第 6 章 衝突回避減速度を用いた安全運転評価 指標の提案指標の提案
6.4 計算機シミュレーション
6.4.1 主要記号および変数の定義
2.2.1節の定義に倣って,FV, PV, BVの位置,速度,加速度をそれぞれxf,vf,af,xp, vp,ap,xb,vb,abとして,PVとFVもしくはFVとBVの相対位置をxr1,xr2とする.
6.3.2節で述べた,評価対象を判定する閾値をθo,f =θp,f = 2.0[m/s2],θa= 0.5[m/s2], IDの計算に用いる定数θp,f− , θp,f+ を4.0, 8.0[m/s2]とし,FVおよびBVが出せる最大の減 速度をdf,max =db,max = 6.0[m/s2]とした.また,3.2.3節に倣って,ドライバの想定反 応時間Tr(=Tr,f =Tr,b)は次のように設定した.
Tr=
⎧⎪
⎨
⎪⎩
1.2 [s] (br = 0) 0.2 [s] (br >0)
(6.13)
ただし,brはブレーキペダル開度(0∼1)を示す.
6.4.2 指標I:適切な減速(IF)
FVがPVに追従しているときにPVが急減速を行う状況を考える.両車の速度vp,vf
および車間距離−xrを図6.2上図に示す.vp=vf = 50[km/h], −xr1= 25[m]の追従走行 を行っているときに,走行開始後4秒の時点からPVが3.92[m/s2] (=0.4[G]) で減速して 停止する.それに対して,PVの減速から1.2秒後(case1)と1.7秒後(case2) に,FVが
0.4[G]の減速を開始し衝突を回避する2通りの状況について考える.
PVに対するFVのODCA (αo,f)とFVの減速行動の適切さを示す指標IF の推移を図 6.2下図に示す.PVが急減速を開始した4.0秒の時点でODCAは閾値θo,f = 2.0[m/s2] を超えており,ドライバの想定反応時間である1.2秒が経過した5.2秒の時点から指標IF
の評価対象となっている.FVが想定反応時間で減速するcase1では,FVが減速を開始し た時点からODCAの値は減少し,6.44秒の時点でθo,f = 2.0[m/s2]を下回る.すなわち IF の評価対象は5.2秒から6.44秒までの間となる.この間ODCAの値はFVの実減速度 0.4[G]を常に下回っているためf(t) = 1となり,評価対象時間におけるf(t)の平均値IF
も1となる.
一方,想定反応時間より遅い1.7秒後にFVが減速するcase2においては,減速を開始 していない5.2秒から5.7秒の間でf(t) = 0の状態が続くのでIF = 0となっているが,減 速開始後はf(t) = 1となりIF の値は時間が経過するとともに上昇する.その後,ODCA が2.0[m/s2]を下回る8.19[s]の時点で評価が終了して,このシミュレーション区間におけ る評価値はIF = 0.83となる.
96 第6章 衝突回避減速度を用いた安全運転評価指標の提案
0 2 4 6 8 10
0 10 20 30 40 50 60
Time [s]
Velocity [km/h], Relative distance [m] 4.00[s] 5.20[s] 5.70[s]
(case1)
vp (case2)
-xr1 (case1) (case2)
-xr1
(case1, case2) vf v
f
0 2 4 6 8 10
0 2 4 6 8 10
Time [s]
α o,f [m/s2 ]
0 2 4 6 8 100
0.2 0.4 0.6 0.8 1
IF
(case2) αo.f
IF 5.20[s]
6.44[s] 8.19[s]
(case2) IF (case1)
(case1) αo.f
図 6.2: Proper deceleration (IF)
以上のように,PVとの衝突回避に必要な減速を速やかに行ったcase1の方が,回避行 動が遅れたcase2よりも評価が高くなっており,減速行動の適切さを評価しているといえ よう.
6.4.3 指標II:後続車に配慮した減速 (IB)
FVの後方からBVが追従する状況を考える(図6.3上図).走行開始後4秒の時点から 2通りの減速度 (case1: 2.94[m/s2] (=0.3[G]) , case2: 4.9[m/s2] (=0.5[G])) で15[km/h]
まで減速するFVに対し,BVがその1.2秒後に2.45[m/s2] (0.25[G])で減速を行う状況に ついて指標IBを計算する.
BVのODCA (αo,b)と指標IBの推移を図6.3下図に示す.case1については前節の指標 IF と同様に,評価対象区間全域でb(t) = 1となるのでIB= 1となる.case2の場合には,
評価対象区間となる5.2秒から5.99秒の間でBVの実減速度 (0.25[G])がαo,bを下回って おり(b(t)<1),評価対象区間では最終的にIB= 0.64となる.
0 2 4 6 8 10 0
10 20 30 40 50 60
Time [s]
Velocity [km/h], Relative distance [m]
vb (case1, case2) (case1) vf
vf (case2)
(case1) -xr2
-xr2(case2) 4.00[s] 5.20[s]
0 2 4 6 8 10
0 2 4 6 8 10
α o,b [m/s2 ]
0 2 4 6 8 100
0.2 0.4 0.6 0.8 1
Time [s]
IB
(case1) αo,b(case2)
(case1) αo,b
5.20[s]
7.30[s]
5.99[s]
IB
(case2) IB
図 6.3: Deceleration with consideration for BV (IB)
すなわち,BVに配慮してFVが緩やかな減速を行ったcase1よりも急減速を行ったcase2 の方が評価が低くなっており,評価の妥当性が示されている.
6.4.4 指標III:無理のない加減速 (IA)
路面摩擦係数が0.2の滑路面上でFVが減速を行う状況について考える(図6.4上図).
ドライバが路面状況を考慮したブレーキ入力(減速度指令値ai=0.2[G])を行うcase1と,
限界を超えるブレーキ入力(ai=0.3[G])を行うcase2について指標IAを計算する.
図6.4下図に減速度指令値(ブレーキ入力)と指標IAの推移を示す.路面状況に応じた 無理のないブレーキ操作を行なっているcase1では評価が高くなるが,路面摩擦の限界を 超えたブレーキ入力を行うcase2は評価が低くなっている.
98 第6章 衝突回避減速度を用いた安全運転評価指標の提案
0 2 4 6 8 10
0 10 20 30 40 50 60
Time [s]
v f [km/h]
vf (case1, case2)
0 2 4 6 8 10
0 1 2 3 4 5
Time [s]
Brake input [m/s2 ]
0 2 4 6 8 100
0.2 0.4 0.6 0.8 1
IA
Brake input (case2: 0.3 [G]) Brake input (case1: 0.2 [G])
(case1) IA
(case2) IA
図 6.4: Stable acceleration/deceleration (IA)
6.4.5 指標IV:安全な車間距離 (ID)
初期車間距離40[m],相対速度10[km/h]でFVがPVに接近する状況を考える(図6.5 上図).速度(vp,vf)=(30, 40)のcase1と(50, 60)のcase2について指標IDを計算する.
図6.5下図はPVに対するFVのPDCA (αp,f)と指標IDの推移を示す.case1,case2と もにPDCAが閾値θp,f = 2.0[m/s2]を超えた時点でIDの評価対象となり,θ−p,f = 4.0[m/s2] を上回るとIDの評点が下がる.PDCAが大きくなるほどd(t)の値は小さくなり,θp,f+ = 8.0[m/s2]を超えるとd(t) = 0となる.また,相対距離,相対速度が同じであっても速度 が高いほどPDCAの値が大きくなることから,走行速度に応じた車間距離の安全度を適 切に評価できることがわかる.
0 2 4 6 8 10 10
20 30 40 50 60 70
Velocity [km/h], Relative distance [m] (case2) vf
(case1, case2) -xr1
(case1) vf
(case2) vp
(case1) vp
Time [s]
0 2 4 6 8 10
0 2 4 6 8 10
Time [s]
α p.f [m/s2 ]
0 2 4 6 8 100
0.2 0.4 0.6 0.8 1
ID
αp,f (case2)
(case1) αp.f
0.61[s]
8.95[s]
6.18[s]
6.86[s]
ID(case1) (case2)
ID θp,f+
θp,f -θp,f
図6.5: Safe inter-vehicular distance (ID)
6.4.6 総合的考察
6.4.2∼6.4.5節より,本章で提案する四つの指標が,それぞれ対象とする運転行動の安
全度を適切に評価していることがわかる.これら4指標はすべて加速度を基にした無次元 化量であるという点で類似性があり,これらを同時に用いることで安全運転を多面的に評 価できると考えられる.
ただし,各指標の評価値や,評価値の計算に用いる関数や閾値がドライバからみて妥当 であるかどうかは計算機シミュレーションでは検証できない.たとえば,リスクが顕在的 な場面に用いる指標IF およびIBは,ODCAが閾値を上回った場合に評価対象となるが,
閾値が低すぎるとドライバが危険を感じていない場面でも評価対象となってしまう.逆に,
閾値が高すぎると非常に危険な場面だけが評価対象となってしまう恐れがある.
このように,関数や閾値の設定が適当でないとドライバにとって不適切な評価となって しまう可能性があり,どのような値が適当であるかについては実際の運転場面でのデータ をもとに検討する必要がある.
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