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初 期 無 量 寿 経 か ら は 、 二 つ の 蓮 華 の 坐 所 が 確 認 で き た 。 共 に 阿 弥 陀 仏 国 土 に お け る 蓮 華 の 坐 所 で あ り 、 一 つ は 【 無 ① 】 七 宝 の 水 浴 池 で 水 浴 し た の ち に 阿 弥 陀 仏 、菩 薩 、阿 羅 漢 た ち が 坐 る 大 蓮 華 。二 つ 目 は【 無

② 】 阿 弥 陀 仏 国 に 往 生 し た 諸 天 、 人 民 、 比 丘 、 比 丘 尼 、 優 婆 塞 、 優 婆 夷 は 水 浴 池 の 大 集 会 で 大 蓮 華 の 上 に 坐 っ て 前 世 想 起 を す る と い う も の で あ る 。

こ れ ら は

AG

と の 関 連 性 が う か が え 、 さ ら に 在 家 者 を 意 識 し た も の と な っ て い る 。 【 無 ① 】 は

AG

の 原 初 的 な 世 界 観 と 同 様 に 、 神 通 で 到 る こ と も で き る 、 蓮 の 花 の 咲 く 池 を 舞 台 に 選 ん で い る 。 そ し て 蓮 華 の 坐 所 に 特 別 な 性 質 や 描 写 を 用 い て い な い 、簡 潔 な も の で あ る 。一 方 で 、

【 無 ② 】 は 明 ら か に

AG

の よ う な 特 別 な 蓮 池 で の 大 集 会 と い う 情 景 描 写 を 知 っ て い る 。 さ ら に そ こ に は 仏 弟 子 か ら 拡 大 さ れ た 悟 り の 個 性 に 言 及 さ れ て い る 。 こ の 点 か ら も 、 【 無 ② 】 は 【 無 ① 】 よ り 発 達 し た 思 想 背 景 を 持 つ も の で あ り 、 初 期 無 量 寿 経 の 核 と な る 部 分 か ら は 遅 れ る 思 想 背 景 に あ る と 言 え よ う 。

ま た 、 【 無 ① 】 と

AG

の 前 後 関 係 に つ い て は 、 本 論 で の 明 確 な 結 論 は 避 け た い 。 し か し 、 お そ ら く は 初 期 無 量 寿 経 や

AG

が 現 在 確 認 で き る 経 典 と し て 、 ひ と ま と ま り に な る 以 前 に 、 「 神 足 で 到 る 秘 境 」 と は 古 代 イ ン ド で 共 有 さ れ る イ メ ー ジ と し て 流 通 し て い た の で は な い だ ろ う か 。

297 pūrvayogaの 一 種 と み ら れ 、 具 体 的 に は avadānaの 形 式 を 採 用 し 、 か つ Jātaka 的 性 格 を 濃 厚 に 持 っ た も の 。 藤 田 上 掲 書 pp. 347348. 梵 本 を 見 る と 「 ア ー ナ ン ダ よ 、 そ の む か し 過 去 の 時 に … 」(bhūtapūrvam, bhūtapubbaṃ)と は じ ま り 、経 典 と し て は ア ヴ ァ ダ ー ナ の 過 去 物 語 導 入 の 典 型 的 な 書 き 出 し と な っ て い る 。し か し 、ダ ル マ ー カ ラ 比 丘 の 物 語 は 過 去 世 と 現 在 世 を 結 ぶ 節 が な い た め 、純 粋 な ア ヴ ァ ダ ー ナ と は 少 々 異 な る と 言 え る 。〈 無 量 寿 経 〉 に お い て ダ ル マ ー カ ラ 比 丘 は 、 十 劫 以 前 に 成 仏 し て い る が 、 継 続 し て 現 在 も 仏 陀 と し て 存 在 し て い る た め 、 過 去 世 と 現 在 世 の 間 に 時 間 的 空 白 が な く 、 ア ヴ ァ ダ ー ナ の 形 式 か ら 少 々 外 れ た も の で あ る と 言 え る

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7 章 乗 り 物 の 蓮 華 座

浄 土 経 典 に 続 い て 、 同 じ く 先 行 研 究 で 多 く 引 用 さ れ る 〈 法 華 経 〉 の 蓮 華 座 は 、 ど の よ う な 思 想 の 影 響 下 に あ っ た の で あ ろ う か 。 般 若 経 系 統 の 蓮 華 座 を 説 く 『 阿 闍 世 王 経 』 の よ う に 、 文 殊 師 利 が 蓮 華 座 と 密 接 な 関 わ り を 見 せ る の が 〈 法 華 経 〉 と 、 法 華 経 に 後 続 し 、 か つ 般 若 経 の 思 想 が み ら れ る『 仏 説 弘 道 廣 顯 三 昧 経 』( 以 下 、『 弘 道 廣 顯 』と 略 す ) で あ る 。 本 章 に お い て も 、 蓮 華 座 に 「 神 通 で 至 る 特 別 な 場 所 」 「 神 通 を 現 す 場 所 」 と い っ た 要 素 が 見 い だ せ る か を 比 較 検 討 す る 。 加 え て 、

『 阿 闍 世 王 経 』 の 蓮 華 座 が 、 後 代 に お け る 移 入 で あ る 点 を さ ら に 補 強 す る こ と を 目 的 と し て 、 単 独 流 布 経 典 の 重 要 性 を 再 確 認 す る 。 文 殊 師 利 自 身 が 座 す 蓮 華 座 の 表 現 か ら 、 や や 発 達 し た 思 想 段 階 に み ら れ る 経 典 で 描 か れ る 蓮 華 座 の 展 開 を 追 っ て い く 。

7 . 1 〈 法 華 経 〉 の 経 題 に 示 さ れ る プ ン ダ リ ー カ

〈 法 華 経 〉は

Saddharmapuṇḍ arīkasūtra

で あ り 、白 蓮 華 を 意 味 す る プ ン ダ リ ー カ が 経 題 に 用 い ら れ て い る298。 し か し 経 典 中 に 、 プ ン ダ リ ー カ は ほ と ん ど 表 れ な い 。経 題 名 以 外 で プ ン ダ リ ー カ が 出 て く る の は「 法 師 功 徳 品 」299で 、 修 行 者 は ど ん な 香 り で も か ぎ 分 け ら れ る と い う 描 写 に お い て 、 花 の 香 り の 一 例 と し て 挙 が っ て い る の み で あ る 。

松 山

[2000]は 経 題 に プ ン ダ リ ー カ を 冠 し て い る に も か か わ ら ず 、 白

蓮 華 に 関 す る 言 及 が 極 め て 少 な い 点 に 注 目 し 、 本 田

[1944]の 考 察 を ふ

ま え て 、 例 え ば

Karu ṇāpuṇḍar īka( = 曇 無 讖 訳 『 悲 華 経 』 [T3. No. 157, 167a-ff])が 経 典 そ の も の で は な く 、慈 悲 を 体 現 す る 釈 尊 で あ る こ と か

298 岩 本 は saddharmapuṇḍarīkaの 複 合 語 は 限 定 複 合 語 と 結 論 し 、パ ー ニ ニ に 従 っ て「 白 蓮 の ご と き 正 し い 教 え 」 と 訳 す 。 チ ベ ッ ト で は こ れ を 格 限 定 複 合 語 と 解 し て 、dam-paḥchos pad-ma dkar-po「 聖 賢 の 、 白 蓮 の ご と き 教 え 」 と 訳 し て い る 。 岩 本[2003]I, pp. 408411.

299 『 正 法 』[T9. 120a15]「 華 香 青 蓮 紅 蓮 黄 蓮 白 蓮 」 『 妙 法 』[T9. 48b21]「 赤 蓮 華 香 。 青 蓮 華 香 。白 蓮 華 香 」『 添 品 』[T9. 182c4]「 赤 蓮 華 香 。青 蓮 華 香 。白 蓮 華 香 」Sdhp. p.213. jalajānāmapi puṣpāṇāṃ vividhān gandhān ghrāyati, tadyathā - utpalapadmakumudapuṇḍarīkāṇāṃ gandhān ghrāyati.從 地 踊 出 品 」 に み ら れ る 不 着 の 蓮 華 の 比 喩 は プ ン ダ リ ー カ で は な く パ ド マ で あ る 。 『 正 法 』[T9. No. 263, 112c27]「 如 水 蓮 華 悉 無 所 著 威 神 尊 重 」 『 妙 法 』[T9. No. 262, 42a6]「 如 蓮 華 在 水 從 地 而 踊 出 」 『 添 品 』[T9. No. 264, 176b2]「 如 蓮 華 在 水 從 地 而 踊 出 」 Sdhp. p. 188. anūpaliptāḥ padumaṃ va vāriṇā bhittvā mahīṃ ye iha adya āgatāḥ.

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300、 『 法 華 経 』 の 「 妙 法 蓮 華 」 は 経 題 で は な く 釈 尊 そ の も の と 理 解 す る 。

さ ら に 、 「 見 宝 塔 品 」 か ら 「 提 婆 達 多 品 」301に 相 当 し 、 序 品 も 含 む

『 薩 曇 分 陀 利 経 』失 訳( 西 晋

265

316

年 )302

T9. No. 265, 197a

198a)

に 着 目 し 、 『 サ ツ ド ン フ ン ダ リ キ ョ ウ 』 は 『 サ ッ ダ ル マ ・ プ ン ダ リ ー カ 』(

Saddharmapuṇḍarī ka( sū tra))と い う 経 題 で あ っ た こ と は 相 違 な

い と す る303。し か し 、同 経 は「 薩 曇 分 陀 利 の 仏 説 」な い し「 法 華 之 経 」 を 説 く こ と を 何 度 も 述 べ る が304、 サ ッ ダ ル マ ・ プ ン ダ リ ー カ と い う 教 説 の 内 容 に は 全 く 触 れ な い 。 こ の 点 か ら 、 当 時 こ の 経 典 の 他 に も う 一 つ 『 サ ツ ド ン フ ン ダ リ キ ョ ウ 』 が 存 在 し て い た と 考 え る 。 さ ら に 踏 み 込 ん で そ れ は 「 方 便 品 」 か ら 「 法 師 品 」 ま で の 「 化 城 喩 品 」 を 除 く 諸 本 で 構 成 さ れ た 経 典 で は な い か と 仮 定 す る305。 こ の 考 察 は 『 法 華 経 』 成 立 史 の 諸 研 究 か ら す る と 少 々 異 色 で は あ る が 、 『 法 華 経 』 の 核 た る

300 Yamada[1968], 宇 治 谷 [1969]を 参 照 。

301 『 妙 法 』 で は 「 見 宝 塔 品 」 第 十 一 、 「 提 婆 達 多 品 」 第 十 二 と 分 割 し て い る 。 こ の 二 つ を 梵 本 で は 11. Syūpasaṁdarśana.『 正 法 』 で は 「 七 宝 塔 品 」 第 十 一 、 『 添 品 』 で は 「 見 宝 塔 品 」 第 十 一 と 一 つ に に 包 括 し て い る 。 蓮 華 座 が 説 か れ る の は こ の 「 提 婆 達 多 品 」 相 当 部 分 で あ る た め 、 本 論 で は こ の 呼 称 を 用 い る 。

302 氏 は 割 注 に「 漢 音」と あ る こ と か ら 、後 漢 が 滅 亡 し た 220 年 ま で に は 成 立 し て い た と 述 べ る 。

303 「 如 是 我 聞 」 の 旧 訳 で あ る 「 聞 如 是 」 (evaṃ mayā śrutaṃ) で は じ ま っ て い る 。 ま た 末 尾 も 意 味 が 完 結 し て お り 、 独 立 経 典 で あ る こ と が 解 る 。

304「 説 薩 曇 分 陀 利 漢 言 法 華 佛 説 無 央 數 偈 」[T9. 197a1213]を は じ め「 願 釋 迦 文 佛 坐 我 金 床 。更 説 薩 曇 分 陀 利 經 。於 是 釋 迦 文 佛 。上 講 堂 就 於 金 床 而 坐 便 説 薩 曇 分 陀 利 經 」[T9. 197a23

25]「 我 行 菩 薩 道 時 。 求 索 薩 曇 分 陀 利 經 。 … 〈 中 略 〉 … 我 求 索 薩 曇 分 陀 利 經 … 〈 中 略 〉 … 我 有 薩 曇 分 陀 利 經 」[T9. 197b17]「 是 時 無 央 數 人 得 羅 漢 道 。無 央 數 人 發 辟 支 佛 心 。無 央 數 人 發 阿 耨 多 羅 三 藐 三 菩 提 心 。善 男 子 善 女 人 。聞 是 法 華 之 經 。」[T9. 197b2629]「 文 殊 答 曰 。 於 是 池 中 。 但 説 薩 曇 分 陀 利 」[T9. 197c1819]

305 氏 は そ の 理 由 に 以 下 の 点 を 挙 げ て い る 。 法 華 経 で も 古 層 の 成 立 と 思 わ れ る 「 方 便 品 」 に は サ ッ ダ ル マ・プ ン ダ リ ー カ も『 法 華 経 』と い う 名 前 も な い こ と か ら こ こ に 古 い 経 題 が 見 出 せ る の で は な い か 。「 方 便 品 」 に は agra-dharma( 最 上 法 ) と い う 語 が 出 て く る 。 こ れ は 「 方 便 品 」 で 多 く 使 わ れ る agra-bodhiが 、 法 華 経 の 信 者 は 男 女 問 わ ず だ れ で も 得 ら れ る こ と か ら agra-dharma で あ る と し て い る 。ゆ え に 本 来 は こ の ア グ ラ ダ ル マ が 経 題 で あ っ た の で は な い か と 仮 説 を 立 て 、 そ し て 、 そ れ が 確 認 で き る の は 「 見 宝 塔 品 」 で は な い か と 結 論 付 け る 。

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部 分 が す で に 完 成 し 、 単 独 流 布 し て い た 同 経 が そ の 存 在 を 意 識 し て い た 点 を 補 強 す る306。『 薩 曇 分 陀 利 経 』は 筒 井[2004]に よ る 経 録 の 研 究307 と 、塚 本

[1970][1980]に よ っ て 写 本 を 用 い た 詳 細 な 比 較 研 究 が な さ れ て

お り 、 単 独 流 布 し て い た 経 典 が 『 正 法 華 経 』 お よ び 中 央 ア ジ ア 系 写 本

O

308と 、 『 添 品 妙 法 蓮 華 経 』 、 ギ ル ギ ッ ト 本 、 ネ パ ー ル 本 、 チ ベ ッ ト 訳 へ と 展 開 し た と 考 察 さ れ て い る 。