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さ て 、 物 語 の 主 役 で あ る シ ュ リ ー グ プ タ と い う 人 物 で あ る が 、 『 大 般 涅 槃 経 』359や 、 『 大 集 大 虚 空 藏 菩 薩 所 問 経 』360に お い て 、 釈 尊 が い か な る 悪 人 、 卑 賤 の も の 、 迫 害 す る も の に 対 し て も 法 を 説 き 、 阿 耨 多 羅 三 藐 三 菩 提 へ と 導 い た こ と 、 ま た は 天 に 生 じ る 縁 を 得 た と そ の 改 心

357 『 申 日 』 で は 毒 飯 が 百 味 へ と 変 じ て い る 。

『 荘 厳 』「 我 今 持 毒 飯 、功 徳 之 伏 藏 。我 心 極 爲 惡 、毒 飯 以 標 相 。仏 以 滅 三 毒 、神 足 除 飯 毒 。 食 之 能 令 我 、 使 得 不 動 心 」[T4. 332c710]

『 増 一 』 「 至 誠 仏 法 衆 害 毒 無 遺 餘 諸 仏 無 有 毒 至 誠 仏 害 毒 至 誠 仏 法 衆 害 毒 無 遺 餘 諸 仏 無 有 毒 至 誠 法 害 毒 至 誠 仏 法 衆 害 毒 無 遺 餘 諸 仏 無 有 毒 至 誠 僧 害 毒 貪 欲 瞋 恚 毒 世 間 有 三 毒 如 來 永 無 毒 至 誠 仏 害 毒 欲 怒 瞋 恚 毒 此 三 世 間 毒 如 來 法 無 毒 至 誠 法 害 毒 欲 怒 瞋 恚 毒 世 間 有 三 毒 如 來 僧 無 毒 至 誠 僧 害 毒 」[T2. 775a516]

『 申 日 兒 』 「 佛 即 呪 曰 。 天 下 凡 有 三 毒 。 一 者 貪 婬 、 二 者 瞋 恚 、 三 者 愚 癡 。 佛 無 是 三 毒 者 毒 爲 不 行 。 至 誠 有 經 法 者 毒 亦 不 行 。 如 諸 比 丘 道 正 者 毒 亦 不 行 」[T14. 820a2427]

『 月 光 』 「 貪 婬 瞋 恚 愚 癡 邪 見 。 世 之 重 毒 吾 無 此 毒 。 毒 已 滅 盡 毒 不 害 我 」[T14. 817b45]

『 徳 護 』「 如 來 一 切 智 能 却 一 切 貪 瞋 癡 三 種 及 世 間 毒 藥 如 來 眞 實 説 我 已 久 遠 離 貪 瞋 癡 三 種 及 世 間 毒 藥 離 毒 清 淨 法 實 語 皆 遠 離 貪 瞋 癡 三 種 及 世 間 毒 藥 離 毒 清 淨 僧 實 語 皆 遠 離 」[T14. 848c2329]

『 菩 薩 』 「 世 間 凡 夫 、 有 其 三 毒 。 一 者 貪 欲 、 二 者 瞋 恚 、 三 者 愚 癡 。 我 今 已 於 曠 大 劫 來 。 滅 煩 惱 火 、 心 得 清 涼 。 於 此 三 毒 永 盡 無 餘 」[T3. 337a2426]

358 佐 藤 義 博 [1982] pp. 304308.

359「 尸 利 毱 多 邪 見 熾 盛 因 見 我 故 邪 見 即 滅 」[T12. No. 374, 520a2021, 764b1315]

「 亦 受 長 者 尸 利 毱 多 雜 毒 之 食 。 大 王 當 知 、 尸 利 毱 多 、 往 昔 亦 作 逆 罪 之 因 。 以 遇 佛 聞 法 、 即 發 阿 耨 多 羅 三 藐 三 菩 提 心 」[T12. No.375, 479c27480a1]

360 唐 、 不 空 [T13. No.404, 643c21644a10]

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を 説 く 他 、 『 大 智 度 論 』361で は ベ ナ レ ス 、 ラ ー ジ ャ グ リ ハ に 居 た 迫 害 者 の 名 前 と し て 挙 げ ら れ る 。 『 大 方 等 大 集 経 』362は 迫 害 の 悪 事 の 例 と し て 挙 げ ら れ る の み で あ る が 、 ど の 経 に お い て も 長 者 の シ ュ リ ー グ プ タ と い う 人 物 が 外 道 の 一 派 で あ る 点 、 釈 尊 に 対 し て 害 意 を も っ て い た 点 は 共 通 し て い る 。 こ れ ら の 点 か ら も お そ ら く

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世 紀 以 前 に 実 在 し た 人 物 が モ デ ル に な り 説 話 に 持 ち 込 ま れ た の で は な い か と 推 測 さ れ る 。 玄 奘 の 『 阿 毘 達 磨 大 毘 婆 沙 論 』363、 『 阿 毘 達 磨 順 正 理 論 』364と い っ た ア ビ ダ ル マ 論 書 で は ア ン グ リ マ ー ラ(

Skt. / Pā. Aṇgulimāla, Chi.

指 鬘 ) と 併 記 さ れ 、 「 彼 ら の よ う に 地 獄 に 堕 ち る べ き 悪 業 を 行 っ た も の で も な ぜ 菩 提 果 を 得 た の か ? 」 と い う 討 論 に 登 場 し て い る 。 ア ン グ リ マ ー ラ は『 央 掘 魔 羅 経 』365巻 四 に お い て「 猶 如 火 中 生 蓮 華 世 間 希 有 見 二 佛 」 と そ の 珍 し さ を 讃 え ら れ て い る 。 こ の 表 現 は 維 摩 経 の 梵 本 、 チ ベ ッ ト 本 及 び 漢 訳 三 本 の 第 八 「 仏 道 品 」 に も 、 世 間 を 地 獄 と 仮 定 し そ の 中 で

361 「 … 及 長 者 尸 利 崛 多 提 婆 達 多 阿 闍 貰 等 。 是 謀 欲 害 佛 不 信 佛 法 各 懷 嫉 妬 。 有 是 人 輩 故 佛 多 住 此 」[T25. No.1509, 77c378a1]

362 [T13. No.397, 142c1317]

363玄 奘 訳 (656659 年 )[No.1545, T27. 30c1316 / No.1562, T27.600b1624]カ ニ シ ュ カ に 言 及 し て い る 点 か ら A.D. 2Cご ろ に 作 ら れ 、 龍 樹 以 前 の A.D. 3C ご ろ に ま と め ら れ た も の 。 説 一 切 有 部 の 系 統 。

364玄 奘 訳 (651652年 ) [T29. 589a16b1]5C 後 半 カ シ ュ ミ ー ル に て 説 一 切 有 部 の 衆 賢 が 世 親 の 『 俱 舎 論 』 批 判 と 説 一 切 有 部 の 正 当 性 を 主 張 す る た め に 著 し た 。 説 一 切 有 部 の 系 統 。

365 求 那 跋 陀 羅 訳[T2. No.120, 543b9]パ ー リ に 簡 潔 な 原 型 を も つ 、 古 い 経 典 。 た だ し 漢 訳 は 十 地 経 以 降 の 成 立 (3C頃 ) と さ れ る 。 比 較 的 内 容 は 法 護 訳 に 近 い が 、『 仏 説 鴦 掘 摩 経 』 と

『 仏 説 鴦 掘 髻 経 』 に は 火 中 の 蓮 華 を 示 す 表 現 は な い 。

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あ っ て も 悪 魔 を 振 り 払 っ て 福 徳 を な す 稀 有 な 者 が 居 る と 「 火 中 蓮 華 」 へ 喩 え る 偈 に 確 認 で き る366

Kāmabhogāṃ pi darśenti dhyānaṃ vihastaṃ māraṃ kurvvanti avatāraṃ na denti te //30

Agnimadhye yath ā padmam adbhuta ṃ pi darśayet / eva ṃ kāmaṃś ca dhyānañ ca adbhutan te vidarś ayet //31

( 欲 楽 を 求 め る も の に は ) 諸 々 の 欲 楽 の 享 受 に ふ け る が 、 禅 定 を す る 者 に 対 し て は 瞑 想 を 示 す 。 〔 つ ま り は 〕 彼 ら は ( 禅 定 者 を 惑 乱 し よ う と す る ) 悪 魔 を 制 し て 〔 禅 定 者 に 〕 近 づ け な い 。 〈

30〉

ま る で 火 の 中 か ら 蓮 華 が 生 じ る と い っ た 希 有 な こ と を〔 人 々 に 〕 示 す よ う に 、 そ の よ う に 、 諸 々 の 欲 楽 の 中 に ( あ っ て も そ れ に 動 じ る こ と の な い ) 希 有 な 禅 定 を 〔 人 々 に 〕 示 す の で あ る 。 〈

31〉

こ の よ う に 「 カ デ ィ ラ 」 に お け る 布 施 の 宣 言 と 、 直 後 の 火 中 の 蓮 華 場 面 は 維 摩 経 へ と 用 い ら れ 、 悪 魔 を は ね の け る 菩 薩 と そ の 稀 有 さ を た た え る 偈 と な っ て 唄 わ れ て い る 。

366 サ ン ス ク リ ッ ト お よ び チ ベ ッ ト 訳 は 長 尾 訳 、 岩 松 訳 を 参 照 と し た 。 文 意 は 漢 訳 と や や 異 な り 、Skt. abhūta, Tib. yang deg ma yin,「 実 在 で な い 」と な っ て い る が お そ ら く は adbhuta の 誤 写 で あ り 、漢 訳 の「 希 有 な 」が 本 来 の 意 味 に 近 い と 思 わ れ る 。長 尾 [1980]、岩 松 [2008]

pp. 2597.

『 仏 説 維 摩 詰 経 』 支 謙 訳 [T14. No.474, 530b29c4]「 一 切 生 索 現 此 爲 菩 薩 生 在 欲 示 饒 有 現 捨 而 行 禪 能 禁 制 魔 首 莫 知 孰 執 焉 火 中 生 蓮 荷 是 可 謂 希 有 無 比 爲 大 炬 其 在 欲 能 爾 」

『 維 摩 詰 所 説 経 』 鳩 摩 羅 什 訳 [T14. No.475, 550b25]「 示 受 於 五 欲 亦 復 現 行 禪 令 魔 心 憒 亂 不 能 得 其 便 火 中 生 蓮 華 是 可 謂 希 有 在 欲 而 行 禪 希 有 亦 如 是 」

『 佛 説 無 垢 稱 経 』 玄 奘 訳 [T14. No.476, 576c1317]「 皆 現 生 於 彼 利 樂 名 本 生 示 受 於 諸 欲 而 常 修 靜 慮 惑 亂 諸 惡 魔 令 不 得 其 便 如 火 中 生 華 説 爲 甚 希 有 修 定 而 行 欲 希 有 復 過 此 」

同 経 で は 続 く 第 九 「 不 二 法 門 品 」 冒 頭[T14. 577a1221]に お い て 維 摩 詰 が 、 「 釈 尊 は 不 二 の 法 門 に 入 る ( 入 不 二 法 門 ) と い う こ と を 説 か れ た が 、 そ れ は ど う い う こ と か ? 」 と 問 い か け る と 二 人 目 の 菩 薩 と し て シ ュ リ ー グ プ タ ( 勝 密 ) が 登 場 し 、 不 二 と は 何 か を 説 く 。

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さ ら に 、 『 荘 厳 』367で も 維 摩 経 と 同 じ く 、 現 世 に 地 獄 の 火 炎 が 猛 威 を ふ る う 様 を 述 べ て い る 。

貪 欲 愚 癡 火 極 爲 難 除 滅 我 以 智 水 澆 消 滅 無 遺 餘 況 復 世 間 火 何 能 爲 我 害 地 獄 之 猛 火 熾 然 滿 世 界 七 日 焚 天 地 世 間 皆 融 消 如 此 之 猛 火 莫 能 爲 我 害 尸 利 鞠 多 火 何 能 見 傷 毀

菩 薩 の 布 施 行 の 妨 害 で あ る 火 炎 と は 世 間 に 満 ち た 悪 意 で あ る と わ か る 。 こ こ で 太 下 線 部 の 火 炎 は 三 火 の う ち の

rāgaggi

( 貪 火 ) 、

mohaggi

( 癡 火 ) で あ り 、 さ ら に シ ュ リ ー グ プ タ の 妻 が 「 云 何 横 於 彼 生 於 瞋 毒 相 」368と 、 彼 の 釈 尊 に 対 す る 瞋 恚 を 指 摘 し て お り 、 「 尸 利 鞠 多 火 」 と は

doṣaggi( 瞋 火 )で あ る と 考 え ら れ る 。こ の よ う に『 荘 厳 』に お い

て 炭 火 は 三 毒 と 重 複 す る 三 火 の 一 つ で あ り 、 そ し て シ ュ リ ー グ プ タ の 釈 尊 へ の 害 意 と は 怒 り で あ る こ と が 分 か る 。 南 伝 に 見 ら れ る 菩 薩 へ の 悪 意 と 、 地 獄 の 火 炎 は 北 伝 に お い て は 特 有 の 三 毒 、 三 火 と し て 巧 み に 釈 尊 に よ る 教 化 の 物 語 に 組 み 込 ま れ て い る 。