近代の歴史的建造物は活用にともない、用途に応じた機能を維持しつつ、安全、快適に 利用することが求められている。ただし、そのための既存の設備の更新や新設にあたって 不適切な施工がなされれば、歴史的建造物のもつ空間や意匠、稀少な材料等の文化財的価 値をより損ねるおそれがある。特に公共の施設として活用する場合には、利用者にとって、
安全で機能的であり、さらに快適な環境を確保するためにも「昇降設備」、「空調設備」、「照 明設備」は欠くことのできない設備となっている。これらの設備改修に伴う機器等の設置 は、内部空間や外観に及ぶ影響が特に大きいと考えられる。また、設備機器は、日常的、
定期的な管理が不可欠であり、機器の更新に関しても、建造物の躯体や内外装の修繕から 見れば、比較的短い周期で行われる。
本章では、活用を前提とした非木造の近代の歴史的建造物における「昇降設備」、「空調 設備」、「照明設備」を取り上げ、実際に行われた設備改修の主な手法を検討する。各手法 におけるメリットとデメリットを把握し、これにメンテナンスの難度も加える。また、各 手法について「見せ方」と「可逆性」という観点から評価する。さらに、同じ効果が得ら れる他の手法について検討する。最後に科博本館の改修工事(第 3 章)で採用された設備 改修の手法について検証する(図 5-1)。
図 5-1 設備改修の手法の検証における作業手順
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設備改修における「見せ方」と「可逆性」の考え方については図 5-2 に示した。
「見せ方」には「見える」と「見えない」があり、このうち「見える」ものはあえて「見 せる」場合と「隠す」場合とに分類することができる。「見せる」については、設置に伴い 内部空間が著しく変化するもの、または、意図的に見せる状態で設置されたものとする。
また、後補の天井や壁面の仕上げにより設備を意図的に見せないものを「隠す」ものと評 価した。「隠す」ものには、内部空間に文化財的価値があるかのような内装材で隠す場合と、
文化財的価値に関係の無い新規の材料で隠す場合、既存の躯体と新たな仕上げ面の間の懐 を利用する場合がある。また、設備を躯体内部に設置し表面化しないもの、または、設備 設置後既存と同等の材料で復旧したものは「見えない」ものと評価した。
「可逆性」については、設備の、設置、更新及び撤去の際に建造物における構造耐力上 影響がないもの、または、軽微な補修により容易に改修前の状態に戻せるものについては
「可逆性が高い」と判断した。これに対して、「可逆性が低い」とは、設置、更新及び撤去 の際に構造耐力上支障が及ぶもの、または、既存の形態を大幅に損なうもの、とした。
設備改修では、大規模改修の際に有効径の大きいスリーブを設置することができれば、
後の配線は比較的容易に取り換えることが可能であるため、メンテナンスのしやすさから
「見えない」手法の選択肢もあり得る。ただし、「見えない」手法を選択することで、壁や 床の躯体に新たに手を加えることになり構造上の耐力を損なうおそれがある。構造補強に おいては「見えない」手法も耐力の向上を目指したものである。だが、設備の場合には「見 えない」手法は耐力を損なう可能性が高い。また、「可逆性が高い」手法の中でも、設置す る位置や数量などにより、不可逆な行為となり得ることもある。
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《見せ方》
《① 見せる》
・設置に伴い内部空間が著しく変化するもの、または、意図的に見せる状態で設置されたもの。
(設備は露出しているため配管の形状や色を考慮する場合もある。)
《② 隠す》
・後補の天井や壁面の仕上げにより意図的に隠すもの。
(「隠す」には(A)内部空間に文化財的価値があるかのような内装材で隠す場合と、(B)文化財的価値に 関係の無い材料で隠す場合、また、(C)既存の躯体と仕上げ面の間の懐を利用する場合がある。)
《③ 見えない》
・設備を躯体内部に設置し表面化しないもの。設備設置後、既存と同等の材料で復旧したもの。(内外観に 変化が伴わない。)
《可逆性》
《可逆性が高い》
・設置、更新及び撤去の際に建造物における構造耐 力上影響がないもの、または、軽微な補修により 容易に改修前の状態に戻せるもの。
《可逆性が低い》
・設置、更新及び撤去の際に構造耐力上支障が及ぶ もの、または、既存の形態を大幅に損なうもの。
図 5-2 設備改修における「見せ方」と「可逆性」の考え方
(A):文化財的価値があるかのように内装材で隠す
(内部空間は変わる/変わらない/著しく変化)
(B):文化財的価値に関係の無い新規の材料料で隠す
(内部空間は変わる/著しく変化)
(C):既存壁面と仕上げの間の懐を利用する
(内部空間は変わらない)
見える
③:見えない
①:見せる
②:隠す
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照明設備については、当初から照明器具を備えていない歴史的建造物もあり、その後の 改修により新たな照明器具を設置していることも多い。これら建造物における照明器具の 更新に際しては、選択する器具により内部空間に及ぶ影響も異なるため、内部空間の様相 に相応しい照明器具の選択が行われる場合もある。
歴史的建造物を活用するためには、この他に給排水設備や防災設備も必要となる。
給排水設備については、スプリンクラー等の配管や器具は、設置箇所や室は異なるが、
空調設備における考え方が援用できる。科博本館では、給排水設備が大きく影響するトイ レ等については文化財的価値を有する主たる空間ではなく、便益に関連する部分に限られ ている。屋内消火栓やスプリンクラーについては、本来器具は見えるように設置すべきも のであるが、配管については内部空間に露出させる「見せる」場合と、仕上げにより「隠 す」場合がある。
防災設備のうち、火災報知機については、配線等を含め照明設備の考え方に近く、影響 はこれより少ないと考えられるため、照明設備における考え方が援用できるだろう。