第 5 章 衝突回避減速度の視覚情報提示法に関 する実験的考察する実験的考察
5.4 ドライビングシミュレータ実験の概要
前章と同じドライビングシミュレータを用いた被験者実験により,WSDを模したDCA の視覚情報提示システム(以下,システムW)と,従来の視覚情報提示システム(以下,
システムB)の比較を行う.さらに,システムに欠報が生じる状況を再現し,提示法の違 いによる運転行動への影響の差異について考察する.
なお,本実験は視覚情報提示法の比較を目的としており,前章で行ったFCWSの警報 提示は行わず,視覚情報提示のみを行う点に注意されたい.また,実験条件の簡単化のた めPDCAの提示は行わずODCAのみ提示する3.はじめに,本実験で比較する2種類の 視覚情報提示システムについて述べる.
5.4.1 視覚情報提示システム
図5.1 (a)にシステムWの概要を示す.先行研究[8]では,夜間時視覚支援システムに
おいて赤外線映像を表示するモニタ上にDCAの値に応じた色変化枠を提示した.駅停止 支援システムに関する研究[12]においても,色変化枠を用いた視覚情報提示法が提案され ている.本研究はこれらを参考にして,ドライビングシミュレータの前方映像をフロント ガラスに見立て,前方映像上の先行車(前方障害物)を囲むように色変化枠を提示する.
枠の色はODCAの値に応じて連続的に変化し,0≤αo≤6.0の範囲で緑色から赤色に連 続的に変化する.ただし,αo <0.1の場合および自車両の現在の減速度af0が衝突を回避 するのに十分な場合(−af0 ≥αo) には色変化枠は提示されない.
図5.1 (b)にシステムBの概要を示す.警報機能および黄色の枠(PDCA)の有無以外は
前章の4.2.1 2)項で述べたDCA-FCWSと同一の仕様である.
5.4.2 実験条件
実験参加者は20代および30代の男性9名,女性3名の計12名(21∼37歳,平均年齢 25.3歳)であり,実験前のインフォームドコンセントにより実験参加の同意を得た.実験 コースは幅7.0[m]の片側2車線で一方通行の直線道路であり,路面摩擦係数は0.6と設定 した.自車両はコースの左側車線を走行し,自車両の前方を先行車が走行する.
本実験では,追従走行中の先行車との車間距離および速度を統一するため,先行車追従 中の車間時間 (THW)が1.5[s]となるように自車両の速度を自動調節(等速制御)した.
ただし,先行車の減速に対して自動的に減速を行う機能はない.等速制御が行われている 間はアクセル入力は受け付けず,実験参加者がブレーキペダルを操作した場合にのみ等速
3ODCAとPDCAの違いについては第3章を参照のこと.
0 [m/s2] 6 [m/s2]
ODCA bar
•Orange: Driver’s deceleration is not enough to avoid the collision.
•Light blue: Driver’s deceleration is
enough to avoid the collision. (b) System B (Bar) (a) System W (WSD)
ODCA color-change frame
•Frame-on: Color changes as follows depending on ODCA value.
•Frame-off: ODCA < 0.1 or driver’s deceleration is enough to avoid the collision.
ODCA [m/s2] 0 ~ 3.0 ~ 6.0 Color of frame Green ~ Yellow ~ Red
図5.1: Two types of visual information systems
制御が解除される.また,ブレーキランプに対する単純反応となることを避けるため,先 行車のブレーキランプは点灯しないように設定した.すなわち,実験参加者は先行車との 車間距離の変化あるいは視覚情報提示システムの情報をもとに衝突危険性を判断する必要 がある.
実験参加者は5.4.4節で後述する3種類の走行条件で走行する.各条件において,先行 車は以下に示す四つのパターンで減速する.
・パターン1: 50[km/h]の等速走行∼0.2[G]で減速
・パターン2: 50[km/h]の等速走行∼0.4[G]で減速
・パターン3: 80[km/h]の等速走行∼0.2[G]で減速
・パターン4: 80[km/h]の等速走行∼0.4[G]で減速
各減速パターンはランダムな順番で4回ずつ発生する.等速制御による追従走行→減速パ ターン発生→自車両停止を1試行とし,1走行条件につき計16試行を行う.ただし,視 覚情報提示システムを提示する二つの条件では,各パターンとも4試行のうち1試行を欠 報条件とし,実際に生じている衝突リスクにかかわらず色変化枠やバーが提示されない.
欠報条件は3 ∼5試行に1回発生し,欠報が連続しないようにした.
なお,欠報の発生確率を明らかにした研究は少ないが,ステレオカメラによる夜間の歩 行者の検知率は90%以上,歩行者以外を誤検知する頻度は走行時間当たり平均0.9回とい う報告[15]がある.また,車載後方モニタカメラによる後側方の接近車両の認識率は日中 で90%以上,夜間では70%程度というデータ [16]がある.本章の実験では16試行中4 試行が欠報条件のため欠報の発生確率は25%となり,比較的高い発生確率となっている.
74 第5章 衝突回避減速度の視覚情報提示法に関する実験的考察
今回は実験時間の制約からこのような実験計画としたが,より現実的な欠報発生確率に基 づく検証も今後必要である.
5.4.3 教示内容
実験参加者には以下のように教示した.
1)左側車線を走行し,等速制御で先行車に追従すること 2)先行車減速時には,衝突しないよう適切に減速すること
3)等速制御で追従走行を行っている間は,右足をフットレストに置くこと 4)運転に支障がない範囲で視覚探索課題を行うこと
上記の2), 3)について,左足でのブレーキ操作は行わないように指示した.4)については,
コース両側の歩道にランダムな間隔で出現する歩行者が何人目の歩行者であるかを口頭に て回答する視覚探索課題を課した.
5.4.4 実験手順
シミュレータ環境と前節で述べた先行車に対する追従走行に慣れるための練習走行を 行った後に,以下3条件の実験走行を行う.1走行条件につき,走行時間は約20分である.
条件1(システム無し条件): システムを提示しない 条件2(システムB提示条件):システムBを提示 条件3(システムW提示条件):システムWを提示
順序効果の影響を抑制するために,実験参加者を2群に分けて群ごとに実験順序を変えた.
条件2, 3については疲労の影響を考慮し,8試行ごとに小休憩を入れた.
実験参加者1 ∼ 6: 条件1(8試行)→条件2(16試行)→条件3(16試行)→ 条件1(8試行)
実験参加者7 ∼ 12: 条件1(8試行)→ 条件3(16試行)→ 条件2(16試行)→ 条件1(8試行)
条件2, 3では,走行前にシステムについて実験者が説明を行ってから,システムに慣れる ための練習走行を行わせた.システムの説明では,視覚情報提示に用いるODCAの意味 やシステムの動作について説明するとともに,欠報についての教示として「システムの衝
0 2 4 6 8
w/o Bar WSD
Number of collisions
* *
Condition:
*:p<.05
図5.2: Number of collisions
0 1 2 3 4
Pattern 1 Pattern 2 Pattern 3 Pattern 4
Number of collisions
w/o Bar WSD w/o Bar WSD w/o Bar WSD w/o Bar WSD Condition:
Pattern:
図 5.3: Number of collisions of each pattern
突リスク評価は,常に正しいとは限らない」と付け加えた.ただし,練習走行中はすべて 正報とし,欠報は発生しない.実験の最後に5.6節で述べるアンケートを実施した.