水に係る区域に拡充して公表するとともに,想定し得る最大規模の内 水・高潮に係る浸水想定区域を公表する制度を創設するものである29).その後,関東・東北

豪雨(H27.9)や北海道・東北豪雨(H28.8)による甚大な被害が発生したことを踏まえ,「水

防法等の一部を改正する法律」が2017(平成29)年5月19日に公布,6月19日に施行さ れた.この水防法一部改正は,「水防災意識社会再構築ビジョン」の取組を中小河川も含め た全国の河川でさらに加速させ,洪水などからの「逃げ遅れゼロ」と「社会経済被害の最小 化」を実現し,関東・東北豪雨や北海道・東北豪雨のような被害を二度と繰り返さないため の抜本的な対策を講じるもので,大規模氾濫減災協議会の創設や,要配慮者利用施設におけ る避難確保計画の作成および避難訓練の実施などが義務化された30)

上述したように,危機管理対策は,「国土強靱化基本法」における基本理念のもと,「国 土強靱化基本計画」「国土強靱化地域計画」をアンブレラ計画として,「災害対策基本法」

に基づく「防災基本計画」「地域防災計画」「地区防災計画」,「河川法」に基づく「河川 整備計画」,「水防法」に基づく「水防計画」などの各種計画を連動させて効果的に実践す る必要がある.しかし,これらの計画は,国,都道府県,市町村,水防管理団体,地域コミ ュニティなどの組織がそれぞれで策定しているものであり,組織間および自助・共助・公助 の連携が十分に図れていないのが現状である.これらの計画を実効性のある計画とし,「強 靱な地域づくり」を実現するためには,DCPの策定と災害時にDCPに従った行動が有効で ある.

DCPは,法定計画ではなく,地域防災ステークホルダーが任意で調整・連携しながら,被 害が起こることを前提として,地域機能を継続するための計画を策定するものであり,組織