前項では、改修前の科博本館において文化財的価値を有する部分や部位の残存状況を 明らかにした。本項では、科博本館における文化財的価値の維持・継承のためには、当 初の部位や材料が概ね良好に残されている以下の(ア)~(タ)の部分について保存す べきであると考えた。保存すべき部分については図 3-39 から 43 に示す。
(ア) 外壁は、部分的な改修が行われているものの、全体として稀少な材料である釉薬 スクラッチタイルや花崗岩が良好な状態で残る。スクラッチタイルを基調とし、部 分的に花崗岩を用いるなど、材料の特性を活かした意匠性の高いデザインを維持し ている。
(イ) 車寄せおよびスロープは、稀少な材料である花崗岩を使用し、当初の形態を良好 に留めている。車寄せ上部には同じく稀少な材料である亀甲網入り板ガラスを用い たトップライトが残る。主たるアプローチとして重厚感のある空間を維持している。
(ウ) 正面玄関ホールは、壁や床に大理石などの稀少な材料を豊富に使用し、また、天 井には意匠性の高い中心飾りが残る。入口には重厚感のある鉄製の折れ戸を設置す るなど、部位・部材ともに当初の形態が良好に残り、本博物館のメインエントラン スに相応しい空間を維持している。
(エ) 南北展示室(1~3 階)は、柱頭の石膏彫刻や戸口額縁の木製装飾など意匠性の高 い材料を有する。また、ガラス嵌め込み鉄製サッシュなどの現在は使用されなくな った建具を使用するなど、部位・部材ともに当初の形態が良好に残されている。
(オ) 南北翼階段室(地下 1 階~3 階)は、手すりに大理石、床に泰山タイルを使用する。
2 階の壁面や 3 階の天井には伊東忠太が関わったとされるステンドグラスを設置し、
意匠性も高い。稀少・特殊な材料を豊富に用いた部位・部材が良好に残されている。
(カ) 中央ホールは、大理石をはじめ御影石や日華石など多様な石材を使用し、石材の 組み合わせによる意匠性も高い。ドーム上部には小川三知や伊東忠太が関わったと
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されるステンドグラスを配し、内部には意匠性の高い石膏彫刻が施される。意匠性 の高い装飾と、稀少性のある材料を使用するなど、部位・部材ともに良好に残され ている。
(キ) 中央階段室(地下 1 階~4 階)は、大理石や泰山タイルなどの稀少な材料を使用し、
高度な技術によるグラスモザイクや、意匠性の高い真鍮の金物を設置するなど、部 位・部材が良好に残されている。
(ク) メモリアルルーム(旧館長室)は、床や照明の改変はあるものの、意匠性の高い 天井の彫刻や、腰壁などの部位・部材が概ね良好に残されている。また、博物館と いう公的な施設において、館長用の応接室も兼ねていたため格式の高い意匠を維持 している。
(ケ) 事務階段室(地下 1 階~4 階)は、床は更新されているが、腰壁や装飾が施された 木製の手すりは当初の形態を留めており、階段としての機能を維持している。
(コ) 風除室(前 裏玄関ホール)は、天井の石膏彫刻の中心飾りや、壁面の泰山タイル、
受付カウンターの大理石など意匠性の高い装飾、稀少な材料を用いる。壁や床、天 井の部位など、各部位の部材が良好に残されている。
(サ) 多目的室(前 施設課、旧公衆食堂)は、当初は来館者用の公衆食堂であったが、
現在は用途が変わっている。床や部屋の大きさは変更されているものの、天井や壁 などの形態や、材料は概ね良好に残る。また、腰壁の泰山タイルや、壁面のステン ドグラスなどの稀少・特殊な材料が残る。用途は変わったものの、食堂として使用 していた当時の内部空間を維持している。
(シ) 講堂は、秋保安治が目指した動的博物館の機能を示す室である。客席後方には映 写室が残る。正面には当時のスクリーンとして使用されていた額縁が残されている。
額縁には意匠性の高い石膏彫刻が廻り、彫刻にはメタリコン塗装などの高度な技術 が用いられている。スクリーンの額縁や換気口用のグリルには意匠性の高いデザイン を採用するなど、細部まで丹念に作られており、空間性の高い意匠を維持している。
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(ス) 貴賓室は、天井や壁面に意匠性の高い石膏彫刻が残る。壁面長押の石膏彫刻は当 初はメタリコン塗装で、後の改修により新たに塗装されたが、形態は留めている。
木製の腰壁やカーテンボックスなど、当初の部位・部材が良好に残されており、貴 賓室としての格式の高い内部空間を維持している。
(セ) 資料庫は、床は改変されているが、亀甲網入り板ガラスのトップライトと鉄製サ ッシュなどの稀少な材料が用いられる。壁面に嵌め込まれたステンドグラスは意匠 性が高い。当初の部位・部材が良好に残されている。
(ソ) 西階段室は、階段及び床には茶色のタイルを使用し、意匠性の高い木製手すりが 設置されている。天井には当初の照明器具が吊り下がる。当初の部位・部材が良好 に残されている。また、当初からの階段としての機能も維持している。
(タ) 第 1 天文ドーム(旧天文鏡:赤道儀室)は、秋保安治が構想した動的博物館の機 能を示す設備である。昭和 6 年の設置以降、床の改変や望遠鏡の更新は行われたも のの、現在も屋根の開閉を可能とし、天体観測で使用されている。内外ともに部位・
部材は当初の形態を留めており、天体観測設備としての機能を維持している。
一方、科博本館の東にあたる事務棟は、昭和 6 年の竣工以降、室の用途の変更を行い ながら使用してきた。これらの諸室については、当初の形態や、材料が良好に残る部位 もあるが、今後も活用に伴って改変が行われることが想定される。科博本館における文 化財的価値を考慮すれば、質の高い空間を維持している(ク)メモリアルルームと(コ)
風除室(前 裏玄関ホール)を除く諸室は、改変が加えられても致し方ない部分と考える。
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図 3-39 保存すべき部分 地下 1 階平面図(改修前地下 1 階平面図に加筆)
図 3-40 保存すべき部分 1 階平面図(改修前 1 階平面図に加筆)
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図 3-41 保存すべき部分 2 階平面図(改修前 2 階平面図に加筆)
図 3-42 保存すべき部分 3 階平面図(改修前 3 階平面図に加筆)
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図 3-43 保存すべき部分 塔屋平面図(改修前 4 階平面図に加筆)