近年、近代建築や近代化遺産などの歴史的建造物の活用を目的とした改修工事が様々な ところで行われている。当初の機能を維持し続けるものもあれば、当初の機能を全うし、
新たな機能を付加し使い続けるものもあるが、いずれも、利用者の安全性を確保するため の構造補強は不可欠である。しかしながら、これらの建造物は、規模や用途、機能、構造 形式も様々であることから、必要とされる補強の程度もまちまちである。一方で、歴史的 建造物の補強手法は様々に試みられているが、実際にどのような手法を採用するかについ ては、各建造物における諸条件を勘案した上でその都度、各建造物に相応しいとの判断の もとで手法の選択が行われてきたと考える。
これまで近代の歴史的建造物で採用されてきた補強手法は、各建造物が有する文化財的 価値を維持することを目的とした手法であり、近代の歴史的建造物で採用するに相応しい 手法といえる。ただし、その選択がどのような判断に基づき、その結果文化財的価値は如 何に維持されたかを確認することが必要だろう。本論ではそれぞれの補強手法について、
「見せ方」と「可逆性」の観点から評価を試みる。このようなわかりやすい観点を用いるこ とは、今後の歴史的建造物の構造補強において、各建造物が有する文化財的価値をより良く 維持できる補強手法の選択に繋がると考える。
本章では、活用を前提とした非木造の歴史的建造物において、構造補強工事で実際に採 用された主な手法を取り上げる。各手法におけるメリットとデメリットを把握し、得られ る効果を確認する。また、各手法について「見せ方」と「可逆性」の観点から評価する。さ らに、同じ効果が得られる他の手法について検討する。最後に、科博本館の改修工事(第 3 章)
で採用された構造補強について検証する(図 4-1)。
図 4-1 構造補強の手法の検証における作業手順
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構造補強では、補強材を設置する際に可逆性が高いと判断した手法でも、設置する位置 や補強後の仕上げによっては、空間が著しく変化したり、不可逆な行為が行われることも しばしばある。そのため、個々の補強手法における、メリットとデメリットを把握した上 で「見せ方」と「可逆性」の観点から手法の選択を行うことは重要と考える。
構造補強における、「見せ方」と「可逆性」の考え方については図 4-2 に示した。
「見せ方」には「見える」補強と「見えない」補強があり、このうち「見える」補強は
「見せる」ものと「隠す」ものに分類することができる。補強材の設置に伴い外観または 内部空間が著しく変化するものは「見せる」構造補強とし、内外部に設置した補強材を材 料等の仕上げにより見せないものを「隠す」補強とした。「見せる」補強は、補強材が露出 している。「隠す」補強材には、内部空間に文化財的価値があるかのような内装材で仕上げ 隠す場合と、文化財的価値に関係の無い材料で隠す場合、また、既存の躯体と仕上げ面の 間の懐を利用する場合がある。補強材を既存の躯体内部に設置し、表面化しないもの、ま たは、補強材設置後、既存と同等の材料で復旧したものについては「見えない」補強と評 価した。
また、「可逆性が高い」とは、補強材の設置の際に、主要構造体に影響が少ないもの、主 要な意匠や材料等を損なわないもの、補強材の撤去の際に、躯体から材料・仕上げとも分 離できるもの、軽微な補修により、容易に改修前の状態に戻せるもの、と判断した。これ に対して「可逆性が低い」とは、補強材の設置の際に、主要構造部に構造耐力上の支障が 及ぶもの、主要な意匠や材料等を損なうもの、補強材の撤去の際に、付加物の撤去が容易 でないもの、改修前の状態に戻すのが困難であるもの、とした。
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《見せ方》
《① 見せる》
・補強材の設置に伴い、外観または内部空間が著しく変化するもの。
(補強材は露出している。)
《② 隠す》
・内外部に設置した補強材を、材料等の仕上げにより見せないもの。
(「隠す」には(A)内部空間に文化財的価値があるかのような内装材で隠す場合と、(B)文化財的価値に 関係の無い材料で隠す場合、また、(C)既存の躯体と仕上げ面の間の懐を利用する場合がある。)
《③ 見えない》
補強材を既存の躯体内部に設置し表面化しないもの。補強材設置後、既存と同等の材料で復旧したもの。
(ピンニングによる痕跡などが残るものはあるが、内外観は変わらない。)
《可逆性》
《可逆性が高い》
[設置]
・主要構造体に影響が少ないもの。
・主要な意匠等を損なわないもの。
[撤去]
・躯体から、材料・仕上げとも分離できるもの。
・軽微な補修により、容易に改修前の状態に戻せる もの。
《可逆性が低い》
[設置]
・主要構造部に構造耐力上の支障が及ぶもの。
・主要な意匠等を損なうもの。
[撤去]
・付加物の撤去が容易でないもの。
・改修前の状態に戻すのが困難であるもの。
図 4-2 構造補強における「見せ方」と「可逆性」の考え方
(A):文化財的価値があるかのように内装材で隠す
(内部空間は変わる/変わらない/著しく変化)
(B):文化財的価値に関係の無い新規の材料で隠す
(内部空間は変わる/著しく変化)
(C):既存壁面と仕上げの間の懐で補強を行い 仕上げ面で隠す
(内部空間は変わらない)
見える
③:見えない
①:見せる
②:隠す