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耐震要素としての効果を求める手法としては「耐震壁の新設」、「開口部の閉塞」、「既存 壁面への増し打ち」があげられるが、なかでも、「耐震壁の新設」に関しては、補強材に用 いる材料の選択が「見せ方」と「可逆性」に大きく影響すると考える。

① 「耐震壁の新設」には鉄筋コンクリートが採用されたが代替として鉄骨ブレースとプ レキャストCBの選択があり得た。科博本館の耐震壁は、室内の空調機械室の間仕切り壁 として利用するという別の要素も考慮した上での手法の選択であったため、「可逆性が高 い」鉄骨ブレースよりも、「可逆性が低い」鉄筋コンクリートが採用された。また、展示室 という内部空間への配慮から、もとから壁があったかのような仕上げによる「隠す」手法 が採用されたと考えられる。今回の改修工事の内容を考慮すれば、補強範囲の大半で鉄筋 コンクリートが使用されている。コスト面や、工事内容から同種の材料を使用する手法の 選択は自然である。他の諸条件を勘案すると可逆性を犠牲にしてでも、空調機械室を設置 するという異なる理由で手法の選択がされている。

文化財的価値の維持についてみると、耐震壁に鉄筋コンクリートが選択されたため、一 部の柱頭装飾は撤去されたが、室内に保存された装飾から見れば、失われた部位はごく一 部で済んだと判断できる。

② 「既存壁面への増し打ち」には「鉄筋コンクリートによる増し打ち」が採用されたが、

代替として「壁鋼板補強」と「壁炭素繊維シート補強」の選択があり得た。

科博本館では、事務室に「コンクリートによる増し打ち」が採用されており、内部空間 の広さを考慮すれば炭素繊維シートや鋼板を採用する方がより広い空間が確保できたと考 えられる。これらの手法の中では、より可逆性が低い材料の選択であったが、既存壁と同 種の材料を使用したことで、より強固な壁へと変化した。したがって、壁面における耐力 の向上を優先とした手法の選択であったといえる。

既存の壁面に対して、新たに耐震壁を新設するとなると、いずれの材料を採用したとし ても、既存の壁体の解体や撤去が伴うため「可逆性は低く」、作業効率も悪い。一方、「既 存壁への増し打ち」は、鉄筋コンクリートの打設により「可逆性は低く」なるが、既存の 壁は元の位置に存置されるため、その場での保存を可能とした。そのうえ、増し打ちした 壁面は、内部空間に違和感がないよう周囲の壁面と同化するような「隠す」を意識した仕 上げが行われている。

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③ 科博本館では「柱鋼板巻き」が採用されたが、代替として「柱炭素繊維シート補強」

と「鉄筋コンクリート」を用いた手法があげられる。いずれも、「可逆性が低」く、仕上げ により「隠す」手法である。また、使用する材料により室内の床面積や室容積が変わる。

したがって、使用する材料によって、内部空間の活用に大きく影響する。

科博本館では、補強が検討された地下 1 階の柱はメインの通路であり、避難面も考慮し て、炭素繊維よりは耐火性に優れ、コンクリートよりは柱断面が小さい、鋼板による補強 が採用されたと考えられる。したがって、「柱鋼板巻き補強」は、「見せ方」と「可逆性」

の観点から得られた評価だけではなく、別の要素も含めた手法の選択であった。

④ 「既存開口部の閉塞」については、同じ効果が得られる代替の手法が確認できなかっ たが、開口部を解体し新たに耐震壁を新設する手法が考えられる。ただし、この手法を採 用することで既存の壁面の大半を失うことになる。また、文化財的価値の維持についてみ ると、何れの手法を選択したとしても、当初の建具であるガラス嵌め込み鉄製サッシュや 木製装飾は撤去されたと考えられる。開口部閉塞は、「可逆性が低い」手法の選択ではあっ たが、小さな工事でより効果的な耐力が確保できる手法であったといえる。また、補強の 表面は「隠す」に重点が置かれた仕上げが施されている。

⑤ 「接合補強」については、同じ効果が得られる代替の手法が確認できなかった。

以上から、科博本館で採用された手法は、「耐震壁新設」や「開口部閉塞」など、仕上げ により「隠す」に重点が置かれた手法が選択されており、仕上げを周囲と一体化させる、

または違和感のない仕上げが行われていた。また、「可逆性が高い」と判断された手法より も、他に考慮すべき要素があったために、「可逆性が低い」手法が選択されていた。

煉瓦造,2 階建,明治 43 年(1910)竣工。昭和 53 年(1978)保存修理工事完了。『重要文化財旧近衛 師団司令部庁舎保存整備工事報告書』文化庁,1978.3

床組及び小屋組は木造、間仕切り壁及び基礎は煉瓦造だったが、木造の小屋組のみを残し床組は撤去さ れ、鉄筋コンクリートのスラブを新設し、基礎や間仕切り壁にはコンクリートを打設している。

煉瓦造,2 階建,大正 3 年(1914)竣工。平成 2 年(1990)保存修理工事完了。『石川県立歴史博物館

(旧金澤陸軍兵器支廠兵器庫)保存工事報告書』石川県,1990.6。旧金澤陸軍兵器支廠兵器庫では、煉 瓦の外壁のみを残し内部の木造躯体部分は全て撤去している。敷地内には本建物と並行に他 2 棟の煉瓦 造の建物が建ち並び、それぞれ異なった手法の構造補強が実施された珍しい事例である。

鉄骨鉄筋コンクリート造,地上 5 階地下 1 階建、棟屋付,昭和 8 年(1933)竣工。平成 22 年(2010)

修理工事完了。

科博本館 図 3-49 増し打ち部断面図参照。本論 3 章 p.94

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修理工事報告書では、煉瓦壁鉄骨バットレス補強との記述があるが室内におけるバットレス補強と区別 するため「屋外鉄骨補強」とした。

煉瓦造,平屋建,大正 5 年(19⒗)竣工。平成 2 年(1990)保存修理工事完了。『重要文化財山形県旧 県庁舎及び県会議事堂保存修理工事報告書1旧県会議事堂編』山形県,1931.3

煉瓦及び鉄筋コンクリート造,3 階建,大正 11 年(1922)竣工。平成元年(1989)保存修理工事完了。『重 要文化財旧名古屋控訴院地方裁判所区裁判所庁舎保存修理工事報告書 本文』名古屋市,1989.11

煉瓦造,平屋建,明治 31 年(1898)竣工。平成 13 年(2001)保存修理工事完了。『重要文化財旧長崎 税関下り松派出所保存修理工事報告書』長崎市,2002.3

10 前掲 注 9

11 本補強は、修理工事報告書では「煉瓦壁体内部鋼材挿入工事」と記載されるが、本論では鉄骨を挿入 する補強手法には、躯体の内部および外部から挿入するものが確認できたためこれらを区別するため に、「屋外鉄骨埋設補強」とした。

12 煉瓦造,2 階建,大正 5 年(1916)竣工。平成 15 年(2003)保存修理工事完了。『重要文化財山口県 旧県会議事堂保存修理工事報告書』山口県,2005.2

13 本補強は、修理工事報告書では「煉瓦壁の挿筋補強」と記載されるが、本論では補強材を明確にする ために「煉瓦壁体鉄筋挿入補強」とする。

14 平成 26 年度に改修工事が完了した旧下関英国領事館(山口県下関市)では、鉄筋ではなくアラミド繊 維を用いた直材を使用している。

15 煉瓦造,平屋建,大正元年(1912)竣工。平成 14 年(2002)保存修理工事完了。本手法は、山形県旧 県会議事堂の壁面の一部にも採用荒れている。『重要文化財碓氷峠鉄道施設変電所(旧丸山変電所)2 棟保存修理工事報告書』松井田町,2002.7

16 『重要文化財 旧香港上海銀行長崎支店保存修理工事報告書』長崎市,1996.3

17 『重要文化財山口県旧県会議事堂保存修理工事報告書』山口県,2005.2

18 科博本館 図 3-52 柱鋼板巻き参照。本論 3 章 p.96

19 鋼板巻きは、旧群馬県庁本庁舎(現群馬県庁昭和庁舎)にも採用されている。国登録有形文化財(建 造物)。

20 鉄筋コンクリート造,4 階建,大正 13 年(1924)竣工。平成 10 年(1998)に改修工事完了。『重要文 化財旧山邑家住宅(淀川製鋼迎賓館)保存修理災害復旧工事報告書』株式会社淀川製鋼所,1998.3

21 煉瓦造,平屋建,明治 39 年(1906)竣工。平成 26 年(2014)保存修理工事完了。『重要文化財旧下関 英国領事館本館ほか2棟保存修理工事報告書』山口県下関市,2014.3

22 鉄筋コンクリート造,地下 1 階地上 3 階建,昭和 9 年(1934)竣工。市指定文化財。

23 鉄骨鉄筋コンクリート造地上 8 階、地下 3 階建,昭和 8 年(1933)竣工。『建築雑誌』1933.6/日経 アーキテクチュア『耐震改修実例 50』日経 BP 社,2007.9

24 科博本館 図 3-48 耐震壁新設部参照。本論 3 章 p.94

25 「耐震改修事例集 武庫川女子大学甲子園会館」日本建設業連合会,2003

26 鉄筋コンクリート造,地上 4 階地下 1 階建,昭和 5 年(1930)竣工。平成 24 年(2012)補強工事完了。

国登録有形文化財(建造物)。

27 『髙島屋東京店建造物歴史調査 報告書』高島屋,2009.1

28 科博本館 図 3-50 開口部閉塞参照。本論 3 章 p.96

29 鉄筋コンクリート造,5 階建,昭和 10 年(1935)竣工。国登録有形文化財(建造物)

30 煉瓦造,2 階建,明治 35 年(1902)竣工。平成 23 年(2011)保存修理工事完了。『重要文化財 舞鶴 旧鎮守府倉庫施設舞鶴海軍兵器廠 雑器庫並預兵器庫 附・第三水雷庫保存修理報告書』舞鶴市教育 委員会,2012.3

31 ピンニングは、大阪市中央公会堂の外壁化粧煉瓦の浮き補修に採用されている。

32 煉瓦造,2 階建,明治 39 年(1906)竣工。平成 26 年(2014)保存修理工事完了。『重要文化財旧下関 英国領事館本館ほか2棟保存修理工事報告書』山口県下関市,2014.3