照明設備は歴史的建造物を活用し続けるために不可欠な設備となった。室の用途や室内の 演出のために照明計画が行われる場合も多い。室の用途は、竣工当初から継続するものや、
活用する際に変更されるものもあるため、室の用途に適した照度を確保する必要がある。
歴史的建造物では、当初は照明設備が設置されておらず、その後の活用に伴い設置した ものも多い。当初から照明設備を備える建物でも器具が更新されていることがある。これ らは必ずしも内部空間に相応しい器具が設置されているわけではなく、照明器具を更新す る際には、内部空間に相応しい器具を選択していく必要がある。設備改修において器具の更 新を検討することもあるであろう。照明器具の設置には、電源から器具までの配線処理が必 要となるため、器具だけでなく配線の「見せ方」が内部空間へ与える影響も大きい。
① 照明設備における配線
歴史的建造物における照明器具の更新や新設に伴う配線は、改修前の配線の有無と、そ れらが使用可能か否かということが、文化財的価値の維持に大きく影響すると思われる。
電気配線は耐用年数が短いので大規模改修の時には必ず更新することになる。
配線用のスリーブ管等が天井または壁体の内部に既設の場合、これが使用できれば配線 の更新は容易である。ただし、使用できない場合は、新たに配線の敷設工事が伴うことと なる。その際に、配線を内部空間に露出させないために、天井や壁面内に隠すために埋め 込もうとすると、既存の躯体に対する大幅な施工が伴うため、可逆性が低くなる場合があ る。また、メンテナンスはしにくく、施工の範囲によっては意匠性の高い装飾や、稀少性
図 5-17 床置き型空調機
(旧香港上海銀行長崎支店)(※破線は設備位置:筆者加筆)
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のある材料を損なうおそれがある。一方、配線を天井や壁面に這わせることで空間に露出 する方法がある。これは躯体に対して簡易的な固定による設置が可能となるため「可能性 は高い」と考えられる。さらに、表面に露出した配線は撤去や更新等を含め、メンテナン ス性も高いといえる。配線を内部空間に露出させる場合「見せる」手法とみなすが、モー ルなどの色を壁や天井と同一色とするなどして目立たないよう工夫するものも多い。また、
いずれも、「可逆性が高い」、「メンテナンスしやすい」手法とみなし、配線を躯体内に埋め 込む方法は「見えない」、「可逆性が低い」、「メンテナンスしにくい」とみなす。
「見えない」手法を選択することで躯体に手を入れた結果として不可逆な行為となり得 ることも考えられる。天井や壁面に当初からの懐がある場合は、これを利用することで「可 逆性は高い」が、必ずしもメンテナンス性が高いとはいえない。懐の大きさによりメンテ ナンスしにくい場合もあり得る。また、天井や壁面に新規の材料を張ることで確保できた 新たな空間が利用できれば、躯体内部に配線を行う場合よりも「可逆性は高く」、「メンテ ナンスしやすい」手法といえる。また、見える配線を「隠す」ことができる。
大規模改修の際には、十分な容量を持った配線用のスリーブ管を設けておくことがメン テナンスの際に有効である。
図 5-18 壁面露出の配線とコンセントボックス
(科博本館 3 階事務室)
(※設備位置:筆者加筆)
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② 既設照明器具の更新
既設照明器具の更新とは、建物の活用に伴い、改修前の状態で既に設置されていた照明 器具を、新たな室の機能に適した器具に更新する手法とする。
本手法が採用された建物事例として、科博本館の中会議室と執務室があげられる(図 5
-19、20)。本建物の照明器具は、当初のものではなく、改修前の時点で既に更新されていた。
更新には埋め込み式と直付けがある。埋め込み式の器具の設置は、埋め込む器具と同じ 大きさの開口が天井面にも必要となるため器具の設置数や大きさにより、可逆性が低くな ると考えられる。また、器具本体が天井に埋め込まれているためメンテナンスはしにくい といえる。一方、直付けの照明器具は内部空間に露出するが、器具と天井面には固定用の 金物が設置されているのみであるため、器具の更新は容易である。また、器具は露出して いるためメンテナンスしやすい。埋め込み式は、器具と配線のいずれも当初からの天井仕 上げと躯体のわずかな懐が確保できれば隠すことが可能となる。また、懐が狭い場合メン テナンスはしにくいと考えられる。科博本館の中会議室では天井の懐がやや小さく、薄型 の器具が用いられた。後者は器具が見える状態となり配線は天井及び壁面に露出する。
したがって、既設照明器具の更新について、埋め込み式における照明器具は、「隠す」、「可 逆性が低い」、「メンテナンスしにくい」とみなす。天井直付けの照明器具は、「見せる」、「可 逆性が高い」、「メンテナンスしやすい」とみなす。一方、ただし、前者については、既設 の天井裏や壁面に当初からの懐が確保されることが前提にあるものとする。
図 5-20 天井直付け 薄型照明器具
(科博本館 3 階事務室)(※設備位置:筆者加筆)
図 5-19 天井埋め込み式 薄型照明器具
(科博本館 中会議室)(※設備位置:筆者加筆)
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③ 補足照明の新設
補足照明は既設の照明器具を保存したまま、照度の不足を補うため新たな照明器具を増 設するものである。
(ア) 天井埋め込み方式
天井埋め込み方式とは、既設の天井面に、新設の照明器具を埋め込む手法とする。
本手法が採用された建物事例として、大阪市中央公会堂の大集会室ギャラリー部分 や科博本館の講堂があげられる(図 5-21)15。
天井埋め込み方式は、懐がある天井では、設置位置を比較的自由に選択できるとい うメリットがある。また、照明器具が天井面から露出しないため、天井の高さを維持 できる。器具は埋め込まれてしまうためメンテナンスはしにくいが、ある程度の大き さの懐が確保できればメンテナンスは可能である。また、器具の配線も懐で行うこと ができるため内部空間からは見えない。
照明器具は天井面に埋め込まれるため、内部空間の変化は小さい。天井面には設置 する器具と同数の開口部が必要となり、これに伴う施工が及ぶため可逆性は低いと考 えられる。また、漆喰のレリーフなどが施されるような、意匠性の高い天井において は、設置位置への配慮が必要である。
したがって、天井埋め込み方式は、当初の懐がある場合は照明器具及び配線は「隠 す」、照明器具の設置は「可逆性が低」く、配線の設置は「可逆性が高い」手法といえ る。
図 5-21 天井埋め込み式ダウンライト
(大阪市中央公会堂 大集会室)
(※設備位置:筆者加筆)