第 3 章 量子化学計算によるエステル油の熱分解による
3.4.1 結合解離エネルギー
M-12A、2H-12A と M-LI の各結合に対する結合解離エネルギーを計算した結
果を、図3. 5に示す。M-12Aと2H-12A結果から、C-H結合はC-C結合よりも
かなり強いことが分かる。これは、文献値等で知られている C-C 結合、C-H 結 合の結合解離エネルギー値と一致している。このことから、C-H結合は、熱分解 的に直接切断されて H ラジカルを生じる割合は少ないと考えられる。またエス テル基のC=O結合およびC-O結合は、他のC-C結合よりも強いことが分かる。
エステル基自体も熱分解の最初の段階における結合の切断で分解する可能性は 低いことを示している。アルキル基の C-C 結合も場所によって結合解離エネル ギーに違いが認められる。末端のC-C結合は、他の結合よりも強い傾向になる。
またエステル基から2番目のC-C結合が弱いことが分かる。2H-12Aの2エチル ヘキシルの計算結果では、アルキル基の分岐の部分の C-C 結合が弱いことが分 かる。分岐の部分の結合が切れやすい原因としては、生成するラジカルの安定性 が影響していると考えられる。一般にカルボラジカルの安定性は、より高級の方
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が高いためであると考えられる。アルキル基の C-C 結合も周囲の構造の影響を 受け、生成するラジカルの安定性の違いなどから結合解離エネルギーに差が生 じることが分かった。
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図3. 5 結合解離エネルギー計算結果
M-LIの結果から、二重結合が単結合より強いのは当然であるが、その周辺の C-C 結合も二重結合の影響を受けて結合解離エネルギーに差を生じていること が分かる。ラジカルの安定性は、一般に多置換炭素で向上するほか、共鳴によっ
0.10 0.12 0.14 0.16 0.18 0.20 0.22 0.24 0.26 0.28
RelativeEnergy [Hartree]
M-LI
C1
C2
C3
C4 C5
C6
C7
C8 C9
C10
C11
C12C13 C14C15
C16
H1
H2 H3 H4
H5 H6 H7
H8 H9 H10
H11
H12 H13H14H15H16
0.12 0.14 0.16 0.18 0.20 0.22 0.24 0.26 0.28 0.30 0.32
RelativeEnergy [hartree]
Ha1
Ca1Ca2Ca3Ca4Ca5Ca6Ca7 Ca8 Ca9
Ca10Ca11
CO Cb1 Cb2Cb3
Cb4Cb5
Cb6
Cc1
Cc2
Ha2Ha3Ha4Ha5Ha6Ha7Ha8Ha9 Ha10
Ha11
C=O
Hb1Hb2
Hb3 Hb4Hb5
Hb6
Hc1
Hc2
2H-12A
0.12 0.14 0.16 0.18 0.20 0.22 0.24 0.26 0.28 0.30 0.32
Relative Energy [Hartree]
Ca1
Ca2 Ca3 Ca4 Ca5 Ca6 Ca7 Ca8 Ca9 Ca10
Ca11 CO Cb13 Ha1 Ha2
Ha3 Ha4 Ha5 Ha6 Ha7 Ha8 Ha9 Ha10 Ha11
C=O
Hb1
M-12A
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ても安定化する。ラジカル生成反応において、これらのラジカルを生成する結合 の解離エネルギーは小さくなると考えられ、結合解離エネルギーの値にも影響 を及ぼすと考えられる。この考え方に照らせば、アリルラジカル(CH2=CHCH2・ ラジカル)やカルボニル基のα-炭素ラジカル(O=C-CH2・ラジカル)は、共鳴によ って安定化する。今回の計算結果では、アリルラジカルを生じるC1, C4, C5, C7, C8, C11 結合とカルボニル基のα炭素ラジカルを生じる C16 結合の解離エネルギ ーが低くなっており、ラジカルの安定性の理論と一致している。C-H結合に目を 向けると、こちらも C-C 結合同様に化学構造の影響を受け、結合解離エネルギ ーに差異が生じていることが分かる。リノレン酸メチルについては、二重結合に 挟まれたメチレン基(活性メチレン基)は活性であり、C-H結合の解離エネルギー が低くなることが予測されるが、計算結果もこれと一致する傾向を示した。この ように、二重結合の存在が結合の存在が、ラジカル生成反応にも大きく影響する ことが示された。
大豆油などの局所加熱試験で植物油を基油として絶縁油の 400℃以下の加熱 温度でC2H6が多量に発生することが知られているが、この結果からは、C2H6発 生の原因はわからなかった。今回は、1種類の脂肪酸エステルのみの計算であっ たため、他の脂肪酸が原因の可能性がある。また今回は計算を簡単にするために トリグリセリド構造の分解については、検討できていない。さらに二重結合と生 成したラジカルの反応が関与している可能性も考えられる。したがってトリグ リセリド構造を持つ植物油系のエステル油の分解ガス検討には、より幅広い検 討が必要であると考えられる。