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第 2 章 エステル油中過熱・放電時のガス発生特性と

2.6.4 エステル油異常診断法の提案

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2. 77 定期的なガス分析による異常の有無判断法

この方法によれば、エステル油を使った変圧器についても十分異常発生を検 出可能である。今後実験データ等がない新しい絶縁油や特殊な機器などにも応 用できる方法であると考える。

(2)過熱・放電の判断

油中ガス分析の結果から異常であると判断された変圧器については、その異 常が過熱によるものなのか放電によるものなのかの判定を行う。これにはガス の種類や特徴の違い、C2H2の比率の違いによって判断することができる。

まず、ガスパターン図2. 66を作成する。図に基づいて結果が過熱のパターン なのか放電のパターンなのかを分類する。より明確に判断する場合は、C2H2 の 比率を計算する。実験結果からは、PFAEとFR3では、C2H2/CH4またはC2H2/C2H6

またはC2H2/C2H4の値が0.1以上、MIDELでは、C2H2/C2H6の値が1.0以上であ れば放電であると判断できる。

(3)異常様相の推定

異常が過熱によるものと判断された場合は、過熱温度の推定を行う。まず油 中ガス分析の結果から、ガスの発生量を比較し、表2. 17に従って分類して過熱 温度の範囲を特定する。続いて表2. 19の過熱温度推定式を用いて過熱温度の推 定値を算出する。

放電と判断された場合は、放電エネルギーの大小関係を評価する。PFAEにで は、C2H2の他の炭化水素の発生量の比、もしくはC2H4の CH4または C2H4に対 する比が大きくなるほど放電エネルギーが大きくなる傾向がある。FR3 では、

全体のガス発生量に対するC2H2の比率が、よりエネルギーが大きいアーク放電 で大きくなる傾向がある。MIDELでは、PFAEと同様にC2H2の他の炭化水素の

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発生量の比、もしくは C2H4の CH4または C2H4に対する比が大きくなるほど放 電エネルギーが大きくなる傾向が認められた。部分放電とアーク放電の比較か ら、部分放電では H2発生量に対する CH4や C2H4の比率が大きくなる特徴があ る。したがって上記のガスの比率や特徴について実験結果と測定結果を比較す ることで放電のエネルギー大小関係や放電の種類がある程度予測できるものと 考えられる。

(4)異常診断図

鉱油を使った変圧器においては、ガスの比率を用いた様々な診断図が提案さ れ、実際の異常診断においても活用されている。鉱油における診断図は、2種 類以上のガスの比率を軸にとり、分析結果がどの領域にプロットされるかで異 常の様相や進行具合を診断する。この方法は、変圧器の不具合の状況を視覚的 にとらえられることに加え、時系列で分析データをプロットしていけば、不具 合の進行具合の時間ごとの変化を確認することができ、機器の現状の把握に非 常に便利である。今回行った実験結果から、不具合の状況や進行度合いを判断 できるいくつかの指標が見つかった。ここでは、これらの指標を組み合わせ、

分析結果を視覚的にとらえることができる異常診断図を提案する。なお過熱の 診断については、C3 ガス(C3H8、C3H6)を使った方が診断の精度が向上するもの もあるが、実験で放電では、これらのガスの発生率が少ないため、診断図に利 用するガスとしては除外することとした。

まず、診断図に利用できる指標を考える。指標としては、不具合発生からの 経過時間や機器固有の状況などの影響を受けにくいことから、量ではなく 2 つ のガスの比率が好ましいと考えられる。診断図で判断する要因は、不具合は、

過熱・放電のどちらかと、それらの不具合の進行具合である。そこで過熱に関 する指標をX軸に、放電に関する指標をY軸にとり、この平面上に分析データ をプロットする方式の診断図を検討することとした。

過熱と過熱温度に関する指標は、加熱試験の結果から、不飽和/飽和炭化水素 の比が利用できると考えられる。C3 ガスを除外した場合、表から、C2H4/C2H6

が利用できることが分かる。そこで診断図の X 軸には、C2H4/C2H6を選定した。

続いて放電とそのエネルギーに関する指標であるが、部分放電やアーク放電の 実験から C2H2が放電の特徴ガスであり、放電エネルギーが大きいほど C2H2の 比率が大きくなることが分かっている。そこでY軸には、C2H2と他の炭化水素

(C2H6、CH4、C2H4)の比率を取ることとし、3 種類のうちから最適なものを選ぶ

こととした。

図2. 78にPFAEの診断図の検討結果を示す。図には本論文の実験結果に加え、

文献値を引用してプロットした。

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2. 78 PFAEの異常診断図の検討

図2. 78では、2.6.1の検討結果の過熱放電の閾値で過熱と放電の領域を分けた。

また過熱温度の領域は、加熱試験の結果を元に低温過熱(300℃以下)、中温過熱 (300-700℃)、高温過熱(700℃以上)に区域分けしている。放電の領域については、

2.6.3 の結果と図のプロットで部分放電とアーク放電の境界を定めた。結果は、

Y軸にC2H2/C2H6またはC2H2/C2H4を取ったものは過熱、放電がおおむね正しい 位置にプロットされているが、C2H2/CH4 としたものは、アーク放電のデータの

0.001 0.01 0.1 1 10 100 1000

0.1 1 10 100 1000

C2H2/C2H6

C2H4/C2H6

PD(本論文) PD(文献A)1 PD(文献A)2 PD(文献A)3 Arc(本論文) Arc(文献B) フラッシュオーバー(文献A)1 フラッシュオーバー(文献A)2 過熱(本論文)

4

高 放電

低 放電

過熱低 (300以下)

過熱中 (300-700)

過熱高 (700℃以上)

0.001 0.01 0.1 1 10 100 1000

0.1 1 10 100 1000

C2H2/CH4

C2H4/C2H6

PD(本論文) PD(文献A)1 PD(文献A)2 PD(文献A)3 Arc(本論文) Arc(文献B) フラッシュオーバー(文献A)1 フラッシュオーバー(文献A)2 過熱(本論文)

4

高 放電

低 放電

過熱低 (300以下)

過熱中 (300-700)

過熱高 (700℃以上)

0.001 0.01 0.1 1 10 100 1000

0.1 1 10 100 1000

C2H2/C2H4

C2H4/C2H6

PD(本論文) PD(文献A)1 PD(文献A)2 PD(文献A)3 Arc(本論文) Arc(文献B) フラッシュオーバー(文献A)1 フラッシュオーバー(文献A)2 過熱(本論文)

4

高 放電

低 放電

過熱低 (300以下)

過熱中 (300-700)

過熱高 (700℃以上)

文献A:八木橋ら (2007) [9]

文献B:渡邊 (2019) [24]

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一部が過熱の領域にプロットされた。従って、PFAEの診断図には、縦軸を C2H2/C2H6、またはC2H2/C2H4、横軸にC2H4/C2H6とするのが適していると考えら れる。

次にFR3についての診断図の検討結果を示す。PFAE同様に、過熱と放電を分 け、過熱の領域は、加熱試験の結果を元に温度範囲を区域分けた。部分放電と アーク放電の境界線も同様に定めた。図2. 79に結果を示す。

2. 79 FR3に対する異常診断図の検討

文献A:Zhongdong Wangら [5]

文献B:M. Jovalekicら [4]

文献C:Yu Liuら [6]

文献D:IEEE Std. C57.155-2014 [20]

文献E:Zhongdong Wangら [23]

0.001 0.01 0.1 1 10 100 1000

0.001 0.01 0.1 1 10 100

C2H2/C2H6

C2H4/C2H6

PD(本論文) PD(文献B) PD(文献E) 過熱(本論文) 過熱(文献A) 過熱(文献B) 過熱(文献C) 過熱(文献D) Arc(本論文) Arc(本論文2) Arc(文献D) Arc(文献E)

高エネルギー

放電

低エネルギー

過熱低 (300℃以下)

高温 (700℃以上) 過熱中

(300~700℃)

0.001 0.01 0.1 1 10 100 1000

0.001 0.01 0.1 1 10 100

C2H2/CH4

C2H4/C2H6

PD(本論文) PD(文献B) PD(文献E) 過熱(本論文) 過熱(文献A) 過熱(文献B) 過熱(文献C) 過熱(文献D) Arc(本論文) Arc(本論文2) Arc(文献D) Arc(文献E)

高エネルギー

放電

低エネルギー

過熱低 (300℃以下)

高温 (700℃以上) 過熱中

(300~700℃)

0.001 0.01 0.1 1 10 100 1000

0.001 0.01 0.1 1 10 100

C2H2/C2H4

C2H4/C2H6

PD(本論文) PD(文献B) PD(文献E) 過熱(本論文) 過熱(文献A) 過熱(文献B) 過熱(文献C) 過熱(文献D) Arc(本論文) Arc(本論文2) Arc(文献D) Arc(文献E)

高エネルギー

放電

低エネルギー

過熱低 (300℃以下)

高温 (700℃以上) 過熱中

(300~700℃)

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FR3 においては、検討したすべての診断図において実験値が正しい領域にプロ ットされた。放電の領域では、図の右上にアーク放電がプロットされており、

左下に部分放電が配置した。図では、暫定的に、部分放電とアーク放電の分か れるあたりに境界線を入れた。

MIDELに対でも同様に診断図を検討した。結果を図2. 80に示す。MIDELの

Y 軸に、C2H2/CH4または C2H2/C2H4を用いると実験結果を正しくプロットでき ることが分かった。

2. 80 MIDELに対する異常診断図の検討

0.01 0.1 1 10 100 1000

0.01 0.1 1 10 100 1000

C2H2/C2H6

C2H4/C2H6

Arc(本論文) Arc(本論文2) Arc(文献F) PD(本論文) PD(文献B) 過熱(本論文) 過熱(文献D)

高 放電

低 放電

過熱低 (300以下)

過熱高 (700℃以上) 過熱中

(300-700)

文献B:M. Jovalekicら [4]

文献D:IEEE Std. C57.155-2014 [20]

文献F:Zhongdong Wangら [24]

0.01 0.1 1 10 100 1000

0.01 0.1 1 10 100 1000

C2H2/CH4

C2H4/C2H6

Arc(本論文) Arc(本論文2) Arc(文献F) PD(本論文) PD(文献B) 過熱(本論文) 過熱(文献D)

高 放電

低 放電

過熱低 (300以下)

過熱高 (700℃以上) 過熱中

(300-700)

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これまでの実験結果の過熱、放電における発生ガスの傾向を指標にした異常 診断図を作成することができた。文献値を合わせて検証したところ、実験値を 正しくプロットできるものを選び出すことができた。文献値を合わせた実験結 果は、診断図の適切な場所にプロットされており、作成した診断図は、機器内 部の異常の状況の傾向を表示できるものとなっていると考えられる。

また実験結果を元に、過熱温度や放電エネルギーを領域分けし、診断図に書 き加えた。しかし今回作成した診断図は、実験値に基づくものであり、実際の 変圧器のデータにそのまま適用できるかはわからない。実器への適用のために は、実器のデータの蓄積し、実際の現象と照合していくことが重要である。

2.7 まとめ

第 2 章では、油中ガス分析によるエステル油入り変圧器の異常診断のために 過熱や放電で発生するガス成分とその発生特性を明らかにした。以下にその概 要を示す。

① 局所過熱

炭化水素ガスの中ではC2H6、C2H4が主要なガスであり、その他の炭化水素や 水素も発生することが分かった。温度上昇に伴って飽和炭化水素に対する不飽 和炭化水素の割合が多くなることが全ての油種で共通の特徴であった。また過 熱では、エステル基の分解に由来するCO、CO2ガスが多量に発生することも特 徴である。油種によってガス発生と特徴が異なっており、油種特有のガス発生 特性を示すものがある。

② 部分放電

主要な発生ガスは、水素であり、炭化水素ガスも微量に発生するが、その中 で C2H2の比率が最も多い。放電電荷量が大きくなるにしたがって C2H2の比率 が多くなる傾向にある。また局所過熱と違ってCO、CO2ガスは、ほとんど発生 しない。C3H8やC3H6の発生比率は低い。

③ アーク放電

主要な発生ガスは、水素とC2H2であるが、他の炭化水素ガスも微量に発生す る。部分放電に対してC2H2の比率が多い傾向がある。放電エネルギーが上昇す るに伴ってC2H2の比率が上昇する。部分放電同様にCO、CO2やC3H8、C3H6は ほとんど発生しない。

結果から、エステル油においては、鉱油とは異なる診断基準が必要であり、

油種毎に基準を設ける必要があることが分かった。そこで実験結果をもとに現