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第 5 章 流域連携による地域継続計画( DCP )策定手法の開発

5.4 今後の課題

本研究では,DCP 策定手法の開発として,DCP 検討プロセスの一般化を行い,「香川型 DCP検討方式」を提案し,「事業計画プロセス」および「地域連携プロセス」を実践してい る.この「香川型DCP検討方式」は,「地域連携プロセス」の中の「場の生成プロセス」に おいて,DCP検討のプラットフォームとなる「地域全体でのDCP検討組織」が設置できれ ば,他地域での応用が十分に可能と考える.本節では,「香川型DCP検討方式」における今 後の課題について述べる.

(1)アクションプラン(行動計画)の実践および見直し

本研究の成果として,河川行政と地域行政の間で,住民目線での共通の視点や必要な対 策について合意を得たことにより,「行動計画書(案)」を作成することができた.今後 は,この「アクションプラン(行動計画)」を実践し,PDCA サイクルによる計画の見直 しが必要である.

平成28年度から始まっている「水防災意識社会 再構築ビション」の取組では,「行動 計画書(案)」におけるアクションプラン(52個の対策案)のほぼ全てが「土器川の減災 に係る取組方針」に反映され,国・県・市町の各レベルでハード対策およびソフト対策の 実施が始まっている.この中で,地域住民と地域行政の協働による「地域防災力向上,防 災教育・訓練,情報共有の仕組みづくり」が具体的に進んでおらず,重点的に取り組むべ き課題である.

(2)実行組織の継続的な運営

平成 25~28 年度の4 年間で開催した広域・地区水害対策検討会の構成員の継続性を見

ると,事務局を担当した香川河川国道事務所では,人事異動により,4 年間を通して参加 できた人は13人中0人と一人もいない状況であった.また,市町の構成員で4年間を通し て参加できた人は,26人中3人とほとんどいない状況であった.一方,香川大学は6人中 4人,香川県防災士会は2人全員が4年間を通して参加できた.

このように,行政における検討会では,実行組織の継続性が大きな課題であり,地域連 携・協働による意識や体制を継続し,今後の展開を図ることの難しさがそこにある.土器 川における大規模水害対策検討では,地域に根付いた香川大学や香川県防災士会が継続的 に参加することにより,効果的に地域連携・協働を推進する役目を果たした.また今後,

アクションプランを実践する過程においても,香川大学や香川県防災士会が果たす役割は 大きい.さらに,地域防災ステークホルダーが中心となって地域連携・協働を推進する必

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要があり,そのためには,「DCP協議会」と連携した枠組みによる実行組織を継続する必 要があると考えている.

(3)共助による地域連携の強化

地域住民の視点からは,平成 27~28 年度の地区住民 WSで挙げられた課題の中で,最 も多かったのは,共助による地域連携が十分に機能していないことであった.WS 検討で は,共助による重点対策として,災害時要配慮者や避難者の避難支援体制の整備,地域コ ミュニティや自主防災組織の横の連絡体制(連絡体制)の強化,地域コミュニティや自主 防災組織の活性化,事業所との連携強化などを挙げ,具体的な行動内容を検討し,アクシ ョンプランに反映した.今後は,「共助による地域連携の強化」の実効性を高めることが 課題であり,共助による重点対策について,継続的なWS 検討を行い,具体的な活動計画 を作成する必要があると考えている.

土器川モデル地区である「土器コミュニティ」では,香川県防災士会の協力のもと,「地 区防災計画」の作成に向けた取組(WS検討)を平成29年度から開始している.この取組 は,地域コミュニティが自主的に防災・減災・縮災への対応を図ろうとする新たなチャレ ンジであり,共助による地域連携の強化が期待される.今後は,WS検討の実施にあたり,

丸亀市・香川河川国道事務所・香川大学が連携し,最新情報の提供や災害リスクコミュニ ケーション・ツールの技術支援など,積極的な支援を行う必要がある.

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参考文献

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9) 徳永雅彦,中野晋,武藤裕則,佐藤塁:迅速で安全な住民避難行動を促進する「防災行動 計画」の策定,土木学会論文集F6(安全問題),Vol.71, No.2, pp.I_177-I_184, 2015.

10) 吉井博明,田中淳:災害危機管理入門 防災危機管理者のための基礎講座,弘文堂,

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11) 山村武彦:新・人は皆「自分だけは死なない」と思っている,宝島社,2015.4.17.第1刷.

12) 広瀬宏忠:きちんと逃げる.~災害心理学に学ぶ危機との闘い方~,アスペクト,2011.9.6.

第1版第1刷.

13) 内閣府(防災担当):地区防災計画ガイドライン ~地域防災力の向上と地域コミュニテ ィの活性化に向けて~,2014.3. http://www.bousai.go.jp/kyoiku/chikubousai/

14) 西沢雅道,筒井智士:地区防災計画制度入門 内閣府「地区防災計画ガイドライン」の解 説とQ&A,NTT出版,2014.7.17.初版第1刷.

15) 磯打千雅子:土器川流域における気候変動適応した強靭な社会づくりDCP(地域継続計 画)策定プロセスにみる多様な地区防災計画展開の可能性 -地域継続計画DCPと地区防 災計画の関係に着目して-,地区防災計画学会誌,第5号,2016.2.

16) NPO法人 PCM Tokyo : PCMハンドブック(計画編),2016.2.1.第5版.

17) 磯打千雅子,白木渡,岩原廣彦,井面仁志,高橋亨輔:大規模水災害に対する地域継続計 画(DCP)のあり方と地区防災計画制度の活用,土木学会論文集F6(安全問題),Vol.70, No.2, pp.I_31-I_36, 2014.

18) 内閣府 中央防災会議 防災対策実行会議 水害時の避難・応急対策検討ワーキンググルー プ:水害時における避難・応急対策の今後のあり方について(報告),2017.3.

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