§ 8.2.1
復習
—— Carnotサイクルの熱効率から導かれる
Clausiusの関係式
Carnotサイクルならば
†720,高温熱源からの入熱
QH(>0),高温熱源の温度
TH,低温熱源への放熱
QL(> 0),低温熱源の温度
TLのあいだに
, Clausiusの関 係式
QH
TH = QL
TL (7.22)
が成立した
†721.ここに
,両辺は正値であるが
,便宜上
,熱が正であるときを入熱
,負であるときを放熱と定義しなおす
.そこで
,放熱を
, QfL ≡ −QLとおきなおす
(QL >0かつ
QfL<0).すると
, (7.22)は
,QH TL
=−QfL TL
(8.5)
と書き換えられる
.簡単のため
,以下では
, QfLを
,改めて
,単に
QLとかく
†722.§ 8.2.2
大きなサイクルを小さな
Carnotサイクルへと分割
任意のサイクル
,例えば円形のサイクルを考える
.左端の熱平衡状態
Aから出 発し
,状態
Iを経由し
,右端の状態
Bへと至り
,状態
IIを経て
,状態
Aへと戻る
†723.†720Carnotサイクルは可逆サイクルであった.
†721Carnotの定理の(i)より,理想気体の制約は既に取り払われている(§7.4).
†722つまり,巡り巡って,同じ記号を使うわけだが,混同に注意を要する. 同一視が気になる者は,異 なる記号を用いればよいだろう.
†723これらの各記号は,一旦忘れてよい. 登場には今しばらく待っていただくこととなる.
これを
, N個の小さな
Carnotサイクルを用いて近似することを考える
.すなわ ち
,断熱線
2本と
, “短い
”等温線
2本からなるサイクル
N個の総和を考える
†724.N
個おのおのの
Carnotサイクルについて
, Clausiusの関係式が成立する
: QHiTHi
|{z}
入熱
=−QLi TLi
| {z }
放熱
(i= 1,2,· · · , N) (8.6)
ここに
,左端から右端へと向かって
,i= 1から
i=Nまで番号を付けて
,各
Carnotサイクルを区別した
.具体的に書き下すと
,QH1 TH1
=−QL1 TL1
(8.7) QH2
TH2 =−QL2
TL2 (8.8)
· · · QHN
THN =−QLN
TLN (8.9)
である. たとえば, (8.7) は, 左端の小さな
Carnotサイクルに対して成立する
Clau-siusの関係式である. 順次, 視線を右へと動かせ, 右端の
Carnotサイクルまで辿り 着くと思えばよい
†725.両辺の総和をとると
,次式をうる
:∑N i=1
QHi
THi =−
∑N i=1
QLi
TLi (8.10)
§ 8.2.3
断熱線の共有と相殺
たとえば
,i= 1のサイクルの断熱膨張の断熱線は
, i= 2のサイクルの断熱圧 縮の断熱線と
“両端を除いて
”一致する
†726.したがって
,各
Carnotサイクルは
1本の断熱線を
(両端を除いて
)共有している
.N → ∞
の極限をとるとき, 各断熱線が順次相殺され, 左端と右端の断熱線だ けが残る.
†724図は板書する. 「小さな」とは,断熱線ではなく,等温線が小さな(短かな)サイクルを指すもの とする.
†725この箇所の理解は,文章だけでは困難であるがゆえに,図をよく眺めよ.
†726必ず矢印をかけ. そうすれば,相殺が視覚的にわかる.
§ 8.2.4
微小等温線への極限
—— Clausius積分の登場
2
本の等温線は有限の長さをもつが
,これらを
,ともに
,微小な長さへと近づけ
る
.すると
,各
Carnotサイクルは
,2本の微小な等温線および有限の長さの断熱線
から構成される
.すなわち
, N → ∞の極限をとるとき
,(i)
等温線の長さが微小になるがゆえに
,入熱と放熱の値も微小量すなわち
d′Qとなる
†727.(ii)
不連続であった各等温線の接点が連続につながる
.その結果
,等温線は
,元の サイクルを描く曲線へと収束する
†728†729.(iii)
隣同士の
Carnotサイクルで共有していた断熱線の両端が一致し
,その断熱線
は相殺される
†730.以上の結果
,左辺は
,以下のような線積分となる
:Nlim→∞
∑N i=1
QHi THi =
∫
A→I→B
d′Q
T (8.11)
簡単のため, 右辺では, 高温を意味する添え字
Hを略し, 同時に, d
′Qが入熱も放 熱も表現できるようにした. つまり, 正負どちらもとりうる
†731.積分経路は, 左端 の状態
A (始点
)から
“状態
Iを経由して
”右端の状態
Bまで至る過程
A→I→Bで あった
†732†733.いっぽう
,右辺は
,右端の状態
Bから
“状態
IIを通り
”左端の状態
Aまで至る
†727しかしながら,温度は何の影響も受けないことに注意せよ. そもそも,熱源とは, どれだけ熱を 供給しても温度が不変な理想的な外界であったではないか.
†728隣同士の等温線の温度変化は滑らかとみなせるほどに小さい.
†729全ての等温線が滑らかにつながる——これは,微小な長さの曲線が無限個集まって有限の長さ の曲線を形成する—— 1/∞ × ∞= 1とみなせる. たとえば,デルタ関数の議論に似ている(応 用数学).
†730[注意]等温線と異なり,断熱線の長さは有限であり続ける. ただし,この極限操作にともなって, 長さは変化する.
†731dU や d′Qなる記号は,微分であるから,必ず正負両方の値をとる. したがって,われわれが何 も考えずとも, 自動的に正負すなわち入熱か放熱かを判定してくれる. そして, 本節はじめで, 有限量としてのQが正負どちらもとりうるように定義し直したことも思い返そう.
†732ここで, 決して, A→Bと書いてはならない. 理由はすぐにわかる.
†733[数学]これはベクトル解析でいうところの線積分である.
過程
B→II→Aに沿う線積分となる
†734:− lim
N→∞
∑N i=1
QLi TLi
=−
∫
B→II→A
d′Q
T (8.12)
(8.11)
から
(8.12)を引くと
,左辺は
(8.10)よりゼロとなる
.右辺は
,∫
A→I→B
d′Q T +
∫
B→II→A
d′Q
T =
∫
A→I→B
+
∫
B→II→A
| {z }
A→I→B→II→A (一周)
d′Q
T =
I d′Q
| {z }T
Clausius積分
= 0
(8.13)
可逆サイクルの
Clausius積分
可逆過程から構成されるサイクルでは
Clausius積分
I d′Q
T
がゼロとなる:
I d′Q
T = 0 (8.14)
ここまでの要点と注意事項をまとめておこう
†735:1)
小さな
Carnotサイクルの各等温線の長さをゼロに近づける極限において
,全て
の
Carnotサイクルの総和は, 元のサイクルへと収束する.
2)
等温線の長さは微小であるが
,断熱線の長さは有限である
.それゆえ
,全ての入 熱と放熱は微小量である
†736.3)
断熱線の全てが相殺される
†737.4)
不可逆サイクルに対しては
,次式が成立する
(後述
):I d′Q
T <0 (8.15)
†734左辺と右辺でそれぞれ経由点が状態Iと状態IIと異なることに注意せよ. 一周したかったから, こう決めたのである.
†735周回積分の定義は天下りとした. ベクトル解析における線積分の考え方にしたがう.
†736[重要]これが,エントロピーの定義式の分子の d′Qの出所である.
†737[注意]左端の状態A近傍の断熱圧縮線,および,右端の状態B近傍の断熱膨張線を除く.