つぎの
3点を示したい
.(i)
「η
A> ηCが誤りであること」—— 不可逆サイクルの効率
ηAは
†849, Carnot†845諸君自身は,本当にそのレベルに達しているだろうか. 各自検討せよ.
†846[重要質問]「CarnotサイクルC を逆向きにするのではなく,任意のサイクルAを逆向きにす
ればよいではないか」と反論するかもしれない. しかしながら,これは大きな誤りである. 逆向 きにした時点で,Aの任意性の一部を排除してしまっているではないか. 手持ちの道具のうち, 逆向きにしたり(可逆性の利用),好き勝手に設定できるのは, Carnotサイクルだけなのである. Aの任意性の限界はどこにあるのか,Aに潜む拘束は何か——これらの疑問に可能な限り汎用 性の高い解答を得たいがゆえに,A は最も自然な形で設定する方がよい. だからこそ,正統的な 配置をしたのである. 以上の意味で, この問題設定は必然性を伴う——とはいっても, むろん, C 以外を逆向きにする証明も(面倒ではあるが)可能だろう. ただし,Aが可逆サイクルである ことが示されていない限り, Aを逆向きに回すことはできない. すなわち, A の逆サイクルA¯ 自体が存在しない. ゆえに,Aとは別の逆サイクル(冷凍庫もしくはクーラー)B を用意せねば ならない.
†847[重要]熱源も系に含めることに注意を要する. なお, 本資料では,サイクルを動かす物質は, 作
動流体(作業物質や作動物質など)といい,系とは別物である.
†848本節の証明を理解せぬまま,丸暗記で来週の試験答案を誤魔化そうとする学生が一定数想定さ れるが,そのような学生に単位を与える気もなければ,そもそも単位取得に値しない. その意味 で,試験において,このような観点から「考えてもらう」可能性が高い.
†849ここで,天下りに, Aを不可逆サイクルと仮定したことに違和感を感じる必要はない. もしも, A が可逆サイクルであったと判明したならば,そのときに手のひらを返せばよい.
効率
ηCよりも小さい
.これが示されれば
,ηA≤ηCが示される
†850.(ii) ηA = ηC—— A
が可逆サイクルならば, その効率
ηAは, Carnot 効率
ηCに 等しい. いいかえれば, 可逆サイクルでありさえすれば, それだけで, 効率は ただ一つに定まる
†851.(iii) ηA< ηC—— A
が可逆サイクルではない
,すなわち不可逆サイクルであるな らば
,その効率
ηAは
, Carnot効率
ηCよりも小さい
.§ 11.5 証明 (i) 「 η
A> η
Cは誤り」
ηA> ηC
に潜む矛盾の解消
「η
A> ηC =⇒熱力学第二法則に反する」を示せ.
もしも,
ηA > ηCを仮定するならば, その熱効率の定義式
(11.4)より,
QHA < QHC (11.5)
がしたがう
.このとき
,QHA−QHC(= QLA−QLC)が負値をとる
†852.したがって
,低温熱源から高温熱源へと, 正の熱
QHC−QHA(=QLC−QLA)が流れ続ける
†853.これは,
Clausiusの原理
(熱力学第二法則)が許さない
†854.したがって,
ηA>ηC
なる前提が誤りであったのである
.ゆえに
,次式を認めざるを得ない
†855:ηA ≤ηC (11.6)
†850[重要・問題意識]「なぜ(i)の証明だけでは不十分なのか」と思うかもしれない. たしかに, (i)
を示せば,ηA≤ηC でなければならないことに納得がゆく. 一見,それだけで十分に思えるかも しれない. しかし,それが物理的に何を意味するのか,とくに,等号と不等号が,それぞれいかな る条件下で成立するのか——このような無数の疑問を一つ一つ解消すべく, (ii)と(iii)の証明 を行うのである. 事実,ηA≤ηC を深く考察する中で,Aの正体も,次第に明らかとなってゆく.
†851[重要な結果]Carnot効率は,作動流体の性質などに依存しない. すなわち,Carnotサイクルを
作動させるのにあたって, 空気でも水でもガソリンでも軽油でも, 何を用いてもよいのである.
†852等号付き不等号ではないことに注意せよ.
†853[再注意]本節では,入熱も放熱も,全て正値として定義されていることに注意せよ. これに違和
感を感じる者や,入熱を正として定義したいものは,適宜,記号の定義を改めればよい.
†854むろん, 諸君が熱力学第二法則を認めない立場をとるのならば, ηA > ηC も許容される. しか し,本講義では,熱力学第二法則に疑いを持たず認める立場をとる.
†855等号付き不等号であることに注意せよ.
さて
,次節からが本番である
†856.§ 11.6 証明 (ii) 「 η
A= η
C」
Carnot
効率は可逆効率に等しい
「
ηA=ηC =⇒Aは可逆サイクル」を示せ
.
ηA = ηC
なる仮定
——すなわち
Aの効率が
Carnot効率に等しいのならば
, (11.4)より
,QHC =QHA, QLC =QLA (11.7)
が結論である
.したがって
,全体系
A+ ¯Cトータルで考えると
,正味の入熱も正味 の放熱もゼロである
(図示の上で理解せよ
).全体系
(2つの熱源および
2つのサイクル
)は何の変化もうけない
.したがっ て
,任意のサイクル
Aは逆行可能
——いいかえれば
,可逆サイクルである
.問題
69.本証明の結果
,全体系
A+ ¯Cのトータルで考えれば
,一見
,何の変化も 残していないように見える. しかし, それだけでは理解には不十分である.
Aと
C¯に分割して, 入熱, 放熱, 仕事をそれぞれ図示し, それぞれの出入りを注意深く観察 せよ
.問題
70.逆の命題「
Aは可逆サイクル
=⇒ ηA=ηC」を示せ
†857.[
ヒント
]せっかく
, Aが可逆サイクルであるのだから
,逆サイクル
(ヒートポンプ
) A¯として動かしてみよ
.そして
, ¯Aが作動するための仕事を作るために
, Carnotサ イクル
Cを動かしてみよ
†858.すなわち
,合成サイクル
A¯+Cを考えよ
.[まとめ]
サイクルが可逆的であることと, その効率が
Carnot効率に等しいこと
は同値である
†859.†856前節は, 大胆にいえば,当たり前の事項に,敢えて証明を与えておいたといえるだろう.
†857[注意]本節の命題の「逆」であって,「裏」でも「対偶」でもない.
†858[なぜCarnotサイクルを使うのか]必然性はないかもしれない. しかし,その正体が明るみに
なっており,理論最大熱効率を取るという究極性ゆえに,比較にも有用だからである.
†859以上の結果は,作動流体が何であるかや,熱機関の構造などには一切影響しない.
§ 11.7 証明 (iii) 「 η
A< η
C」
Carnot
効率に勝るものはない
「
ηA< ηC =⇒Aは不可逆サイクル」を示せ
.
ηA< ηC
なる仮定の下では
,QHA> QHC, QLA > QLC (11.8)
がしたがう
.やはり
,合成サイクル
A+ ¯Cのトータルで考えて図示すると
,正味の 入熱と放熱はともに正である
.これは
, Clausiusの原理
(第二法則
)を満足する
.すると
,合成サイクル
A+ ¯Cは
,不可逆サイクルであるといえる
.ここで
,不 可逆サイクルの定義を思い返そう
†860, A+ ¯Cのように, 「複数のサイクルからな る合成サイクルが不可逆サイクルであるための条件」は以下のいずれかである:
a)
合成サイクル全てが不可逆サイクルから構成される
.b)
合成サイクルが可逆サイクルと不可逆サイクルの合成として構成される
.これにしたがうと
,いま
,A+ ¯Cが不可逆サイクルで
, ¯Cが可逆サイクルである
.な らば
,答えは
1つしかない
.そう
——Aに残された可能性は
,不可逆サイクル以外 にありえないのである. したがって,
Aは不可逆サイクルと結論づけられる.
問題
71.やはり
,Aと
C¯に分けて
,入熱
,放熱
,仕事をそれぞれ図示せよ
.問題
72.命題「
Aは不可逆サイクル
=⇒ ηA< ηC」を示せ
.†860不可逆サイクルとは,不可逆過程からなるサイクルであった. しかし, その一部に,可逆過程が 含むことを許容してくれるものであった. ここで述べる定義は,これまでの“不可逆サイクル”
の定義を, “不可逆合成サイクル”に拡張したものである.