§ 2.3 第一法則の数式表現
問題 3. 仕事の定義から出発して , (2.19) を導け
ある
†284.(iii)
準静的過程にここまでこだわる理由はどこにあるのか
.風船を膨らませたり
,お湯を沸かしたり, ふつう過程は急激に行われる
(準静的ではなく非平衡な過程). すると, 過程の瞬時瞬時において熱平衡状態に戻ろうとすることがわ かっている
(熱力学
II).この戻ろうとする過程は
,複雑怪奇であるがゆえに
,数式で扱うのは難しい
.これを避けるべく
,過程の瞬時瞬時を状態量で表現 できるように
,熱平衡の成立を仮定するのである
.状態量とは
,巨視的に
(熱 力学的に
)制御しやすい強力な道具だからである
.(iv)
力のつりあいの式
(2.17)は
,系が外界にする仕事を導くためならば不要であっ たが
,外界が系にする仕事を導くためには極めて重要な道具となる
(問題
4).本講義の以降の部分で扱うのは
,全て
,準静的な熱力学である
†285.基礎
6.準静的過程とは何を仮定しているのか
.理解したことを自身の言葉で説明
せよ
.つぎに
,上式の誘導過程の細部までを丁寧に理解し
,それを
,一切を参照する
ことなく
,自身のノート等に再現せよ
†286.§ 2.5.1
仕事の積分
熱平衡状態
1から
2に至る準静的な過程に対して
,準静的な微小仕事
(2.19)の 両辺を定積分する
†288.有限の仕事
W1→2の定義式
(2.10)に
(2.19)を代入すると
,W1→2 =
∫ 2
1
pdV (2.21)
となる
†289†290.しかしながら, 現時点では, 右辺の積分を計算することはできない.
p
が
Vにどのように依存するか
,すなわち
, pがどのような関数かがわからないか ら
,定積分を実行できない
.このままでは
,応用上重要な量である仕事
(左辺
)を知 ることができないという意味で
,式
(2.21)を役立たないと批判してもよい
.準静的仕事の積分計算を具体的に実行するためには
, pの関数形を与える必要 がある
.今の段階では
,系に何の仮定も課していないのだから
,抽象的表現しか得 られないのは当然の帰結ともいえる
†291.とくに
§5において, 理想気体を例示して, 準静的仕事を具体的に計算することとなる.
§ 2.5.2 p–V
線図という幾何学的な仕事算出法
(2.21)
の左辺の仕事
Wとは,
p–V平面内において, 曲線
p=f(V)と
V軸で 囲まれた面積を与える
†292:W =
∫ 2 1
p(V)dV (2.23)
†288[用語]本資料では,式(2.19)すなわち準静的過程における仕事を「準静的仕事」とよぶ.
†289定積分の範囲は,やはり, [V1, V2]とは書かずに,V を省略して[1,2]と書く. これを, [状態1,状 態2],すなわち,体積V に限らず,ある状態に対応する全ての状態量と捉えてよい.
†290当たり前と思うかもしれないが,積分して丁寧に確かめよ.
†291[指針]逆に,多数の具体的な仮定を持ち込んでいるのに,あまりにも抽象的な結果が得られたり, あるいはその逆に対峙したときには,自身の思考や計算過程を批判的に眺めることで,自身の誤 りを自身で正すことができるはずである.
†292[比較]つぎの定積分と見比べよう(板書の図も参照): 解析学で学んだように, S =
∫ x2 x1
y(x)dx (2.22)
は,x–y 平面内の定義域 x1 ≤x≤x2 において,曲線y =f(x)と x軸で囲まれた面積(area) を与える.
[補足]この定義域を[x1, x2]と書いてもよい. なお,この定義域に対応する値域は, [y1, y2]ある
いは[y2, y1]である(あるいは,と書いたのは,y1 とy2 の大小関係が不明だからである).
縦軸に
pを
,横軸に
Vをとった平面を
, p–V線図
†293†294とよぶ
.たとえ積分 計算ができなくとも
(あるいは積分計算の検算の意味で
),幾何学的手法に頼って
,仕事を計算可能とする強力な道具である.
問題
5.圧力
pが容積
Vに依存しない場合
,すなわち圧力が定数
p0である場合を 考える
(定圧過程
)†295.容積が
V1から
V2まで準静的に膨張するとき
,系が外界に する仕事は
, p0(V2−V1)となる
. (i)これを積分計算によって示せ
. (ii)これを幾何 学的に示せ
†296. (iii) p–V線図中に仕事を表す面積を描きこめ
.[(i)
の解答と補足
†297]式
(2.21)はこのままでは役立たないと述べた
.しかし
,もし
pが一定値
(定数
) p0という特殊な状況があるならば
†298,準静的仕事
(2.21)はつぎ のように計算できる
†299†300:W1→2 =
∫ 2 1
pdV =
∫ 2 1
p0dV =p0
∫ 2 1
dV =p0(V2−V1) (2.24)
等号
1つをとっても
,各等号の意味合いが全く異なることに注意を要する
†301.†293[重要注意]ふつうは,x–y グラフというと,縦軸に xを,横軸に y をとる. しかしながら,p–V 線図は, 縦軸にpを,横軸にV を取るので,注意されたい. 例年, 5名以上の誤記が見受けられ るので, 馬鹿にすべきではない.
†294[用語]圧力pを“示してくれる”意味で,示圧線図(indicator diagram)とよばれることもある.
†295[用語]圧力が一定の過程を, 定圧過程あるいは等圧過程(isobaric process)という. 「定圧」と
「等圧」に異なる定義を与える書物も稀にあるが,本資料では定圧と等圧は同義とする.
†296p–V 線図において長方形で表されて幾何学的に計算できる.
†297[指針]問題の解答は,淡々と述べるのではなく, 意義や考え方の道筋をも含めて述べるので, 適 宜,取捨選択して利用されたい.
†298[数学]一定値という意味合いのとき,慣例にならって,一定をにおわせる下添え字ゼロをつける.
†299[重要]例年, 定圧でないにもかかわらず,pを積分記号の外に出す者が多いので注意を要する.
その原因に「準静的過程では圧力が一定」という誤解の浸透が挙げられるだろう.
†300[注意]むろん,このような簡潔かつ簡単な状況は限られており,机上の空論ともいえるだろう.
†301定義,公式代入,数値代入, 四則演算,微積分の意味など千差万別である. 逆に言えば,これを理 由に,等号記号を批判してもよいかもしれない(応用数学の講義でも述べた).