第 3 章 衝突回避減速度を用いた衝突リスクの 評価 *評価*
3.2 改良型衝突回避減速度の導出
3.2.1 顕在的衝突回避減速度 (ODCA)
はじめに,先行車が現在の加減速度を維持した場合に,先行車との衝突を回避するため に必要な減速度である顕在的衝突回避減速度(ODCA: Overt DCA)の算出法を述べる.な お,位置・速度・加速度などの各種変数は2.2.1節の定義に倣うものとする.
1) 基本式
先行車は時刻0より加速度ap0の等加速度運動を,自車両はドライバの反応時間Tの間 は加速度af0の等加速度運動をし,その後は加速度af Tの等加速度運動を行うと仮定する.
このとき,時刻t (> T)における先行車の車速vp(t)と位置xp(t),自車両の車速vf(t)と 位置xf(t)は次となる.
先行車:
⎧⎪
⎨
⎪⎩
vp(t) =vp0+ap0t xp(t) =xp0+vp0t+1
2ap0t2
(3.1)
自車両:
⎧⎪
⎪⎪
⎪⎪
⎪⎨
⎪⎪
⎪⎪
⎪⎪
⎩
vf(t) =vf0+af0T+af T(t−T) xf(t) =xf0+vf0T +1
2af0T2 + (vf0+af0T)(t−T) +1
2af T(t−T)2
(3.2)
2) 反応時間内に衝突しないための条件
DCAはドライバの反応時間を考慮するために,反応時間T 秒中に衝突が起こる場合は FCWSによって警報を提示しても衝突を回避できないことになる.反応時間T秒以内に 衝突しないための条件は,T 秒後の自車両の位置が先行車の位置よりも後方であること,
すなわちT 秒後の相対位置が負となればよい.
xr(T) =xf(T)−xp(T)<0 (3.3) この不等式に式(3.1), (3.2)を代入すると次の不等式を得る.
xr0+vr0T+1
2ar0T2 <0 (3.4)
ただし,xr0 =xf0−xp0,vr0=vf0−vp0, ar0 =af0−ap0である.
以下本節では,式(3.4)を満たすとき,先行車が加速または等速走行している場合(図 3.1(a), (b))と減速している場合(図3.1(c), (d))に分けて,先行車との衝突を回避する ために必要な自車両減速度の下限値をDCAとして計算する手法について説明を行う.図 3.1に示す四つの場合すべてにおいて,ドライバの反応時間は1.2秒とし,反応時間内は自 車両が等速度運動(af0 = 0 (t < T))を行うものとして計算している.さらに,図3.1(a)
∼(c)は2車両が衝突している図となっており,図3.1(d)は2車両が減速して停止した後 に後退し続けた際(図中の点線部)に衝突する図となっている点に注意されたい.
36 第3章 衝突回避減速度を用いた衝突リスクの評価
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90
0 1 2 3 4 5
X [m]
Time [s]
xf0= 0 [m], xp0= 12 [m]
vf0= 60 [km/h], vp0= 30 [km/h]
af0= 0 [m/s2] (t ≦1.2 [s]) afT= -3.12 [m/s2] (t > 1.2 [s]) ap0= 2[m/s2]
FV PV
(a)ap>0
0 10 20 30 40 50 60 70
0 1 2 3 4 5
X [m]
Time [s]
xf0= 0 [m], xp0= 20 [m]
vf0= 60 [km/h], vp0= 30 [km/h]
af0= 0 [m/s2] (t ≦1.2 [s]) afT= -3.47 [m/s2] (t > 1.2 [s]) ap0= 0 [m/s2]
FV PV
(b) ap0= 0
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50
0 1 2 3 4 5
X [m]
Time [s]
xf0= 0 [m], xp0= 10 [m]
vf0= 60 [km/h], vp0= 50 [km/h]
af0= 0 [m/s2] (t ≦1.2 [s]) afT= -7.5 [m/s2] (t > 1.2 [s]) ap0= -3 [m/s2]
FV PV
FV (stop) PV (stop)
(c)ap0 <0, T < t1 <−avp0p0
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50
0 1 2 3 4 5
X [m]
Time [s]
xf0= 0 [m], xp0= 15 [m]
vf0= 60 [km/h], vp0= 60 [km/h]
af0= 0 [m/s2] (t ≦1.2 [s]) afT= -6.6 [m/s2] (t > 1.2 [s]) ap0= -5 [m/s2]
FV PV
FV (stop) PV (stop)
(d)ap0 <0,−vap0p0 < t1
図3.1: Four cases of collision
3) 先行車が加速または等速走行している場合
時刻t(> T)における相対位置xr(t)は式(3.1), (3.2)より次となる.
xr(t) = xf(t)−xp(t)
= 1
2(af T −ap0)t2+ (vr0−(af T −af0)T)t +
xr0+1
2(af T −af0)T2
(3.5)
不等式(3.4)が成り立つとき,ドライバの反応時間T 秒以降の時刻tにおいて,自車両
と先行車が衝突しないための条件は,二つの曲線xf(t)とxp(t)が交わらない,すなわち xr(t) = 0が解を持たないことである.つまり,xr(t) = 0の判別式が負となればよい.
xr(t) = 0の両辺を2倍した後に判別式D/4を求めると次式を得る.
D/4 = v2r0+ 2ap0xr0+ (2vr0+ar0T)af0T
−2xr0+ 2vr0T +ar0T2
af T (3.6)
ここで,不等式(3.4)が成り立つことより,上式右辺第4項の括弧内は負となる.したがっ
て,式(3.6)の判別式が負となる条件より次式を得る.
af T < v2r0+ 2ap0xr0+ (2vr0+ar0T)af0T
2xr0+ 2vr0T+ar0T2 =af1 (3.7) ただし,上式におけるaf1は正の値となりうる.それは,加速する先行車に追従する際に,
自車両はある一定の加速度以下であれば加速し続けていても先行車に衝突しないといった 状況である.このような場合には,ODCAはαo = 0とする.
図3.1(a), (b)に示すように,先行車が加速または等速走行している場合(ap0 ≥0),時刻 Tにおける先行車速度が自車両速度以上となるとき,すなわちvp0+ap0T ≥vf0+af0Tで あれば自車両が減速しなくても衝突しないので,ODCAはαo = 0とする.vp0+ap0T <
vf0+af0T の場合には,式(3.7)で求めたaf1を用いてαo =−af1とする.
αo=
⎧⎪
⎪⎨
⎪⎪
⎩
0 (ap0≥0, vp0+ap0T ≥vf0+af0T)
−af1(ap0≥0, vp0+ap0T < vf0+af0T)
(3.8)
4) 先行車が減速している場合
つぎに,先行車が減速している場合(ap0<0)について考える.図3.1(c)のように,自 車両の方が先に減速を完了するような場合には,自車両と先行車の位置を示す二つの曲線 xf(t), xp(t)が交差しないという条件に相当する式(3.7)を満たすときに衝突を回避できる.
38 第3章 衝突回避減速度を用いた衝突リスクの評価
二つの曲線が交差しても2車両の衝突が回避できる場合がある.それは図3.1(d)に示す ような場合である.2曲線の頂点より右側の直線部分は車両が停止し続けている状態を示 しており,車間距離が空いていることから衝突を回避していることを表している.しかし ながら,本来この部分には右下がりの二つの曲線(図中点線部)が存在し接している.
ここで,図3.1(c)のように2曲線がT < t≤ −avp0p0 で接する条件を求める.2曲線の交 点は式(3.5)を用いてxr(t) = 0のtについての解である.この解に,2曲線が接する場合 には自車両減速度がaf0 =af1を満たすという条件を代入すると,
T < t1=−2xr0+vr0T
ar0T +vr0 ≤ −vp0
ap0 (3.9)
という条件式が得られる.
つぎに,式(3.9)が成立しない場合のODCAを求める.このとき自車両が先行車に衝突 しないためには,上述のように2車両停止時に車間距離がゼロよりも大きくなればよい.
i)時刻Tにおける自車両速度が0より大きい場合:この場合において,自車両および先行 車が減速を開始してから停止するまでに進む距離はそれぞれ−(vf02a+af Tf0T)2,−2avp02p0 であり,
次式を満たせばよい.
xf0 + vf0T +1
2af0T2−(vf0+af0T)2
2af T < xp0− v2p0
2ap0 (3.10) この式より,次式を満たすような自車両加速度となるときに先行車との衝突を回避できる.
af T < (vf0+af0T)2 2xr0+ 2vf0T +af0T2+vap02
p0
=af2 (3.11)
ii) 時刻Tにおける自車両速度が0以下の場合:この場合は反応時間T秒中に自車両が停 止することを意味するので,この場合のODCAはαo= 0とする.
以上より,先行車が減速する場合のODCAは次となる.
αo=
⎧⎪
⎪⎪
⎪⎪
⎨
⎪⎪
⎪⎪
⎪⎩
−af1 ap0<0, T < t1≤ −avp0p0
−af2 ap0<0,−vap0p0 < t1, vf0+af0T >0 0
ap0 <0,−vap0p0 < t1, vf0+af0T ≤0
(3.12)
5) ODCAの計算フロー
図3.2に,各条件でのODCAの計算方法をフローチャートで示す.
Does a collision happen within a reaction time?
Is the preceding vehicle decelerating?
0 0
ap <
Is the preceding vehicle faster than the following vehicle?
1
o af
α = − αo=0
Is the following condition satisfied?
0
1 0
p p
T t v
< ≤ −a
2
o af
α = −
1
o af
α = − No
Yes
Yes
Yes Yes
No
No No
Unable to calculate ODCA (Unable to avoid a collision) Start
2 0
1 2
0 0 0+v T+ aT <
xr r r
T a v T a
vp0+ p0 ≥ f0+ f0
o 0 α = Does the following
vehicle stop within a reaction time?
Yes
0 0
0+a T≤ vf f
No
図3.2: Method for calculation of ODCA