117
118
設備改修では、エレベーターの新設に伴い既存の床スラブが、解体・撤去された。空調 設備では、展示室および講堂における、床や壁、天井に配管用の貫通孔が設置された。ま た、照明設備では、展示室はライティングレールやライティングダクトを併用し、講堂は、
天井埋め込み式の照明器具の設置が選択された。
エレベターについては、床スラブの解体撤去に伴い、漆喰天井や廊下側の壁面や建具な どが解体・撤去されたが、意匠性の低い部屋を選択したことによりより、科博本館におけ る文化財的価値への影響は小さかったと考えられる。また、エレベーターを屋内に設置し たことで、外観や外壁のスクラッチタイル、花崗岩などの希少性の高い材料の保存が可能 となった。
空調設備の設置については、空気供給による空調方式を採用した展示室と講堂でも、吹 き出しの方式により、損なわれた文化財的価値や、維持できた文化財的価値は異なるとい える。展示室にはダクトが露出したことにより内部空間が著しく変化したが、もともとの 展示室としての在り様を保存することはできたのではないかと考える。一方講堂では、室 内吹き出し方式を採用したことで、壁面への開口は伴ったが、むしろ竣工当初の講堂とし ての空間性を高めることができたと考えられる。ただし、展示室、講堂ともに他の手法に より、それぞれの部分における文化財的価値について、さらによりよく維持する手法の選 択は無かったかを検討する必要はあるだろう。
照明設備については、展示室では、ライティングレールとライティングダクトの併用に より照度が確保された。これら設備の設置には天井や躯体にネジやアンカーボルトで固定 されたが、部位に対して大きな改変は見られなかった。ライティングダクトが室内に露出 したことで、展示室としての内部空間が著しく変化したが、汎用性のある設備を導入した ことで展示室としての機能の維持は可能となったと考えられる。一方、講堂については、
照度の確保のために天井埋め込み式ダウンライトが増設された。これに伴い天井には多数 の切りあけが行われたが、講堂としての内部空間を回復すると同時に、空間性を高めるこ とができたと考えられる。
科博本館の改修工事は、博物館機能の維持を前提とした改修工事であり、科博本館にお ける文化財的価値を損なわないようにすることを目標に実施した。本改修工事では時間的 な制約があるなかで、文化財的価値について十分な調査できなかったが、科博本館におけ る文化財的価値の中でも重要な部分・部位は保存できたと考える。しかし、実際には維持 できた文化財的価値もあったが、失われた部位も少なからずあったといえる。科博本館に おける文化財的価値をよりよく維持するためには、同じ効果が得られる手法のうち、保存
119
すべき部分に対してより影響の少ない手法の検討、選択が必要であり、また、重要な部分 や部位に対しても、より少ない改変に留めることができるような手法の検討が必要である と考える。
1 ドームの最頂部には円形のステンドグラスを設置し、これを中心に 4 面に半円形のステンドグラスを配 する。中央ホールのステンドグラスのデザインには伊東忠太が関わったとされる。『昭和初期の博物館 建築:東京博物館と東京帝室博物館』博物館建築研究会,2007.4.20 に掲載されるステンドグラス史 研究家の田辺千代の記述に詳しい。
2 部位、部分の確認については内部空間に対して行っているため、躯体の白抜きと意味合いが異なる。
3 2、3 階の中央ホールの回廊の壁面は、竣工当初はコルク貼りとしていたが、その後の改修により大理 石に改修されていた。今回の改修工事で大理石を解体したところ壁面のコルクは欠失していたが木製 の見切縁と巾木が残されていた。
4 展示の模様替えや動態展示に備え、床には当初から真鍮製のコンセントボックスが設置されていた。
5 改修前の展示室にはジオラマによる展示が行われており、展示裏となる建物の天井や壁などには展示に 合わせて黒色の塗装が行われていた。
6 貴賓室壁面の石膏彫刻は、竣工当初はメタリコンによる塗装が施されていたが、後の改修により白色の 塗装が行われた。
7 改修前の天井および壁面の仕上げは吹き付けによるものであったが、後日の調査により吹き付け材料に アスベストが含まれていることが明らかとなったため、急遽撤去作業が行われた。
8 国立科学博物館本館改修工事報告書の工程表を参考に作成した。
9 耐震診断は、財団法人日本建築防災協会による『改訂版 既存鉄骨鉄筋コンクリート建造物の耐震診断 基準』(1997 年改訂版)(第 2 次診断)及び『2001 年改訂版 既存鉄筋コンクリート建造物の耐震診断 基準(2 次診断)』に基づいて実施された。
10 耐震診断は、(株)MUSA 研究所によって実施され、「耐震改修計画評定書」(財団法人東京都防災・建 築まちづくりセンター、2005 年 4 月)が提出されている。なお、耐震診断とともに、耐震診断を請け 負った構造設計事務所から建物の耐力向上ための改修計画も同時に提案されている。)
11 鉄筋コンクリート造の建造物は Is 値≧0.6 であれば安全と評定されるが、本建築においては安全率を 見込み Is 値≧0.75 と設定している。
12 科博本館で採用された補強手法について、工事報告書では(ア)「耐震壁増設」、(イ)「耐震壁の増打 ち」、(ウ)「開口閉塞」、(エ)「接合補強」、(オ)「柱の鋼板巻き立て補強」の名称が使用されている。
本論では、技術報告集で既に使用した名称に倣うものとする。
13 『国立科学博物館本館改修工事報告書』巻末資料 改修前 1 階平面図、地下 1 階平面図、を使用し、
各階に行われた補強の方法と位置を加筆している。
14 技術報告集「旧東京科学博物館の耐震補強工事に見る文化財的価値の保存について」には(ア)~(エ)
については報告しているが、(オ)については今回追記した。ただし、本補強により文化財的価値の損 失については支障がなかったため、次節での評価はしないこととした。
15 機械室レスエレベーターとは、エレベーターの昇降路最上部に設置していた機械を昇降路内部に設置 することで、上部の機械室を無くすことができる。
16 改修前の展示室および講堂の図は『国立科学博物館本館改修工事報告書』より転載。
17 1 階サンクンガーデンに面する犬走は一部切断され、残された部分は叩きで仕上げとし、切断された 犬走は国立科学博物館の筑波研究施設内で保管されている。
18 改修前の中央ホールの中心には恐竜の展示が行われていた。改修工事に伴い展示物の移動を行ったと ころ、床面には当初のタイルは残されていなかったため今回の改修工事により修理することとなって いた。
19 改修工事の際に撤去された建具のうち同種のものについては、撤去後の状態がより良好なものを選択 し、国立科学博物館の筑波研究施設内で保管されている。