発音という枠に入る記入事項は6種類への分類が可能だった。
イ.「発音の鮮開さをこころがける」とまとめられるもの
(茨城10,京阪2)
ロ.「『語尾』をはっきり発音するようつとめる」とまとめられるもの (茨城5,京阪1)
ハ.アクセント,イントネーーションに関するもの (茨城4)
二.注意する音節や語形を具体的にあげるもの (茨城1!,京阪1)
ホ.発音に気を配る場面をあげるもの (茨城5)
へ.その他 (茨城8,:京阪1)
このうち,ロはイに含まれる内容といってよいが,イは例えばヂー語ずつは っきり発音する」「口調をはっきり」など,発話全体の明瞭性に留意するとい
う内容であるのに対し,ロはすべて『語尾』を特記したものである。「発音が はっきりしない」「語尾が切れる」r寒い地方はとかく語尾が消えがちである」
などの記入がイ,ロに見られるが,北関東や東北方書についての一般的な認識 をふまえた自分のことばへの反省であると読みとれるし,従って「発音の鮮明 さをこころがける」という留意も,その根には方言の問題が存在すると考える。
「秘書業務のため相手にわかりやすく」に代表されるような,業務上の伝達効 果のための発音の明瞭性に書及したものは少ない。
ハ,二はこれらより一層方雷との関連が強い。「標準語と大阪弁と茨城弁の
114 2.企業内アンケート調査
イントネーション・アクセントに注意する」「語尾の強弱」(以上ハ),「東北生 まれのためシ・ス・チ・ツの発音が悪く先輩に注意されて以来1「東北弁が出 るため,サ行・タ行に注意する」(以上二)などは文字通り方書を意識したも のである。「尻上りに気をつける」がま件あったが,茨城方言・東北方雷につ いての一般的な印象の代表格にこの「尻上り」がある(市民調査の反応から)。
二に記された注意が集まる音節は,イとエ,キとチ,シ・ス・チ・ツである。
中には「発音で い と え , き と ち のある語句は濁すかしゃべらな い」と切実なものもあった。いずれも方雪のからんだ発音の問題であろう。
ホには電誕・研修発表・説明などの場面があげられた。への「確実に伝え るjrなるべく正確に」などと同様,業務上の伝達効果を求めるものといえよ
う。
(2)敬語に関しての記入 これは以丁のように分類できる。
イ.入間関係をあげるもの a.目上に注意するとしたもの b.上司 〃
c.年上 〃
d.顧客・外部の人・外来者 e.同僚・後i輩・年下 〃 f.女性 〃 ロ.敬語形式をあげるもの a.丁寧語・蓉敬語・謙譲語 b.Fお」,敬称,あいさつ
tノ
ハ.敬語に気を配る場面をあげるもの
二 総括的なものおよびその他
(茨城67, 京阪37)
(茨城14,京阪6)
(茨城25, 京阪13)
(茨城5,京阪6)
(茨城17, 京阪9)
(茨城5,烹阪3)
(茨城1)
(茨城29, 京阪 1)
(茨城23,京阪1)
(茨城6)
(茨城11)
(茨城13,京阪3)
最も多かったのが,イの人間関係であり,上記a〜fの属性をもった入が話 し相手や話題の主になった時,敬語に留意するというのである。bF上司」と cr年上」は広くいえばar賃上」に入るが,これらがやはり一番多かった。
そのうちでもbr上声」が多いのは企業の中での職階の上下意識の強さを物語
2.2.1,雷語意識 115 っているといえるだろう。「当然…」「やはり…」という表現もみられた。ほと んどが,これらの入への「ことばづかいに留意する」というだけの記入になっ ていて,より詳しくどのように気をつけるのかは明記されていないが,中に 9極端にならない程度にjr必要以上にならないようにj隊いんぎん無*Ldiにな
らない程度に」のように,目上や上司だからといって敬語の使いすぎにならな いよう気をつけているという方向で記入した入もみられた(4人)。
dの顧客なども企業敬語の問題点としてよく指摘されている通り,かなり多 かった。この申には岡じ企業の「他工場の人」「他部門」「現場の人(事務系回 答者)」をあげたものも入っている。敬語使用の基準としての,ウチとソトの 境界線の複雑さを垣聞見る思いがする。
eについては「後輩に対しても呼びすてにはしない」「問輩・年下にも人格 を傷つけないように」など,臼下だからといってぞんざいに待遇しないという 立揚のものが大半を占める。このeとa〜cとがからみあったケースを明記し たものが2件あった(いずれも茨城)。
「職階は下でもあきらかに年令が上の人への話し方」
「職場には年下の上長が多いので敬語の使い方がむずかしい」
職階と年齢の上下関係が交錯しているケーースである。アンケートでは項剛9)で これに関連する質問を試みたが(2。2.2。6.p.221参照),現実には最も気苦労 の多いケースだと思われる。
fの「女性」が1件しか現れなかったのは,別の敬語使用意識の項目でみら れる女性の特徴的なうごきからすると不思議といえる。
ロのaで挙げられた敬語形式のうち,最も多かったのは丁寧表現のデス・マ ス・ゴザイマスである(12件)。他にきまり文句的な,ソウデス,ワカリマシ タ,チガイマスなどを含めればさらにふえる。これに比べて尊敬表現はイラッ シャイマス,オミエニナリマス,〜シテクダサルなどが6件,謙譲表現はゾン ジテオリマスが1件だけと,いずれも少ない。
!件,オリマスカ,イキマスカを挙げた入がいるが(多賀工場,指導技能 員,茨城梁出身・一時東京都在住,父・妻も茨城県等身),別の質問で上司に
も見マシタカを使うと答えている人である。マスが尊敬表現として使われてい
H6 2. Ath業内アンケート調査
ると解釈できる事例が茨城調査には多くみられたが,こんな所にも顔を出して
いる。
敬語形式を記入した人が茨城では2罰いるのに,京阪では1入だけというこ とも注意しておいていい。あるいは,敬語形式カミ 稀薄 とされる茨城周辺の 方書の特徴と関連がある一つまりこうした敬語形式を使うこと自体が気を使
うことだと思う人が多くても不思議ではない一ことかも知れない。
ハには前と同様,電話・打合せ・会議・研修発表などがみられた。電話につ いては,その相手が,顧客・外部の人(イーd)である揚舎が多いことも関連し
ていよう。
③ 方書に関しての記入 これは3種類に分けられる。
イ.方書を使わないようにするという気配り (茨城9,京阪5)
ロ.方言を使う場面と使わない揚面とを区別するという気配り
(茨城14,京阪3)
ハ.注意する方書名・方言形式を具体的にあげるもの
(茨城21)
二.その他 (茨城5)
イには「使わないように」「極力さけている」などのように,方言を使わな いという方向のものと,「できるだけ標準語を使うように努力している」「標準 語で話す」などのように標準語使用を記す方向のものとがある。後者は京阪で
昌立つ(茨城9件中2件,京阪5件中3件)。
ロは注意しておきたい記入内容である。これにも2種類あり,「外部の入と 会話する時はなまりのないよう」「上司に対しては方言を使わない」などのよ
うに方言を使わない方向での配慮をする揚面を些したもの(茨城6件,京阪2 件)と,「部下・後輩と雑談する時は茨城弁を使う」「同年輩以下の部内の人と の話に用いる」「若い人,この土地の出身の人などが相手(特に現場)の場合,
茨城弁を意識して用いる」など方書を使う場面を記したもの(茨城6件,京阪 1件)とに分けられる。前者の揚面は相手に上司・目上・来客・初対面の人な どがくるものであり,後者は茨城出身者・同輩・部下・現場系の人などがくる
2,2.1.需語意識 B7 ケースである。また「業務上,相手にわかりやすく答えるため方雷を使わな い」などのように伝達効果を考えた記述が前者にはみられるのに対し,後者に は「茨城育ちの人は方言を使った場合の方が意思が伝わりやすくはないか?」
「親しみをもつ意味で茨城方雷を時々意識して使う」のように話し手や相手へ の配慮が,前者の場合とはやや異なる姿で表現されているものが多い。いずれ の場合も,雷語(方言)の使い分け(code switchin9)という桂会書語学的に 重要な事実と,その心理的な背景がこれらの記入事項から読みとり得るのであ
る。
ハに挙げられた方言名は,茨城では茨城弁・東北なまり・大阪弁の3種,京
阪では京都弁・大阪弁の2種であった。大阪弁が茨城に2件あるのは興味深
い。方言形式には,前記1,発音で挙がったッとチ,スとシなどの音節が1件 あったのを除いて,21件中11件が「〜ッペ,〜ぺ」という意志・推量の文末 表現を含むものであり,他はカイダルイ(疲れた),イシケー(大きい),キナイ(来ない)などの狸言忌や特殊活用形であった。
二のその他は,「時々話し言葉に出る」「あまり方言が出ない」など現状を記 述したものや「東北弁には理解しにくい言葉がある」「最近はテレビ等の影響
で大分理解の幅も広くなった」などと方言についての客観的な八二もあった。
この3.方書にまとめた以外で,1.発音,2.敬語にまとめたものの中に も多かれ少なかれ内容的に方言に関する記入があったことはすでにふれた。方
言使用意識を直接問う設問α3,四と関連の深い内容である(次節2.2.1.3.,2.
2.1.4.参照)。
(4)その他
ここには,より一般的なことばづかい上の留意点や,伝達効果の面からの留 意点を記したものをまとめた。主なものをあげれば,
「理論的に相手が納得行くかに気を使う」
「荒っぽい言葉にならぬよう,人を傷つけないよう」
「早口の方なので大事な事柄はゆっくり,はっきり話す」
などのようなものである。