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の比較実験を行った結果,WSDを用いることで衝突リスクの認知が早まり,回避行動が 早まることが示された.また,WSDを用いたシステムの方が視認負荷が少ないという報 告が多く得られた.一方で,システムに欠報が発生した場合には,WSDを用いたシステ ムの方が回避行動に大幅な遅れが発生する可能性が高いことが確認された.これは,WSD を用いたシステムの方が有用性が高いために,システムへの過度の依存を誘発しやすいこ とが要因と推察される.

第5章の結果は,直面する衝突リスクを提示する以外に,自発的な安全運転を促すため の新たな仕組みが必要であることを示唆している.そこで,第6章から第8章では,エコ ドライブ支援システムに関する先行研究や心理学の知見に基づき,ドライバの安全運転を 点数化しフィードバックを与える安全運転評価システム(SDES: Safe Driving Evaluation

System)について検討した.これは,ドライバの安全運転に対する動機づけを高め,ドラ

イバのリスクの目標水準を安全側に引き下げることを意図したシステムである.

第6章では,DCAを用いて自車両の前後方向の安全運転を定量的に評価する四つの指 標(「適切な減速」,「後続車に配慮した減速」,「無理のない加減速」,「安全な車間距離」)を 提案し,それぞれが対象とする運転行動の安全度を適切に評価しうることを計算機シミュ レーションにより示した.これら4指標はすべて加速度を基にした無次元化量であるとい う点で,指標間の類似性が保たれている.また,前後方向の衝突リスクの計算はDCAに 基づくため,ドライバにとって受容性の高い評価となることが期待される.

第7章では,第6章で提案した四つの指標に基づくSDESのインタフェースを提案し,

SDESの提示がドライバのリスクの目標水準に働きかけ,自発的な安全運転を促す可能性 についてドライビングシミュレータ実験により検証した.走行データや主観評価の結果か ら,SDESの提示が自発的な安全運転を促しうることが示された.本実験では,FCWSの みを提示する場合とFCWSと合わせてSDESを提示する場合の比較を行ったが,SDES を提示した群ではFCWSのみを提示した群に比べて走行速度の上昇やFCWSの欠報によ る回避行動の遅れを示す実験参加者が少なくなっていた.このことは,FCWSSDES 同時に提示することでFCWSへの過度の依存を抑制できる可能性を示唆している.一方 で,システムの成績評価を煩わしく感じていた実験参加者も存在し,「システムを実際の運 転で利用したい」と回答した実験参加者は半数(12名中6名)にとどまった.

第8章では,前章の結果を踏まえ,SDESに対する能動的な理解を促すことでシステム の利用動機づけを高める方策について検討し,新たにアドバイス機能を付加した改良型 SDESを提案した.従来型SDESとの比較実験の結果,アドバイス機能がSDESに対する 理解度を向上させ,システムの利用動機づけを高めうることが示唆された.また,ドライ バのSDESあるいは安全運転に対する興味や価値感(自己決定感)とシステム利用の関係

についても調べたところ,SDESに対する理解度のみならず,当人の安全運転に対する自 己決定感もSDESの利用動機づけに影響しうることが示された.

本研究全体を通して得られた知見を以下にまとめる.

1)緊急時に警報を提示する運転支援システムにおいては,DCAのようにドライバにとっ て直感的で運転操作と直接対応した指標を用いることで,受容性の高い警報タイミン グを実現できる.

2) 1)を満足したうえで,警報提示に用いる指標の値についてリアルタイムの情報提供を

行うことにより,ドライバは警報提示の根拠を理解でき,システムの受容性が向上す る.また,現在直面している衝突リスクについての情報がドライバが知覚するリスク の量に影響し,自発的な安全運転が促される可能性がある.

3) 2)について,リアルタイムの視覚情報提示を行うことはドライバの負担が大きく安全

性への影響が懸念されるため,WSDなどの新技術や聴覚・触覚などの別モダリティ の活用が望まれる.ただし,このようなシステムを日常的に活用することによりシス テムへの過度の依存が生じる可能性があるため,十分な配慮が必要である.

4)ドライバの安全運転を評価し,心理学などの知見に基づいて適切なフィードバックを 与えることで,ドライバの安全運転に対する動機づけが高まり(リスクの目標水準が 低下し),自発的な安全運転が促される可能性がある.

5) 4)について,安全運転あるいは評価システムに対して興味や価値を感じないドライバ

はシステムの利用動機づけが相対的に低く,システムの効果が十分に発揮されない可 能性があるため,引き続き検討が必要である.

なお,SDESの研究は現在も継続中であり,すでにいくつかの報告を行っていることは 第8章で述べた通りである.また,現在筆者は西日本高速道路エンジニアリング関西株式 会社の一社員として,事故・渋滞・情報提供といった高速道路の交通に関する諸問題に取 り組んでいる.その一環として,本研究で提案したSDESの考え方に基づき,高速道路利 用者の自発的な安全運転を促すことを目的としたスマートフォンアプリケーションの開発 を進めている.安全運転に対する自己決定感の低いドライバに対しても効果的なシステム を構築するため,インタフェース設計にゲームニクス理論を全面的に取り入れるなど,本 研究の延長線上に位置づけられる取り組みといえる.これらの成果については,今後も随 時報告を行っていく次第である.

最後に,本論文の主題である「自発的な安全運転」という発想が,今後登場する種々の 運転支援システムの設計に活用され,より安全で快適な道路交通,ひいては我が国全体の QOL (Quality Of Life)向上を実現する一助となることを願ってやまない.

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著者関連文献

学術論文

本論文に関するもの

1.平岡敏洋,高田翔太:衝突回避減速度による衝突リスクの評価,計測自動制御学会論 文集,Vol.47, No.11, pp.534–540 (2011)

2.高田翔太,平岡敏洋,川上浩司:衝突回避減速度に基づく前方障害物衝突防止警報シス テムが運転行動に与える影響,自動車技術会論文集,Vol.43, No.2, pp.619–625 (2012) 3.平岡敏洋,高田翔太,川上浩司:自発的な行動変容を促す安全運転評価システム(第 1報)−衝突回避減速度を用いた評価指標の提案 −,自動車技術会論文集,Vol.44, No.2, pp.665–671 (2013)

4.高田翔太,平岡敏洋,野崎敬太,川上浩司:自発的な行動変容を促す安全運転評価シ ステム(第2報)−評価システムが運転行動に与える影響 −,自動車技術会論文集 , Vol.44, No.2, pp.673–678 (2013)

5.高田翔太,平岡敏洋,川上浩司:ウインドシールドディスプレイを用いた衝突回避減速度 の視覚情報提示に関する実験的考察,自動車技術会論文集,Vol.44, No.3, pp.937–942 (2013)

6. S. Takada, T. Hiraoka, H. Kawakami: Effectiveness of forward obstacles collision warning system based on deceleration for collision avoidance, IET Intelligent Trans-port Systems, Vol.8, No.6, pp.570–579 (2014)

7.高田翔太,平岡敏洋,野崎敬太,川上浩司:自発的な行動変容を促す安全運転評価シ ステム(第3報)−システムに対する能動的理解が利用動機づけに与える影響 −,自 動車技術会論文集,Vol.45, No.2, pp.411–417 (2014)

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その他の論文

1.平岡敏洋,野崎敬太,高田翔太,塩瀬隆之,川上浩司:エコドライブ支援システムにお ける能動的工夫の余地が運転技能の習熟に与える影響,人工知能学会論文集,Vol.28, No.3, pp.249–254 (2013)

2.野崎敬太,平岡敏洋,高田翔太,塩瀬隆之,川上浩司:エコドライブ支援システムに おける能動的工夫の余地が運転者の動機づけに与える影響,ヒューマンインタフェー ス学会論文誌,Vol.15, No.2, pp.111–120 (2013)

国際会議口頭発表

1. S. Takada, T. Hiraoka, H. Kawakami: Forward obstacles collision warning system based on deceleration for collision avoidance, Proceedings of SICE Annual Confer-ence 2011, pp.184–191 (2011)

2. K. Nozaki, T. Hiraoka, S. Takada, T. Shiose, H. Kawakami: Effect of active effort in eco-driving support system on proficiency of driving skill, Proceedings of SICE Annual Conference 2012, pp.646–651 (2012)

3. S. Takada, T. Hiraoka, H. Kawakami: Effect of forward obstacles collision warning system based on deceleration for collision avoidance on driving behavior, Proceed-ings of 19th World Congress on Intelligent Transport Systems, CD-ROM (2012) 4. T. Hiraoka, S. Takada, H. Kawakami: Proposal of non-dimensional parameter

in-dices to evaluate safe driving behavior, Proceedings of 15th International Conference on Human-Computer Interaction (HCII 2013), LNCS8013 (Human Interface and the Management of Information), pp.470–479 (2013)

5. T. Hiraoka, K. Nozaki, S. Takada, H. Kawakami: Safe driving evaluation system to enhance motivation for safe driving, Proceedings of FAST-zero 2015 Symposium, pp.613–620 (2015)

6. S. Takada, T. Hiraoka, A. Saito, T. Fujii, S. An: Development of safe driving support system in expressway incorporating gamenics theory, Proceedings of 22nd World Congress on Intelligent Transport Systems (2015)

国内会議口頭発表

1.平岡敏洋,高田翔太:衝突回避減速度による衝突リスクの評価,計測自動制御学会 シ ステム・情報部門学術講演会2010 (SSI2010)講演論文集,2E3-1 (2010)

2.高田翔太,平岡敏洋,川上浩司:衝突回避減速度に基づく前方障害物衝突防止警報 システムが運転行動に与える影響,自動車技術会秋季学術講演会前刷集,No.138-11, pp.5–10 (2011)

3.高田翔太,平岡敏洋,川上浩司:衝突回避減速度の視覚情報提示法に関する考察,計 測自動制御学会第39回知能システムシンポジウム予稿集,pp.191–196 (2012) 4.高田翔太,平岡敏洋,川上浩司:ウインドシールドディスプレイを用いた衝突回避減

速度の視覚情報提示に関する考察,日本人間工学会第53回大会講演集,pp.264–265 (2012)

5.平岡敏洋,野崎敬太,高田翔太,塩瀬隆之,川上浩司:エコドライブ支援システムに おける能動的工夫の余地が運転技能の習熟に与える影響,第26回人工知能学会全国 大会(JSAI2011) 予稿集,CD-ROM (2012)

6.野崎敬太,平岡敏洋,高田翔太,塩瀬隆之,川上浩司:エコドライブ支援システムに おける能動的工夫の余地が運転者の動機づけに与える影響,ヒューマンインタフェー スシンポジウム2012講演論文集,pp.461–468 (2012)

7.平岡敏洋,高田翔太,川上浩司:自発的な行動変容を促す安全運転評価システム(第 1報)−衝突回避減速度を用いた評価法の提案 −,自動車技術会秋季学術講演会前刷 集,No.125-12, pp.9–14 (2012)

8.高田翔太,平岡敏洋,野崎敬太,川上浩司:自発的な行動変容を促す安全運転評価シ ステム(第2報)−評価システムが運転行動に与える影響 −,自動車技術会秋季学 術講演会前刷集,No.125-12, pp.15–20 (2012)

9.野崎敬太,平岡敏洋,高田翔太,川上浩司:安全運転に対する動機づけを高める運転 支援システム,第27回人工知能学会全国大会(JSAI2013) 予稿集,CD-ROM (2013) 10.高田翔太,平岡敏洋,野崎敬太,川上浩司:自発的な行動変容を促す安全運転評価シ ステム(第3報)−システムに対する能動的理解が利用動機づけに与える影響 −,自 動車技術会秋季学術講演会前刷集,No.103-13, pp.13–18 (2013)

11.野崎敬太,平岡敏洋,高田翔太,川上浩司:安全に対する動機づけ向上と行動変容を 促す安全運転評価システム,計測自動制御学会 システム・情報部門学術講演会2013 (SSI2013)講演論文集,pp.291–292 (2013)

12.平岡敏洋,高田翔太,サイトウ・アキヒロ,藤井豊一,安時亨:ゲームニクス理論に 基づく高速道路用安全運転評価システム,計測自動制御学会 システム・情報部門学 術講演会2015 (SSI2015)講演論文集,pp.550–553 (2015)