表現
(3.3)は欠点を抱えている. すなわち, このままでは, 右辺の定数の正体が
わからないのである. だからこそ,
pVT = const.| {z≡mR}
定数だから好きに定義
(3.6)
†365[計算法] Charlesの法則でも, Boyle–Charlesの法則でも,分数を扱う際には,分子(numerator)
や分母(denominator)に,温度T の数値を代入するときに, Kに変換することが必須である. こ
れを怠ると致命傷に至る(理由を考えよ).
†366むろん, 逆の過程2→1と訳してもよい.
†367[補足]もちろん, 実験誤差(experimental error)が含まれるので, (定量的に,数値として)厳密 な意味で比例するはずはない.
†368[発展]実は,統計力学を使えば証明できるが,熱力学の守備範囲外である. 本資料の「証明でき ない」という注意書きは, あくまでも熱力学の講義としての言い訳にすぎない.
と
,最右辺で定数を具体的に定義する
. pV /Tは定数なのだから
,これをわれわれ の好きな定数と好きな定数の積で表すことは
,われわれの勝手である
.しかしなが ら
,疑問が浮かぶ
——なぜ
,わざわざ系の質量
mを前に出して
,新しい定数
Rと の積を作るような, 奇妙な置き方をしたのか. これを次項
§3.3.1で回答しよう.
ところで, われわれが, 以後良く見かけ頻用するのは, つぎの表現である:
pV =mRT (3.7)
これは
,実は
,§1.3.6で述べた
, (理想気体に限らない
)一般的な状態方程式
(1.4)(1.5)の関数形
fと
gを定めたことを意味する:
p= mRT
V =g(V, T) ⇐⇒ f(p, V, T) = 0 (3.8) 2
つ目の式は
,「
p, V, Tの間に関数関係は
“ない
”(右辺の
“ゼロ
”)」すなわち「
3つの状態量は独立ではない」
,より噛み砕くと「独立な状態量はたった
2つ
(1つ 目の式
)」であることを教えてくれている
.基礎
11.理想気体に対して
, (3.8)とその説明を理解し
,自身の言葉でまとめよ
.§ 3.3.1
質量ベース気体定数
(3.6)(3.7)
において
, mRの正体はまだ不明である
.質量
mは定数であるか
ら
†369,質量依存性を除いた定数を抽出すべく
(次元があうように
),定数
Rを見出 したのである
†370†371.定数
R [J/(kg·K)]は, 質量ベース気体定数とよばれ
†372,おのおのの理想気体 に固有の定数値である
.その計測値は物性値として整備されている
†373.†369[注意]本講義では質量を定数とみなす. 一般に,熱力学においても, 質量は定数の場合が多い.
†370[重要・考え方]大学キャンパス内の総エネルギーを計算あるいは実測できるだろうか. 無謀で
ある. どうするか. 単位面積あたりあるいは単位学生あたりならば,極めて容易となるだろう.
†371[そこで]熱力学の最重要な考え方の一つに,“単位♣♣ あたりの量”を抽出することが挙げられ る. われわれは,工学応用をゴールに見据えるのだから,「♣♣=質量m」が有用といえるだろ う. 事実,質量は, 健康診断の体重測定を思い起こすまでもなく, 日常生活に浸透している概念 である. つまりは, [♡♡/kg]なる次元の量を作ることが本質である. こう考えれば,質量m を, あえて R の外に出す回りくどい式変形に,何の疑いもなくなるだろう.
†372[重要注意]単に「気体定数」とよぶこともあるが,高校の「気体定数」とは全く異なる. 混同し てはならない.
†373[補足]便覧あるいは高校化学の教科書などを見るとよい.
§ 3.3.2
気体定数の次元
質量ベース気体定数
Rの次元
[J/(kg·K)]を記憶することはすすめない
†374.なぜならば
,圧力
,容積
,温度
,質量の次元さえ知っておれば
†375,理想気体の状態方 程式
(3.7)を
R = pV
mT (3.9)
と変形して, 次のように, すみやかに逆算できるからである:
Pa·m3
kg·K = N/m2·m3
kg·K = N·m
kg·K = J/(kg·K) (3.10)
上式を見ると, 注意すべきは圧力と仕事の次元程度といえるだろう
†376†377.問題
13.手順
(3.10)の手順にならって, 圧力, 容積, 温度, 質量という, われわれに
馴染み深い物理量の単位だけを手掛かりに
, Rの単位
(次元
)を再現せよ
.†374[失敗例]これを暗記しようとして,計算問題の誤答に陥る者は,例年相当数見受けられる.
†375[指針]これら4つの次元を忘れることはありえないだろう. このように,無数にありえる知識の 中で, これこれを記憶しておく, それそれはその場で再構成する,という戦略を立てて,知識の 要不要を自身で適切に分類することが重要である.
†376[指針] 等号で結ぶ際には, 左辺と右辺の次元が等しいかに常に気を配ることを怠ってはならな い(繰り返す). 熱力学の場合は,これに加えて, 両辺が微小か有限か, 状態量か非状態量かなど にも気を配り,神経をすり減らす困難がある.
†377圧力と仕事の次元を知らない理工系大学生は存在しない. このように, 一般市民でもわかるほ どに簡単化することが(とくに熱力学においては)重要なのである.
§ 3.3.3
強度変数による表現
理想気体の状態方程式
(3.7)を批判したい
.なぜか
.容積
Vという系の大きさ に依存する示量変数を含む点において扱いにくいからである
†378†379.そこで
,p V|{z}
不便
=mRT (3.7)
の両辺を質量
mでわり
,比容積の定義
v =V /mを思い返すと
(§1.3.5の式
(1.2)),pv =RT (3.11)
とかける
.さらに
,密度の定義
ρ=v−1 =m/Vをも思い返せば
,p=RρT (3.12)
とかける
†380.両式
(3.11)(3.12)ともに
,全てが強度変数のみ
(p, T, v, ρ)で表現さ れている点は特筆すべきである
.(3.7)(3.11)(3.12)
に現れる全ての量は状態量である
(確かめよ
).質量と気体定 数は定数である一方で
†381,圧力や容積や温度や内部エネルギーやエンタルピーが 変数であることに注意を要する
†382.問題
14.理想気体の状態方程式の
3通りの表現
(3.7)(3.11)(3.12)の相互関係を確 認せよ
.すなわち
, (3.7)から出発して
(3.11)(3.12)を導いたり
,異なる出発点から 出発して
,残り
2つを導け
†383.†378[§1.3.4で詳述済]既出の状態量のうち,圧力と温度を強度変数といい,容積と内部エネルギーを
示量変数という. たとえば,温度のように教室内で一様な(教壇付近も学生付近も天上も)系の 量に依存しないものを強度変数といい,逆に,エネルギーや容積のように量に依存するもの(諸 君の容積と教室全体の容積を比較してみよ)を示量変数という. しかし,示量変数を質量でわれ ば,強度変数を作ることができる(§1.3.5).
†379[例]水道の蛇口をひねって水を出し続けるとき, どれだけの水が流れているかを知ることがで きるだろうか. 無謀に決まっている. 無限大の大きさのバケツあるいは洗面器が必要だからで ある. しかしながら,単位時間あたりならば可能である(これを流量という). これが,“単位♣♣
あたり”の重要性である.
†380[数学]むしろ,p=ρRT と書くことの方が多いが,この右辺は,変数×定数×変数なる順序で あり,金川には受け入れがたい. そこで,Rが定数であることを主張する意味で,順序を入れ替 えた. いうまでもなく,単なる好みであって,どのような書き方でもよい.
†381[基礎]定数は“動く”はずがないのだから,状態量であることは確かめるまでもない.
†382[用語]この意味で,これらの状態量を,状態“変数”とよぶこともある(熱力学II).
†383[誤答多数]容積,比容積, 密度, 質量という4つの基礎的な状態量の間の関係に立ち戻るだけで
ある. しかし,単位(次元)の重要性を軽視する者は,あまりにも単純な誤答に陥る例が多い.