• 検索結果がありません。

第 2 章 運転支援システムの関連研究

2.2 衝突リスク評価指標

衝突被害軽減ブレーキなどの運転支援システムにおける警報や制動制御の作動条件を定 めるため,自車両周辺の障害物との衝突リスクを評価する指標が数多く提案され,それら の比較検討もなされている [12–14].本節では,これらの中で代表的なものについて定義 式を示すとともに,各々の特徴について概説する.

2.2.1 主要記号および変数の定義

各指標の定義式において用いる各種変数を図2.2に示す.ここでは先行車を前方障害物と して図示しているが,歩行者や二輪車なども対象となる3.本論文では,各種のリスク評価指 標の関係を考察した北島らの研究[12]と同じ変数および定義を用いる.自車両(Following Vehicle)と先行車(Preceding Vehicle)の位置,速度,加速度をそれぞれxf, vf, af, xp, vp, ap

として,両車の相対位置,相対速度,相対加速度をxr, vr, arとする.ここで,自車両と先 行車の位置は,それぞれ車体先端,車体後端を基準とする.なお,自車両が先行車の後方 から追従走行する場合に相対位置xr =xf −xp は負となるので,追従状態時の車間距離 を求める場合には相対位置xrにマイナスを乗じる.また,相対速度vrは自車両速度の方 が大きい場合に正となる.相対加速度arは互いに加速する場合には自車両加速度の方が 大きい場合に正,互いに減速する場合には自車両減速度の方が小さい場合に正となる.

3本節以下,前方障害物のことを先行車と記述するが,歩行者や二輪車などに対するリスク評価も同一の 手順で可能である.

xp x xf

vf , af vp , ap

Following Vehicle (FV) Preceding Vehicle (PV)

図 2.2: Definition of variables

さらに,現時点を時刻0として,このときの先行車の位置,速度,加速度をxp0, vp0, ap0, 自車両の位置,速度,加速度をxf0, vf0, af0, 相対位置,相対速度,相対加速度をxr0 = xf0−xp0, vr0=vf0−vp0, ar0 =af0−ap0とする.

2.2.2 衝突余裕時間 (TTC)

衝突余裕時間 (TTC: Time To Collision) [15]は,現在の相対速度が維持された場合に 先行車と衝突するまでの時間を表す.

T T C =−xr

vr

=−xf −xp

vf −vp

(2.1) 衝突被害軽減ブレーキの実用化指針 [3]では,TTCと同義の指標を用いて警報や制動 制御のタイミングなどを定めている.また,TTCの逆数は接近する前方障害物に対する 視角の変化率と等価であり,ドライバの制動操作のタイミングと関係しているという報 告[16, 17]がある.

一方で,先行車との相対関係によっては,TTCのみでは衝突リスクを適切に評価でき ないという指摘もある [18]

2.2.3 車間時間 (THW)

車間時間 (THW: Time HeadWay) [19]は,自車両が現在の速度を維持した場合に現在 の先行車位置に到達するまでの時間を表す.

T HW =−xr

vf

(2.2) 一定速度での先行車追従時において,ドライバが先行車に対して感じるリスクの量は THWの逆数に比例するという報告がある [20].

18 2 運転支援システムの関連研究

2.2.4 衝突余裕時間と車間時間の組合せによる指標

近藤ら[20]は,先行車追従時にドライバが主観的に感じるリスクの量を,TTCTHW を用いて指標RP (Risk Perceprion)として定式化した.

RP = a

T HW + b

T T C (2.3)

ここで,a,bは定数であり,ドライビングシミュレータを用いた実験においてa= 1, b= 5 と同定されている.本指標を用いて,市街路におけるブレーキ開始タイミングを調べた事 例が存在する [21]

また,田中ら[22]はこのRPをもとに,先行車のみならず先々行車との相対関係も含め た指標PRE3 (PREdiction by PRE-PREceding vehicle)を提案している.

P RE3 = a

T HW23 + 2b

T T C13 (2.4)

TTCおよびTHWの添え字は車両番号(1: 先々行車,2: 先行車,3: 自車両)を表し,

THW23は自車両の先行車に対するTHWを,TTC13は自車両の先々行車に対するTTC をそれぞれ意味している.

本指標に基づく情報をドライバに視覚的に情報提示することで,先行車との衝突リスク が低減し,不必要な加減速が抑制されることが,ドライビングシミュレータ実験およびテ ストコース上での実車実験[23]で確認されている.

2.2.5 接近離間状態評価指標 (KdB)

伊佐治ら[24]は,ドライバは先行車との車間距離の変化を先行車の視覚的な面積変化に よって知覚しているという仮説に基づき,接近離間状態評価指標KdBを定式化した.式中の Kはドライバの網膜上に投影される先行車の見かけ上の面積の時間変化率を,K05×10−8 は100[m]前方にいる先行車が相対速度vr= 0.1[km/h]で接近してくる場合の面積の時間 変化率を表す.すなわち,KdBはドライバが検出可能な面積変化率の最小値をK0と仮定 して4,先行車の面積変化率をデシベル値で表現したものである.

KdB =

10×log10KK

0

10×log10

2×−x−vr3r

5×10−8

= 10×log104×107× −v−xr3 r

4×107×−x−vr3 r

>1

0 4×107×−x−vr3

r

1

(2.5)

4K=K0のときKdB=0[dB]となる.

なお,KdBは先行車に接近するとき (vr>0)は正の値,先行車から離れるとき(vr <0) は負の値とする.

追突事故データを用いた分析では,追突事故発生時には通常時よりもKdBの値が大き くなる傾向が明らかにされ,KdBの値に基づいて追突事故に至る可能性を判別できるこ とが示されている.

また,KdBを用いてドライバのブレーキ開始タイミングを解析した研究[25]では,先 行車速度vpの影響を考慮してKdBを補正したKdBcが提案されている.

KdBc(a) =

10×log104×107× −v−xr−av3 p r

≈b×log10|−xr|+c 4×107×−v−xr−av3r p

>1

0 4×107×−v−xr−av3 p r

1

(2.6)

a, b, cは定数であり,熟練ドライバの走行データに基づいてa= 0.2, b=22.66, c= 74.71 と同定されている.

Wada et al. [26]は,KdBおよびKdBcを用いて熟練ドライバの減速行動を定式化し,

これに基づいて自動的に減速制御を行うアルゴリズムを提案した.テストコース上での実 車実験により,介入タイミングが適切で不安感の少ない減速パターンを実現できることが 確認されている.

2.2.6 警報距離 (WD)・衝突余裕度 (MTC)

追従中の先行車に対し警報を提示する手法として国際規格 (ISO15623) [27]に登録され ているものにSDA (Stopping Distance Algorithm)がある.これは,先行車の減速に対し 反応時間T秒後に自車両が減速を開始して先行車・自車両ともに停止する状況を想定し,

先行車との車間距離−xr が「停止するまでの間に現在の車間距離から先行車に接近する 距離」を下回った場合に警報を提示するものである.

ここで,後者の距離は警報距離(WD: Warning Distance) と呼ばれ[28],先行車の制動 距離dp,自車両の制動距離df を用いて下式で表される.

W D=vfT +df−dp =vfT vf2 2Af

+ v2p 2Ap

(2.7) ただし,Ap,Af は先行車および自車両が急減速を行う際の想定加速度(負の値)である.

また,北島ら[29]はWDと類似の観点から衝突余裕度(MTC: Margin To Collision)を 提案し,映像記録型ドライブレコーダの解析に用いた.これは,先行車と自車両が同時に 急減速を行う状況を想定し,先行車との車間距離−xrと先行車の制動距離dpの和を自車

20 2 運転支援システムの関連研究

両の制動距離df で除したものである.この値が1以下となるときは,先行車に追突する 可能性が高いことを意味する.1) 単位が距離[m]ではなく無次元量で表される,2)ドラ イバの反応時間を考慮しない,の2点を除けば,WDと本質的な差異はないといえる.

M T C= −xr+dp

df

=

−xr vp2 2Ap

v2f 2Af

(2.8)

ここで,想定加速度Ap,Af はいずれも路面乾燥時において0.7[G] (=6.9[m/s2])とさ れている.

TTCは相対距離と相対速度のみで定義されるのに対し,WD, MTCは制動距離を考慮す ることで自車両および先行車の走行速度を反映したリスク評価が可能である.また,TTC は相対速度がゼロ以下となる場合に衝突リスクを評価できないが,WD, MTCは自車両が 走行している限り評価できる.

2.2.7 衝突回避減速度 (DCA)

衝突回避減速度(DCA: Deceleration for Collision Avoidance)は,先行車との衝突を回 避するために最低限必要な自車両の減速度(正の値)であり,筆者の先行研究[30]におい て提案された指標である.先行車が現在の加減速度を維持した場合のDCAを顕在的衝突 回避減速度(ODCA: Overt DCA),急減速すると仮定した場合のDCAを潜在的衝突回避 減速度 (PDCA: Potential DCA)と呼ぶ.

ODCA (αo) は,次式により表される.

αo=

0  (ap0 0, vp0 ≥vf0)

−af1

ap0 0, vp0 < vf0

or

ap0 <0, T < t1 ≤ −vp0

ap0

−af2

ap0<0, −vp0

ap0 < t1

(2.9)

ただし,T は自車両ドライバの反応時間であり,af1, af2,t1はそれぞれ次式である.

af1 = vr02 + 2ap0xr0

2xr0+ 2vr0T −ap0T2 (2.10) af2 = vf20

2xr0+ 2vf0T +va2p0

p0

(2.11)

t1 = 2xr0+vr0T

ap0T −vr0 (2.12)

PDCA (αp)は,上述のMTCの考え方に倣って,先行車が0.6 [G](=5.88 [m/s2])の 一定減速度で減速すると仮定した場合のDCAである.

αp =

−af1

T < t1 vp0 5.88

−af2

vp0

5.88 < t1

(2.13)

ただし,af1,af2,t1af1,af2,t1における先行車加速度ap00.6[G](=5.88 [m/s2]) を代入した式を表す.なお,DCAの計算過程の詳細については先行研究[30]を参照され たい5

DCAの値と衝突回避に必要なブレーキ操作量との間にほぼ線形な対応関係があるため,

ドライバにとってその意味が直感的に理解しやすいことがDCAの特徴である.また,上 述のWDMTCと同様に,1)自車両および先行車の走行速度が反映される,2)相対速 度がゼロ以下となる場合でも衝突リスクを評価できる,という利点がある.なお,FCWS における警報提示条件としてTTCを用いた場合とDCAを用いた場合との比較がドライ ビングシミュレータ実験により行われており[31],とくに先行車追従時においてDCA 方が警報提示タイミングが適切であることが示されている.

2.2.8 衝突回避減速度と類似の指標

2種類のDCAのうち,潜在的な衝突リスクを表すPDCAと類似の指標として,衝突回 避用減速度(DTC: Deceleration To Cope with collision risk) [32, 33]がある.これは,上 述のMTCの逆数に自車両の想定加速度である−0.7[G] (= −6.9[m/s2]) を乗じたものと して定義され,MTC= 1を自車両の想定加速度Afについて解いたものと等価である.な お,DCAと異なり衝突回避に必要な加速度(負の値)となっていることに注意されたい.

DT C=Af × 1

M T C = Afvf2 vp2+ 2Afxr

(2.14) また,DTCと自車両の実加速度afとの差はRa (Residual quantity of deceleration for

avoidance)と呼ばれ,ドライバの減速行動の適切さを表す指標として提案されている.

Ra=DT C−af (2.15)

すなわち,Ra>0であればドライバの減速行動が適切であると判定できる.

5本論文第3章では,先行研究におけるDCAの計算過程を見直した改良型DCAを提案する.

22 2 運転支援システムの関連研究

DTCおよびRaを用いて先行車との衝突リスクに関する情報をリアルタイムに提示す る安全運転支援システムが提案され,テストコース上での実車実験[32, 33]によりシステ ムの有効性が示されている.