第 4 章 衝突回避減速度に基づく前方衝突警報 システムが運転行動に与える影響 *システムが運転行動に与える影響*
2) 本研究で提案する DCA-FCWS
4.3 実験結果と考察 : 走行データ
FCWSを提示する条件2, 3では,走行前にFCWSについて実験者が説明を行い,FCWS に慣れるための練習走行を行った.ただし,FCWSの説明は「衝突の危険性が高いほど バーが上に向かって伸びる」,「赤い線を超えると警報が鳴る」などFCWSの動作につい て説明するものであり,TTCおよびDCAの物理的な意味,FCWSの具体的な活用方法 などは説明していない.練習走行では,表示系および警報の動作について自動走行による デモを見せた後に,実験参加者自身の操作で走行を行わせた.各条件での走行ごと,およ び実験終了後に4.4節で述べるアンケートを実施した.
58 第4章 衝突回避減速度に基づく前方衝突警報システムが運転行動に与える影響
0.00 2.00 4.00 6.00 8.00
w/o TTC DCA Brake-on ODCA [m/s2]
* * *:p<.05
*
Condition:
0.00 2.00 4.00 6.00 8.00
w/o TTC DCA
Brake-on TTC [s] **
*:p<.05
Condition:
0 2 4 6
w/o TTC DCA
Number of collision
* *
*:p<.05
Condition:
(a) (b) (c)
図4.4: Experimental results
でいたことがわかる.
図4.5, 4.6 は,減速パターンごとに衝突回数とブレーキオン時のTTCを示したもので
ある.両者について走行条件と減速パターンの2要因の分散分析を行った結果,ともに交 互作用が有意であった(F(6,90) = 3.45, p < .01およびF(6,90) = 3.84, p < .01).走行 条件の単純主効果は前者ではパターン1において有意であり (F(2,30) = 11.67, p < .001), 後者ではパターン1およびパターン3において有意であった(F(2,30) = 12.08, p < .001 およびF(2,30) = 6.20, p < .01).多重比較の結果,いずれにおいてもDCA提示条件と TTC提示条件,DCA提示条件とシステム無し条件との間に有意水準5%で有意な差が見 られた.
以上より,パターン1においてDCA-FCWSがとくに有効であることがわかる.パター ン1では先行車は80[km/h]まで加速した直後に急減速を行うため,先行車が加速している 間は自車両も加速しながら追従する.本実験で用いたDCAは自車両の加速度を反映する ので,自車両が加速している状況においては先行車の急減速に対して即座に警報を提示で きる.このことによってドライバの回避行動が早まった結果,衝突回数の低減につながっ たと推察される.TTC-FCWSについてもパターン1において衝突回数の低減が認められ
るが,DCA-FCWSほど顕著ではない.先行車が加速している状況では自車両の速度は先
行車より遅くなると考えられるが,TTC (=−xr/vr) は相対速度vrが負の状況,すなわ ち自車両の速度が先行車の速度よりも遅い場合には負の値となり衝突リスクを評価するこ とができない.したがって,先行車が急減速を開始しても自車両の速度を下回るまでの間
はTTC-FCWSは警報を提示できないことになる.このことが,衝突回数の低減効果の違
いを生んだ一つの要因と考えられる.
パターン1における各条件の衝突回数の平均は,システム無し条件:1.38, TTC提示条 件:0.94, DCA提示条件:0.50であり,DCA提示条件ではシステム無し条件の約4割,
TTC提示条件の約半分と,全パターンで見た場合よりも減少率が大きいことがわかる.
0 1 2 3
w/o TTC DCA
Number of collisions *
Pattern:
Condition:
1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4
:p<.05
* *
*
* *
*
*
* ** *
** *
図4.5: Number of collisions
0.00 2.00 4.00 6.00 8.00 10.00
w/o TTC DCA
Brake-on TTC [s]
*
Pattern:
Condition:
1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4
:p<.05
* *
* *
* * * *
* *
* *
* *
*
* *
図4.6: Brake-on TTC [s]
4.3.2 先行車および警報に対する反応時間
図4.7 (a)は,評価対象区間における先行車の減速に対する反応時間の平均値を走行条
件ごとに示したものである.ただし,「先行車の減速に対する反応時間」とは,先行車が減 速を開始してから実験参加者がブレーキを踏み込むまでの反応時間である.DCA提示条 件では,他の2条件と比べて反応時間が0.1秒程度減少しているが,有意な差は見られな かった.山田ら[12]の試算によると,警報によってドライバの反応時間を0.4秒短縮でき れば追突事故は約3分の1に削減できるとされており,わずかな減少であっても事故削減 効果は大きいといえる.
図4.7 (b)に,TTC提示条件およびDCA提示条件における警報反応時間を減速パター
ンごとに示す.ただし,「警報反応時間」とは,警報が提示されてから実験参加者がブレー キを踏み込むまでの反応時間とした.DCA提示条件ではTTC提示条件に比べて明らかに 警報反応時間が長くなっており,実験参加者がブレーキを踏もうと意図する前に警報が提 示された可能性が高い.一方,TTC提示条件ではパターン1の警報反応時間が負の値と
60 第4章 衝突回避減速度に基づく前方衝突警報システムが運転行動に与える影響
-0.20 0.00 0.20 0.40 0.60 0.80 1.00 1.20 1.40
Reaction time for alarm [s]
Pattern:
Condition:
1 2 3 4
1 2 3 4
TTC DCA
0.00 0.20 0.40 0.60 0.80 1.00 1.20 1.40 1.60 1.80
w/o TTC DCA
Reaction time for PV [s]
Condition:
(a) (b)
図 4.7: Reaction time
なっているが,これは多くの実験参加者が警報が提示されるよりも前にブレーキを踏み込 んだことを意味している.また,パターン2∼ 4においても警報反応時間の平均が0.3[s]
を下回っている.20名の実験参加者に対して警報反応時間を調べた事例[13]では,警報 反応時間の平均は0.73[s]であり,0.3[s]を下回ることはなかった.このことから,TTC提 示条件では多くの実験参加者が警報が提示される前にブレーキを踏もうと意図した可能性 が高い.
なお,DCA提示条件における警報反応時間の平均値は0.79[s],上側2σ値は1.11[s]で
あり,3.2.3節においてブレーキ踏み込み前の反応時間を1.2秒とする仮定は妥当であった
といえよう.
4.3.3 DCA-FCWSの運転行動への影響
図4.8に,DCA提示条件における実験参加者8(女性)のパターン4(1回目)の走行 データを示す.パターン4では,先行車は50[km/h]で60秒以上の等速走行を行った後,
0.4[G]の急減速を行うが,等速走行中のPDCAの推移に特徴的な傾向が見られる.4.2.1
2)項で述べたように,DCA-FCWSはPDCA> 4.0[m/s2]の場合に黄色の枠を提示する が,図4.8から実験参加者8はPDCAが4.0[m/s2]を超えないように,すなわち枠が表示 されないように速度を調節していたことが読み取れる.ただし,4.2.5節で述べたように実 験参加者に対しFCWSの活用方法について特別な指示はしていないことに注意されたい.
このような運転行動を取ったと思われる実験参加者が,実験参加者8を含めて4名存在 した.表4.1は,これらの実験参加者についてPDCAが4[m/s2]を超えていた時間の総和
(すべての評価対象区間での総和)を示したものであり,DCA提示条件において大幅に減
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9
0 10 20 30 40 50 60 70
0 10 20 30 40 50 60 70 80
PDCA [m/s2]
Velocity [km/h]
Time [s]
Following vehicle velocity Preceding vehicle velocity PDCA
図 4.8: Driving behavior of Participant #8 (Velocity and PDCA)
表4.1: Total time of PDCA >4 (Four participants) [s]
Participant w/o TTC DCA
#3 182.0 240.2 167.9
#8 237.8 192.1 156.4
#11 149.7 219.8 97.5
#15 152.4 194.4 99.2
Ave. 180.5 211.6 130.3
表 4.2: Number of collision (Four participants) Participant w/o TTC DCA
#3 3 0 0
#8 5 5 1
#11 1 1 0
#15 1 2 0
Ave. 2.50 2.00 0.25
少していることがわかる.全実験参加者での平均は,システム無し条件:207.8[s], TTC提 示条件:227.9[s], DCA提示条件:204.5[s]であったことから,このような傾向は特定の実 験参加者の間でのみ見られるものであるといえる.また,表4.2に示すようにDCA提示 条件において衝突回数も減少している.
62 第4章 衝突回避減速度に基づく前方衝突警報システムが運転行動に与える影響
これらの実験参加者については,枠が出ないようにPDCAを低く抑える運転行動が先 行車との車間距離の維持に貢献し,結果として衝突回数の減少につながった可能性が高い といえる.4.2.1 1)項のDCA-FCWSを用いた先行研究[3]の実験においても,一部の実験 参加者がPDCAを低く抑えるような運転行動をしており,本研究で提案したDCA-FCWS でも同様の効果が得られたものと考えられる.ただし,これら4名を除く12名の実験参 加者の衝突回数の平均は,システム無し条件:2.42, TTC提示条件:2.92, DCA提示条件:
1.75であり,上述の4名と比較してDCA提示条件での衝突回数が多くなっているが,両 グループのDCA提示条件における衝突回数に統計的な有意差は認められなかった.