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資本主義と景気変動

第3章 資本主義における発展と変動の理論的展開

第4節 資本主義と景気変動

シュンペーターの景気変動論

次に「資本主義と景気変動」の問題を取り上げ,本章の最後にしたい.

私にとって,シュンペーターが『景気循環論』の「序」の劈頭において述べた次の言葉 を忘れることができない.すなわち,「景気循環を分析するというのは,資本主義時代の経 済過程を分析することに等しく,それ以上でもそれ以下でもない」(56)という一節である.

私は,これを受けてシュンペーターにおける資本主義と景気変動の関係に興味を覚えた.

当然,シュンペーターの景気変動論を資本主義との関係でとらえるには,この節だけで語 ることには多少無理があるので,その中心課題となる資本主義経済における循環的変動に 焦点を当てて考察する.

実は,1926 年に彼が『経済発展の理論』の第 2 版を発表した時,初版の最終章である 第7章「国民経済の全体像」をそっくり省くことになる.彼は,その理由を経済発展のメ カニズムの説明と,その発展および他の社会的,文化的領域における発展との間における

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類比や関連を考察したため,一部の人びとから「文化社会学の断片」としてとらえられた からだと説明する(57)

既にしばしば論じたように,シュンペーターの景気変動論の特徴は,イギリス,ドイツ,

そして特に米国における企業システムの開花に関する詳細な事例を通じ,景気変動という 事実の中に資本主義の本質が内在していることを一般理論たらんとするところのものだ.

その場合,彼の理論体系の外部構造を形成する企業家によるイノベーションの遂行にすべ てが依存し,イノベーションが独占的支配力を実現する.

しかし,M.ドップはこのようなシュンペーターの見解に対して疑問を投げかけた初期の 一人である(58).この議論はある程度正しいかもしれないが,イノベーションの進化は,独 占にもかかわらず起こるのであって,独占だから起こるのではないからだ.確かにドップ の指摘を待つまでもなく,イノベーションは生き物のように自律的に進化発達するのなら,

そのような独占的な企業が経済全体にわたって均等に台頭するわけではないので,独占は その結果でしかなく,市場に適応したイノベーションだけが勝手に群れをなし生き延びる ということになる.

そうだとすれば,なぜシュンペーターはこのような前提を置いたのだろうか.その答は こうである.景気変動は一方でイノベーションの過程が進めば,他方で,そのいきつく先 に企業家利潤を伴わない一種の均衡状態が現われ,それがまた次のイノベーションの準備 段階を形成すると考えたからに他ならない.この点については,後ほど改めて考察するが,

彼のように資本主義的経済過程を発展と変動という形でとらえようとする場合,その出発 点において,まさにこの均衡状態がプログラムされていたと理解しておく必要がある.こ の場合,イノベーションは経済の均衡状態に近いところで起こりやすいという点が重要な のであって,したがってその担い手である企業家の発生も資本主義的経済の内生的条件そ のものによって規定されることを暗黙の前提としている.

ドップに続いて,シュンペーターの因果関係のとらえ方に不明確な点があると指摘した のは,ほかならぬ村上泰亮である.村上は「創造的破壊の過程が独占的企業を生みがちな ことを指摘する点では彼は正しいが,独占的企業なしにはこの過程が進行しないかのよう に述べている点では誤解を作り出しており,後者の論点については大いに議論の余地があ るだろう」(59)と,これまた疑問を投げかける.

ドップや村上のような批判は,これはこれで甘受しなければならないが,シュンペータ ーの考えは,完全競争を理想とする観点から資源の最適配分を阻害するものとしての独占 が悪だという教科書的な考え方ではなく,動態論的把握から一つの立場を示したにすぎな い(60).実は,ここでは独占でも短期的なものだけではなく,長期的な独占をも取り上げ,

その独占が長期になればなるほど非効率となり,次なるイノベーションによって破壊され るということを一方で論証し,特許制度が機能することの重要性をもう一方で強調したか ったのである.なぜなら,特許はそれが認められる期間にわたって人為的に独占が許され,

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しかもそれに対して投資を奨励するから,それこそ資本主義経済では正当化されるものだ からである.ただし,シュンペーターといえども,独占が動態的競争過程に及ぼす影響や 特許競争における財のもつ補完性については残念ながら言及してない.

しかしながら,われわれはシュンペーターのような考え方をどう評価すればよいのだろ うか.例えば,サミュエルソンはその著『経済分析の基礎』(1947年)の中で次のような ことを言う.「純粋に静学的な立場から判断すれば,独占または特許制度は全くの悪であっ て,疑いもなく原子的競争や自由貿易に劣っているように見えるかもしれない.しかし,

動学の世界においては,これらの判断は逆転して考えなければならない.・・・事実,資本 主義を支える方策はまさにこれらの発展の要因と極めて密接に結びつく」(61).このように サミュエルソンの指摘を待つまでもなく,うすうす感じていたのだが,新古典派経済学の 領域においては,独占や特許制度の及ぼす影響について十分に議論してきたとは言い難く,

もっぱら総需要管理の可能性について議論を戦わせてきたに過ぎない.

シュンペーターの景気変動モデル

いま一度戻って,資本主義において景気変動が何故起こるのかを考察しておこう.シュ ンペーターの景気変動のモデルを分析すればわかることだが,前期のモデルと後期のモデ ルでは異なる.最終的には,「繁栄」(prosperity),「後退」(recession),「不況」(depression),

「回復」(recovery or revival)の四局面から形成される(第1図参照).その場合,変曲点

( point of inflection)から景気の山頂を経過し次の変曲点に至る局面と,その変曲点から景

気の谷底を経過し,次の変曲点に至る局面をこのように表す.前者の局面,すなわち繁栄 と後退の時期を「好況期」と,後者の不況と回復の時期を「沈滞期」と呼ぶ.また,景気 の山頂の分岐点から変曲点を通過し谷底に至る局面と,景気の谷底の分岐点から変曲点を 通過し山頂に至る局面を次のように表す.前者の局面,すなわち後退から不況を「収縮期」

と,後者の回復から繁栄を「拡張期」と呼び,このうち「繁栄」と「後退」という二局面 を,彼は第1次接近ないし二局面モデルと呼ぶ.

問題はAの基準点から出発し,二局面を経た後にBの新しい均衡の状態において経済が 静止することなく,更なる下降に突入する.山と谷の変曲点とは曲線の凸と凹の転換点だ が,ここで重要なのはある状態を持続させようとする基準点,すなわち,イノベーション の群生によって発生する「繁栄」の局面への出発点であり,シュンペーターが「均衡の近 傍」と呼んでいるものである.そして,経済体系がイノベーションの群生によって,「繁栄」

の局面を実現した後は,それを無限に拡張することはなく,下方への転換点の後に出現す るのが「後退」の段階である.

この「後退」の段階はそれに先立つ繁栄現象への適応過程だというのがシュンペーター の基本的認識である.この「後退」過程において,適応が次第に進むことによって新しい 均衡の状態が生じ,ついには「不況」に突入する.彼はこのような一定水準以下の経済状

113 況,すなわち「不況」を正常な...

吸収過程ないし整理過程とみなし,これに対してパニック,

信用体系の崩壊,破産の蔓延とその波及結果を特徴とする急激な下落過程,すなわち「恐 慌」を異常な...

吸収過程ないし整理過程とみなし,それぞれを区別する(62)

だが,経済は一方的に「不況」を深めていくわけではない.「繁栄」に頂点があるように,

「不況」にも底があって,やがて経済は持ち直す.そのため,「回復」過程は,いわば「不 況」の必然的な結果として生じるものだといえる.言い換えれば,それは資本主義が本来 的にもっている自律的回復の機能に他ならない.かくして,最初の「繁栄」,「後退」の二 局面に「不況」と「回復」の二局面を加え,循環のパターンができあがる.これを彼は第 2次接近ないし四局面循環モデルと呼び,彼の景気変動のモデルは,この第2次接近ない し四局面循環をもって一応完成するが,実は後でも述べるように,これに満足せず第3次 接近を更に試みる.

ここで重要なのは景気の方向性ではなく水準である.したがって,この考え方の特徴は