プレキャストCB耐震壁とは、工場で製作した小型のセメントブロックを開放部に 配置して閉塞することで耐震壁を構築する手法とする25。
本手法は、旧甲子園ホテル(武庫川女子大学甲子園会館)で採用されている26。 耐震壁を付加することで地震時の水平力に対しての耐震性を高める効果が得られる。
開放部であった空間に、新たな間仕切り壁としてプレキャストCBが露出すること から内部空間は著しく変化し、設置する位置によっては閉塞感が生じる。ただし、仕 上げによっては空間内に同化させることも可能となる。設置した耐震壁は、容易に取 り外すことは困難であると考えられる。
したがって、プレキャストCBは「隠す」、「可逆性が低い」手法とみなす。
(ウ) 鉄骨ブレース
鉄骨ブレースとは、内部の柱間及び梁下により囲まれた開放部に鉄骨枠を廻して、
既存の躯体である柱・梁・床との間をアンカーボルトにて固定し、躯体と補強材を一 体化させる方法とする。
本手法は、日本橋髙島屋の社員用階段室の外壁内側に、鉄骨ブレースが採用されて いる(図 4-15)27。
耐震壁を付加することで地震時の水平力に対しての耐震性を高める効果が得られる。
鉄骨ブレースの採用により、開放部であった空間に、鉄骨が間仕切り壁として露出 するため内部空間は著しく変化する。ただし、鉄骨を用いることで空間と空間におけ る透過性の維持が可能となる。また、ブレースの色などを躯体の色に調和させるなど の工夫により目立たない上げとすることも可能となる。
ブレース補強は、躯体と鉄骨をアンカーボルトなどで結合することから、撤去は比 較的容易であり、改修前の状態に戻すことは可能であると考えられる。
したがって、鉄骨ブレースは「見せる」、「可逆性が高い」手法とみなす。
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⑨ 既存開口部の閉塞
既存開口部の閉塞は、窓や出入口などの開口部を鉄筋コンクリートの打設により閉塞し、
周りの壁体と一体化させる手法である。
本手法は、科博本館の展示室28及び事務棟の開口部や旧横浜正金銀行神戸支店(神戸市 立博物館)29の外壁に面する開口部で採用されている。
開口部を閉塞し壁体と一体化させることで、開口部に集中する応力を避けると同時に、
水平耐力を増大し耐力壁としての効果を得ることが可能となる。
当初の開口部に鉄筋コンクリートを打設し閉塞することで、新たな壁面として露出する ことになるが、壁体と一体化してしまうため、開口部廻りの意匠や建具も失われる。科博 本館では開口部を閉塞後、周りの壁面と同仕様の仕上げが行われたため、当初の開口部の 位置は確認できない。また、開口部を鉄筋コンクリートで閉塞する際に、開口部外周には アンカー等を配置するため、打設したコンクリート壁を撤去し、もとの開口部に復原する のは困難と考えられる。
したがって、既存開口部の閉塞は「隠す」、「可逆性が低い」手法とみなす。
図 4-15 鉄骨ブレースによる補強
(日本橋髙島屋 8階階段室)
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⑩ ピンニング
ピンニングは、煉瓦壁の斜め方向にドリル等で穿孔し、その後エポキシ樹脂等を注入し、
ステンレスピンを挿入し固定する手法である。
本手法が採用された建物事例としては、舞鶴海軍兵器廠雑器庫並預兵器庫及び第三水雷庫 があげられる(図 4-16、17)30。
煉瓦壁体内にステンレスピンを挿入することで、目地補強としての引張りやせん断力の 向上につながり、地震時の煉瓦壁の面外方向への曲げに対する変形性能を高める効果が得 られる。また、壁体として一体化を図ることも可能となる。
舞鶴では、径 8mm、斜め 45 度の穿孔を 472mmの間隔で行い、エポキシ樹脂の注入後 ステンレスピンを挿入し固定する。
ステンレスピンを既存の煉瓦壁面に挿入することから、補強材は、建物内外に表面化し ないため内部空間は変わらない。煉瓦壁面に穿孔痕が残るが、壁面の大きさからすれば大 きなものではない。また、可逆性の視点からすると、煉瓦に挿入したピンの撤去は困難な ため補強材の撤去は困難と考えられる。
したがって、ピンニングは「見えない」、「可逆性が低い」手法とみなす。
ピンニングは、本来煉瓦造のような組積造に対して効果の得られる手法である。一般的 にいえば、鉄筋コンクリート造の建造物の構造補強には使用されない。しかし、前節で記述 したように、ピンニングは、仕上げ材と躯体との一体化には効果が得られるため、コンクリ ート躯体の表面のモルタルやタイルの仕上げ材の浮きの補修に採用されることもある31。
図 4-16 壁面へのステンレスピンの挿入
(雑器庫並預兵器庫 煉瓦壁室内部)
図 4-17 壁面へのステンレスピンの施工位置
(雑器庫並預兵器庫 煉瓦壁室内部)
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⑪ アラミドロッド挿入目地置換補強
アラミドロッド挿入目地置換補強とは、煉瓦壁の目地を部分的に切削し、棒状のアラミ ド繊維を配置し、目地部を無収縮モルタルで埋め戻す手法である。
近年、煉瓦造の建造物の補強手法に用いられるようになり、まだ実績は少ないが、旧下 関英国領事館で採用されている(図 4-18、19)32。
アラミド繊維補強により、目地のせん断強度の向上と、煉瓦壁の面外方向への曲げ耐力 の向上を図ることが可能となる。
目地深さ 30〜60mm切削し、直径 3mmのアラミドロッドを設置し、モルタルを充填した。
アラミドロッドは目地内に挿入されることで、煉瓦壁面の表面に露出しないため、当初 の内外観を維持することが可能となる。また、補強の設置の際に、躯体である煉瓦はその ままの状態を維持できるが、壁としての構造体の一部である目地の切削が行われる。
したがって、アラミド繊維による目地補強は「見えない」、「可逆性が低い」手法とみなす。
現在のところ、鉄筋コンクリート造の歴史的建造物においてアラミド繊維を採用した補 強は見られない。今後は、近代化遺産などの鉄筋コンクリート構造物にみられる、コンク リートの風化や劣化に伴う鉄筋の錆びや爆裂した鉄筋における一部差し替えや差筋などの 部分的な補修用の材料としての可能性も考えられる。
図 4-18 煉瓦目地へのアラミドの挿入
(旧下関英国領事館 外壁)
図 4-19 アラミド挿入における概念図
(旧下関英国領事館)
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⑫ 鉄骨フレーム補強
鉄骨フレーム補強とは、建物内部に既存の構造体とは別に、鉄骨によるラーメン構造の 架構を構成し、これと既存の壁や床などをアンカーにより緊結する手法とする。既存の躯 体と補強鉄骨の間には無収縮モルタル等の材料を充填し定着させる。近年では煉瓦造の倉 庫や工場などの大空間をもつ近代化遺産等にしばしば用いられる手法である。
鉄骨フレーム補強が行われた煉瓦造の建物には、同志社彰栄館(図 4-20)33や舞鶴海軍 兵器廠雑器庫並預兵器庫(図 4-21)34、鉄筋コンクリート造の建物では旧第一銀行熊本支 店(現ピーエス熊本センター)(図 4-22)35がある。同志社彰栄館と舞鶴海軍兵器廠雑器庫 並預兵器庫建物は、内部空間全体に補強を実施した例であり、旧第一銀行熊本支店は建物 の吹抜けとなっている一部に実施した例である。
鉄骨フレーム補強により、建物に生じる水平応力を鉄骨架構で補うことが可能となるた め、水平力に対する耐力を高めると同時に、煉瓦壁の地震時の応力の負担の軽減と建物全 体の耐震性能の向上に対する効果を得ている。
建物の内部全体に対して鉄骨架構を設置しているものは、建物全体に及ぶ応力を鉄骨架 構で支持する。一方で、内部空間に吹抜けなどがある場合は、応力が部分的に集中するため、
内部空間の一部に鉄骨架構を設置することで応力に対する効果を得ている。
同志社彰栄館は、当初は煉瓦壁面に対して下地を施し、漆喰等の仕上げが行われていた が、補強の際には、壁面の内側に補強材のH型鋼を設置し、その内側に下地・内装材によ る仕上げが行われている。このため、鉄骨のウェブ寸法分内側に新たな壁面が現れること になり、補強材は躯体と新たな壁面との懐に収まるため、内部空間には露出しない。
一方、舞鶴海軍兵器廠雑器庫並預兵器庫と旧第一銀行熊本支店の鉄骨フレーム補強は、
鉄骨架構を内部空間に構成し内装材による仕上げを行わないために、補強材の鉄骨が室内 に露出する。このため、当初の空間からは著しく変化する。ただし、鉄骨を設置する位置 を考慮すれば、本来の建物の特性でもある大空間を維持することも可能である。また、何 れの場合も補強材と既存壁面との定着面積は小さく、補強材としての鉄骨は煉瓦壁面から 容易に撤去することが可能であると考えられる。さらに、補強材は当初の材料と異なる素 材を用いることで、当初材と後補材の判別はしやすくなる。
したがて、鉄骨フレーム補強は「見せる」、「可逆性が高い」とみなすが、仕上げにより
「隠す」と判断するものもある。