位質量あたり
,あるいは
,単位モル数あたりの気体に固有の定数を抜き取ることに 尽きる
.より一般的にいうと
, “単位
♣♣あたり
”の物性値の抽出が本質である
.そ の結果の一例が
,質量ベース気体定数やモルベース気体定数なのである
.ここまでの注意点と要点を以下にまとめよう:
• Boyle–Charles
の法則
(3.3)の物理的意味は
,圧力と容積の積が温度に比例す ることにある. それ以上ではないのだから, その比例定数に何を選ぶかは本 質ではない. モル数
(物質量)でも質量でも, 諸君の好きなものを使えばよい.
•
しかし
,本講義では
,原則モル数は現れない
†389.理由を一言で述べる
——工学応用をゴールに見据えるわれわれにとっては
,質量の方が便利だからで ある
†390.モル数とは原子や分子を眺めるに適した道具であるが
,熱力学とは
「社長の立場であって分子などの細部
(平社員
)に興味を寄せない」と強調し たばかりである
.だからこそ
,単位モル数あたりよりも
,単位質量あたりの方 が便利かつ扱いやすいのである
†391†392†393.•
工学の場では
,物質の流入や流出を伴う系に対峙することが多い
†394.力学を 基盤におく工学分野においては
,物質の量を表すのには
,モル数よりも質量 が適していることは
,すでに体感済みであろう
.•
理想気体の状態方程式には, 他にもさまざまな表現があるが
†395,それらを網
†389[補足]それならば,本節の意味はどこにあるのかと疑問視するだろう. 次項§3.4.2で回答する.
†390[例]蛇口から流れる水, ジェットエンジンに流入する空気,鉄の塊の加熱などを考えよう. モル 数はわかるだろうか. わからない. われわれ(工学システム学類)にとっては, 質量の方が圧倒 的に便利である.
†391[補足]物理学類で学ぶ(純粋物理学としての)熱力学では,モル数を好んで用いる. 物理学類が対 象にするのは, 量子力学——ミクロな世界——であって,われわれ(工学)とは対極である. そ もそも, 諸君は1年次でモル数に出会っただろうか. 出会っていない.
†392[注意]諸君が高校で学んだのは, 理想気体の状態方程式としては式(3.14)の形, および, モル ベース気体定数(3.15)であるが,本講義ではこれらを使わない.
†393[注意]高校の教科書や,理学系の熱力学の書物では,R0を単に「気体定数」と書くことが多く, また,質量ベース気体定数R に相当するものが現れないので注意を要する. 単なる慣習の差異 にすぎず,次元さえ確認すれば混同はありえない. このように,大学の講義あるいは学問におい ては,用語の定義がバラバラであることが多いことに注意する労力を要するが,逆に言えば,自 分で定義できる自由度があり, それを魅力に変えることも可能である.
†394[用語]これを開いた系といい, 熱力学IIで学ぶ. [応用]ジェットエンジンに流入する気体など, 航空宇宙,燃焼,推進,高速気流などの分野に属する. 熱力学Iは基礎物理学に属するが,このよ うな工学応用先を考えることも重要であって,目指す応用側から, (3.7)を積極的に使う意図も 理解できるだろう.
†395[補足]たとえば, 分子や原子の詳細に踏み込む立場の者が好む表現として, pV =N kT という
羅的に記憶することは本質ではない
.圧力と容積の積が温度に比例すること が本質であって
,係数はおまけにすぎない
.必要に応じて
,自らが注目してい る過程を扱いやすい形へと
,自由自在に変形できる力がついたならば
,それ は, まさに真の学力といえるだろう.
基礎
12.理想気体の状態方程式
(3.14)の意味するところは
, Boyle–Charlesの法則 に他ならない
.これを数式を用いて説明せよ
.§ 3.4.2
気体定数の求め方
最後に「いかに気体定数の値を計算するのか」を学ぶ
†396.質量
m [kg],モル数
n [mol],分子量
M [g/mol]の間には
†397†398m=nM (3.16)
が成立する
.なお
,上式
(3.16)では接頭辞
kの有無
(kgか
gか
)は気にしなかった
. (3.16)を使うと
,理想気体の状態方程式
(3.7)を
pV =mRT =nM RT| {z≡nR0T}
これを利用
(3.17)
まで変形できる. 最右辺から,
R0と
Rの間に次式の成立がわかる:
R = R0
M (3.18)
この式は
,質量ベース気体定数
R [J/(kg·K)]を
,分子量
M [g/mol]とモルベース
(一般
)気体定数
R0 [J/(mol·K)]から与えてくれる意味で
,極めて強力である
.な ぜならば
, (i)R0は気体の種類によらない完全な定数
(既知
)であり
, (ii)分子量
M表現もある(記憶不要). ここに,k はBoltzmann定数,N は分子の個数(分子数)である. しか し,こう天下りに書かれたとしても,やはり,これまで通りpV ∝T 以上の物理を言及しないこ とを確かめよ.
†396[注意]理屈は単純だが,記号の多さゆえに,丸暗記で学習する者が誤答しやすい箇所である.
†397[用語 (注意)] 高校化学においては, 分子量(molecular weight) は無次元数(nondimensional
number)であるとか, 分子量とモル質量を区別したかもしれないし,同一視したかもしれない.
しかしながら,本講義では(また熱力学の成書では),分子量はg/molの次元を有すると定義を 改めて, モル質量は用いない. 慣例上,質量の接頭辞キロ k が付かないことに注意されたい.
†398[誤答]単位として,通常,質量としてkgが,分子量としてg/molが用いられるため,kgと gの 不統一がある. 103を掛ければよいだけとはいえ,具体的な数値を代入する際には注意を要する.