第 7 章 衝突回避減速度を用いた安全運転評価 システムが運転行動に与える影響システムが運転行動に与える影響
2) 安全運転評価システム (SDES)
7.3 実験結果と考察:走行データ
7.3.1 四つの安全運転評価指標の推移
SDESの四つの指標 (IF, IB, IA, ID) について,各走行ごとの通算成績を図7.6, 7.10, 7.14, 7.18に示す.ただし,図中のエラーバーは標準偏差を表す.また,図7.7, 7.11, 7.15, 7.19は各指標について通常走行1 (N1)終了時の評点を基準としたときの各走行ごとの通 算成績の変化率を示したものである.
各指標の評価対象時間(Tf, Tb, Ta, Td)についても同様に,各走行ごとの値を図7.8, 7.12, 7.16, 7.20に,各走行ごとの変化率を図7.9, 7.13, 7.17, 7.21に示す.6.3.2節における各指 標の定義より,各指標の評価対象時間は顕在的あるいは潜在的なリスクが発生していた時 間を意味し,値が小さいほど安全であるといえる.
なお,実験参加者1-5は追従走行区間で追従走行を行っていた時間7の全走行での総和が 853秒(全実験参加者24名の平均2962秒,標準偏差802秒)と非常に短かったため本節 における分析の対象外とした.
7指標IDの評価対象時間Tdを「追従走行を行っていた時間」とした.
1) 指標IF: 適切な減速
図7.6, 7.7より両群とも走行を重ねるごとに評価が向上していることがわかる8.図7.7(b) において,各走行で実験参加者間のばらつきが極めて大きくなっているが,これは1回目 の走行N1において成績が非常に低かった2群の2名の実験参加者が評価を大きく改善さ せたことによる.
また,図7.8の評価対象時間Tf は両群とも減少しているが,図7.9に示す変化率9を見 ると2群は緩やかに減少しているのに対し1群はほぼ横ばいであることがわかる.これは,
1群においてTf を大きく増加させた実験参加者が数名いたことによるものである.とく に実験終盤の走行S6およびN2において,2群ではすべての実験参加者が走行N1よりも Tf を減少させたが,1群ではS6で3名,N2で4名の実験参加者が増加を示していた.
図7.6∼7.9のデータについて,群(システム)および走行条件(N1∼N2)を要因とす る2要因の分散分析10を行ったところ,いずれも交互作用は有意ではなかったが,Tfの変 化率については群の主効果が有意であった(F(1,163) = 5.26, p < .05).
2) 指標IB: 後続車に配慮した減速
指標IF と同様に,両群とも評価が向上している(図7.10, 7.11).走行N1において成 績が非常に低かった1群の1名の実験参加者が評価を大きく改善させたため,図7.11(a) の走行S4 ∼ N2のばらつきが大きくなっているが,両群間で傾向に大きな違いは見られ ない.
評価対象時間Tbも両群でほぼ同じ傾向であるが,走行S1以降のすべての走行において 2群の方が小さく,変化率も小さくなっている(図7.12, 7.13).また,両群とも走行S4 が他の条件に比べて小さいが,S4が実験2日目の最初の走行であったこと(表7.2),先 行車の減速や歩行者の飛び出しが他の走行に比べて少なかったこと(表7.1)などが影響 していると考えられる.
図7.10∼ 7.13のいずれにおいても,群と走行条件の交互作用は見られず,群の主効果 も有意でなかった.
8指標IF の評価対象時間Tf が短い場合には評価の信頼性が低いと考えられるため,各走行においてTf
が0.5秒(評価対象とした実験参加者23名の平均5.9秒,標準偏差4.4秒)以下のデータは除外した.
9評価対象時間Tfが0秒となるデータは除外した.
10図7.6, 7.7, 7.9については一部のデータを除外しており被験者内比較が行えないため,便宜的に走行条
件ごとに別の被験者群であるとして処理した.
112 第7章 衝突回避減速度を用いた安全運転評価システムが運転行動に与える影響
0.40 0.50 0.60 0.70 0.80 0.90 1.00
N1 S1 S2 S3 S4 S5 S6 N2
Score
(a) Group 1
0.40 0.50 0.60 0.70 0.80 0.90 1.00
N1 S1 S2 S3 S4 S5 S6 N2
Score
(b) Group 2 図7.6: Trend of index IF
0.50 1.00 1.50 2.00 2.50 3.00
N1 S1 S2 S3 S4 S5 S6 N2
Rate of change
(a) Group 1
0.50 1.00 1.50 2.00 2.50 3.00
N1 S1 S2 S3 S4 S5 S6 N2
Rate of change
(b) Group 2 図7.7: Rate of change in index IF
0 5 10 15 20
N1 S1 S2 S3 S4 S5 S6 N2
Tf[s]
(a) Group 1
0 5 10 15 20
N1 S1 S2 S3 S4 S5 S6 N2
Tf[s]
(b) Group 2 図7.8: Trend of evaluation time Tf
0.00 1.00 2.00 3.00 4.00 5.00
N1 S1 S2 S3 S4 S5 S6 N2
Rate of change
(a) Group 1
0.00 1.00 2.00 3.00 4.00 5.00
N1 S1 S2 S3 S4 S5 S6 N2
Rate of change
(b) Group 2 図7.9: Rate of change in evaluation time Tf
0.40 0.50 0.60 0.70 0.80 0.90 1.00
N1 S1 S2 S3 S4 S5 S6 N2
Score
(a) Group 1
0.40 0.50 0.60 0.70 0.80 0.90 1.00
N1 S1 S2 S3 S4 S5 S6 N2
Score
(b) Group 2 図7.10: Trend of indexIB
0.80 1.00 1.20 1.40 1.60 1.80
N1 S1 S2 S3 S4 S5 S6 N2
Rate of change
(a) Group 1
0.80 1.00 1.20 1.40 1.60 1.80
N1 S1 S2 S3 S4 S5 S6 N2
Rate of change
(b) Group 2 図 7.11: Rate of change in indexIB
5 10 15 20
N1 S1 S2 S3 S4 S5 S6 N2
Tb[s]
(a) Group 1
5 10 15 20
N1 S1 S2 S3 S4 S5 S6 N2
Tb[s]
(b) Group 2 図7.12: Trend of evaluation timeTb
0.60 0.80 1.00 1.20 1.40 1.60 1.80
N1 S1 S2 S3 S4 S5 S6 N2
Rate of change
(a) Group 1
0.60 0.80 1.00 1.20 1.40 1.60 1.80
N1 S1 S2 S3 S4 S5 S6 N2
Rate of change
(b) Group 2 図7.13: Rate of change in evaluation timeTb
114 第7章 衝突回避減速度を用いた安全運転評価システムが運転行動に与える影響
3) 指標IA: 無理のない加減速
2群では評価が向上しているのに対し,1群では緩やかに下がっている(図7.14, 7.15).
走行S6およびN2では,2群ではS6で9名,N2で7名の実験参加者が走行N1に対して 評価を改善させたが,1群ではそれぞれ2名,1名であった.しかし2群の走行S4 ∼N2 の変化率はばらつきが大きくなっており,一部の実験参加者は改善を示さなかったことが わかる.
評価対象時間Taの推移は両群でほぼ同じ傾向であるが,走行S1以降のすべての走行に おいて2群の方が小さくなっている(図7.16, 7.17).走行S4において小さくなっている のはTbと同じ理由によるものと推察される.
図7.14 ∼7.17のいずれにおいても,群と走行条件の交互作用が有意または有意傾向で あり(F(7,147) = 3.53, p < .01,F(7,147) = 3.64, p < .01,F(7,147) = 1.98, p < .10およ びF(7,147) = 2.19, p < .05),群の単純主効果はそれぞれS2 ∼N2(図7.14, 7.15),S2 およびS4(図7.16),S1∼N2(図7.17)において有意または有意傾向であった.走行条 件の単純主効果が有意であったものについては,Shafferの方法による多重比較を行った 結果を各図に示している.
4) 指標ID: 安全な車間距離
2群では評価が向上しているが,1群ではとくにシステム提示走行において下がってい る(図7.18, 7.19).走行S6およびN2では,2群ではS6で10名,N2で9名の実験参加 者が走行N1よりも評価を改善させたのに対し,1群ではそれぞれ2名,4名であった.指 標IAと同様に,一部の実験参加者が改善を示さなかったために2群の変化率は全体的に ばらつきが大きい.また,1群は走行N2において変化率に若干の回復傾向が見られるが,
これは1名の実験参加者が評価を大きく改善させたためである.
評価対象時間Tdについても両群で異なる傾向が見られた.1群では走行S1以降のすべ ての走行において増加しているのに対し,2群では減少していることがわかる(図7.20, 7.21).
図7.18∼7.21のいずれにおいても,群と走行条件の交互作用が有意であり(F(7,147) = 5.21, p < .001, F(7,147) = 4.77, p < .001, F(7,147) = 3.96, p < .001およびF(7,147) = 3.87, p < .001),群の単純主効果はS2 ∼ N2(図7.18),S1 ∼ N2(図7.19), N1, S2, S3およびS5 ∼ N2(図7.20),S1 ∼N2(図7.21)において有意または有意傾向であっ た.走行条件の単純主効果が有意であったものについては多重比較を行い,結果を各図に 示している.
0.80 0.85 0.90 0.95 1.00
N1 S1 S2* S3** S4** S5** S6** N2*
Score
**:p<.01 *:p<.05
*
(a) Group 1
0.80 0.85 0.90 0.95 1.00
N1 S1 S2* S3** S4** S5** S6** N2*
Score
* * *
*
**:p<.01 *:p<.05
(b) Group 2 図7.14: Trend of index IA
0.95 1.00 1.05 1.10
N1 S1 S2** S3** S4* S5* S6** N2*
Rate of change
**:p<.01 *:p<.05
*
(a) Group 1
0.95 1.00 1.05 1.10
N1 S1 S2** S3** S4* S5* S6** N2*
Rate of change
* * *
*
**:p<.01 *:p<.05
(b) Group 2 図7.15: Rate of change in indexIA
150 200 250 300 350 400 450
N1 S1 S2* S3 S4* S5 S6 N2
Ta[s]
+
*
*
*
* *
*
*:p<.01 +:p<.10
(a) Group 1
150 200 250 300 350 400 450
N1 S1 S2* S3 S4* S5 S6 N2
Ta[s]
+
*:p<.01 +:p<.10 *
* *
*
* * *
*
* * *
*
*
* *
(b) Group 2 図7.16: Trend of evaluation time Ta
0.60 0.80 1.00 1.20 1.40 1.60
N1 S1** S2* S3* S4** S5* S6* N2*
Rate of change
+
* *
*
* *
**:p<.01
*:p<.05 +:p<.10
(a) Group 1
0.60 0.80 1.00 1.20 1.40 1.60
N1 S1** S2* S3* S4** S5* S6* N2*
Rate of change
+
*
* ** *
*
*
* * *
* * *
*
* *
**:p<.01
*:p<.05 +:p<.10
*
(b) Group 2 図7.17: Rate of change in evaluation timeTa
116 第7章 衝突回避減速度を用いた安全運転評価システムが運転行動に与える影響
0.60 0.70 0.80 0.90 1.00 1.10
N1 S1 S2* S3* S4** S5* S6* N2*
Score
+
**:p<.01 *:p<.05 +:p<.10
(a) Group 1
0.60 0.70 0.80 0.90 1.00 1.10
N1 S1 S2* S3* S4** S5* S6* N2*
Score
+
**:p<.01 *:p<.05 +:p<.10
(b) Group 2 図7.18: Trend of indexID
0.60 0.80 1.00 1.20 1.40
N1 S1** S2*** S3** S4** S5* S6** N2*
Rate of change
***:p<.001 **:p<.01 *:p<.05
(a) Group 1
0.60 0.80 1.00 1.20 1.40
N1 S1** S2*** S3** S4** S5* S6** N2*
Rate of change
***:p<.001 **:p<.01 *:p<.05
(b) Group 2 図 7.19: Rate of change in indexID
200 300 400 500 600
N1* S1 S2* S3* S4 S5** S6** N2**
Td[s]
+ +
**:p<.01 *:p<.05 +:p<.10
(a) Group 1
200 300 400 500 600
N1* S1 S2* S3* S4 S5** S6** N2**
Td[s]
+ +
* * * **:p<.01
*:p<.05 +:p<.10
*
(b) Group 2 図7.20: Trend of evaluation timeTd
0.00 0.50 1.00 1.50 2.00
N1 S1* S2** S3** S4* S5** S6** N2***
Rate of change
***:p<0.01 **:p<.01 *:p<.05
(a) Group 1
0.00 0.50 1.00 1.50 2.00
N1 S1* S2** S3** S4* S5** S6** N2***
Rate of change
***:p<0.01 **:p<.01 *:p<.05
* * * *
(b) Group 2 図7.21: Rate of change in evaluation timeTd
5) 総合的考察
SDESの四つの指標のうち,顕在的なリスクに対する対応の適切さを評価する指標IF
およびIBについては両群ともに評価が改善したが,潜在的なリスクに対する予防的行動 を評価する指標IAおよびIDは,SDESを提示した2群のみが改善を示した.IF および IBについて両群間で明確な差が見られなかった理由として,1)他の2指標に比べて評価 対象時間が短いため差が生じにくかった,2)両群ともにFCWSを利用していた,3)両群 ともに実験が進むにつれて先行車や歩行者の動きに対して予測が働いた,ことなどが考え られる.
一方,各指標の評価対象時間 (Tf, Tb, Ta, Td) はいずれも2群の方が小さくなる傾向に あり,減少率も大きかった.TaおよびTdでは各走行において両群間で有意な差が見られ,
とくにTdは走行N1の時点で2群の方が値が大きかったが,その後の走行において逆転し ている(図7.20).Tf およびTbにおいて有意差が見られなかったのは,実験参加者によ るばらつきが大きかったためと考えられる.
以上より,SDESを提示した2群では,とくに指標IAおよびIDの評価が改善し,リス クが発生していた時間(Ta,Td) も短くなっていたといえる.このことは,2群の実験参加 者の方が予防的な運転行動を注意深く行っていたことを意味し,SDESが自発的な安全運 転を促していた可能性を示唆している.
7.3.2 自由走行区間における運転行動
1) 平均走行速度
図7.22, 7.23は自由走行区間における平均速度の推移および変化率を示したものである.
2群ではほぼ横ばいであるが1群では速度が増加していることが読み取れる.両群ともに 走行S2において走行速度が最も速くなっているが,実験に対する慣れやコースの違いが 影響していると考えられる.
これらについて群と走行条件を要因とする2要因の分散分析を行ったところ,いずれ も群と走行条件の交互作用が有意であり(F(7,154) = 2.96, p < .01およびF(7,154) = 3.09, p < .01),群の単純主効果はN2(図7.22),S1 ∼N2(図7.23)において有意また は有意傾向であった.また,いずれにおいても走行条件の単純主効果が有意であり,多重 比較を行った結果を各図に示している.
118 第7章 衝突回避減速度を用いた安全運転評価システムが運転行動に与える影響
30 40 50 60
N1 S1 S2 S3 S4 S5 S6 N2*
Velocity [km/h]
*:p<.05 +:p<.10
* *
*
+
(a) Group 1
30 40 50 60
N1 S1 S2 S3 S4 S5 S6 N2*
Velocity [km/h]
*:p<.05 +:p<.10
* * * * *
*
+
(b) Group 2 図7.22: Trend of velocity in free-run section
0.60 0.80 1.00 1.20 1.40 1.60
N1 S1* S2* S3* S4* S5** S6** N2**
Rate of change
**:p<.01 *:p<.05
* *
(a) Group 1
0.60 0.80 1.00 1.20 1.40 1.60
N1 S1* S2* S3* S4* S5** S6** N2**
Rate of change
**:p<.01 *:p<.05
* * * * *
*
(b) Group 2 図7.23: Rate of change in velocity in free-run section
2) 歩行者との衝突リスク
図7.24, 7.25は左側から飛び出してくる歩行者(パターンL, LM)に対するブレーキオ
ン時のODCAの推移および変化率である.ただし,「ブレーキオン時のODCA」とは,歩 行者の飛び出しに対して実験参加者がブレーキを踏み込んだ時点でのODCAとし,歩行 者が飛び出す前からブレーキを踏み込んでいた場合については除外した.2群の方が全体 的にばらつきが大きいものの,ODCAの推移に両群間で大きな差は見られない.しかし,
図7.25に示す変化率で見ると後半の走行において2群の方が減少率が大きく,歩行者と の衝突リスクが低減していることがわかる.両群とも走行S2においてODCAが最も大き くなっているが,これは先程述べた走行速度の増加が影響していると考えられる.また,
S3以降の走行で速度およびODCAが下がっているのは,S2で歩行者との衝突リスクが高 まった実験参加者が速度を抑えるようになったためと推察される(図7.23, 7.25).
図7.24, 7.25のいずれにおいても,群と走行条件の交互作用は見られず,群の主効果も
有意でなかった.