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第7章 結論

7.1 本論文のまとめ

7.1.2 言語内文化的指示

第4章では、ECRと対になる言語内文化的指示(ICR)を各字幕から抽出し、比喩表現 と言語システム表現に分類し、借用、直訳、類似置換を忠実なストラテジー、相違置換、

言い換え、省略を非忠実なストラテジーとして分析し、日本語字幕、中国語公式字幕、中

国語ファンサブのICRの忠実度を調べた。

比喩表現に対して、日本語字幕で最も多く使われるストラテジーは言い換えで、およそ 六割を占めている。その後、高い順に省略、相違置換、直訳、類似置換となり、借用の例 は見当たらなかった。忠実なストラテジーは全体的に非忠実なストラテジーより少ない。

忠実度は13.05%と低いようだが、比喩表現はもともと忠実に翻訳するのが難しいので、こ

れで十分高いのかもしれない。中国語字幕では、公式字幕もファンサブも言い換えが最も 多く、どちらもおよそ半分を占めている。以下、相違置換、直訳、類似置換、借用で、や はり省略はほぼない。忠実度はそれぞれ 20.38%と 23.57%である。ファンサブの忠実度は 公式字幕より高いが、有意差はない。日中の対比では、中国語字幕はどちらも日本語字幕 より忠実度が有意に高い。日本語字幕と中国語字幕の間の決定的な違いは、省略ストラテ ジーの運用である。日本語字幕では多くの比喩表現を省略しているが、中国語字幕ではほ ぼ全部何らかの形で翻訳している。

メタ言語表現に対しては、日本語字幕では合計7例しか見つからなかったが、忠実度は 非常に高い。中国語字幕では、公式字幕でもファンサブでも、借用、直訳、相違置換が多 く、類似置換、言い換え、省略は少ない。忠実度はそれぞれ 61.82%と 56.36%で、非常に 高い。公式字幕の忠実度がファンサブよりやや高いが、その差は有意ではない。日本語字 幕にあるメタ言語表現の例が少なかったため、数値の上では日中間の有意義な対比が行え なかった。メタ言語表現を忠実に翻訳するのは難しく、実際、三つの字幕の忠実度は60%

ほどである。これは日中両言語の間に、漢字が共通するだけでなく、発音にも共通点があ るからだと思われる。

以上をまとめると、日本語字幕では、ICR のほとんどを占める比喩表現に対して、最も 多く使われているストラテジーは言い換えで、およそ全体の六割を占めている。次に多い のは省略で全体の六分の一ほど、相違置換は全体の一割である。直訳と類似置換は比較的 少なく、借用は1例しかない。非忠実なストラテジーが忠実なストラテジーより圧倒的に 多く、忠実度は13.73%となる。日本語には中国語から輸入した慣用句や諺が多いが、その まま字幕に置換することはできない。その原因は三つある。一つは中国語の慣用句や諺は 比較的短く、四字熟語が最も多いが、それと対応する日本語の比喩表現が字幕には長すぎ てしまうことが多いためである。第二の原因は意味が類似すると言っても、両者に微妙な 違いがあり、置換すると意味がずれてしまうからである。最後の原因は台詞から比喩表現 を削除しても、残りの部分で十分意味が伝わる例が多いからである。視聴者への負担を増

やさないためには、鑑賞の邪魔になる冗長な情報を削除することも必要がある。日本語字 幕では、漢字共有だけでなく、発音の類似性をも利用する。これは日本語と中国語の間で しかできないことであろう。

中国語字幕では、公式字幕とファンサブのどちらも言い換えが多く、全体の約四割を占 める。次に多いのは相違置換で、全体のおよそ四分の一である。借用、直訳、類似置換は それなりの数があるが、省略は非常に少ない。全体的に、公式字幕とファンサブの忠実度

は30%ほどである。ICRの特徴を考えれば高い数値であると言えよう。また、比喩表現と

メタ言語表現の翻訳ストラテジーは完全に異なる。比喩表現は非忠実なストラテジーで翻 訳されることが多いが、メタ言語表現には逆に忠実なストラテジーが用いられることが多 い。また、中国語には日本語から輸入した慣用句や諺はほぼなく、中国語の視聴者は日本 の昔の文化をよく知らないため、借用、直訳と類似置換が難しく、言い換えや相違置換が 多くなる。省略が非常に少ないのは、日本語にあるほぼすべての比喩表現が文の構成要素 であり、重要な意味を持っており、省略すると文として成立しないからである。メタ言語 表現に対しては、中国語字幕は多彩な方法で翻訳問題を処理する。共通する漢字や類似す る発音を利用したり、公式字幕もファンサブも借用しまた直訳したあと、注釈を使ってメ タ言語表現を説明したりしている。

比喩表現でも、メタ言語表現でも、中国語公式字幕とファンサブの忠実度が近く、有意 差が見られない。これは公式字幕がファンサブから大きな影響を受けているためである。

振り仮名の形式をなぞって字幕の上にローマ字で発音を表したり、他の説明を入れたりす る手法は、もともとはファンサブ特有な翻訳方法だったが、公式字幕がそれを吸収し、う まく利用している。公式字幕が中国の視聴者を楽しませる最も簡単な方法は、視聴者の慣 れ親しんだファンサブの翻訳方式に合わせることなのである。

日本語字幕と中国語字幕を比べると、日本語字幕の忠実度は中国語字幕より有意に低い。

比喩表現については、日本語には中国語から輸入した慣用句や諺が多いが、逆に中国語に は日本語から輸入した慣用句や諺がほとんどない。しかも、日本語字幕の文字制限が中国 語字幕より厳しく、意味が類似する比喩表現にも微妙な違いがあり、概して中国の作品に ある一部の比喩表現には重要な意味がなく、省略しても全体に影響がない。このため、総 じて日本語字幕の比喩表現の忠実度は中国語字幕より低い。メタ言語表現に対しては、中 国語字幕の忠実度がかなり高いが、日本語字幕にある例が少ないため、統計的に有効な比 較ができなかった。