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ファンサブの著作権侵害問題

第2章 理論的枠組みと方法論

2.3 ファンサブ

2.3.5 ファンサブの著作権侵害問題

世界知的所有権機関(World Intellectual Property Organization / WIPO)は著作権を以下の ように定義している。

Copyright (or author’s right) is a legal term used to describe the rights that creators have over their literary and artistic works. Works covered by copyright range from books, music, paintings, sculpture, and films, to computer programs, databases, advertisements,

maps, and technical drawings.2(著作権(あるいは作家の権利)は創作者が自分の文

学・芸術作品に対して持っている権利を記述するための法律用語である。著作権 の対象となる作品は、書籍、音楽、絵画、彫刻、映画から、コンピュータプログ ラム、データベース、広告、地図、製図に渡る。)

文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(通称ベルヌ条約)は著作権に関す る基本条約である。ファンサブ問題には、ベルヌ条約の第二条と第八条が深く関わる

(Massidda 2015: 22)。第八条は翻訳権に関するもので、「文学的及び美術的著作物の著作 者でこの条約によつて保護されるものは、その著作物に関する権利の存続期間中、その著 作物を翻訳し又はその翻訳を許諾する排他的権利を享有する3」と書かれている。つまり、

現地国がベルヌ条約に加盟している限り、日本で保護されている著作物は現地国でも保護 される。そのため、日本国外で日本人ではない者が行うファンサブ活動は、現地の著作権 法に違反することになる。日本は著作権に関しては厳しいため、日本国内のファンサブ活 動はほぼ見られない。ファンサブ活動が活発な国や地域では、たとえ著作権に違反してい ても、日本の権利者が現地で提訴しない限り、ファンサブは不問に付されることが多い。

その最大の理由は、ファンサブが非営利的で、学習や交流のためだけに活動しているため

である。De Konsikはこう述べている。

[…] as long as they do not sell their works, they will be safe from legal persecution.

Conventional wisdom holds that companies and individuals that own the copyrights to mass-media texts will not sue fan producers, as long as the fans do not make money from their works.(彼らは自分の作品を販売しない限り、法的な迫害を受けない。社会

2 http://www.wipo.int/copyright/en/ accessed 2018/11/30

通念上、ファンが彼らの作品でお金を稼がない限り、マスメディアのテキストの 著作権を所有する企業や個人はファンの生産者を訴えることはないだろう。)(De Konsik 2014)

著作権保持者にとって、ファンサブは無料で自分の作品の知名度を上げてくれる存在で あり、絶大な宣伝効果を持っている。Díaz Cintas & Muñoz Sánchezも英語ファンサブの日 本語アニメについてこう述べている。

Traditionally, it has been implicitly acknowledged by fansubbers as well as by Japanese copyright holders that the free distribution of fansubs can have a very positive impact in the promotion of a given anime series in other countries.(伝統的に、ファンサブの無 料配布はある特定のアニメシリーズの他国での宣伝に非常によい影響を与えうる ことが、ファンサブ製作者だけでなく、日本の著作権保持者にも暗黙の裡に認め られている。)(Díaz Cintas & Muñoz Sánchez 2006: 8)

しかし、ベルヌ条約第二条(保護を受ける著作物)第三項には「文学的又は美術的著作 物の翻訳、翻案、編曲等による改作物は、その原作物の著作者の権利を害することなく、

原著作物として保護される」4と書かれている。即ち、ファンサブ自体が保護されることに なるのである。この二つの条項の間にグレーゾーンがあるとMassidda(2015: 22)は言う。

中国の著作権法にもファンサブがつけいる隙がある。中華人民共和国著作権法にはこう ある5

第4節 権利の制限

第22条 次の状況において著作物を使用する場合、著作権者の許可を必要とせず、著作権 者に報酬を支払わなくてもよい。但し、著作者の氏名、著作物の名称を明示しなければな らず、著作者が本法により享有するその他の権利を侵害してはならない。

(1) 個人的な学習、研究又は鑑賞のために、他人に既に公表された著作物を使用する場合

(以下略)

「個人的な学習、研究又は鑑賞のため」であれば、「著作権者の許可を必要と」されな

4 http://www.cric.or.jp/db/treaty/t1_index.html accessed 2018/11/30

5 http://www.ccpit-patent.com.cn/ja/node/1462/1464 accessed 2018/11/30

いため、中国のファンサブには通常以下のような“免責声明”が掲げられている。

郑重声明:本作品之片源、字幕均来自互联网,仅供个人欣赏、学习之用,版权归 发行公司所有,任何组织和个人不得公开传播或用于任何商业盈利用途,否则一切 后果由该组织或个人承担。本站和制作者不承担任何法律及连带责任!请自觉于下 载后24 小时内删除,如果喜欢本片,请购买正版……6(丁重に声明する:本作品 のソースや字幕はインターネットによるもので、個人的な鑑賞又は学習のための ものです。著作権は配給会社が所有します。組織や個人は、公共の場所での使用 や営利目的のための使用が認められません。さもなくば、すべての結果はその組 織また個人が負います。本サイトと製作者は法的責任や共同責任は一切負いませ ん! ダウンロード後24時間以内に自発的に削除してください。もし本作品が好 きなら、正規品を購入してください…)

もちろん、このような免責声明があっても、字幕組の行為が違法であることは変わらな い。しかし、少なくとも、字幕組のメンバーは自分が行っている行為は違法であると認識 し、責任を回避しようとしている(Hsiao 2014: 164-165)。また、ハードサブではなく、ソ フトサブだけを配布し著作権問題を回避しようとする字幕組もある(Rong 2017)。

中国でのファンサブ活動により、日本の作品、特にアニメは高い人気を得た。中国の動 画配信会社が商機を見出し、2011年を境に、日本の権利者より正規にライセンスを大量購 入し、インターネットで無料配信し始めた。しかし、公式のものには審査があるため、シ ーンの削除に我慢できず、またより原文に忠実な字幕を求めるファンは、審査のないファ ンサブを選ぶ。ファンサブに太刀打ちできずに利益が損われた動画配信会社は、中国政府 と連携し、ファンサブ活動を制限し、数多くのサイトを処罰・閉鎖した。さらに著作権保 持者の圧力も強まった。2014年 10月にアメリカ映画協会が発表した世界中の映像著作権 侵害調査レポートでは、中国最大の字幕組「人人影视字幕组」が名指しされ7、ウェブサイ トが閉鎖された。同年、中国最大の字幕シェアサイト「射手網」も閉鎖された。これが中 国の字幕組時代の終焉を象徴する出来事である(Rong 2017; Wu 2017)。その後、残された 字幕組のファンサブ活動は地下に潜ることを余儀なくされた。

6 http://data.chinaxwcb.com/epaper2017/epaper/d6541/d5b/201707/79288.html accessed 2018/11/30

7 Motion Picture Association of America

http://www.mpaa.org/wp-content/uploads/2014/10/MPAA-Filing-to-USTR-on-Worlds-Most-Notorious-Markets.pdf

こうして、字幕組が長い時間をかけて育成したファンを動画配信会社が横取りする形と なった。2017年には多くの正規配信サイトで、日本アニメが日本で放送された直後に、プ レミアム会員だけが中国のサイトでそのアニメを見られるという「プレミアム会員優先」

制度を始めた。一般会員またゲストは無料ではあるが一週間待たなければならない。待て ない多くの視聴者がお金を支払い、プレミアム会員になる。これも中国の字幕組の勢力が 没落したために実現した制度である。

しかし、中国の字幕組は厳しい環境の中でも生きている。中国で正式に公開されない作 品に字幕を付けたり、公式字幕の審査済み翻訳に不満を抱くファンのための、代わりの選 択肢を与えたりする。また、字幕組が長い間積んできた経験は、公式字幕の質の向上にも 非常に役立つと思われる。また、一部の字幕組が動画配信サイトから協力要請を受け、正 式に翻訳することもある。その場合、著作権侵害の問題は解決されるが、自主権を失い、

字幕も審査される(Rong 2017)。