第 8 章 安全運転評価システムの利用動機づけ を高める方策の検討を高める方策の検討
8.2 安全運転評価システムの改良
8.2.1 前章の実験におけるSDESの課題
前章で提案したSDESは,4指標の直近の成績(インターバル成績)と過去の平均成績
(通算成績)との比較によって,技能の向上または低下を実感させることを狙った.しかし,
実験後のインタビューで,一部の実験参加者が指標の意味を正しく理解できていなかった と報告した.この理由として,実験参加者が点数の上げ方を理解できず,フィードバック された成績では有能感を感じることなく,結果としてシステム利用に対する内発的動機づ けが高まらなかったことが考えられる.
また,SDESに対する主観評価では,「実際の運転では自分に比較的自信があるので必 要ない」,「評価を気にしすぎて疲れる」といった意見を得ており,これらの実験参加者は そもそもSDESの必要性を感じていなかったといえよう.Deci and Ryan [1, 2]による自 己決定理論2によると,課題に取り組むことで得られるフィードバックに対して人間が有 能感を感じるためには,当人がその課題に対して一定の自己決定感(自律性)を持ってい る,すなわち課題に対して興味や価値を感じて自らの意思で取り組んでいることが必要で あるとされる.つまり,SDESからのフィードバックが効果的であるためには,ドライバ がSDES(課題)に対して興味や価値をある程度感じている必要があり,上述の実験参加 者のようにSDESの必要性を感じていない場合にはその効果は薄いと考えられる.
8.2.2 SDESの利用動機づけを高める方策
前章の実験では,SDESに対する自己決定感の低いドライバへの配慮が不十分であり,
一部のドライバがシステムを必要と感じなかった.本章ではこのようなドライバに対して もシステムの利用を促すべく,SDESに改良を加える.
図8.1に,本節で提案するSDES(改良型SDES)の概要を示す.前章のSDESと同様 に,自車両が停止している間,または実験参加者がスイッチ(図8.1のスイッチ1)を押 したときに,前回成績を確認した時点からの平均成績(インターバル成績)と評価を開始 した時点からの平均成績(通算成績)を,4指標それぞれについて100点満点で表示する
(図8.1 (b)).
図8.1 (c)に示すアドバイス画面が今回新たに追加した機能であり,4指標の各々に対応
するスイッチ(図8.1のスイッチ2)を操作することで,各評価指標についての講評と点数 アップのための簡潔なアドバイスを表示する.なお,アドバイスは各指標ともにインター
22.3.3節で取り上げた認知的評価理論[3]をはじめとする四つの理論(年代により異なり,2015年現在は 六つの理論)から構成される理論体系である.
Normal display
(while the vehicle moving) (a)
Score display (while the vehicle stop or when the driver push the switch 1)
(b)
I
FInterval score
Average score
No evaluable event occurred (e.g. No vehicle
in the forward)
I
AI
BI
DAdvisory display (while the vehicle stop and when the driver push the switch 2)
(c)
Switch 1
Switch 2 Switch 1
図 8.1: Visual interface of the improved SDES
バル成績に応じて3段階用意されている(0∼60点/60∼80点/80 ∼100点).なお,
評価対象時間が0.5秒以下の場合は成績を表示せず(図8.1 (b)の指標ID),評価対象と なる事象(危険事象)が無かった旨をアドバイス画面に表示する.アドバイスの内容を表 8.1∼8.4に示す.
Deci et al.の研究 [4]によると,課題に対して興味や価値を感じられず自己決定感が低
い状況においても,課題の重要性や価値について合理的な説明を与えることで自己決定感 を高められるとされる.前章の実験では,SDESの評価指標についての理解が十分でない 実験参加者が存在していたが,これはSDESが評価指標の点数をフィードバックをするの
128 第8章 安全運転評価システムの利用動機づけを高める方策の検討
表8.1: Advice for proper deceleration (IF)
0∼60 points Your braking is too slow or too weak. Pay attention to the road ahead and try braking more quickly.
60∼ 80 points Your braking tends to be slightly slow or inconsistent in strength. Try braking more quickly and smoothly.
80∼ 100 points Your braking is good.
No dangerous events No dangerous event occurred.
表8.2: Advice for deceleration with consideration for backward vehicle (IB) 0∼60 points Your braking is too hard. Try braking softly with
considera-tion for the backward vehicle.
60∼ 80 points Your braking tends to be slightly too hard or inconsistent in strength. Try braking more softly and smoothly.
80∼ 100 points Your braking is good.
No dangerous events No dangerous event occurred.
表8.3: Advice for stable acceleration/deceleration (IA)
0∼60 points Acceleration/deceleration is too strong. Try to acceler-ate/decelerate softly.
60∼ 80 points
Acceleration/deceleration tends to be slightly strong or to be rough. Try performing soft and smooth accelera-tion/deceleration.
80∼ 100 points You are performing stable acceleration/ deceleration.
No dangerous events No strong acceleration/deceleration occurred.
表 8.4: Advice for safe inter-vehicular distance (ID)
0∼60 points Distance is too short. Try keeping a safe distance in case the preceding vehicle abruptly decelerates.
60∼ 80 points Distance tends to be slightly too short or unstable. Try to constantly keep a safe distance.
80∼ 100 points You are keeping a safe distance.
No dangerous events No vehicle ahead, or you are keeping a very safe distance.
みで,「なぜその点数なのか」,「どうすれば点数を上げられるのか」の説明が無かったため と考えられる.上述のアドバイス機能は,これらに対する合理的な説明を与えるものと位 置づけられる.また,アドバイスはドライバが能動的にスイッチを操作したときにのみ表 示されるため,アドバイス機能の存在が自己決定感を阻害する可能性は低い.自らの意思 でアドバイスを見たドライバが自身の運転の問題点を知り,どう改善すれば良いかを理解 できれば,SDESに対する興味や価値が高まる可能性がある.
一方で,SDESに対する自己決定感は,当人の安全運転に対する自己決定感の強さによっ ても大きく左右される可能性がある.すなわち,安全運転を行うことに対して興味や価値 を感じているドライバはSDESを積極的に利用すると考えられ,ドライバの安全運転に対 する自己決定感という側面からも分析が必要といえる.